岐阜から京都を周遊した
僕とサトちゃんと順平は、
ここからさらに西へと向うことになります。

朝の京都を名残惜しく出発した僕らは、
また鈍行列車に揺られて旅を続けます。
新幹線に乗りたい気持ちはありました。
しかし、まあそんなお金もなく、
青春18キップの規則通り、
各駅停車だけが僕らの足です。

京都から山陽本線に乗っていくのですが、
時刻表(これもスマホの普及で、全く使わなくなりました)を見ると、
姫路のあたりで乗り換えです。
それを見て、
「あなご寿司弁当食べたい」
と言い出したのはサトちゃんでした。
なんでそんなこと言い出したのか、
当時僕らは、桃太郎電鉄というゲームにはまったりしていました。
姫路駅であなご寿司屋っていうのがあったんですね、
僕は、
「どっちでもいいけど、乗り換え5分くらいしかないよ」
「5分ありゃ大丈夫でしょ」

というわけで、サトちゃんは乗り換え時に、
ホームにあった弁当屋に買いにいってました。

僕と順平は
さっさと次の列車に乗ります。
「大丈夫かね?」
4人席に座ると、
順平が窓の外から、
ホームの奥の方にあるであろう、
弁当屋の方を眺めています。
僕も気になって外を見つめます。
この位置からは、
弁当屋は影になっていて、
サトちゃんがどうしているのかはわかりません。
「どうする、間に合わなかったら」
僕がぽそりと言うと、順平は、
「どっかで待ち合わせる約束しときゃよかったね、」
「でもまあ、最寄りは言ってあるから」
この日は、
僕の祖父母の家に泊まる予定でした。
その最寄り駅は、
サトちゃんには話していました。
この会話、すでにサトちゃんが
乗り遅れる前提で話しています。

いよいよ発車ベルが鳴り始めました。
そのタイミングで人影のなかった弁当屋から、
サトちゃんが走ってくるのが見えます。

僕は慌てて窓をあけると、
大きく手を振って、
「サトちゃん!こっちこっち、急げ!」
順平は座席で笑い転げています。

結局、サトちゃんは
なんとか間に合うことが出来ました。
汗だくになって、買ってきた弁当を、
縦にして大きな手に握っていました。

列車が走り始めます。
さっそくサトちゃんは
アナゴ寿司を頬張り始めました。
僕は車窓とサトちゃんを交互に見ながら、
「やばかったね、」
「うん」
サトちゃんは
1つづつ握りを僕らに手渡しながら、
「すぐ買えたんだけど、」
「じゃあすぐくりゃよかったじゃん」
と順平。
サトちゃんは首をおおげさに振って、
「なんかさ、買おうとしたら、
売店のおばちゃんがさ、
いきなり言うんだよ、」
「なんて?」
「俺が、あなご寿司くださいって言ったら、
高いよこれ、って」
「へ?」
僕と順平は少し驚いた顔します。
「高いよって、1200円。馬鹿にすんなよだよな」
「それで…、」
僕はすでにこみ上げてくる笑いを抑えながら聞きます。
「だから喧嘩になったんだって。馬鹿にすんなって、」

その売店のおばさんの真意はわかりません。
物を買ってくれると言っているんだから、
何もそんなこと言わなくてもいいと思うんですが、

もう、それを確かめるすべもありません。

ただ僕らは、
困った憤りをあらわらにしたサトちゃんを見ながら、
笑い転げていました。

旅は続きます。

 

プロジェクト628日目。

 

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2020/3/28 628日目

■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 

■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定

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 158ページ中50ページくらい了

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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伏見桃山では、
桃山キャッスルに隣接する
桓武天皇陵と明治天皇陵にも足を運びました。

桓武天皇のお墓は、
柏原陵(かしわばらのみささぎ)と言います。
しかしこれ、実は参考墓であって、
桓武天皇がどこに葬られたかは定かではありません。

天皇は生前、
宇多野(今の右京区あたり)に葬られることを望んだのですが、
造り始めてみると、不審なことが続き、
造成をあきらめました。
今の伏見の墓は、
まるで森林公園のような立派なものですが、
これも明治になって整備されたものです。

