半ば強制的にここに連れてきたはずの、
あのヘルメットのおじさんはいなくなっていました。
役目を果たしたとでもいうのでしょうか、
僕をここに置き去りにして、
もう、逃げることなんて
出来ないとでもいうのでしょうか、
とにかく、振り返っても、
乗ってきたはずの車も、
おじさんも忽然と姿を消していました。
途方に暮れました。
月明かりが、上空の濃い霧の中で、
幾重にも輪を広げています。
それを見上げ、
また、あたりをぐるっと見渡してみます。
とにかく煙幕でも
はったんじゃないかくらいに濃い霧で、
相変わらず
大きな寺の山門のような建物以外は、
なんにも見当たりません。
確か、南禅寺の三門とか、法然寺に、
こんな建造物があったかもしれないな、
とすれば、僕は鴨川のあたりから、
東山の裾野へと連れてこられたのだろうか、
そう考えながら、
また、門の下で、
天井の方を見つめてみました。
途方に、暮れていました。
今いったい何時なのかもわかりません。
周囲には物音が全くせず、
さっき河原で遠くに聞こえていた、
街の喧騒もないのです。
これから、どうして行けばいいんだろう、
また、はるか頭上の
天井の方を睨みました。
太い木の梁が、幾重にも重なり、
まるで巨大な生き物の血脈かなにか、
身体の器官のようです。
思えば、僕はなぜここにいるんだろう、
そう考えるのです。
ここというのは、
京都というより、
人生のこの地点ってことです。
何度か書きましたが、
この当時の僕は、
ようやく大学に入りなおした、
24歳の大学1年生です。
入学金も授業料も全部自分で荒稼ぎして、
ようやく入って、
それでまた奨学試験を受けて、
やっと手に入れた33万円、
僕はそれを使って、
今、旅に出て、ここにいるわけです。
この金は、
本当は来年の授業料に
いかほどか当てなきゃならないし、
実はまた、別の機関の
奨学金試験が控えていました。
勉強ばっかりして、
アルバイトして、
小説家になると一念発起したものの、
なんてことはなく、
やっぱり楽しいことに流れて生きてるんだな、
そう思いがいたると、
なんだか自嘲気味になってきて、
僕はこれまた太い丸木柱によりかかり、
とうとうしゃがんで、うなだれました。
いっそのこと、
東京になんて帰らずに、
この地で生きていくってのもいいかもしれない、
京都は、古い都だが、
僕にとっては、真新しい、進取の土地です。
刺激もあるだろうし、
あらたな考えも浮かぶかもしれない、
そうだ、いっそのこと、
詐欺とか盗みとか、
とにかくなんでもいい、
犯罪すれすれのことでもして、
お金を稼いで、
それで大学に通えばいいかもしれない、
そんなことを考えていました。
いつのまにか、雨がしとしとと、
静かな音をたてて降り始めていました。
プロジェクト608日目。
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2020/3/8 608日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71%
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
『僕を知らない君へ』オープニング 1日目









