猫は、団地の1階の階段裏に、
ただうずくまって鳴いていました。
三毛の仔猫でした。
顔中を口にして、
にゃあにゃあ
甲高い声で鳴いています。
何かを、
訴えているようでもありました。

真冬の早朝のことです。
湿っぽくて
凍り付くように冷たい地べたに
小さな体を丸めています。

小学生だった僕は、
周囲を見渡しました。

薄暗く、少し怖いのもありました。
あたりには人気はないし、
津々とした冷気が
肌に感じられるだけです。

その暗がりに足を踏みいれて、
僕はとうとう
猫を抱きかかえました。
子猫は抵抗もなく、
僕の腕の中で鳴いていました。

どうしたらいいだろう、
まだ配達は途中でした。
僕は一度拾い上げた猫を、
さっきの地べたではなく、
そこに積まれていた古新聞に乗せ、
申し訳程度に
上からも新聞をかぶせてやり、
また配達へと駆け出していきました。

戻ってきて、またいたら、
そう考えていたのです。

はたして30分ほどして、
新聞がなくなり手ぶらで戻ると、
まだ猫はそこにいました。
かけていった新聞紙を取り除くと、
その下で
半分眠ったような顔をしています。

僕は猫を抱きかかえ、
団地の外に出ると、
そろそろ迎えに来るであろう
母を待ちました。

その日は曇っていて、
朝になっても
あまり明るくはありませんでした。
外気は痛いくらい冷たく、
雪でも降りそうな天気です。
手に抱えた猫の体温が感じられます。
子猫はもうあまり鳴かなくなって、
曇天の暗い雲のうねりを
僕とともに、
見ているようでした。

やがて、
周辺の戸建ての配達を終えた母が、
カブのエンジン音をたてて、
団地の片隅で待っている
僕のところにやってきました。
母は猫にはじめ気づいていなくて、
僕が片手でバイクの台車に
つかまっていると、
その不安定さに気づき、
一度バイクを止めました。

それで、僕が片手に
猫を抱えているのに気づいたのです。
母は最初曇った顔をしましたが、
猫をバイクの前かごにいれ、
ビニールのシートをかぶせると、
幾分スピードを遅めにして、
家までたどりつきました。

この猫は、
僕が大人になるまで
家に住んでいましたが、
僕が家を離れ数年したころには、
いなくなっていました。

よく猫を拾っては家に持って帰ってきました。
この新聞配達をしていた時にも、
そうしたことが
3度くらいあったかと思います。

 

プロジェクト398日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/11 398日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

母は僕が小学生の頃から、
おそらく中学にいたるまで、
ずっと新聞配達をしていた記憶があります。

大人になって思うのは、
もっとわりのいい仕事もあっただろうに、
なぜ彼女が
それで収入を得ようとしていたのか、
僕にはよくわかっていません。

朝は、母とともに起きます。
まあ、起こされるわけです。
冬であれば、まだ夜のような時間で、
外は真っ暗で、街灯が灯っていました。

白い息を吐きながら、
けっこう厚着して、
母の運転するカブの荷台に乗るのです。
これも今にして考えてみると、
違反だったんじゃないかって思うのです。
50ccのカブですから、
2人乗りしちゃいけなかったはずです。

切る風は、とても冷たかったです。
母の背中にしがみついて、
バイクが右折左折して、
傾くたびに体をゆだね、
目的地へと向かいました。

いいかげん鼻の頭の神経がなくなった頃、
目的地に到着します。

そこは5階建ての、
10棟ばかりあたる団地でした。
そこで母はバイクに乗って
引き返していきます。
近くにある集配所から、
新聞を積んでくるのです。

僕は寒い中で、しばらく佇んでいました。
10分ほどすると、バイクのエンジン音がして、
母がやってきます。
そこで、結構な量の新聞をおいていきます。
ちらしが多い日は、
1部1部の新聞も分厚くて、
たいそうな量になりますが、
ちらしがない日
(たしか曜日で決まっていました)は、
新聞も軽くなります。