伏見の山の中に造られた陵墓は、
あの仁徳陵より広かったという記事もあります。
ところが、その後の動乱の中でまったく分からなくなり、
秀吉が伏見城を建設する際に、
その地は完全に破壊されてしまっていたという話もあります。

また、同じ伏見区の深草大亀谷古御香町に、
参考地とされる場所があります。

僕は旅した際には、
それらのことを全く知りませんでした。
ただ、
京の都を開いた桓武天皇と、
1000年後にそれを終わらせた
明治天皇の陵墓が隣接してあることに、
なんとなしに感慨を抱いたものです。

さて、3泊2日の京都周遊を終えて、
僕らは播磨屋のおばあさんに別れを告げ、
朝の京都駅に向かいました。

京都駅の駅ビルは1997年に建造されました。
内部に入ると、
見上げるばかりの巨大なアトリウム空間になっています。
大きな船の底にいるような感じです。

数日、古い建築物に見慣れた僕らにとって、
そこは違和感のある未来都市の光景でした。

吹き抜けからはまるで渓谷を行くような階段があり、
その大階段は171段、高さ35メートルです。

「なんか京都住んでみたいね」
サトちゃんは吹き抜けを見上げながら言いました。
なぜこのタイミングでそう言ったのかはわかりません。
もしかしたら2日間の周遊で感じていたのかもしれません。
僕らは3人でルームシェアしているので、
それは3人で引っ越してもいいか、ともとれました。
「大学出てからかな」
僕はひどく現実的になって答えました。
いや、出てからならと言っているので、
現実感ないかもしれません。
ただこの時は、
この街で暮らしてみたいと強く感じました。
その夢は、この年齢になっても叶っていませんが。

 

プロジェクト627日目。


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2020/3/27 627日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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京都の1日目は、
市街地の寺町界隈をまわりました。
2日目は、郊外に出ます。

東寺や大原とか、そんなとこ周りそうですが、
僕らは話し合いの結果、
伏見桃山に向かいました。

ここは秀吉時代の
伏見の城下町があった場所です。
秀吉死後、関ケ原の戦いを経て、
町はあとかたもなくなくなり、
荒廃しました。
城跡は伏見奉行所によって
幕末まで立入禁止となっていたらしいです。
ちなみに本丸の跡のほとんどは、
明治天皇の陵墓となっています。

そうした歴史の中で、
今は、その痕跡をとどめるものも、
石積み以外、ほとんどありません。

私鉄駅で降りて、緩やかな坂を登っていきます。
普通の住宅街です。
その先に、近年伏見の城下の観光地として、
伏見桃山城が建造されました。

伏見桃山城キャッスルランドです。
お城は洛中洛外図に描かれていた絵を参考に
大天守と3重4階の小天守が模擬天守として再建されました。
天守は6億円かけた鉄筋コンクリート造りです。

まあ、当時の僕らにとって、
城は城です。
みなで高い天守を見上げ、
秀吉の往時に思いを巡らせたものです。

中にも入りました。
頂上付近には、なんと、
あの金の茶室が
原寸大で再現されていました。
それが本物の金だったかは、
さだかではないのですが、
その豪壮さに、目をみはりました。
茶というわびさびに、
その究極のアンチが金でしょう。

それをコラボさせたところに
秀吉の凄みがあって、
千利休と袂を分けた部分かもしれません。

それにしても、金というのは、
一体どうしてこうも人を魅了し、
そして、時に人を愚弄するのでしょうか、

原始の人類は、
金にどんな印象を抱いていたのでしょうか、
少なくとも、
食べれないから腹の足しにもならないし、
美味しくないし、
器具として使うには、
それほど使い勝手がよくなさそうだし、
口に入れた人はいたかもしれませんが、
それがその具体的特性以外の付加価値、
つまりお金としての意味を持つに至ったのは、
一体なぜなんだろうか、
と考えるわけです。

