いつのまにか、あんなに威力的で、

半ば強制的にここに連れてきたはずの、
あのヘルメットのおじさんはいなくなっていました。

役目を果たしたとでもいうのでしょうか、
僕をここに置き去りにして、
もう、逃げることなんて
出来ないとでもいうのでしょうか、

とにかく、振り返っても、
乗ってきたはずの車も、
おじさんも忽然と姿を消していました。

途方に暮れました。
月明かりが、上空の濃い霧の中で、
幾重にも輪を広げています。

それを見上げ、
また、あたりをぐるっと見渡してみます。
とにかく煙幕でも
はったんじゃないかくらいに濃い霧で、
相変わらず
大きな寺の山門のような建物以外は、
なんにも見当たりません。
確か、南禅寺の三門とか、法然寺に、
こんな建造物があったかもしれないな、
とすれば、僕は鴨川のあたりから、
東山の裾野へと連れてこられたのだろうか、

そう考えながら、
また、門の下で、
天井の方を見つめてみました。

途方に、暮れていました。
今いったい何時なのかもわかりません。
周囲には物音が全くせず、
さっき河原で遠くに聞こえていた、
街の喧騒もないのです。

これから、どうして行けばいいんだろう、
また、はるか頭上の
天井の方を睨みました。
太い木の梁が、幾重にも重なり、
まるで巨大な生き物の血脈かなにか、
身体の器官のようです。

思えば、僕はなぜここにいるんだろう、
そう考えるのです。
ここというのは、
京都というより、
人生のこの地点ってことです。

何度か書きましたが、
この当時の僕は、
ようやく大学に入りなおした、
24歳の大学1年生です。
入学金も授業料も全部自分で荒稼ぎして、
ようやく入って、
それでまた奨学試験を受けて、
やっと手に入れた33万円、
僕はそれを使って、
今、旅に出て、ここにいるわけです。

この金は、
本当は来年の授業料に
いかほどか当てなきゃならないし、
実はまた、別の機関の
奨学金試験が控えていました。

勉強ばっかりして、
アルバイトして、
小説家になると一念発起したものの、
なんてことはなく、
やっぱり楽しいことに流れて生きてるんだな、

そう思いがいたると、
なんだか自嘲気味になってきて、
僕はこれまた太い丸木柱によりかかり、
とうとうしゃがんで、うなだれました。

いっそのこと、
東京になんて帰らずに、
この地で生きていくってのもいいかもしれない、
京都は、古い都だが、
僕にとっては、真新しい、進取の土地です。
刺激もあるだろうし、
あらたな考えも浮かぶかもしれない、

そうだ、いっそのこと、
詐欺とか盗みとか、
とにかくなんでもいい、
犯罪すれすれのことでもして、
お金を稼いで、
それで大学に通えばいいかもしれない、

そんなことを考えていました。

いつのまにか、雨がしとしとと、
静かな音をたてて降り始めていました。

 

プロジェクト608日目。

 

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2020/3/8 608日目

■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 

■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定

■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中

 158ページ中50ページくらい了

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

今度は挨拶抜きで、
また腕をつかまれていました。
ヘルメットおじさんの力は相当強くて、
まるで全体重が
全て乗っかっているような握力です。
僕は硬直したまま、
「なんなんですか一体…」

しかし謎です。
たしかに七条の橋あたりから
僕は河原沿いを走ってきたのです。
なぜこの五条にこいつがいるのか、
車か、、いやわからない、

「おじさんどっから、、」
と僕が問いかけるまもなく、
腕の力はぐっと強まりました。
もはや、絶対に逃がさないといった感じです。
「お前、あいつらの仲間か?」
「だから、あいつらって、、」
「あのでかい2人だ」

でかい2人、
サトちゃんと順平でしょうか、
それにしても、
ヘルメットおじさんの方が、
順平たちよりずっと背丈はありそうです。

「離してもらえます、腕、痛いんですけど」
僕は荒い息をつきながら言います。
「だめだ、連れてく」
「逃げないから!」
僕は必死にもがいてみましたが、
とてもほどけるもんじゃありませんでした。