僕はその日その日で、
ちらしの多さを気にしていました。
軽ければ配達分を、
1回で全部持っていけますが、
多いと、何回も取りに戻ってきたりするのです。

母が別の場所へと配達に去っていくと、
僕は新聞を手にして、
エレベーターのない
団地の階段を駆け上がっていくのです。
相当の運動量でした。
階段を歩くことはなくて、
その頃買ってもらった
ストップウォッチ付きの腕時計で、
自分なりに
ラップタイムを計ってみたりしていました。

それこそ猛ダッシュで階段を上ります。
降りるときは何段も飛ばして、
それこを飛ぶように駆け下りてきました。

3棟くらい配達が終わるころには、
着こんでいたジャンパーも熱くなってきます。
うっすらと汗ばみながら、
これを繰り返していくのです。

当時の僕にとって、
確かに朝の早起きは
それなりに辛いものでしたが、
月に5000円くらいだったか貰える小遣いは、
小学生にしてはあまりに大きかったので、
音をあげることもなく続けていました。

そういえば、
猫を拾ってきたこともありました。

団地の片隅で、
ずっと鳴いていたのです。
1日目は無視しましたが、
また翌日もいることに気づいて、
僕はまだ配り終えていない
新聞の束を片手に、
猫の甲高い声のする方へ
向かっていきました。

 

プロジェクト397日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/10 397日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

『溺れる時代』は
4部構成で描かれた、
僕が最初に手がけた長編小説です。

岡山の片田舎から、
最後に東京の真ん中で

通り魔にいたる、
1人の青年を書いているのですが、

1部目は、
出身地での幼少期から高校中退まで、

2部目は、
中国地方の大都市での独りでの生活、
造船工場から警備員をするまで

3部目は、
兄を頼り関東に移住、
弁当製造工場で働き、
兄の恋人と喧嘩をし、

その元を出るまで、

そして最終4部目は、
新聞配達をしながら、
世の中への鬱屈を充填し、
それを放出するように
街頭に佇むにいたるまでを、
書いています。

この中で、
警備員と弁当製造工場
については、
こうしてレベルブックの中で
語ってきたわけです。

学生最後の年、
特に資力のない僕は、
基本的には
自分で経験したことをもとに、
創作することしかできませんでした。

造船工場に関してだけは、
とにかく調べてみましたが、
実際の小説でも、
あまり細かい描写がなされていません。
それは、
端的に創造力のなさともいえますが、
今でも、

経験していないことを書くのは、
それなりに難しさというか、
リアルさをどこまで追求できるかに、
疑問の余地があります。

そんな中、
やたらに細かい描写と、
かなりのリアルさを持っているのが、
この、
4部に登場する新聞配達です。

僕は小学高学年の頃に、
母親の手伝いで、

高校生の頃には、
アルバイトで、
新聞配達をしていたことがあります。

ここからは、
この新聞配達の体験を、
いくつか拾い上げて
書いてみようかと思います。

それは10歳くらいだったか、
僕の母は、

日常の仕事以外にも、
新聞配達をしており、
僕は毎朝起こされ、
母のバイクの後ろに乗って、
早朝の街へと出かけて行ったのです。

 

プロジェクト396日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/9 396日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

サトちゃんとコイちゃんと、
居酒屋で飲んでいるところに戻ります。

口ひげのコイちゃんは、
だいぶ良い感じで酔いながら、
「そいでさ、結局なんにも言ってなくて、」
僕は驚きながら、
「え、じゃあ付き合ってんじゃないの?」
「いやもう付き合ってるよ」
とコイちゃんは、
「結局お互いなんにも言ってないんだけどね、
そうなっちゃったっていうか、」
「ふ~ん」
僕は、大概の場合、
はっきりした言葉があって
女性と交際していましたから、
少し不思議にも思いましたが、
「そんなもんなんだ…」
「結婚しようって話してる」
コイちゃんがそう口にすると、
僕もサトちゃんも黙って口を開きました。


