人が罪の意識を感じて、

例えば後ろめたくなったり、

背徳感を感じるのは、

それが罪だと

あらかじめ

認識しているからです。


幼い子どもが無邪気なのは、

まだ善悪の分別がないから、


読者の皆様は、

それは当然だって

思うかもしれません。

しかし、平治の場合、

どうなんでしょうか?

彼は、幼い子どものように、

ただ分別がつかなかったと

言えるものなんでしょうか。


彼はただなんの邪気もなく、

少女と遠出をしただけでした。

罪があるとすれば、

この組み合わせ、

その行為が、

社会的には

許されないということを、

知らなかったことが罪だと言えます。


そして、子どものようには、

許されないのです。


「だれ?」

背後にいた加奈ちゃんが

不審な声を出しました。

「ちょっといいかな、話できます?」

シャツの男が柔らかさと

圧力を取り混ぜた口調で、

平治にぐっと体を寄せてきました。

「なんでしょうか?」

「その女の子、娘さん?」

「いえ」

「いとことかかなあ」

「いえ」

「じゃあなんだろう」

この執拗な質問に、

ようやく平治は、

何かモヤモヤしたものを感じました。

背後にいる加奈ちゃんを見下ろし、

また男たちに向き直ると、

「ともだち」

そう答えていました。

質問し続けていた男の方の口元に、

ニヤリとした笑みがもれました。


プロジェクト438日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/9/20 438日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

平日の午前中、
水戸の駅前は
それなりに人が出ています。
多くは買い物途中の主婦や、
学生なんかです。

駅のコンコースに上がって、
平治と加奈ちゃんは歩いていました。
「これからどっち行く?」
「もっとずっと遠く」
「とおく…」
距離が広がることが、
置かれていた地点の苦悩の解放と
比例している、
そういうことは、
平治にもわかっていました。
だけれど、
遠くへたどり着いて、
一体これから
どうするというのでしょうか、
とりあえず明日のことはいい、
まだポケットには、
茶箪笥からもってきたお金が
相当残っています。
明後日もいい、
まだご飯も食べれるし、
泊まるところだって探せるでしょう。
それで、
もっともっと遠くへ行ったとして、

ただ、
平治は、
ジーンズの中の
数枚のお札を握りしめて、
その先ずっと、
このままでいられるわけじゃない、
旅を続けられるはずなんてなく、
いずれ、
お金を得るために働かなきゃならないし、
そういうことを、
漠然と思いました。

「遠くいくと何かあんのか?」
彼はもらったばかりの
真新しいサンバイザーを目深に被り、
彼女に向かって
口にしました。
「そうだよ、もっとずっと遠くいかないと、
まだここ茨城県なんだから、
もっとずっと遠く」
「遠くいかないと、なんなんだろう」
平治がそう言うと、
加奈ちゃんは顔を近づけてきて、
「だって、近くにいたら、
捕まっちゃうかもしれない」
「捕まっちゃうのか…、だれに?」
「…」
彼女は口を一度噤み、それには答えず、
「海の方行ったら、船乗れるかもだよ、
船乗ったら、ハワイとか、
アメリカとか行けるんだよ」
「そんな…」
そんなことあるんだろうか、
例えアメリカなんかに
行ったところで、
どうやって生きていくんだろうか、
平治はそう考えて、
何も返事ができませんでした。

改札まで来ました。
とりあえず切符を買わなきゃなりません。
平治はぼうっとした目で、
天井近くに掲げられている、
駅の料金案内を見つめていました。

「ちょっといいかな?」
ふいに、
背後から肩に手をかけられ、
彼は振り向きました。
そこには、
半袖のワイシャツ姿の、
サラリーマンのような男が2人、
佇んでいました。
 
プロジェクト437日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/9/19 437日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 

安っぽいビジネスホテルに泊まって翌朝、
平治は10時近くにようやく起き出しました。
チェックアウトは11時です。
少し慌てて部屋を見渡すと、
すでに加奈ちゃんがいません。

