老婆は追いすがってきます。
その素っ裸の姿は、
僕には、悲哀にはとても見えません。
ただ、醜くて、
ひからびた蟷螂かなにかに見えるのです。
それが、もごもご口を動かして、
哀願しています。

僕はひとつ身震いしました。

悪いことしている気には、
残念ながら全然なれそうもありません。

「お願いじゃから、
せめて下着だけでもおいてかないかね、
わしにこれでどうしろうと、」
追いすがる老婆、
僕は心のうちから湧き出てくる、
どうしようもない身の震えを
抑えることができません。
それは、僕の悪の心、
歯の奥が、かちかちとなります。
「うるせえな!」
一喝すると、
次の瞬間には、
なんの抵抗もできない老人を
蹴飛ばしていました。

「あ、どこ行くの?」
サトちゃんが
老婆に気をとられるわけでもなく、
手を上げました。
僕は、
「うるせえんだよ、
どいつもこいつも!」
僕は覆いかぶさるようになったサトちゃんに
勢いよく体当たりをくらわせると、
そのままさっき登ってきた
ぼろぼろの木の階段を
駆け下りていきました。
いくつか、朽ちかけた板敷きを
踏み外したかもしれません。
何度か足をとられましたが、
それでも、
転げるようにして階下へ降り立ちました。

まだ、外は夜更けでした。
月明かりは
あいかわらず煌々と周囲を照らしています。

さて、どこへ行こうか、
僕は静かなあたりを睥睨します。

その時でした。
黒い、大きな人影が、
音もなくあらわれました。
少しだけ、後ずさりします。

「おい、お前、なんてことする」
低くしわがれた声、
そう、いつのまにか消えた、
あの、ヘルメットおじさんが、
立ちはだかっていました。

「やるのか!」
怯みかけた自らの心を鼓舞して、
僕は大声で叫びました。
それは夜空をつらぬく、獣の咆哮のように、
自らの耳の奥にこだましていました。

そう、
肝心の「羅生門」の、
ラストシーン、その本当に
最後のところが思い出せません。

 

プロジェクト618日目。

 

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2020/3/18 618日目

■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 

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 158ページ中50ページくらい了

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

見れば、老人は、
その風采にかかわらず、
結構きらびやかな
衣類を身につけていました。
金目の指輪もしています。

ふんっ、
僕はひとつ鼻息を吐いて、

「順平の金歯よりは、
高く値がつくだろうな、
お前がしたように」
そこまで口にしましたが、
あとは無言で、
老婆の衣服を脱がしにかかります。
老婆は、
「あ…、」
と呻くような声をひとつもらしましたが、
あとはただもがくばかりです。
その力は、やはり弱々しく、
とても男の僕の相手にはなりそうもありません。

僕は勢いをつけて、
老婆を押し倒し、
その着ぐるみ全てを剥ぎ取りました。

弱い裸電球の前に、
真っ裸になった老人が晒されています。

「お前、身をやつすのかい?」
老婆はしわくちゃになった身体を、
それでも羞恥の限りで
手で隠しながら喚きました。
僕はそのしなびて、
垂れた乳のあたりを見ながら、
唾をひとつ吐き出すと、
「身をやつす?
笑わせんなよ、そりゃあんただろう、
俺は、これから先、
どうにだってなってやるよ」
「あんたなあ、」
老婆は素っ裸の身体をぶるぶる震わせて、
「盗人だぞ、こりゃ、」
僕はそれを聞くと、
なぜか笑みがこぼれて、
そのうち、声高に大笑いしました。
笑いがおさまってから、
「自業自得だろう、自分の身くらい、
自分で守ったらどうだ?
お前だって本望だろう」
「ほんもう?」
老婆は顔中しわくちゃにして言います。
僕はその身体を見下ろし、
「お前がやってることだ、
生きるには、当然ってことだ!」
徐々に声が上ずって、
興奮してきました。