まだ22歳くらいでした。
僕らにとって、
結婚はまだまだ遠いことなのです。
意識の中にはまるでありません。
それを、
もっとも奥手に思えた彼が口にしたのです。

やがて、コイちゃんは繭子ちゃんと、
本当に結婚をしました。
僕らも結婚式に呼ばれたので、
その時のことはよく覚えています。

彼女の実物は、
快活な感じの、
小柄で可愛らしい女性でした。

そしてコイちゃんは、
結局、
実家を再起させることは諦め、
彼女の家、せんべい工場を継いだのです。

コイちゃんの話はここまでです。

僕は、
『溺れる時代』の話を進めていきます。

 

プロジェクト395日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/8 395日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

「何やってもダメって思ったら、
ほんとに何もかも

ダメになっちゃうよね」
夕陽を眺めながら、
繭子ちゃんは

となりに座って言いました。
コイちゃんは、
そりゃそうだよ、

ごく当たり前のことだ、
と思っていました。

「そりゃそうだけど、実際そうだからね、
俺、大学受験も失敗して、

結局行かなかったし、
今だって結局フリーターだしね」
「そう…、でもなんか

違うように思えるけどな」
彼女の声には笑みが含まれていました。
コイちゃんは、
「せんべいでしょ、
せんべい工場復活させようとしてるから、
自分でも、今までとは

少し違うのかなって思ってるけど
でも…、どうなんだろうね、」
「どうって?」
「いやさあ、」
コイちゃんは両手を
大きく頭上にあげて伸びをすると、
「実際大変だろうし、

もう潰れてだいぶ経ってて、
販路とか、親父の頃の得意先とかも、
完全にルートがなくなってて、
結構難しいことなんだなって、」

波音が、絶え間なく響いていました。
砂浜を歩いていた人は、
いつのまにかいなくなっていて、
周囲にも人影はありません。

「そうだよね~、1人じゃ難しそう」
「…」
コイちゃんは、
それで彼女の方を

ちらっと見ました。
繭子ちゃんも、こちらを見ています。
以前よりは、照れる感じもなくなって、
ずいぶん落ち着いた気分で

彼はいました。

ただコイちゃんは、
何か言いたいって気持ちが頭をよぎると、
とたんに胸の高鳴りを憶えます。
そうして、
あえぐように口を開きかけると、
繭子ちゃんが、
「うちのせんべい屋をさ、
一緒に盛り上げてくってのもあるよ」
「え…」
「うちのおせんべい、まだまだ行けるよ」
「それって、就職ってこと?」
そう聞くと、
繭子ちゃんはこくりと頷きました。

コイちゃんは、
さすがにそこまでは、
あまり考えていませんでした。

虫がいいなとも思っていたからです。

ただ、気づいてみれば、
これは彼女なりの告白でした。
一緒にやろうってことですから、
しかも海にまでデートできてるのです。

彼も、ようやくそれに気づいてきました。

 

プロジェクト394日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/7 394日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

自分の車を走らせながら、
コイちゃんは、助手席に座る彼女に、
「その、女の子乗せたのって、
2回目だから」
やっとの思いで答えました。
「そうなんだ…、」
繭子ちゃんがそう口にしたので、
続けて、
「俺、そんなにいっぱい
乗せてるように見えたかな?」
「ううん、そういうんじゃないけど」
「俺ほんとそういうの、全然ないっていうか、
あんまだめで」
コイちゃんは、
一体何を言おうとしているのか、
自分でもわからないまま
口にしていました。
「でも、1回はあるんだね、彼女?」
と、繭子ちゃんは、
車内をすうっと見て、
まるで見知らぬ女性が
そこにいたことを想像するように
見回していました。
「彼女じゃないよ、付き合ったりじゃないから」
コイちゃんはぼそっと口にして、
「友だちとね、海行ったことあって、
男女4人でね、でも、
ただの付き合いだったから、
特になんにも…」
彼は、僕と出かけた日のことを
言っているのです。
「なんにもない、」
彼女の相槌のような声。
車内は快適です。
ゆったりしたシートに腰を深くおろし、
窓に流れていくビルの景色を眺めています。