そのまま、半ば引きづられるようにして、
僕は河原から
上の道路へと連れていかれました。

黒っぽい車が待機していました。
ワンボックスです。
その後ろの席に乗せられると、
おじさんは、運転席に座る、
別の男になにか声をかけ、
やがて車は走り始めました。

誘拐?
いやしかし、たいして金もない貧乏学生、
おまけに東京からの旅行客である僕を誘拐したところで
一体なんになるというんでしょうか、
「え~、やっぱこれなんだ」
僕が騒ぐ間にも、
白い手ぬぐいみたいなもので、
目隠しをされます。

どうなってるんだろうか、
サトちゃんと順平も
そこにいるっていうんだろうか、

不安はありましたが、
彼らが捕まってるとしたら、
行かなきゃならないでしょう、
警察?
ああ、その手もあったな、
でも、携帯電話もないし、

そんなこと考えてるうちに、
自動車は走り続け、
10分ほどで、僕はある地で降ろされます。
もう、おじさんは腕を掴んだりはしませんでしたが、
僕の背後で、小突くみたいにして、
先に歩くように促しました。

霧のような、
煙幕が一体にたちこめていて、
ここがどこなのか、
まるで検討がつきません。

やがて、巨大な、
山門のようなものが見えてきます。
僕はそれを見上げ、
「ここどこ…」
そう一言、掠れ声になって口にしました。

 

プロジェクト607日目。

 

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2020/3/7 607日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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夜、くらがりで、
見知らぬ人に合ったら、
「こんばんは」
そこには、他意もやましいこともなく、
相手にも、やましさがないよね、
そう言っているような挨拶です。

ヘルメットを被った、
ガテン系の作業員のような格好をしたおじさんは、
「こんばんは…」
僕につられるようにして
そう返してきました。
それで、僕は気を抜いたのです。
だいたいこんな夜更けに、
橋の欄干の下で、
ただじーっと佇んでいる人間が、
そうそうまともなわけはないでしょう。
それなのに僕は、
おっさんの朴訥なこんばんはに気を抜きました、

それが、いけなかったんです。
おじさんは長く太い腕をにゅっと伸ばすと、
いきなり僕のむき出しの
二の腕のあたりを掴みました。
「おい、お前…」
「な、なんですか!」
僕は驚いて、声を荒げました。
橋げたの天井に
声がこだまして跳ね返ってきます。
「お前、どっから来た?」
「どっからって」
僕は腕を振りほどこうともがきながら、
「なんなんですかこれ!」
「どっから来たんだ?」
「と、東京です、東京」
「違う、違うぞ、そうじゃない、
播磨屋から来たんか?」
「はりまや?」
僕は最初気づきませんでしたが、
そう、あの老婆のいるおんぼろ宿屋の名前です。
それに思い当たると、
「そ、そうですが、」
ようやく、腕を振りほどき、
一歩あとずさりします。
「あいつらの仲間か?」
「あいつら?」
もう、わけがわかりません。
逃げるしかない、
僕はおっさんからじりっと距離をとると、
そのまま一気にその横を走り抜けました。

北の方、鴨川の上流方面へと逃げます。
おじさんは、何か声を発しましたが、
それは聞き取れませんでした。
僕は強く握られた腕の痛みを感じながら、
必死に走りました。

追いかけてくる感じはありません。
それでも、しばらく走り続けました。
また、五条大橋でしょうか、
次の橋が見えてきます。
左手、川床がつきて、
京都の市街地の街明かりがぽつぽつと見えています。
右手は、東山の方角で、
黒く塗り込められたみたいに真っ暗です。

息をつきながら、
橋の下まで来て、僕はようやく走るのをやめました。
そうして、橋の上を見上げます。
1台のトラックが、
橋上の道路を走りすぎていきました。
背後を振り返りました。
おっさんのいた橋のあたりは、
もう視界にありませんでした。
「おい、播磨屋から来たんだろお前」
はっとして振り返ると、
また、ヘルメットおじさんが立っていました。