サトちゃんは
まばゆいばかりの茶室の光景に、
目を奪われていました。
その顔が、金の壁に反射して、
間の抜けた、なんとも言えない表情に見えます。
僕はそれを見て、
少し笑って、
「ほしい?」
と聞いてみたのです。
サトちゃんは笑いながら、
別に、と答えるばかりでした。

ちなみにこの伏見桃山城、
2003年に経営母体である近鉄内のリストラの影響で、
一度閉鎖されてしまいます。
それで模擬天守は、
今となっては伏見のシンボルだ、
ということで市民の働きかけにより無償で、
京都市に贈与されました。
しかしながら、
天守は現在の耐震基準を満たしていないということで、
実はもう中に入ることが
出来なくなっています。
基準を満たすには
数億円規模のお金がかかるということで、
内部拝観の目途は立っていないようです。

そういえば、秀吉存命中にも、
伏見には大地震があったことを思い出しました。

たとえ東日本震災以降、
地震が多くなったとはいえ、
秀吉ならば、
強硬に中に入れろと言ったんじゃないでしょうか、
そんなこと、今は考えています。
 

プロジェクト626日目。

 

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2020/3/26 626日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

 

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阿弥陀寺以外にも、
僕らは2日間で市街地の寺々をまわりました。

あの金閣寺で有名な足利義満の寺です。
臨済宗で、京都五山の第二位とされています。
実は金閣寺(鹿苑寺)も
銀閣寺(慈照寺)も、
この相国寺の塔頭(支店のようなもの)です。

室町幕府は3代義満の代に絶頂を極め、
彼の発願により、当時幕府の置かれていた
花の御所の隣接地に
一大伽藍が建立されました。
明徳3年(1392)のことです。

今は現存しないのですが、
ここにはそれこそ驚愕の高さを持った
七重大塔がありました。
建造から4年、
応永10年に落雷で焼失してしまいましたが、
なんと高さは、109.1メートル。
日本歴史上、最も高かった建造物です。
法隆寺の五重塔が31.5メートル、
薬師寺の塔が33.6メートルなので、
その高さのほどが想像できるというものです。

今でこそ高い建物が乱立していますが、
当時でこの高さ、
おそらく京の郊外、
はては比叡山などからも傍観することができたでしょう。
ちなみにこの記録、
大正3年(1914)、日立鉱山の大煙突が
高さ155.7メートルで竣工されるまで、
500年余史上もっとも高い建造物であり続けました。

相国寺は、京都御所の真北にあります。
これが、なにを意味していたのか、、
まさに、天皇を見下ろす位置にあったわけで、
義満が権力で、史上もっとも天皇家に肉薄、
いや、凌いだといわれるのも頷けるところです。
天皇家をのっとるなんて話もあったくらいです。

しかしこの塔、
何度も災厄に会い、何度も再建されてきました。
落雷のあとは、
北山山荘(金閣寺のあるところ)再建、
これも義満死後の応永23年落雷で焼失、
次に、足利義持が元の相国寺で再建、
その3代目の塔も文明2年落雷で焼失しています。

まるで、天皇家に近づくことを、
神の意志が拒むように、
ことごとく消されていきました。

そして現代、
天皇家は世界史上にも稀な最長の王家として、
今でもこの国の象徴でありつづけ、
一方の足利家は、江戸期には、
喜連川家として、
北関東の小領主にまで成り下がっています。

相国寺の境内の、どのあたりに塔があったのか、
それを見つけることは出来ませんでした。
しかしそれは、高さからいっても、
相当に大きな土台を持ったものだったでしょう。

空を見上げても、
幻影など見えるはずもないのですが、
僕らは、松葉の合間の澄み切った夏空を仰ぎ、
義満の思いを
少しでも体感できたらと思うばかりでした。

 

プロジェクト625日目。

 

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2020/3/25 625日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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僕らは鴨川沿いから歩いて、
出町柳の中洲から、
阿弥陀寺へと向いました。
この寺には、
織田信長、その息子信忠らの
墓といわれる石碑があります。