僕は剥ぎ取った老人の衣類を
小脇にぐるっと丸めて抱えると、

「血を見なかっただけ、
ラッキーだったと思いな、」
そう言って、
きびすを返すと、
最初に入ってきた出口へと足を向けました。
 

プロジェクト617日目。

 

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2020/3/17 617日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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老婆は、言うのです。
人というものは、
欲のままに生きて当然、
それで生き延びていることが必然だと、
さっきからそういうこと、
伝えようとしているんでしょう。

モラルというものは、
人間が時代とともに作り出した表層です。
社会のルールともいえます。
しかし、それはやっぱり表層に貼られた、
模造紙かなにかの、はりぼてに過ぎない、
僕らは、
本当は野性も野蛮性もたっぷり持っていて、
だけれど、社会で共生していくために、
それをないことにしている、
いな、それをないように見せて生きている、

その証拠に、
どんなに時代が経っても、
陰惨な事件はなくならないし、
人は古代から抱いている感性を、
今でもやはり宿していると思います。

僕は、小説羅生門の最後のくだりを、
ようやくのことで思い出していました。

善人になろうとしたわけじゃないけど、
善人であろうと思っていた自分がいたわけで、
悪人になろうとしたわけじゃないけど、
悪人である自分は、
たしかに、
心の中に宿っている、、、

僕は、乾ききった、かすれた声になって、
「おいばばあ、お前も俺らと、
別に変わらないな」
そう、ゆっくりとした口調で言いました。
老婆は、順平の口元にやった手をとめずに、
「そうだよ、今頃気づいたのか、ひっひ、」
と、ひきつった笑いが、狭い天井に反響して、
僕の身体にすうっと入り込んでくるようです。
口の奥に、ぐぐっと力がこもりました。
大きな身震いのあとで、
僕は老婆の骨ばかりの
小さな肩をつかみました。
 
意外に、肉厚であることに、
僕は少し違和感を抱きながら、
老婆の肩に力を入れて、
こちらを向かせようとしました。

老婆は、
別に驚いたふうでもなく、
無言でこちらに向くと、
じっと僕を上目づかいで見据えています。

一瞬、気おされそうになります。
それは、なにも、
老婆の高圧的な態度にではないのです。
自らの、やろうとしている行いについてです。

僕は、怯んでしまったのか、
底に震えを残した声で、
「お前も、大分悪いやつだな、」
「…」
老婆は無言で、
それでも何かを悟った目をしたのです。
「やるの?」
サトちゃんが僕の背中で、
ひどく落ち着いた口調で言いました。
僕は横顔だけ振り向き、
こくりと頷くと、
また老婆をじっと見つめ、
その両肩をわしづかみにしました。
 

プロジェクト616日目。

 

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2020/3/16 616日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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羅生門は、
平安京の、
まさに表玄関であった正門。
それは雀大路の南のはしっこ、
重層屋根で、
正面から見ると約33メートル、
奥行きも8メートルありました。
見上げれば、その雄大さに、
往時の都の繁栄ぶりを
感じることができたでしょう。

しかし、
表玄関でありながら、
平安時代にはすでに荒廃していて、
死骸の捨て場所になっていたようです。
 
後に触れることになりますが、
現代人が見る観光都市京都は、
天災、人災からの、
ひたすらの復興の難局に立ち向う、
興亡史に彩られた街です。
 
人々は鴨川の氾濫、
正体の分からない疫病に翻弄され続けました。
科学の発展のない当時、
なぜ川が膨れ上がり、
得たいのしれない病気が起こり、
それが蔓延していくのか、
その理由を、おぼろげにしかわかりませんでした。
 
だから、なすすべは、
ほとんどないのです。
山と積まれた死体の上で、
災厄が去っていくのを、
ただ、じっと待っていました。
 
カラスが屍をついばみ、
かさかさに乾いた乱れた髪が、
まるで意思を持つように地面に広がり、
しゃれこうべが無造作に散乱し、
それをいつもの光景と、
なんの気のない人々が
時折行き交っていく、
門は金色のシビ(屋根の左右の鯱みたいなもの)を持ち、
朱色に塗られていたそうですが、
そんなものはとうの昔になくなって、
全体的に黒ずんで、朽ちるにまかせた、
老残とした建物だったことでしょう。

