脳血管性認知症~再再考その1 | 老年科医の独り言

老年科医の独り言

認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

脳j血管性認知症は、狭義には以下のようにてう意義されている

1回の脳梗塞や脳出血発作により認知機能障害を起こしたもの

とされている。

しかし脳血管障害や外傷によって生じた脳の障害による、様々な機能障害は高次脳機能障害と

呼ばれるようになった。この考えに従うと、上記定義による脳血管性認知症は、高次脳機能障害であり

認知症と考えない方が良いと思われる。

 

私は、前回記事にした血行動態的脳梗塞を繰り返すことが、進行性の脳の機能障害を起こし、

パーキンソニズムと認知症が生じると考えている。

私が認知症にかかわり始めた30年以上前に、認知症にかかわった医師の多くが、認知症の原因として

繰り返し起こる脳の虚血が認知症の原因と考えていたことは、誤りではなかったと言う事になる。

血行動態的な脳梗塞によって生じる酸化ストレスが、神経細胞にダメージを与えている事は、間違いないと考えている。

現在まで酸化ストレスによって生じる神経細胞へのダメージは、以下の機序が知られている。

 

1.ミエリンの障害により、刺激の伝達機能が障害される。

 この変化は、可逆的とされている。障害を受けたミエリンが回復するのではなく、

 脳内に多量に存在するミエリン細胞によって、障害が修復されるためと考えられる。

 この機序により生じる脳の機能障害は、

 酸化ストレスを回復させるグルタチオンの多量静注により、速やかに回復する。

2.白質病変

 白質に生じる小さな変化であり、多数生じると神経細胞のネットワーク機能に障害を起こすことにより

 認知症を呈する。MRIで確認することが出来る。

 ミクログリアと呼ばれる免疫細胞が活性化され、炎症を生じることで白質病変が形成されると言われている。

 特発性白質脳症と呼ばれる病態も、含まれると考えられる。

3.神経原繊維変化(=タウの蓄積)

 タウパティと呼ばれる変化で、脳の変性疾患の大きな原因とされている。

 超高齢者(80代後半かそれ以上)に多いとされる嗜銀顆粒性認知症(AGD)は、このタウの蓄積が原因と考えられる。

 

2と3は、不可逆性変化であり、一度進行すると回復させることは、困難とされている。

 

血行動態的な脳梗塞を生じるような強い脳虚血がs起こった領域には、小さな脳梗塞を起こすことも稀ではないようである。

脳幹部は、血行動態的な脳梗塞を起こしやすい領域である。

強い意識障害や麻痺を呈することが多いので、脳血管障害の発作と認識するとが容易である。

発症直後は、大きな脳幹部の脳梗塞か血行動態的な脳幹部梗塞か判断できないため、専門医療機関へ救急搬送することが

稀ではない。そうすると、MRIで脳幹部の脳梗塞が確認出来るケースが、稀ではないのである。

後遺症が長期残存する事が無いので、この時生じた脳幹部脳梗塞は、小さなものが多い。

血行動態的な脳梗塞を繰り返すと、その領域に小さな梗塞巣(ラクナ梗塞)が多発すると考えられる。

脳血管性認知症が多発脳梗塞性認知症と言われる所以である。