東京45年【95-3】根津 | 東京45年

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東京45年【95-3】根津

 

 

 

1986年3月、25才

 

 

『それより、玲子さんは係長なんだね』と田口さん。

 

 

『そうだよな。若いのにソニーの係長なんて凄いな』と編集長。

 

 

『それもマーケティングの中枢の中枢の係長なんですよ。

 

僕も頑張らなきゃいけないですよ』と俺。

 

 

『そりゃあ、凄いな。

 

バリバリのキャリアウーマンで料理が上手くて、美人で。。。。

 

なんで島なんだ。。。。あははは』と田口さん。

 

 

『彼は私を救ってくれました。

 

小さい頃から居た闇の中から光の中に導いてくれました。

 

だからとても幸せなんです』と玲。

 

 

『確かにな。玲子さんは変わったよな。

 

それに島に寄り添って、それなのに一人で立ってる感じがするな。

 

昔とは大違いだよな』と田口さん。

 

 

『それも彼のお陰です。私には彼しかいません』と玲。

 

 

『君らは似ているな。

 

確固たる信念の元に生きている感じがするな。

 

初めて会った時から島は変わらよな』と副会長が言った。

 

 

『副会長、私は彼に真剣さを学びました。

 

子供の頃に真剣に遊んだ頃が誰にもあったと思います。

 

夢中になって苦しさも辛さも無く、ただひたすらに遊んだ記憶です。

 

それが大人になって、その真剣さを無くして、

 

人の行動にいい加減に目を瞑って、事なかれ主義が当たり前だと、

 

処世術として身に付けて行ったんだと思います。

 

私は、それを学んだと勘違いしていました。

 

ですが、それは貴重な物を無くしただけなんです。

 

周りに流されて、過ぎる毎日に慣れて行ったんだと思います。

 

それを彼は生きる実感に変えてくれました。

 

最初の頃は。。。。

 

彼と知り合った頃は、みなさんもそうだったと思いますが、

 

私は彼を嘲笑しました。

 

ただ、幼いだけなんだろうと思っていました。

 

私は、それと同時に恋の進行でした。

 

彼と生活して、嘲笑が、疑問に変わり、自分の臆病さに気付き、それを変える術を教えて貰いました。

 

いいえ、彼を見ていてそう思ったんです。

 

それが今は生きる喜びに変わっています。

 

彼自身はそれを山で学びました。

 

山は分かりませんが、ただ一つの事を追い求めて彼が辿り着いたんだと思います。

 

山に真剣だったからこそ、人生も真剣なんです。

 

好きでもない女を抱いて悩むんです。

 

それが彼の心を蝕んだんです。

 

私も寂しさに負けて、そうなった事がありました。

 

普通、人はそれに覆いを掛けます。

 

蝕まれた心を放っておくんです。

 

普通は、時間が風化させて忘れさせてくれます。

 

でも彼はしっかり覚えていて、公言して後悔していると言うんです。

 

自分がゴミの様だったと言うんです。

 

半年前に再会して、2時間後に言ったんです。

 

驚きました。

 

そして、それを自分で昇華して、解決して、乗り越えていたんです。

 

こんな凄い事ってありますか?

 

きっと、彼は、山でも同じだったと思います。

 

数々の岳友の死を正面から受け止めて、乗り越えたんです。

 

私は、彼を尊敬しています。

 

4つも年下なのに頼っています。

 

それが、そうであっては、いけないと思っています。

 

何故なら彼と同じ位置に立って、彼と人生を謳歌したいからです。

 

だから一人で立とうとしています。

 

日々努力しています。

 

それが副会長が感じられた事だと思います』

 

 

『。。。。。。。。。。。。。。。。』

 

 

『。。。。。。。。。。。。。。。。』

 

 

『。。。。。。。。。。。。。。。。』

 

 

『いやあ、参ったな。。。お前らには負けたよ。

 

玲子さんは竹中の死を乗り越えて、島は自分の人生を見つめて成長した。

 

俺はこんな年だから、もうその情熱はないと思っているが、自分も、もしかしたらと思ったよ。

 

それが欲しいと思ったよ。

 

お前らの将来が楽しみだ。

 

俺もお前らに負けない様に頑張るよ』と副会長が言った。

 

 

『新ちゃん、そうだな。俺達はまだ生きているんだからな』と古田副所長が言った。

 

 

『今日はいい勉強をさせて貰いました』と副会長が言った。

 

 

 

人生は、生きている限り続いていく。

 

 

 

その後、宴は終わり、来客は三々五々帰って行った。

 

玲は、奥さんと台所で後片付けをしていた。

 

明るい笑い声が聞こえて来た。