 

プロジェクト606日目。

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2020/3/6 606日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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気づいた時には、僕はおんぼろ宿屋を
飛び出していました。
ジーンズにTシャツのまま寝ていましたので、
そのまま起きて飛び出してきた感じです。

宿屋の老婆が、
背後で追いかけるように
なにか言っていた気もしましたが、
よくわかりませんでした。

深夜の京都の街中へと向かいます。
はて、とはいえ、
サトちゃんと順平がどこに行ったのかなんて、
とんとわかるわけもない、
歩きながら、ようやくそれに気づきました。

老婆が言っていた、
作業着のヘルメットを被った男、
そいつが、サトちゃんたちを連れて出て行った、
ただ、それだけです。

しかも、なぜ探そうとしたんだろう、
僕が散歩に行かないと言ったのですから、
彼らはただ自分たちで自由に外出できているだけ、

いや、ヘルメットの男っていうの考えますと、
誘拐、、、、う~ん、いや、
ただでさえ図体のでかいあの2人が、
むざむざ連れ去られるとも思えません。

僕は立ち止まり、
交差点を見回しました。
京都っぽいといえば、
遠くに見える築地塀の影くらいで、
深夜1時すぎ、
車通りも少なく、ただの都会の風景です。

僕は息をつきながら、
そういえば、
鴨川の河原を、
涼し気に歩いてみたら、
なんて話していたのを思い出しました。
道を右に折れると、橋が見えてきます。
そこから、
河原へと降りていきました。
日中の喧騒がないので、
ささやかな川のせせらぎが聞こえてきました。

遠くには東山のなだらかな山稜が、
黒い影となって視界の先に伸びています。
この川沿いにあるけば、糺の森の合流に行きつき、
やがて、大原に方に行きつくのだっけ、
そんなこと考えて、
とぼとぼと歩き続けます。

懸命な読者の方は、
なぜ携帯電話を鳴らさないのか、
そう思ったかもしれません。
しかし、時は今から20年数年前、
まだ携帯持っていない人もいたと思います。
順平は持っていませんでしたし、
サトちゃんはPHS、
僕は、例の真菜ちゃんとの
いざこざがあったのもあって、
家に電話を置いてきていました。

弱ったな、いい加減、
宿に引き返そうか、
2つ目くらいの橋の欄干にさしかかった時です。
その先は、
川床(川にせり出した京名物の飲食店です)の板敷で、
暗がりになっていました。
僕はそこまで行きかけ、
ちょうど橋げたの下あたりに、
人影を見つけていました。

鼓動が高くなっていきます。
今さら、後戻りもできない、
僕は徐々にその、身動き一つしない
人影に近づいていきました。

ほんのりとした街明かりに、
ヘルメットを被った、
大柄な男が見えてきました。
僕より20センチは背が高そうです。
男を見上げ、僕は、
「こんばんは」
なぜそう言ったのかは、
まあ、いいでしょう。。
とにかく少し震えた声で、
僕はそう口にしました。
 

プロジェクト605日目。

 

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2020/3/5 605日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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僕はその腕をさっと離すと、
上体をとっさに起こしました。
「だれ?」
最初に出た言葉です。
サトちゃんじゃないってことを、
言いたかったんです。

京の夜の1日目、
僕は深い眠りから
無理やりにたたき起こされた感じです。

しかし、その人影は、
僕の問いに
答えることはありませんでした。
真夏の夜、
クーラーもないので、
古い木枠の窓は

大きく開け放たれたままです。
月明りなのか、漏れてくる街明かりで、
部屋は完全な暗闇ではなく、
ぼんやりとした視界があります。

僕を揺り起こした人影は、
ちょうど影になっていて、
黒く塗りこめられていました。
「だれ…」
僕はもう一度そう声に出しました。
掠れて、消え入りそうな声です。
人影は、
大柄なサトちゃんとは比べられないほど、
矮小で、ねじれて見えます。
「おやま…、
そんなに驚かなくてもええでしょお」
ようやく口を開いた人影、
その声は、あの、
旅館のおばあちゃんでした。
「すみません、いやでも…、」
僕は額にうっすらとかいていた汗を
手の甲で拭いながら、