僕はこの痕跡を探るべく、
何度か京の街中をうろつき、
探訪したことがあります。
しかし、1000年の時間の経過が残すのは、
現在の京都駅の
南口からほど近い東寺の西、
南区九条通千本にある石碑のみです。
石碑は、もちろん当時のものではありませんし、
ただ、ここに羅生門があったことを
示しているだけにすぎません。

そこは公園になっていて、
石碑の背後にはすべり台が設置されています。
近隣の住宅もところせましと迫っています。

どんなに目を凝らしても、
この門をくぐり、
都のメインストリートと、
広大な都市の情景を想像することは難しそうです。


そして今僕は、
ヘルメットのおっさんに連行され、
この羅生門もどきの桟敷に上がって、
播磨屋の老婆と対峙している。

話は、そこからです。
 

プロジェクト615日目。

 

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2020/3/15 615日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 


「羅生門」
まるでこれは、
羅生門のようじゃないか、
僕は身震いして、
枯れ枝が呼吸しているような老婆を、
じっと見つめているのです。

何かを悟るんだ、
僕の拙い知識によれば、
あれは、芥川さんが、
今昔物語集から材をとったもんだろう、
いにしえのお話には、
必ずといっていいほど、
価値観への教えがあるんです。

それが、現代人に響かないこともある、
しかし、時間の奥で、
その悠久で風化していようとも、
伝承というのは、
必ず何かを伝えているんです。

僕は必死になって、
その真意を探るように、
視線を低く朽ちかけた天井に泳がせていきます。

「お前さんは、
世の中をなんか勘違いしてるんじゃないかね」
順平の銀歯を抜こうと、
あごにかけた手を一度とめると、
老婆は言いました。
「俺は?俺はなにを勘違いしてるって…」
僕は自問自答するその言葉を、
そのまま口にして、
頭を抱え込みました。
「功徳じゃよ、」
「くどく?」
僕の代わりに応じたのはサトちゃんでした。

順平はあいかわらず悶え苦しみながら、
涙目になってことの成り行きを窺っています。

「功徳をつめば、その積み重ねが、
天上への昇華に繋がる、
まあ、そんなとこじゃな。
人生はポイント制で、良い子ポイント貯めたら、
なんかいいことある、」
「よい子ポイントは…、」
僕は考えるのです。
よい子ポイントは、
そりゃあ子どもの頃は、
さんざん貯めたつもりでした。

しかし、そんなことすっかり忘れた大人になって、
たぶん、子どもの頃のポイントは、
全て使い果たしているでしょう、
そもそも、よいことしたら、
よいことが起きて、
悪いことしたら、
悪いことが起きる
そんなこと、とうに考えなくなっています。

してみれば、人生とはなにか、
その思想自体が、
まるで天上の神から監視されているような、
そんな感覚、
それは、エゴじゃないか、
いや、それを自覚してやっていることがエゴで、

反エゴイズムがあるとすれば、
悪いことがあっても、
ひたすらよい行いをして、
また悪いことがあっても、
気にせず功徳を積む、

華厳のスパイラルは、
僕の頭には、
どうにも理解ができないのです。
人は、社会を創造して発展した以上、
どうしても、代償を求めて生きるものなのです。
それを知った古代人が、
それをエゴだと責め、
神の教えを広めたとしたら、
まあ、それはそれで納得できるのですが。

「諦めろ、お前に悟りなんてない」
老婆は吐き捨てるように言うと、
また順平の方に向き直りました。
その背中、とても人を襲う
恐ろしいものになんて見えませんでした。
この老人は、
僕のなにかを引き出そうとしている、
そう考えるのです。
それは、「羅生門」が知っている、
だから僕は、もうだいぶ前に読んだ、
あの短編の話のすじを思い出そうとしているのです。

 

プロジェクト614日目。

 

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2020/3/14 614日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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読者のみなさんは、
芥川龍之介の「羅生門」をご存知でしょうか?
似ている、
あまりにもこのシチュエーションは、
羅生門の話のすじに似ている、