車内での話はこのくらい、
2人は逗子まで足を運び、
岩場の多い海岸に腰を下ろしました。

まだ、2人の距離はあるままですが、
コイちゃんは、言ったのです。
「俺さ、なんにも自信なくて、
それなのに、なんか自信持てるようなことも、
なんにもしてこなくってさ、」
「でも今してるんでしょう?
せんべい屋、復活させるって」
2人は、砂浜の境界にある
アスファルトの護岸に並んで座っていました。
彼女は波風に煽られた髪を抑えながら、
「頑張ってるんでしょ、」
「いや、それも、どうだか…、
ほんとに出来るんだろうか、」
「え~、どうして、やるんでしょ」

コイちゃんは、
ぼんやりと沖合を行く船を視界に捉えながら、
なぜこんなに、自信がなく、
平明と淡々と生きてきたのかを考えていました。

「変な話になっちゃうけど、」
彼はそう一言添えて、
「さっき言ってたね、車に乗せたことあるって子ね、
俺の友だちの彼女の友だちで、」
「友だちの友だち?」
「へへっ、」
コイちゃんは軽く笑うと、
「まあ、友だちが紹介してくれた感じだったんだけど」
その友だちとは僕のことです。
彼は続けて、
「すっごい気になってたんだけどね、
友だち(そ、僕のことです)もさ、
いい機会なんだから交際してみれば、
なあんて軽く言ってたんだけど、
そんな、簡単なことじゃないじゃない、」
「誘ったりしたの?」
「いやいやいや、結局それっきり、
海1回、みんなで行ったきりで、
それきりね、
誘ったりできなかった」
「気になってたのに?」
「そうだね」
コイちゃんはそう答えながら、
今も同じような状況であると、
再認識するのです。
なんだか腰が重しがついたみたいに、
重くなってくるのです。
「俺、たぶんダメなんだよね、何やっても」
「…」
「だからそれでいいってわけじゃないし、
理由もわかってんだけど、」
「理由?」
「そ、自信を持つ努力ね、
そういう努力しないといけないって
わかってるから」

陽が暮れてきました。
海辺を歩く人、犬の散歩をしている夫婦の影が、
長く尾を引き伸びていました。

シチュエーションとしては、
最高の場面です。
寄せては返す波、
夕陽は淡い赤から暗紅色、藍色に変わって、
夜のはざまが、
どことなく全てをグレーにして、
何か、言葉を言える、
そういう気がしていました。

 

プロジェクト393日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/6 393日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

コイちゃんは、
極度に自信がないタイプです。
彼はよほどのことがないと、
自分を出すということがないでしょう。
おっとりしていますが、
それは自信のなさを
防御するためであって、
いざ自分の勇気が試されるとき、
彼はすぐに尻込みしてしまうんです。

繭子ちゃんは、
車内で、

ある意味はっきりしたことを
言ったかもしれません。
しかしコイちゃんは、
また出かけたいってとこを

聞いたに過ぎず、
それ以上のことは答えられませんでした。

結局、
また誘ってくれたのは、
繭子ちゃんでした。

今度はせんべい研修なんて、
口実ではありません。

「海行こうよ」
彼女はあけすけなく言って、
コイちゃんは一も二もなく承知しました。

「すごいね、
こんなかっこいい車乗ってるんだ」
黒いスープラに彼女を乗せました。
白い軽ワゴンとは、
さすがに乗り心地も全然違うのです。
コイちゃんが、
この助手席に女性を乗せたのは、
なんとまだ2回目でした。

そう、数年前、
僕と彼女と、
その女友だちと海に行った以来でした。

「女の子喜ぶでしょ、」
「いやぜんぜん」
コイちゃんはハンドルを握りながら、

首を振ります。
「うそ~、」
「いやほんとぜんぜん、
2人目だから、」
「2人目?」

しばらく間があります。

日曜の朝でした。
コイちゃんは、
駅前で彼女を乗せると、
ロータリーをぐるっと回って、
幹道へと車を走らせます。
スロープを上がっていくと、
高速道路に出ました。

「その、、、

女の子乗せたのって、
2回目だから」
コイちゃんはやっとの思いで答えました。

 

プロジェクト392日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/5 392日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 