「びっくりしますよ普通…」

「わたしがお化けみたいな言い方だね」

そう言われて、
たしかに暗がりで見る老婆、
目ばかりが光って見え、
影ばかりで干からびた体つき、
僕は一つ身震いして、
「すみません、、」
周囲を見渡して、
僕はそこでようやく、
順平もサトちゃんも
いないことに気づきました。
「順平がいない…」
サトちゃんは、夜、
散歩行くなんて言ってましたので。
しかし、
部屋の隅にある大きな柱時計を見ると、
すでに午前1時をまわっています。
 
老婆は、
「あんたの連れ、みんな出かけちゃったよ、」
「…」
「ヘルメット被った変な男きたね、そいで、
あんたの友だち、2人揃って連れてったよ」
「なにそれ…」
僕は頭をかきながら立ち上がりました。
 
真夏の京の夜、
その夜は、
こうして始まりました。
 

プロジェクト604日目。

 

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2020/3/4 604日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

さて、昨日までの話は、
京都の魅力というよりは、
少しマニアックな切り口で、
この古都を体感させていただきました。

少なくとも、そういうこと感じながら、
僕はこの街を見ており、
それをなくしては、
この3人の旅行も成り立ちませんので、
最初に触れさせていただいた次第なわけです。

話を戻しましょう。

僕らは劇的な安さを誇る、
老朽化した旅館に宿を定め、
足音を忍ばせながら(床が軋んで仕方ないので)、
2泊2日の散策に出かけます。

岐阜からやってきた最初の晩、
僕と順平は疲れていたんでしょう、
9時過ぎにはとっとと布団に寝っ転がって、
そのまま熟睡してしまいました。

サトちゃんは、
なぜか元気でした。
彼は夜行列車の中でも
十分に寝れたと言っていましたし、
体力をもてあましている感じでした。
なので、僕が寝につきかけた時、
「ねえ、外行かない、散歩行こうよ」
と、揺り起こしてきます。
僕は笑って、
「はははっ行かないって」
もう万全寝る姿勢だった僕に、
なんの遠慮もなく声をかける
そんなサトちゃんがおかしくて、
声に出して笑いました。
「ね、行こうよ、京都の夜だよ」
「明日も泊まるでしょ、明日行こう」
「ねえ」
サトちゃんが、
体を何度も揺さぶります。
しかしそれは、
僕を起すというよりも、
眠りに誘うゆりかごのようでした。
「もう寝てんでしょお」
と、となりで順平も
笑いながら言っています。
僕も口元に笑みを浮かべながら、
サトちゃんの腕をゆるく払いのけました。

そうして眠りについたのです。
思えば、
子どもの頃から敬慕してやまなかった、
京都にたどり着いたのです。
その、一晩目です。
サトちゃんが言うように、
古都の夏の夜を、
河原沿いにそぞろ歩きして堪能してもよさそうなものでした。
しかし、僕はほとほと疲れていたんです。
昨晩は列車に揺られ、
固いボックス席のクッションで、
窮屈に体を休ませていただけでした。
寝たか寝ていないかわからない境で、
名古屋あたりで朝を向かえ、
それから岐阜市内を歩き通しです。

疲れていない方がおかしいでしょう、
そう、僕は深い眠りにつきました。

また、サトちゃんの腕が、
僕の肩を揺さぶるようです。
「どうしたの?」
少し不機嫌に言ってみました。
ところが返事はなく、
また腕だけが
にょろっと伸びてきました。
僕は目を閉じたまま、
「もお、いい加減に寝かせて…、」
そう言いながら、その腕を掴みました。
掴んだ瞬間に、
ふっと全身に寒気を感じました。