僕はもうそこまで考えが行き着きながら、
播磨屋のうさんくさい老人と、
じっと対峙していました。

「羅生門」は、
平安後期の京の羅生門が舞台です。

仕官を首になった1人の青年が、
思いあぐねて、
門の軒をうろついています。
なにを思いあぐねているのか、
彼はせっかくちゃんと仕事していたのに、
なんで首になってしまったのか、
そこんところはあまり深く考えず、
人生の不条理の中で、
このままじゃ、
明日の食い扶持にも困る
と悩んでいました。
このままならいっそ、
盗賊にでも身を落として生きていくべきか、
そんなことを考え煩悶としていました。
そして門の上の老婆と出会うのです。

老婆は女の死体の髪を抜いて、
それで鬘かなんかを造ろうとしていました。
ぞっとした青年は、
老婆を叱り付けます。
だけれど、老婆は言うのです。
これは因果応報、
この女だってろくな人間じゃない、
生きるために善人ぶるようなエゴはいらない、
青年はその言葉に翻意することを促されて、、、、

播磨屋のおばあちゃんは、
あいかわらず
不気味なひきつり笑いをしながら、
「そういうお前さんもね、
ほんとロクな人間じゃないだろ、
大学入りなおして、
自分は精一杯頑張ってますぅ、
みたいなツラしてるがな、
相変わらず女の子泣かして、
どうせ飽きてたんだろうが、」
「飽きてた?俺が…」
「退屈してんだよお前は、
子どもの頃思ったんだろ?
人生はもっととびきり
楽しいもんだと思ってたんだろ?
大人は自由で、金もあって、
やりたいことやりまくって、
そんなもんだと思ってたんじゃないのかね、あ?」
「そんな…」
少しは、思っていたかもしれません。
だから僕は、
何の反論もできませんでした。
「そいたら、思ったより退屈で、つまらんってな、
そいで小説家なるなんてのも、
まあずいぶん笑わせてくれるわな
どうせ印税とか、
がっぽがっぽで大もうけって
勘違いしてんじゃないのか」
「…」
僕は、少しでも思い当たるふしがあって、
徐々に首の力が抜けて、
うつむきがちになっていました。

「甘いんだよ、お前らの性根は甘い、」
「そ、それはチョコより甘いってことか?」
と、話を挟んだのは、
サトちゃんでした。

サトちゃんの拘束縄は
いつのまにかとれていて、
彼は僕の横に立って、
老婆に言い返しました。
無頼の甘党であるサトちゃんには、
チョコレートより甘いものなんて考えられません。
彼は矢継ぎ早に、
「すっぱいみかん食わせやがって、」
「みかん?」
僕が言うと、
「ああ、このおばあちゃんがくれたんだよ、
甘いやつあるって言ってさ」
「それでつられたってこと?」
サトちゃんは少しだけ照れくさそうに笑いながら、
「そうじゃない、川床で美味しいものあるって
言ってたから、それでついてったんだ」

僕はある考えが浮かんできて、
混乱しそうな頭を必死に整理します。

不朽の名作「羅生門」は、
一体何を意味して、何を伝えようとしていたのか、
そこんところが、
中々思い出せなかったのです。

老婆は僕らに背中を向け、
また、順平に近づくと、
「さ、さっさと銀歯の方も抜こうかね、
銀歯1本3万円なりだ」
「むむ~」
順平は半べそかいて、
声にならぬ声で苦悶の叫びを上げました。

 

プロジェクト613日目。

 

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2020/3/13 613日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

サトちゃんは、
「このおばあちゃん、すんげえ怖いんだ、
ヘルメット被ったおっさん連れてきて、
そいつが、ちょ~力強くって、
いきなり縛られたんだよ、
すげえぶん殴られた」
「ひいひいうるさいよ」
老婆は無防備なサトちゃんの頬を
ぴしりと平手打ちすると、
「黙ってなあんたは」
「順平が、」
サトちゃんはそれでも、
「歯抜かれてたんだ、強引に、
なんか金具使って、引っこ抜かれてた」
そう喚きちらします。
老婆はにやりと笑って、
「あんたは貧乏人だったのかい?
虫歯もなさそうだけど、
義歯が一本もないなんてね、
最近じゃつめもんでも
金銀埋めてそうなもんなのに」

