脳血流不全と認知症 | 老年科医の独り言

老年科医の独り言

認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

認知症の原因とされているβアミロイドの蓄積やレビー小体の形成の引き金が、

なんであるかいまだに十分解明されていない。

最近アルツハイマーで認知機能が低下する原因は、βアミロイドの蓄積では無い。

タウタンパクの蓄積(神経原繊維変化)がアルツハイマーの症状発現に大きくかかわっていると言う事が、判っている。

 

レビー小体型認知症でも、PET検査を利用したタウイメージングで、タウの蓄積が大きく関与していると言う事が、

判っている。

 

前回述べた血行動態的一過性脳虚血~梗塞を起こすような血流不全が起きた時、脳には強い酸化ストレスが

生じることは、間違いない事であろう。

この酸化ストレスによる神経細胞への影響は、認知症の進行に大きな影響を与えていることは、間違いないと思う。

 

脳の血流不全が、認知症の進行を招く大きな要因である。

 

最近アルツハイマーでも、迷走神経の働きで起こる食後の血圧低下が、

進行に大きく関与しているとさえ言われている。

食後の血圧低下が20mmHG以上になると眠気が襲ってくることが多いが、

この食後の眠気が強い方は、アルツハイマーの進行が速いと言われている。

 

この血流低下が起きやすい領域は、脳の萎縮(神経細胞の脱落による)が目立つ領域である。

「前頭葉の外側部」・「側脳室体部の外側の白質領域」・「脳幹部」・「小脳」などは、80歳を過ぎると急速に委縮してくる。

「大脳基底核領域」・「側脳室体部の外側の白質領域」は、ラクナ梗塞が多発する領域でもある。

視床の萎縮は、私には確認出来ないが、視床は短期記憶の中継点とされている。視床の血流不全が、短期記憶障害の発言に重要な役割を果たしていると考えられる。

脳の動脈硬化が進行すると、前頭葉眼窩面の血流不全が起きてくる。この事が、加齢と供に前頭葉症状が目立ってきて、前頭側頭型認知症が増加する原因と私は考えている。

 

現在私は認知症の進行を抑制するために、脳血流を安定させ、

脳の血流不全によって起こる酸化ストレスの軽減を図ることが重要だと考えている。

血流安定化には、プレタールやプラビックスなどの、抗血小板療法が重要だと考えている。

プレタールやプラビックスは、血管壁に出来る壁在血栓を減少させる効果が高いと言われていおる。

同じ抗血小板療法でよく使われるアスピリンは、壁在血栓の減少にあまり効果がない事と

上部消化管出血を起こすリスクがあるため、私は使用しない。

プレタールには、血流安定化以外の要因で神経細胞保護作用がある可能性が高いため、

私は主にプレタールを使用している。

プレタールは、先発品の方がはるかに効果が高い事は、多くの医師に確認されている。

生保の患者で、後発品を使用するよう求められたため、プレタールを後発品に変更したところ

認知症の症状が急に進行したケースを経験している。

 

酸化ストレスの緩和には、グルタチオンの静注と「包接体化したフェルラ酸」が有効なことが判っている。

グルタチオンの多量投与は、保険非適応な治療法の為、医療機関の持ち出しとなる。

このため、実施している医療機関は限られている。