サトちゃんの逞しいものとはひどく違って、
皮がはがれそうな感じがして、
細く、骨まで食い込むような感触をした、
そんな腕をしていたからです。

 

プロジェクト603日目。

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2020/3/3 603日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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京の人口は、
平安初期で55,500人、
そこから400年経った
鎌倉時代で68,000人
応仁の乱を経た
戦国末期で122,000人
時代が安定した
江戸期に333,000人
そこからは急激に増え、
現在で100万人を超えています。
京の大きさも一定でないので、
一概には言えませんが、
世界的な人口増と歩調を合わせ、
幾多の困難をものともせず、
ずっと都市でありつづけたわけです。

この場合の都市というのは、
商業的機能を持っていて、
生産性がなくとも、
生活必需品の供給がなされ、
消費されるだけの人口を抱え、
おまけに政治的機能ももっている、
という意味です。

これは地の利にあわせた
交通の弁がいいわけでもなく、
京都という自然に、国内があわせた機能として、
人工的都市としては、
まさに歴史的な意義を感じられるものです。

いったい述べにしたら、
どれだけの人間が、
この1200年の都で生活を営んできたのか、
単純には計算できませんが、
人生50年として、
1200年÷50年=24世代

平安京遷都から鎌倉までを
400年=8世代
人口6万として、
6万×8世代=40万人[a]

室町期を
400年=8世代
人口10万として、
10万×8世代=80万人[b]

江戸期を
250年=5世代
人口30万として、
30万×5世代=150万人[c]

これを全部足してみますと、
[a]+[b]+[c]=270万人
となるわけです。

あ、僕が何を言いたいのかと申しますと、
明治以前までに、
京の都で生を営み、
その生を終わらせた人
つまり、
この1200年の都に屍を埋めた人の数です。

もちろん、一概には言えませんが、
少なく見積もっても、
この京都の地中に、
少なくとも270万以上の人たちが、
骨を埋めたってことがわかります。

さて、その屍、
そのお墓はどこにあるのか、
ということが気になったわけです。

答えは、
嵐山に近い化野(あだしの)周辺と、
そして、
東山に南北に延びる寺院界隈、
ということになるのです。

すごくまどろっこしいかもしれませんが、
僕は初めて京都を訪れ、
金戒光明寺から現在の京都の市街地を見下ろし、
そして、低地までびっしりと続く、
無数の苔むした墓石を眺めながら、
そんなことを、
なんだかしんみりとした面持ちで、
つくづくと考えていました。
プロジェクト602日目。
 

――――――――――――――――――――――――――――

2020/3/2 602日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

僕は東京人としては、
結構京都へ行っている方だと思います。

とにかく記録を残す癖があるので、
ざっと紐解いてみますと、

2005年4月 東山から南禅寺、嵐山、本能寺、阿弥陀寺、高台寺
2005年11月 霊山
2005年12月 東山金戒光明寺
2006年1月 東山金戒光明寺
2006年2月 東山真如堂~金戒光明寺
2006年3月 東山金戒光明寺
2008年7月 三十三間堂、知恩院、霊山
2008年10月 真如堂、金戒光明寺
2008年12月 金戒光明寺、宇治
2009年9月 泉湧寺、東福寺、悲田院
2009年10月 永観堂、若王子、南禅寺
2010年1月 東寺
2010年1月 妙心寺、等持院、衣笠山、竜安寺、二条城
2010年2月 八坂、霊山、法山寺
2010年4月 知恩院、長楽寺、清水寺、南禅寺、国立博物館、今出川、知恩寺、相国寺
2010年7月 琵琶湖インクライン、山科
2011年1月 建仁寺、大徳寺、妙心寺、北山、花園
2012年12月 銀閣寺、保津渓、天竜寺、嵯峨嵐山、法然院
2016年11月上旬 岩清水八幡宮
2016年11月下旬 東本願寺
2016年12月 東山金戒光明寺
2017年11月 吉田神葬墓地、真如院、東山金戒光明寺、清浄華院、廬山寺