彼は起き上がり、
ベッドから抜け出すと、
ユニットバスを開け放ちました。

すると、
すぐに入り口のドアが開いて、
彼女が現れます。

「どこ行ってたの?」
平治は起きたばかりの
目を細めて聞きます。
彼はまだホテルに備え付けの、
薄っぺらい糊のきいた
浴衣を着ていましたが、
加奈ちゃんは
すでにちゃんと着替えていました。
「ちょっと買い物だよ、
おじさん中々起きないから、」
「そっか…」
「今日も暑そうだから、これ」
彼女は紙袋をガサガサして、
中から何か
輪っかのようなものを取り出しました。
「これあげる、つけてみて」
彼女がそれを頭上に掲げます。
白い、サンバイザーでした。
「帽子俺、かぶらないよ」
「これ帽子じゃないよ、サンバイザーだよ、
陽ざし強いから、こういうの付けた方がいいんだよ」
「やだよ、恥ずかしいし」
平治が手を広げて拒むような恰好をすると、
加奈ちゃんは少し頬を膨らませて、
「あのね、去年、5年生だった時ね、
夏休みの前に先生が熱射病には気を付けてって、
みんなにサンバイザーくれたの」
「くれたの?」
「そうだよ、危ないんだよ、夏は暑いから、
くらくらしたりして、
だから帽子みたいの被らないと」
ようやくサンバイザーを手にした平治は、
寝起きでぼさぼさの頭に、
それを被りました。
「似合う似合う」
真っ白なラインが、
後頭部に向かってまっすぐに伸びていました。
平治はまんざらでもない気がして、
玄関口にあった姿見に、
自分の姿を映してみていました。

読者のみなさんは、
僕が新聞配達をしていて、
最初に平治と出会ったシーンを憶えていますでしょうか?

―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
なぜか、この冬の季節に似つかわしくない、
薄茶色のサンバイザーを、
ぼさぼさで強張ってみえる
髪の上にかぶっていました。
僕は彼の前をやみくもに走り過ぎようと、
階段の途中から助走をつけて、
走り出していました。
「兄ちゃん、今何年生だ?」
喉の奥にざらついた感じのする声です。
僕は、
「小学5年」
と、言葉少なに答えます。
「そうかあ」
男はそう言うと、
自らの髪をかきむしるようにしながら、
「どこの学校?」
僕は彼の質問に、
通っていた学校の名を言うと、
「ほうかほうかあ、俺もあそこだった」
と、男は大きく何度もうなずきました。
顔の下半分は、
ぼうぼうの髭に覆われていて、
口を開くたびに、
黄ばんだ乱杭歯が見え隠れします。
男は、少しかがんで、
僕に目線をあわせると、
「小学5年は、サンバイザーする?」
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
402日目

彼はサンバイザーをすると、
彼女と日中の水戸の街へと出ていきました。
駅に向かっていきます。
帰るつもりじゃありません。
もっと北に向かうためです。
 
プロジェクト436日目。

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2019/9/18 436日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 

加奈ちゃんと
逃避行(全然それらしくないですが)
をしている平治の話は続きます。

水戸に降り立ち、
中華料理屋で夕食を食べ、
再び町中に出ると、
午後8時を過ぎていました。

駅の近くに
小さな観光案内所があって、
そこでビジネスホテルを
紹介してもらいます。

訪れたのは、
駅前の雑居ビルの間にある、
古びたホテルでした。

ここまで、
平治と加奈ちゃんの2人の動向は、
特に不審がられた様子も
ありませんでした。
1つには、
平治がまるで悪びれたところがなく、
泰然と対応していたのも
あったかもしれません。
2人の態度は、
あくまで自然でした。
親子のそれではなかったですが、
とても親に黙って家出をした少女と、
ひょんなことから付き添ってしまった男には
見えなかったかもしれません。

ダブルベッドの1室でした。
2人はそれぞれのベッドに横になって、
剥がれかかったシートに、
埃をちらかしたような染みのある天井を見つめ、
寝る前まで会話をしていました。

「なんか修学旅行みたい、お泊り」
加奈ちゃんは眠気のある声で言いました。
せまい部屋に
そのハリのある声色がよく通ります。
「そうか…、」
「4月に行ったんだよ、房総一周」
「楽しかった?」
少し間があります。
もう眠ってしまったんだろうか、
平治は枕に頭をのせたまま、
彼女の方をちらっと見ました。
安眠灯の薄暗い中で、
加奈ちゃんはまだ起きていて、
光る瞳を、天井に向けていました。
彼女は、
「楽しかったらよかったなあ、
楽しいとよかった…、
私ね、修学旅行楽しみにしてたから、」
「楽しくなかったの?」
「楽しかったらよかったなあ」
これ以上、
聞いちゃいけない気もして、
平治は口を噤みます。
しかし加奈ちゃんは続けて、
「私がね、この目がね、
なんか濁っちゃってから、
みんなよそよそしくなって、
近づいてこなくなったのね、」
「…」
「悪魔とか言われたんだ、」
「あくま、なんでそんなこと」
10時を少しまわっていました。
列車を乗り継いだ旅の疲れもあって、
平治はもう眠くなっていました。
目は閉じて、
口だけ動かして、
「そんなこと言うなんて、
ひどいなあ、みんなで仲良くすりゃいいんだよ」
「出来ないから、」
「どうしてだよお、」
「私の目が、こんなになっちゃってるから」

