似た男
数日前、死んだ親父に似た人に会った。
酒場で飲んでいたら、ずいぶんと背の低い男が入ってきた。
一人でビールばかり頼み、疲れきった様子。
気まぐれに話しかけると、何故か読書の話になった。
彼は小説家の「石川達三」が好きなのだそうだ。
その男はやっと禁煙に成功したが、どうしても我慢できなくなると、
一本だけ吸って後は箱ごと捨てるのだと言う。
本当に俺の目の前で1本吸って、俺に煙草を箱ごとくれた。
死んだ親父は、「石川達三」の本をほぼ全巻持っていた。
彼の小説は何かが残ると言って。
その男も、何かが残るから彼が好きなのだと言った。
妙な気分にかられ、生い立ちを少しつっこんで聞いた。
不気味なことに俺の親父と同じ大学で、同じ学部出身。
職業も同じ。
その男が禁煙に成功した歳も死んだ親父と同じだった。
「実は3月に、入院したんですよ。もう大丈夫なんですけどね」
俺は尋ねた。「高血圧かい?」
「ええ。よくわかりますね。俺は36歳ですが、
独身なので、本当に怖くなりました。
早く嫁さん見つけて、食生活を改善しないと」
「貴方の職業なら、見つからないはずないだろう」
「いえ、俺はこの通り、身長が低いので。
大抵の女は俺より高いし、見合いしても難しいです」
終電の時間になり、酔った男をかばいながら駅まで行った。
不思議な気持ちになり、その後、
しばらくその男のことが頭から離れなかった。
桜
先週、バーへ行った。
先月までは確かチーズケーキで有名な喫茶店だったはずなのに、
バーになっていたので、入ってみる。
モロッコのような赤いビードロの椅子が並んでおり、印象的なインテリアな店。
客はたった一人。
眼鏡をかけた年配の日本人男性が一人で飲んでいた。
その酔った男性が私に話しかけてきた。
フランス映画の話と、カクテルの頼み方の講釈。
呂律が回っていない。
カクテルは、ジン・ラム・テキーラ・ウォッカなどのベースを指定して、
バーテンダーにお勧めを聞くのだそうだ。
英語で話し出したり、日本語で話し出したり、
とりとめがない。
男に聞かれた。
あんたの仕事は?
適当に答える。
男はホテルのバーが好きだと言った。
この雰囲気を持つ店は札幌に少ないと、繰り返し言う。
「季節外れの桜」という桜色のカクテルが運ばれてくる。
男は、あんたとは二度と会えないだろうと言った。
だから、ご馳走すると。
そこへ、客が入ってきた。
男の友人と称する中年男性。
しばらく、二人で再会を喜びあい、ゴルフの話で盛り上がりだした。
私はゴルフが嫌いだ。
必ず陰口が伴うスポーツだからだ。
スポーツではなく、仕事ではないかと思えてしまう。
男は、酔いすぎたから帰るといって、店を後にした。
その後、男の友人は、バーテンとかの年配男性の悪口を話し出す。
友人と思っているのは、あの男だけらしい。
自分も他に客が来ないので手持ちぶたさになり、店を出た。
先般の男が路地に座り込んでいる。
酔って立てない、そして私に詫び始める。
“ごめんなさい。ごめんなさい。飲みすぎました。
この店、流行っていないし、助けたかったんだ”
この男が私を待っていたのだと気付いた。
危ないので肩を貸し、タクシーを拾うために通りに出た。
私は男の目を覗き込んで、そこに感情のようなものを見た。
二人して車に乗り込んだ。
ホテルの部屋につくと、男は寝てしまった。
こんなことは初めてだった。
華奢な年配の男性が子供のように見える。
そのまま、何もせずに私は部屋を出た。
街路樹である桜はすでに葉に変わり、時計台通りの鐘がかすかに聴こえた。
Where or When
その男は体格がよく、顔つきからして怖そうな外見な奴だった。
これまでほとんど話したことがなかったものの、
そのまま一緒に歩いた。
古い教会の前を,話ながら通り過ぎ、
そして、それぞれ帰宅した。
その晩、夢を見た。
夢の中の自分は、高校生ぐらいの年齢の少年で その同僚と行為を行っていた。
場面が切り替わり、それを見ていた女性が登場する。
それも自分だ。
次に女の身で同僚と情交する。
妙にリアルな感覚を感じた。
男の自分の方が、快感が強い。しかし、醜い光景だ。
女の自分の方が綺麗なのに、
自分自身の外見や年齢を気にして集中できていない。
ひどく幼稚な夢だ。
次の日、職場でその同僚とすれ違った。
気付けば、自分はその同僚に惚れてしまっていた。
恋愛感情というより、肉体的な欲望だけか考えたが関係ない。
実際はどちらでも同じことだ。
自分は狂ってる。病気だ。
以前はそう思った。
だが、今はそう思わない。
結局、同じなのだ。男も女も。
わかっていたはずだった。
わざと偶然を装い、同僚の行きつけの店へ行った。
そして、一緒に飲んだ。
数日後、自宅のサーバーを見て欲しいと言って彼を
部屋に呼んだ。
結果として、俺は自分はどんな人間かを実感する。
夢の中より、自分はさらに醜悪だった。
ただ、ありがとうと言って、同僚を抱きしめた。
ごめん、にすぐ変わったが。
夢に見たことは実現した。
同時に自分の心は正直でもある。
俺はガタイのいい、男気のある男が好きなのだ。
満足できる。
これが自分の本音と実感した。
でも 誰も知らない
いつどこでの話なのかを。