15年の間で、22回、
これ以外にも小さな寺や神社なんかも
かなり拝観しています。

各方面に行った際のことは、
さすがのメモ魔、
かなり刻銘に
僕の手帳には記録されています。
気になるのは、
同じところに何度も通っている点です。
特に金戒光明寺は、
四季を通じて足を運んでいます。

これはよほど気に入ったんでしょうね、
金戒光明寺については、
いずれ触れることにします。
とかく東山一帯をまわっています。

さて、今さらではありますが、
京の都について、
その歴史観を大雑把にわけますと、
平安以前、
平安朝初期
平安朝後期
鎌倉期
室町期
江戸期
江戸期末期
明治東京奠都以降
戦後
くらいに分けられると思います。
平安以前は、
今の太秦あたりに秦氏が割拠していた地でした。
それから遷都して、
1000年以上、
この国の首都として機能していたわけです。
それは古代の地質学が、
いや道教に近いものでしょうか、
そうしたものが
選び出した地なんですが、
人災はあれど、
天災で衰退したことはあまり聞かれません。
そうした土地だったと言うしかないのですが、
都たるべき地だったんでしょう。
ちなみに、今現代人が見ている観光地というものは、
ほとんどの遺構が室町期末期、
つまり安土桃山時代でして、
まさに秀吉が区割りした京都の町割りを見ているようなものです。

あと余談ですが、
1000年間天皇の居住地としてあったことは、
相当に意味が大きく、
実は明治に東京移転した際のことを、
遷都ととはいわないんですね。
奠都(てんと)と言います。
これは、都を遷す、
ではなく、
奠都とは、
ちょっと他のところに出かけてくるね、
くらいの意味です。
つまり、明治天皇は、
東京に周遊高覧に出かけて、
そのまま京に帰ってきてない、
という意味なんです。
当時は天皇が都を変えるということに、
それだけ抵抗があり、
こういう言い方で、実際には遷都がなされたわけです。
まさかですが、
今でも京の人は、
天皇のお帰りを待っている、
ともとらえられますね。

まあ、1000年というのは、
人の営みの積み重ねです。
そうした重厚感が、
関東にはあまりありません。
そこが、関東人である僕が、
魅力として感じている大きな部分でした。

プロジェクト601日目。

 

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2020/3/1 601日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

京都で宿泊したその宿は、
僕の人生においても、
後にも先にもない、
相当インパクトのあるものでした。

とにかく老朽化した建物で、
推定で80年くらいたってそうな、
いや、下手したら、明治期の建物かもしれない、
そんなところなのです。

外壁は煤けた鎧下見板で、
通りに面した正面は、
大きくガラス窓がとられていて、
入るとすぐに、北海道の木彫りの熊の置物が
なぜか出迎えてくれます。
螺鈿が打ち込まれた、
本当は贅沢な、ただ、埃だらけの、
板屏風があって、
その先に、受付がある感じでした。

宿場町の旅篭のように、
2階の窓から、
往来を眺められるようになっていました。

僕らは欄干から、京都の町を眺める、
てとこでしたが、
実際は、どこにでもある
車が行き交う国道沿いの風景です。
あとちょっと行けば、
鴨川が見えたかもしれませんが、
建物が邪魔して、
そんな風情は見れませんでした。

「いいねえ、風情があってえ」
サトちゃんは欄干に腰かけ、
外を眺めながら言いました。
風情って、一体、
どういう時使うものなのか、
僕らはよくわかっていないのかもしれません。
古くてぼろいものを、
無理に味わおうとしている、
そんな感じがないでもないです。

京の夏の夜です。

「どっか行く?ぶらぶらする?」
サトちゃんは言うんですが、
僕と順平は、
同じように欄干に座って、
すでにぐったりしていました。
前の晩は、夜行列車で、
ほとんど寝ていないのです。
今夜は早めに休んでもいいかと思いました。

