似た男
数日前、死んだ親父に似た人に会った。
酒場で飲んでいたら、ずいぶんと背の低い男が入ってきた。
一人でビールばかり頼み、疲れきった様子。
気まぐれに話しかけると、何故か読書の話になった。
彼は小説家の「石川達三」が好きなのだそうだ。
その男はやっと禁煙に成功したが、どうしても我慢できなくなると、
一本だけ吸って後は箱ごと捨てるのだと言う。
本当に俺の目の前で1本吸って、俺に煙草を箱ごとくれた。
死んだ親父は、「石川達三」の本をほぼ全巻持っていた。
彼の小説は何かが残ると言って。
その男も、何かが残るから彼が好きなのだと言った。
妙な気分にかられ、生い立ちを少しつっこんで聞いた。
不気味なことに俺の親父と同じ大学で、同じ学部出身。
職業も同じ。
その男が禁煙に成功した歳も死んだ親父と同じだった。
「実は3月に、入院したんですよ。もう大丈夫なんですけどね」
俺は尋ねた。「高血圧かい?」
「ええ。よくわかりますね。俺は36歳ですが、
独身なので、本当に怖くなりました。
早く嫁さん見つけて、食生活を改善しないと」
「貴方の職業なら、見つからないはずないだろう」
「いえ、俺はこの通り、身長が低いので。
大抵の女は俺より高いし、見合いしても難しいです」
終電の時間になり、酔った男をかばいながら駅まで行った。
不思議な気持ちになり、その後、
しばらくその男のことが頭から離れなかった。