順平の方を見ると、
もはや痛みに震えるのも臆して、
うなだれかけています。
口元からは、血がしたたり落ちていました。
僕は思わず身震いして、
自分の頬のあたりに強く触れ、
「やめろ、やめてくれ、こういうのは、
残酷だろ、歯引っこ抜くなんて、
しかも、麻酔もしないんでしょ、
痛いに決まってんじゃん」
「ひひひっ、自業自得だ、
因果応報ってもんだよ、」
老婆は不敵な笑いを返してきました。

そのしわくちゃな顔の真ん中の目は、
奇妙に見開かれ、
裸電球に照らされ爛々と輝いて見えます。

「どういうこと?いんがおうほう…」
老婆はまたちらっと、
朦朧とする順平を見やると、
僕の方に向き直り、
「あんたには、物の善悪なんて
わかりゃしないだろうが、」
「なんだそれ?」
僕は老人の言葉の意味もわからず反論します。
「あんたさっきまで、盗人にでもなって、
大金欲しいなんて思ってたじゃないかね、」
「う…」
「どんだけ悪業してきたかしらないがね、
今さらじゃろうな、」
「俺は、悪業なんてしたことない…、」
「どうかね、どんなもんかねえ、
飲食禁止のとこで、なんか飲んだり、
登っちゃいけないとこ登ったり、
数え上げたら切りないだろうね」
「それは…、」
「この男だってだいたいおんなじようなもんだあね、」
老婆は憎憎しげに順平に視線をやりながら、
「こいつはあ、とんと根性なしだからな、
リゾートバイト行って、
楽しいことでもあると思ったんかねえ、
本当は違うだろう、自分見つめなおすとか、
これからの将来考えるとか、
そんなこと言ってなかったかい、
飲食店でバイトしてたくらいで、
食材の生み出される仕事に
従事してみたいなんて言っちゃってなかったかい?
それでキャベツ畑行って、
ひひひっ笑わせるよねえ、
本当はな、ほれ、
お前さんに楽しいリゾートバイトの話聞いたもんだから」

そう、僕はこの時点では、
長野の蓼科湖(小説『さまよう夏の日』のモチーフです)、
那須のコテージ村(これは小説『その目と耳をふさいで』に描かれました)
これらの楽しかった記憶を、
順平に話してみたことがありました。

「どうせな、お前さんみたいに、
なんか楽しいことあんじゃないかって思ってたわけよ
それがどうだい、田舎の不良どもとつるんで、
そこの女に手ぇ出したとかで、
グループリーダーに睨まれ、
まあ、仕事も全然続きそうもなかったけどねえ、
そいで、逃げるように帰ってきたんだろ、」

なぜ播磨屋のよぼよぼ老人が、
そんなことまで知っているのか、
僕は少し不思議に思ってもよかったんですが、

「それがどうしたってんだ、」
吐くように言い捨てました。
老婆の不敵な笑みは、
作り物のようで、変わることはありませんでした。
「ばかだね、こいつは、悪業の中で生きてきたんじゃないか、
だからねえ、歯抜かれたくらいじゃ、
全然堪えないんだよ、
むしろ本望だろう、そんなもんだあね」

本望、因果応報…、
僕は老婆から視線をずらして、
口のまわりを赤黒く染めた順平をじっと見つめました。

 

プロジェクト612日目。

 

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2020/3/12 612日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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これを、どう表現して、
読者の方に伝えればよいのでしょうか、
僕は言葉を失い、
呼吸することを忘れ、
目の前の光景に釘付けになっていました。