湿気くさいビジネスホテルの一室で、
いつしか2人は
そのまま眠りについていました。
 

プロジェクト435日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/9/17 435日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

水戸の、町中の中華屋に、
バランスの悪い2人が入ります。


「おいし~」
加奈ちゃんは
小さな口に餃子をほうばり、
飲み込むと、
満面の笑みを浮かべました。
「そうかい?
幸楽のがうまいけどなあ」
平治の言う幸楽は、
地元のラーメン屋です。
加奈ちゃんは
そんなとこ知らないので、
「わたし餃子なんて

ふだん食べないから、
こんなに美味しいなんて思わなかったな」
「食べねえの、餃子?」
「食べないよ~、
お家じゃこんなもの作らないから」
「ふ~ん」
そう言いながら平治は、
チャーハンを取り皿に分け、
加奈ちゃんの前に寄こしました。

一見、楽しい食事の時間です。
家で餃子を食べない、

と聞いて、
平治は2人が家出していることを
思い起こしていました。

そこで、箸を止め、
餃子をぱくつく少女に、
「今日どうする?もう帰るか?」
「え、帰らないでしょ、どっかお泊りして、
明日はもっと先行こうよ、お金あるし」
「…」
平治は頬杖ついて、
彼女をじっと見つめてから、
「そうだな、それしかねえよな」
加奈ちゃんは頷いて、
「ねえ、餃子もう1皿頼んでいい?」
平治が頷く前に、
少女は後ろを振り向くと
店員のおばちゃんに、
「餃子追加くださ~い」

中年のおばちゃんは

伝票を書きながら、
「ずいぶんお嬢さん食べるね~、
お父さんはあんまだけど」
「あ、いや俺…、お父さんじゃない」
平治は一瞬どぎまぎして答えます。
「あらら失礼失礼」
おばちゃんは

笑って手を振ると、
「お兄ちゃんだね、ごめんなさい」
平治は、
子どもらにはおじさんなんて言われてますが、
世間的に見れば、
まだ所帯などなさそうな、
20代の若者でした。

「兄ちゃんでもない…」
彼が呻くように言った言葉、
店員のおばちゃんは

聞いていたのかいないのか、
そそくさとカウンターの奥に向って、
注文を中に告げていました。

「どっか、ホテル探さないとな…」
平治は独り言のように口にしました。

 

プロジェクト434日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/9/16 434日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

平治はやっぱり、
並の人間じゃありませんでした。
僕が思うに、
20代後半の無職の男が、
小学6年生の
街の金持ちの娘と、
遠くに出かけるなんてこと、
かなりの犯罪性があるし、
もし他意がなかったとしても、
それは自ずから、
危険を孕んでいるってことに、
まるで気づいていないようでした。

僕はずいぶん年を重ねてから、
この小さな街を

出た後だったと思うんですが、
幼少期を回顧するみたいに、
姉から伝え聞いたばかりの話です。

だから、本当は、
どういう逃避行があったのかなんて
細かいことは知らないし、
平治と少女の心の動きなんて
知る由もありません。

ただ、この事件
(これを事件と言っていいのかは、
僕の胸は未だに悩むところですが)が、
街の人の知るところとなり、
その後の彼の人生に、
大きな影を落としたことは

間違いがない、
そればかりを知っていて、
そして、
僕自身が、新聞配達の間に
実際に出くわした、
彼との交流から、
全てを推察しているに過ぎません。


とにかく、
2人は、僕が住んでいた町から、
100キロ以上北上して、
小さな列車を乗り継ぎ、
水戸の街に降り立ったのです。

休日の午後に出発したので、
駅を降り立った頃には、
すでに夏の日も暮れかけていました。

「そういえばお前さ、
金あんのか、」
駅のコンコースにたって、
みずからのポケットの中の札束を
また握り締めながら、
平治は少し後ろにいた

少女に言いました。
「うん、お年玉貯めてたから、」
「いくら?俺はいっぱいあるぞ、5万」
「え~、すごい、わたしはね」
そう言って加奈ちゃんは、
リュックのサイドポケットから、
アニメのプリントされた財布を取り出して、
中を覗き込んでいました。

この程度の金で、
いったい何が

出来るというんでしょうか、
平治にはまるで

計画性がなかったし、
加奈ちゃんには、社会というものが、
まるでわかっていませんでした。

「腹減ったな」
平治が言うと、
「うん、お腹空いたね~、

どっかで食べようよ」

2人は、アーケード商店街に入って
すぐのところにある、
中華料理屋に入りました。
そこでラーメンと餃子と
チャーハンを頼みました。

傍目からは、
親子に見えなくもないのですが、
それにしては、
少し平治は若すぎたし、
少女は大きすぎたかもしれません。

 

