東京45年【93-1】根津、結婚前祝い | 東京45年

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東京45年【93-1】根津、結婚前祝い

 

 

 

1986年3月 25才

 

 

玲の料理を目当てに集まったのは、

 

日本山岳協会副会長、三菱電機古田副所長、朝日新聞田口さん、黒部の衆渡辺さん、山と渓谷社編集長だった。

 

 

それに、副会長の奥さんと玲と俺だった。合計8名。

 

 

 

玲は家で作ったソースや味噌やスープを副会長宅に大量に持ち込んで、副会長の奥さんと台所で料理を作った。

 

 

スープ+シェリー酒、サラダ+ラム酒、前菜+日本酒、おじや+アルマニャック、魚料理+ドイツ白ワイン、肉料理+フランス赤ワイン、デザート+濁酒、チーズ+シェリー酒、お茶。。。。

 

 

全部で10品をあっという間に作った。

 

 

それぞれの料理に合うお酒が準備されていた。

 

 

但し、副会長の隠していたお酒を失敬していた。

 

 

玲が味見をして、セッティングしていた。

 

 

みんなで持ち寄った酒はそのままだった。

 

 

副会長宅の高いお酒ばかりが減っていった。

 

 

 

 

『これは、美味いですね。新ちゃんの言った通りだ。来た甲斐があった。家庭料理の域を超えてますよ』と古田さん。

 

 

『いやあ、俺も2回食わせて貰っただけなんだが、このスープは格別だ』

 

 

『それに、このシェリー酒が合うな。』

 

 

『それぞれの料理に合うお酒を用意していますので、ご賞味下さい』と玲が言った。

 

 

『それに、40分前に着いて、こんなに早く作れるなんてのは、凄いな』と副会長が言った。

 

 

『そうなんですよ。玲子さんは、手際が良いんですよ。全部計算ずくで作っていくもののですから、ビックリしましたよ』

 

 

『これって、高い材料だろう???』と編集長が聞いた。

 

 

『いいえ、昨日、玲子さんに言われて、全部近所のスーパーで買って来たものばかりですよ』と副会長の奥さんが返した。

 

 

『それに、我が家にある料理器具も、この前来た時に覚えているんですよ』と続けた。

 

 

『こりゃあ、山を止めたくなるはずだな。あははは』と渡辺さん。

 

 

『島、うちのカミさんと交換してくれないか?』と田口さんが言った。

 

 

『そんな事する訳が無いですよ。何を言ってるんですか?そんな事を言うならパタゴニアで助けるんじゃなかったですよ。。。。あははは』と俺。

 

 

『ああ、あの時も助けて貰ったな。でも、あれはその後おあいこになったろう?』と田口さん。

 

 

『助けて無かったら、おあいこは無かったですからね。。。。あははは』と俺。

 

 

『そうそう。なべさん。そのパタゴニアで、俺が落ちたんですよ。

 

ぶら下ったところが、花崗岩のでっかい100m四方くらいの一枚岩なんですよ。

 

何にも手がかりがないのに。。。。。

 

それも斜度70度くらいの岩をノーザイルで、20mトラバースして、10m下降して、俺を助けたんです。

 

それに、俺が落ちた時に止めようして、こいつは、ケガをしたんです。

 

ザイルを必死で握ったから、両手の皮がベリッと剝がれているんですよ。

 

あれには参りましたよ。

 

あんな、風と雪とノーザイルで動く技術と精神力には感服しましたよ』と田口さんが言った。

 

 

『セロトーレか。。。あれも凄いところを登ったもんだよな』と渡辺さんが言った。

 

 

『いやあ、島と一緒じゃなかったら登れてないですよ。

 

他の奴だったら死んでますよ。。。それにアンナプルナもそうですからね。

 

竹中もそう言ってましたよ。島の実力に嫉妬したって言ってましたからね』と田口さん。

 

 

『そりゃあ、俺だって、一ノ倉沢で、こいつに助けられたんだもんな』と渡辺さんが言った。

 

 

『雪崩に埋まって、呼吸が止まっているのを人工呼吸をして蘇生させてくれたんだ。そして、担いで降りてくれたんだよ』と続けた。

 

 

『あの時はマウスツーマウスをするのを躊躇いましたよ』と俺が言った。

 

 

『島、もう、その話は無しだって言っただろう』と渡辺さん。

 

 

『なんだよ。聞かせて下さいよ』と編集長が問い詰める。

 

 

『もう、島!!!言いっこ無しだって言ったじゃないかよ』と渡辺さん。

 

 

『別に、僕は躊躇ったとだけしか言ってませんよ』と俺。

 

 

『もう、仕方がないな。。。。実を言うとな、その2ヶ月前に商売女から病気を貰ってな。。。。

 

それが治ってるかどうか医者に行く前だったんだよ。

 

だから無事に降りた時に、こいつは『マウスツーマウスを躊躇いました』って言うんだよ。

 

そんな話だよ。。。。あははは』と渡辺さんが言った。

 

 

『そりゃあ、俺でも躊躇うな。。。あはははは』と編集長が言った。

 

 

『この話は、それで、終わりじゃ無くてな。剱に一緒に登りに行こうって言ったら、

 

直近の性病検査結果を見せて下さいって言いやがるんだよ。

 

初めてだよ。山に行くのに検査結果を取りに行ったのは。。。

 

まあ、そのお陰で剱のマッチ箱ピークの初登が出来たんだけどな。。。。あははは』と渡辺さん。

 

 

『そりゃあ、面白い!!!なべさんが、うちの雑誌に載せたあの登山記録だろう?

 

そんな裏話があったとはな。。。あははは。。。

 

なべさん、それって記事にしようよ!!!』と編集長が言った。

 

 

『勘弁してくれよ。世間で評価されている俺の登山の思想が崩れるじゃないか。

 

そんなのは原稿料が高くたってお断りだよ。

 

もう、チョンガーの俺を責めないでくれよ。。。あはははは』と渡辺さん。

 

 

その話で一気に場が盛り上がった。