コイちゃんは、
せんべい工場の1人娘、
繭子ちゃんとの関係が深まる中で、
将来について、
ぼんやりとしてではありますが、
計画的ななにかを抱き始めるのです。

学生とか、
20代前半の恋愛とは違う、
このくらいの年齢の恋愛というのは、
社会とどう折り合いつけるのか、
あるいは全くつけないのか、
多くの人は、
そういうことを、
絡ませながら進んでいくのです。

考えてみたら、
コイちゃんは、
自らの家の
せんべい工場を再興しようと、
東京の工場に修行に出たのです。

まだまだ現役で、
東京の片隅に工場を構える
せんべい屋の1人娘が、
彼女なわけですから、

そして、
彼女は、少なからず、
父親の経営する工場の
維持を考えている。
いつか2人は、
どこかで折り合いをつけなきゃ、
これ以上前には進めなくなる、
僕は、そんなことを考えながら、
飲み屋の片隅で語る、
コイちゃんの話に耳を傾けていました。

そう、人ってやつは、
往々にして、
問題はいつもおざなりにして、
目の前の出来事を
こなしていくものです。
真冬に食料が枯渇するから、
今のうちに蓄積しよう、
そのくらいのことは考える、
だけれど、行くその先に、
食料も資源も豊富であるなら、
その途中の危難なんて、
考えたくないものです。

コイちゃんは、
せっかく見つけ出しかけている、
人生の意義というか、
その目標が
かすみかけていくのを感じながらも、
小さな、美しい一人の女性と
恋に落ちていくのです。

(ここからは、
僕自身がナレーションをつとめます。
昨日まではコイちゃんの一人称でしたから、
小説風に語っていきたいと思います。)

埼玉の川原で、
2人でたそがれて、
それから、
また車に乗ったところからです。

コイちゃんは、
彼女と車に乗り込んだ後も、
中々エンジンを
かけようとはしませんでした。
繭子ちゃんも
それを自然に受け入れていました。
つまり、
コイちゃんが、
何かキッカケになる言葉を口にするのを、
待っていました。

残照はもう、
川向こうにあって、
車内には、
駐車場の街灯からの
弱い光があるばかりでした。

コイちゃんは、いきなり、
単刀直入なことなんて
言えるわけありませんでした。
彼は、
そっと壊れ物を手で触れるように、
「どうして、今日誘ってくれたの?」
すぐに繭子ちゃんは、
「え~、だって、おせんべい、
いろいろ調べたいでしょ、
これから工場だって、どうなってゆくかわかんないしさ、」
「そうだね…」
「鯉川くんだって、
おうち、おせんべい工場だったし、」
「うん、だけど、だけどさ、」
彼はこくんこくんと鳴る心臓音を感じて、
胸に手をあてると、
「また、出かけたいな」
やっと、そこまで口にしました。
それで、鍵をひねり、車のエンジンをかけます。
繭子ちゃんは、
「うん、また出かけよう、
また、誘ってもいい?」
コイちゃんは、小さく「うん」と答えると、
ギアレバーを握りました。
 

プロジェクト391日目。

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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だんなさんって言い方、
変なんだろうか、
繭子ちゃんがきょとんとしたから、
一瞬、そう考えたんだ。

「だんなさんって、なに?」
彼女は、その特徴でもある、
小さくくすくす笑う仕草をしながら言った。
俺、
「いや、だからその、
ご主人っていうのかな、相手の人…、」
そう言いかけてる途中で、
彼女は、
「やだわたし、まだ結婚とかしてないし」
「そうなの?でも、その、指輪とか」
それで、
繭子ちゃんは、
自分の片手を上げると、
その細い薬指にかかる
シルバーっぽい指輪を、
目の前にかかげてみせた。
「これ右手でしょ、
私ね、結婚したら
左手の薬指にするもんだと思ってた」

(まあ、そういうオチなんですが、
僕とサトちゃんは笑いながら聞いていました。
左手がどうのとか右手がどうのとか、
その頃の僕らには、
あんまり関心のないことでしたが、、)

