一過性脳虚血発作(TIA)と脳梗塞について (特に血行動態的脳居梗塞について) | 老年科医の独り言

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認知症治療にかかわって30年目になります。
今回心機一転、題名を変更して、ぼつぼつ書いていきたいと思います。

国立循環器病研究センターの情報だと一過性脳虚血発作の原因として次の二つが挙げられている

#1 血管壁に出来た血栓から、微小血栓がはがれ抹消の細い動脈が詰まる。

   この場合は、微笑血栓はすぐ溶けてしまい、後遺症を残すことは無いとされている

#2 血圧低下など血行動態的に血流が途絶える場合(多くは迷走神経反射が関与していると思われる)

   この場合も、短時間で血流が再開すれば後遺症を残すことは無いとされている

 

最近の医学情報では、脳梗塞の原因として

「脳血栓(その場で血液が固まる)」「脳塞栓(他でできた血栓など)」のほかに

「血行動態的な脳梗塞」を挙げている場合が増えている。

 

この血行動態的脳梗塞と言うのは、多くの医師はその存在を意識していない。

多くのケースで、速やかに症状が消失してしまうため、確認出来ないためと考えられる。

実際に少ないのだろうか?

私の経験ではそんなことは無い。

#1 食後に発生しやすい事から、迷走神経反射の関与があると考えている。

#2 一日の温度差が15度を超えると血行動態的な脳梗塞を起こしやすい。

   低気圧の通過が重なると、さらに起こしやすく成る。これは迷走神経過緊張が関与しているためと

   考えられる。

内陸性気候の地域では、この15度以上の温度差がしばしば起こる。

このためこの血行動態的なTIAや脳梗塞が起こりやすい。

私は、長年内陸性気候の地域で仕事を続けていた為、しばしば血行動態的なTIAや脳梗塞を経験している。

15度以上の温度差が生じた日に訪問していると、10中2~3人がTIAを起こしている。

症状が確認できたケースのほとんどの責任病変は、脳幹部(橋~中脳)である。

この領域は、狭い領域に意識を保つ中枢と運動神経(錐体路)があるため、

意識障害と麻痺を認めることが多い。眼球運動の異常や瞳孔の異常を認めるケースが多い。

呼吸中枢もあるため、チェーンストークス呼吸を起こすことがある。

意識障害(Ⅲ-300の場合が多い)は、30分~1時間程度で速やかに回復することが多い。

高度の意識障害の場合、最長一晩続いたケースもいた。

チェーンストークス呼吸は遷延することが多いが、意識障害や麻痺が遷延することは無い。

軽度の意識障害が残存しても3~数時間で、意識障害は消失する。

 

この血行動態的なTIA~脳梗塞を起こしやすい領域は、どこであろうか?

流体力学医的に、太い本管からほぼ直角に細い枝が分岐する場合、

細い枝の血流は不安定なことが知られている。

椎骨脳底動脈領域と前大脳動脈領域が、そうである。

後は穿通枝と呼ばれる枝が太い本管から直角に枝が出ている。

視床や大脳基底核領域および側脳室体部外側の白質領域が穿通枝が多い領域である。

このTIA~微小脳梗塞でMRIで病巣が確認できたケースでは、脳幹部が多い。

視床にピンポイントで梗塞をきたしたケースがある。このケースは視床痛で苦しんでいる。

血行動態的なTIAで血流が停滞した場合、血栓を形成し脳梗塞に移行するケースも稀ではあるが遭遇している。

 

最近の異常気象で、広い地域で大きな温度差が生じるようになった。

このため内陸性気候の地域以外でも、血行動態的な脳梗塞が見られる様に成っている。

急性期の病院へ転移させ、MRIで確認すると小さな脳梗塞を認めるケースもある。

しかしMRIで脳梗塞が確認出来ない場合、誤診される事が少なくないようである。

多くの医師が、血行動態的な脳梗塞の存在を知らないため誤診をしていると思われる。

多くは、「てんかん」と誤診され抗てんかん薬が処方されてしまう。

 

今後広い地域で、血行動態的なTIA~脳梗塞が起きると考えている。

多くの医師に流体力学的に脳血流が不安定になる事を理解して欲しい。