プロジェクト433日目。

――――――――――――――――――――――――――――
<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/9/15 433日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html


 
リュックを背負った
少女をおきざりにして、
平治は一度自宅へと戻りました。

なぜだと思います?
彼女から逃げ出したわけじゃないんです。
彼も、旅支度をするためです。

平治は家に戻りました。
休日でしたが、
その頃父は
蘭の栽培にこっていて、
母と2人、品評会へと出かけて留守でした。

平治は母がいつも
現金をしまっている場所を知っていました。
普段は入らない両親の寝室に入ると、
そこにある
古い和箪笥の引き出しを開けて物色します。
茶封筒に1万円札が20枚ほどあります。
彼はそのうち5枚を引き抜くと、
ジーンズのポケットにしまいこみました。


河原に戻ると、
リュックをしょったままで、
加奈ちゃんはぽつんと
川向うを見ていました。
「お待たせ、用意できたぞ」
平治は声をかけます。
彼女は座ったまま振り向くと、
「ね、おじさんどこ行く?」

ああ、そうか、
家出るって決めたけど、
どこに行こうなんて、
全然決めていませんでしたので、
「さあ…、どこ行くか」
平治はポケットの中のお札を握りしめて、
空を見上げました。

彼はこの関東中部の田舎町から、
ほとんど出たことがありません。
両親の実家もこのへんでしたし、
なにかゆかりのある場所が思いつきません。

加奈ちゃんは立ち上がりました。
そして、
「どこでもいいから行こうよ、遠くの方、」
「そうだね、」


こうして、2人は、町から消えました。
あてなどありません。
単線の列車に揺られ、
まずは県境を越えて茨城へ、
そこから海岸線を走る列車に乗り換え
水戸へたどり着きました。

1日目はそこまででした。
水戸の市街地に降り立った時、
休日の日は暮れていました。
 
プロジェクト430日目。

――――――――――――――――――――――――――――
<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/9/14 432日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 

川原で平治が加奈ちゃんと話してから、
5日ほど経ちました。

初夏の頃です。
梅雨明けの空は快晴で
地面からは草いきれの匂いが、
込み上げています。

平治は額に滲んだ汗を感じながら、
またいつものように、
川向うを
何するでもなく眺めていました。

すると、遠くから
乾いたパタパタいう足音がして、
加奈ちゃんがやってきました。

仕事をしていない平治には、
関係ないんですが、
その日は休日でした。
日曜の午後です。

振り向くと、
彼女は遠足でも行きそうな
大きなリュックをしょって、
走り寄ってきます。

平治は自然にむくっと立ち上がり、
お尻の芝草をはたきました。
「こんにちはおじさん」
彼女は気持ちのおしはかれない表情をして、
大きな目で彼を見上げました。
「どっか行くのかな?」
平治は、彼女が背中にしょった
荷物を見て言ったのです。
「うん、どっか遠く」
「遠く…」
「わたしね、お家出ようって思って、」
「え、家出かい?」
それで、彼女はこくりと頷くと、
「そうだよ、おじさん言ってたから、こないだ、
こないだ、家出たらね、
私幸せになれるって」
平治は頭をかきながら、
彼女の背後に広がる
河原から団地の方を見つめました。
何か、もうだれかに
追われている気分になっていました。

「そんなん急に、親が心配するだろう」
と、平治が当たり前みたいに言うと、
彼女はきっときつい目つきになって、
「だっておじさん言ってたじゃない、
そうしないと、ずっと幸せじゃないって、
それに、親なんてなんにも心配なんかしない、」
「そんなことないだろ」
「違う違う」
少女は首を大きく何度も横に振りながら、
「あいつらは心配なんかしない、
心配したら、私のこと殴ったりしないでしょ」
「それは…」
平治は後頭部のあたりをぼりぼりかきながら、
「でも親だから…」
と口にしながら、
彼女の左目を、
またそっと覗き見るのです。
こないだは夕暮れ時でした。
こうした日中の明るい空の下で見ても、
やっぱり、
彼女の片方の瞳は、黄色く濁って見えました。
 
プロジェクト430日目。

――――――――――――――――――――――――――――
<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/9/13 431日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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この際、人の幸せの定義など、
どうでもよい、
平治が思うのは、
ただただ
自分が満たされるには、
どうしたらよいかということです。
そこには、
家があまり裕福でないこともあったし、
そのせいで、
大学へ行けなかったこともあったし、
なぜ自分だけが、
板金屋で、
頭を打ったのかもありました。