正面には、
サトちゃんと順平が、
椅子に縄で
ぐるぐる巻きにされて座っていました。
サトちゃんは、気絶しているのか、
ぐったりうなだれていましたが、
順平は僕に気づいて、
言葉にならない声を発しています。
順平は口から大量の血を吐き出したのか、
あごの辺りまで
ぺったりと赤黒い鮮血がこびりついていました。

僕は2人の名を叫んだと思います。
だけれど、驚きすぎていて、
声になっていたかどうか。

一体、どういうことだ、、
僕はすぐに彼らに駆け寄ろうとしたんですが、
すうっと、その間に、
小柄な人影が入り込んできました。
「あ!」
思わず上ずった叫び声をあげてしまいました。

老婆です。
播磨屋の老婆が、
僕の前に立ちはだかる、
いや実際には腰が曲がって、
なにか小動物のように蠢いていたんです。

「どういうこと?」
僕はそのしわがれた、よれよれの肉体に
つかみかかりそうになりながら、
声を荒げます。
しかし、いやはや、
老婆は、
まるで今気づいたといわんばかりに、
「おやあ、あんた、誰だと思ったよ」
「おいばばあ!お前なにやってんだ!」
僕の声が、
狭い桟敷の天井に響き渡りました。
「なにやってんもなにも、ひひひ」
老婆は笑いを含んで、
「見りゃわかんだろ、こいつのさ、」
順平の苦悶の顔の方をあごでしめすと、
「金歯を抜いてたんだ、あと、
右の奥歯にも銀歯もあんねえあんた」
「うううう…、ひい」
順平はうわずったわけのわからぬ声をあげ、
椅子に縛られた、
自由の利かない身体を
苦しそうに悶えさせました。

わけがわからない、
これはどういう事態なんでしょうか、
普通に考えたら、
肉体的にまさる順平とサトちゃんが、
こんな今にも死にそうな老婆に拘束されるなんて、
一体どうしたら、
こんなシチュエーションまで
持っていかれるのか、

僕は手を泳がせ、
宙にある何かを掴むようにしながら、
「サトちゃん、散歩行ってたんだろ、
どうして、なんでこんなばあさんに」
サトちゃんの身体が少し動きました。
小さなうめき声をあげ、
うっすらと目を開きます。

なぜかその手には、
みかんの皮がぎゅっと握られていました。

 

プロジェクト611日目。

 

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2020/3/11 611日目

■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 

■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定

■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中

 158ページ中50ページくらい了

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

山門の内側には、木製の、
やたらに急勾配な階段がついていました。
物音はそれきりしないのですが、
いや雨の音に
かきけされているのかもしれません。
とにかく階段下までくると、
軒のあたる雨の音が
やたら耳につくようになっていました。

たしかに、人の気配を感じるのです。

僕は階段に足をかけました。
いきなりぎぎぎっと大きな音で軋みます。
京都を知っている方なら
ご存知かもしれませんが、
よく寺の大門は、
期間が限定されて
拝観することができます。
山門上から見る眺望を楽しむためです。
しかし、この時僕が足をかけたきざはしは、
とても観光に耐えうるものじゃありません。
気を抜けば
板敷きを踏み外してしまいそうなほど、
かなり老朽化し、
手入れもされていませんでした。

僕はそろりと、スニーカーのつま先で歩くようにして、
階段を登っていきました。
山門はかなり高いのです。
手すりにつかまりながら、
ようやく登り終えると、
狭い踊り場がありました。
外明かりは、ここまではとどかず、
漆黒の闇です。
しかし、先の板戸から、
橙色した灯りが漏れていました。

僕は大きく息を吸い、
なぜここまで来たのかを、
今さらながら考えました。
強制的にこの場所に来たんです。
この行為は、
あえて死地に飛び込むことに等しいのです。
いや、しかし逃げ場なんてあったんでしょうか、
濃霧の闇の中に走って逃げたとして、
僕は再び街中へと
帰ることができないと思っていたんです。
すればこれは必然、
僕ははじめから、
この場所に来るように運命付けられていた、
そんな気持ちになっていました。