「それに、結婚なんかしてたら、」
繭子ちゃんは、そう口にしながら、
手をおろし、もう消えかけている、
河原の向こうの夕日の方を向いた。
それで、俺に背中向けたまま、
「男の人とこんなとこで黄昏たりしないでしょ」
「たそがれ?」
「そうだよ、」
彼女はずっと
後ろ向いたままだったから、
どうかすると聞き取りにくい声だったけど、
それでも話し続けて、
「たそがれてるでしょお、わたしたち」
「知らなかった」
繭子ちゃんは、
くぐもった声で笑って、
「ふふっ、なにそれ」
「いや、そもそもたそがれ、って」
「やだ、言うでしょ~、たそがれ」
「そうだね」
それで、俺もほのかに笑ったんだ。
そうしながら、
こうした時間、
今までの人生で、
俺にはなかったな、て思ってたよ。


考えちゃったよ、すごく。
男の人、って彼女は言ったんだ。
つまり、俺は男の人で、
飛躍的に言えば、
恋愛対象なのかなって、
だけど、持ち前の自信のなさっていうか、
俺はいつも、
こういうのダメになるって、
そんなふうに考えちゃってるから、
彼女の特別な人間になんて、
なれっこないだろうと、、、

「鯉川さんは結婚してるの?」
ちょっと打ち解けたのか、
繭子ちゃんは簡単にそう口にした。
「まさか、」
「じゃ、付き合ってる人とか、」
「あ、それもない」
暗がりになりかけた川原に、
少しだけ涼しさを感じられる
風が吹いていた。

「そろそろ帰ろっか」
彼女は俺の返答にはなにも答えず、
そう言うと、
車が停めてある方へと歩き始めてた。
俺はそれを追いかけていく。

砂利を踏む足音だけが、
しばらくの間していて、
車が近づいてきて、
それで、繭子ちゃんは、
ぽつりと、
「じゃ、一緒だね」
ただ一言、そう口にしたんだ。

 

プロジェクト390日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/3 390日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

茜色が徐々に濃くなって、
濃い紫色にくるまれたみたいだった。
小さな羽虫のようなのが、
さかんに飛び交っていて、
俺たちはそれを払いながら、
暗くなっていく川辺の前で
話し続けていたんだ。

「おせんべい屋、やっぱやりたいの?」
繭子ちゃんが聞いてきた。
俺は、
なんかいろいろ話しても
いい気になっちゃって、
「実はさ、ここで働いてんのも、
ちょっとした修行のつもりで、
こんなこと言ったら、怒られちゃうかな」
そう口にすると、
彼女は首を振って、
「ううん、そんなことない」
「そっか、よかった。
俺さ、親父がやってたこと知らなかったから、
亡くなってから、
いろいろ思うとこもあったんだよね
なんで少しでも関わらなかったんだろう、
って、今はすっごい思うんだよね、
親父が、どんな気持ちで
せんべい作ってたかっていうか、
結局工場たたんでから、
どんな思いだったのかって、
最近になって、考えるようになって、」

もう、表情がよくわかんないくらい、
周囲は暗くなってきていた。
それでも、2人して、
なかなかその場を離れる感じじゃなかった。

俺は続けて、
「思えば、全然目標とかもたずに、
仕事とか、転々としてたからね、
それでふと思いついちゃって、」
「すごいね、」
「そう…かな、」

俺、ふと繭子ちゃん見て、
それで、
「そういえば、今、ここで働いてるの?」
たぶん、あんまり意味わからなかったと思う。
俺は彼女に、
社長の工場で
どうして働いているのって聞きたかったんだけど、
繭子ちゃんのこと、
まだなんて呼んでいいかわかんなかったし、
そしたら彼女、
「私も似てるかも…、
私ね、大学出てから、
一回就職して、それでやめて、
お父さんのとこ手伝ってるだけだからね~、
工場だって、
いつまでやってけるかわかんないし、
お父さんも、年とっていっちゃうしね、」

なんか、
しんみりしながらも、
俺はするりと、
もっと彼女の心に

深入りしたい気持ちが、
もうどうにも

我慢できなくなってたんだ。

「旦那さんとか、なんて言ってるの?」
こういう聞き方しか、

できなかった。
ところが、
繭子ちゃんは、

きょとんとした顔して、
「だんなさん?」

 

プロジェクト389日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/2 389日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html