「あなたは、」
平治は、加奈ちゃんの方に向いて、
それは彼なりに最上級の言い方で、
「恵まれてる、と思ったよ、
お金持ちだし、親は医者で、
なんも不満なんてないんじゃないかって」
少女は激しく
首を横に振りました。
彼は続けて、
「そうなんだな、やっぱ幸せは、
そんな簡単なことじゃないんだなあ、
それは、よくわかったよ」
「わたし、幸せになれるかなあ」
それで、平治は、
またじっと
加奈ちゃんを見つめました。
数秒して口を開くと、
「家出たら、幸せになれるよ、
悪いことは、全部、」
と、川向うの、
すでに暗がりになって見えない、
彼女の家のあたりを指差して、
「家ん中にあるんだろう?
だったら、家出たらいいよ」
「やっぱり…そうなんだよね、きっと」

僕は詳しいことは聞きづてで、
それほどわかっていませんでしたが、
とにかく2人の間には、
最初にこうした会話が
あったのでしょう。
加奈ちゃんは
思いつめたような顔になって、
下を見ました。
それからランドセルを
ガタガタ鳴らせて立ち上がると、
「ありがとね、おじさん、
わたし、なんかわかったんだよ、
なんか、わかった!」
そう言うと、
低い土手を走って去っていきました。

後に残された、
いや元々ここに1人でいたわけですが、
平治はきょとんとして、
少女の小さな体が
黒い影になって消えていくのを
見守っていました。

ここから、
ささやかな事件が起きて、
僕が出会った頃の彼を
形成していったといっても
過言ではないのですが、
平治は土手に1人佇み、
まだそんなことには
思いもよらないようでした。
 
プロジェクト430日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/9/12 430日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 

平治はまたちらっと彼女の横顔を見ました。
加奈ちゃんはじっと前方、
それは自分の家のある方ですが、
そちらを見つめたままです。

軽い好奇心が、
平治の目を、
何かを覗き見るようなものにさせていました。
そして、
あのお屋敷といわれている、
箱のような家です。
少女はあそこで暮らしていて、
彼が想像もつかなかった何かが行われている、
そう思うのも無理はありませんでした。

いろんなことを想像するのです。

あの家は近隣では有名なお屋敷です。
地元で代々続く名家で、
市議会議員なんかを出しているのです。
まあ、団地の小さな家に住む平治には、
全く無縁の世界です。

そして、
そこに住む少女は、
こうして容姿に恵まれ、
何一つ不満もなく育っていると思えたのに、
その瞳の黄色く濁った一点が、
けして見ることのなかった、
黒々とした世界の入り口に感じられました。

「あいつはだれ?」
平治は再び同じことを聞きました。
少女は少しためらったあと、
前を向いたまま、
「父親?」
と疑問詞をつける言い方で、
「そんなふうに、思ったことないけど、」
と答えました。
「父親が、そんなふうにするのかい?」
平治は自分の父に
平手でひっぱたかれたこともありませんでした。
しかし、失明するほどの力で、
いったいなぜ?
「今はしない…、
わたしの目が濁っちゃってからは、
びびってて、もうそういうのない」
「…」
しばらくの沈黙のあとで、
平治は、
「歯医者ってもうかるんだろう?」
「なんでそんなこと急に言うの?
関係ないでしょ、そんなこと」
少女は少し怒ったようでした。
平治はかまわず、
「いや、俺さ、
ほんとは大学とか行きたかったけど、
俺ん家はそんな金なくて、だから親にさ、
早く働いてくれっていわれて、
そいで俺、ちょっとだけ反抗したんだ、」
話を変えていました。
それでも少女は耳を傾け、
「なんって反抗したの?」
「大学行って、勉強したいってな、
そしたらよ、そんな理由じゃだめだって、
もっとさ、はっきりした理由ないならやめろって、
だから、俺は結局、大学なんて行かなくって、
近所の板金屋で働いてたんだ」

平治は、
後頭部に鉄の塊を強打した
あの事故を思い出していました。
あれから、ずっと考えていたのです。
諸悪の根源は、
家に金がないことだと。

だから、
「金持ちだったら、なんも悩みないと思ったよ、」
そう口にしました。
少女は、
もはや少女らしくない、
寂しげな笑いを浮かべて、
「そういう、ことじゃないよ」

もうすっかり日は暮れていました。
川面に映る乏しい家々からの灯りだけが、
2人の顔を浮かび上がらせていました。
 
プロジェクト429日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/9/11 429日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
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 158ページ中50ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html