板戸に手をかけます。
いや待て、
思い直して、立て付けの悪い隙間に、
顔を近づけました。
中の光景が、
辛うじて見えました。

目を疑うその光景に、
僕の呼吸が数秒とまりました。

それは、隙間越しの、
現実とは思えない光景でした。
この扉をひらけば、
現実なのかどうかはっきりする、
僕は一息に引き戸を開きました。

 

プロジェクト610日目。


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2020/3/10 610日目

■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 

■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定

■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中

 158ページ中50ページくらい了

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

山門の黒々とした建物に、
雨を凌ぎながら、
僕は煙霧に煤けた上空を見上げました。

雨は京の町の、
その全てを楽器にして、
ぴとんぴちょん、と、
音を鳴らし続けていました。
不規則でしたが、
それでいて、
何かに共鳴するようであり、
まとまりのない音の集まりが、
誰かになにかを促すような、
そんな、静かな雨でした。

まいっちゃったな…、
いっそのこと、あのおっさん、
帰ってきてくれたらいいのに、
ここで、じっと待ってろってことなんだろうか、

僕は恨めしげな目つきになって、
掻き消えていく視界の先に、
目を凝らしました。
なんにも、見えないのです。
雨音さえなければ、
時がとまっているとさえ思えるほどです。

僕はまた丸太柱に背中をくっつけ、
その場にへたりとしゃがみこみました。

考えるのは、
やはり、さっき考えていた、
これからのことや、
自らの行いへの
自嘲的な気分についてです。

ふと、大学へ入りなおした時の、
母の言葉を思い出していました。

母は、いい年齢になって、大学へ行って、
一体どうするつもりなんだ、
てそう聞いていました。
僕は大学で、文学や史学を、
きちんと勉強しなおして、
これからの創作に活かす、
というか、付け焼刃でない
確たる知識を習得したい、
そうでないと、
文章に創造をのせたものなんて、
ずっと書いていけやしない、
本当はそう考えていたんですが、
上手く伝えられもせず、
ただぼんやりと、
やっぱ大学行っておいた方が、
学歴あった方がね、
社会出てから、
この先いいんじゃないか、
そんな軽口を口にしていました。

母は、それを聞いた後で、
少し笑いを含んで、
それから、妙に真剣な眼差しになって、
あなたは子どもの頃から、
芸術的な感性ばっかりだからね、
サラリーマンとかやってけんのかね、

それを言われて、
僕は力なく笑ってから、
なにそれ、
それだけ、答えました。

今思えば、
その母の言葉は、
僕の中でずっと残る力を持ったものでした。
20年近く経って、
会社勤めをしている今でも思い起こすのですから、
そりゃたいした効力です。
まるで、その力に抗うように、
仕事をしている気もしたもんです。

それはさておき、
24歳の僕は、
母のその言葉の中にある運命を呪うように、
恨めしく感じていたのでしょう。
なにをって、
母の言葉、
それはそのまま、
僕自身に
世渡り下手だと言っているようでしたので。

ただ若さに飽きて、
モラトリアムに倦んで、
それで大学行っているとしたら、
そりゃもう、人生としては、
いろんなこと試しすぎというか、
もったいぶってるというか、
まあ、人生なめてる気もします。
だからこそ、強い意志で、
精進してまい進しなくちゃならないんですが、

そんな僕は、
京の町をぶらついて、
そして、今、
誘拐まがいの事件に巻き込まれ、
こんな人っ気のない場所で、
ただ雨音を聞いていて、、、

いったい、どうしたもんだろうか、、、

本当に、なんでも中途半端じゃなく、
どっか極めていかないと、
だから、いっそのこと、
犯罪でもいい、金を荒稼ぎして、
どこかに逃避行してもいい、

普通の人生と、
この場合でいう普通じゃない人生、
どっちにでも触れる、
そういう岐路に、
今いるんじゃないだろうか、
僕はそう思い立つと、
また、立ち上がりました。

あいかわらず雨です。

その、時でした。
高い天井の上から、
かたかたっと物音がしました。
人の気配を感じたのです。

 

プロジェクト609日目。

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2020/3/9 609日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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