階段をぎしぎしいわせて、
受け付けてくれた、妙に無愛想なおばあちゃんが
のっそりと上がってきました。
おばあちゃんは、おぼんをもっていて、
この真夏に、
湯気のたつ湯のみを3つ、
大きなちゃぶ台の上においています。
「ありがとうございます、」
僕が言うと、
むすっとしたまま、
おばあちゃんは僕らを見上げました。
「お茶ですか?」
順平が言うと、
年寄りは何も答えず、
くちゃっと唾の音をたてて、
「あんたら、欄干とこ、そんな座っててだめえ、
揃ってでかい図体して、
底抜けるから」

たしかに、今にも折れそうな柵の細い木枠が、
気にはなっていました。
僕は笑って、
「そうですね、落ちそうですね」

うだるような暑さでした。
もちろん、クーラーなんてあるわけもなく、
年代ものの扇風機が、
かたかた小刻みに音をたてて回っていました。
僕は湯気をたてる、
大振りな湯飲みを眺めながら、
額の汗をぬぐいました。
 

プロジェクト600日目。

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2020/2/29 600日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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旅の初日、
品川発の夜行列車で
西日本に向かった僕らは3人は、
大垣から少し戻って、
岐阜の市内を周遊してきました。

それで、
次にどこ行こうか、
という話になったんですが、
もう夕暮れです。

僕らは最初の日の
宿泊先を決める必要がありました。

「岐阜泊まる?」
そう言ったのは順平でしたが、
僕は、
「電車乗ろう、もう少し先進もう」
広島まで行く予定だったので、
少しでも先に行った方がよいと思ったんです。
「え~、どこまで行くの?」
とサトちゃん、
僕は、
「京都くらいまで行こうか」

ということで、
また各駅停車の列車に乗り込んだ僕らは、
一路京都へと向かいました。
列車は、岐阜の関ヶ原を越えて、
琵琶湖の東岸を走っていきます。
車窓からは、ほとんど琵琶湖は見えません。
この24歳の年まで、
僕はこの日本最大の湖を
見たことがありませんでした。
目を凝らしてずっと遠くを見ていたのですが、
見えたかもしれないし、
見えなかったかもしれない、
光の反射が湖岸だったかもしれない、
その程度でした。

京都に着いたのは、
もう陽も暮れた、19時過ぎでした。

さて、宿探しです。
当時の僕らは、夏でもあったし、
最悪、駅の待合かなんかで、
野宿してもいいかくらいには考えていました。

今と違って、
簡単にネットで検索、
てわけにも行きませんので、
京都駅の観光案内所で問い合わせます。

もうあの巨大な京都駅の建物はありましたので、
僕らは驚きをもって、
その大きな箱舟にいるような建造物を
見上げたものです。

宿はすぐに見つかりました。
とにかく安くて、
駅から近ければよいということで、
歩いて7分ほど、
鴨川のほとりに近い場所に、
最初の宿をとりました。

これが、
ある意味風情があるというか、
まるで江戸時代の旅籠のようなところで、
一見すると宿泊施設にも思われない、
古い建物でした。

しわくちゃで、ひからびてるような
おばあちゃんが顔を出します。
案内所から電話で予約したというのに、
おばあちゃんは、
「なんだい…」
と少し怒った声で応対に出てきました。

僕は少しひるみながら、
「あの、予約した…、」
「3人かい?」
「はあ」
「部屋1つでいいんじゃね?」
「はあ」

僕らはやたらに軋む階段をあがって、
部屋に通されました。
「とんでもないおんぼろだね」
そう言いながら、
まんざらでもなさそうに
サトちゃんは畳に寝ころび、
部屋を見渡していました。
僕も座り込みます。
こころなしか、古びた畳が湿って思われました。

 

プロジェクト599日目。

 

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2020/2/28 599日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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