信長といえば、
菩提寺は大徳寺にある総見院で、
死後、秀吉によって、
ここで盛大な葬式も行われていますが、
なんでこの寺に墓があるのかと申しますと、
阿弥陀寺の開山僧清玉が、
織田家と昵懇だったからだといわれています。

もはや言い伝えではありますが、
本能寺の変の直後に、
清玉は僧徒を引き連れ、
すぐにも現地に駆けつけたそうです。
そこで、すでに焼死していた
信長らの亡骸を荼毘にふし、
遺骨を寺に持ち帰ったんだそうです。

寺は当時の場所からは、
少し町外れに移設されているものの、
墓石などもそのまま移されたようです。
はるか後年の大正時代、
宮内庁の調査で
織田信長の廟所と認定、
ついで贈位もされました。

と、ここが少し怪しいものです。

僕は長いこと
大正時代の調査記録を探しているのですが、
未だに見つけることは出来ていません。
その時は地下の遺骨も引っ張り出して、
信長らの墓と認定に至ったようですが、
一体どうして、という気にもなるのです。

もし清玉上人が
本能寺に本当に駆けつけたとしましょう。
まあ、昵懇であれば、それはありそうです。
ただ、それは明智軍と戦うためではなく、
あくまで遺体収拾としてなのでしょうか、
さて、そうした時に、
すっかり焼け落ちた
本能寺の焼け跡の中から、
これが、信長、これがだれだれ、
と遺体を断定できるものなのでしょうか。
百歩譲って焼け残った衣類から、
とも考えたのですが、
阿弥陀寺には
それを伝える遺品などはありません。
墓に埋めてしまったとしたら、
もう朽ちて無くなってしまったとでもいうのでしょうか。

黒々として古びた墓石から、
現代人であれば、
さももっともらしく思えてきてしまいます。
その墓石は、
まるで戦火を浴びたように黒いのです。
なにも墓石が
本能寺で焼かれたわけでもないのにです。

僕は手を合わせたあとも、
しばらく信長、信忠の墓といわれる基壇の周囲を
くまなく回っていました。
「そろそろ行く」
そう順平に促され、ようやく後にするのですが、
「中見たいよね、」
「なか?」とサトちゃん。
「いやさ、墓石の下。
ほんとに信長の遺骨があんのかなあって」
すると順平は軽く笑って、
「そりゃあんでしょ、墓なんだから」

墓には、骨がある、
それはけして当然のことじゃない、
僕がそういうこと知るのは、
まだちょっと先のことになります。

 

プロジェクト624日目。

 

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2020/3/24 624日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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僕ら3人は、
宿からほど近い鴨川のほとりに出て、
そこから北へ向って歩き始めました。

川は穏やかで、
清冽な澄んだ水が、
ささやかな音をたてて流れています。
岸辺の街並みはどこか遠くにあって、
東京のように
迫ってくる感じもありません。
高い建物が、
それほどないせいかもしれません。

街の喧騒は、すでにありました。
自動車の音、人々の声の群れ、
しかしすべては、
どこか遠くにあって、
川沿いは別世界のようです。

僕は東山のなだらかな山稜を眺めながら、
「あの先に比叡山かね」
順平は手をかざしながら、
「そうじゃない、でその先に琵琶湖だねえ」
「昔もこんなだったのかな」
とサトちゃん。
僕らは一度立ち止まり、
視界のひらけた
鴨川沿いの光景を見渡していました。

しばらくそうしてから、
僕は昨晩想像していた、
往時の河原の光景を胸に抱き、
「まあ、違うだろうね、こんな平和な感じじゃないよね、
今は、のんびりしてるけど、」
「どういう意味?」とサトちゃん。
「山は変わんないだろうけど、それは、
昔の人も同じように見上げてただろうけどね、
たぶん、このあたりはやばいよ、
よく六条河原で斬首なんて記録あるから、」

もう、六条あたりです。

僕が知るだけでも、
このあたりで処刑されたのは、
保元の乱で敗れた源為義・平忠正、
平治の乱の源義平、藤原信頼、
それから平能宗、藤原忠清、
本能寺の変で斎藤利三、
関ヶ原の戦いでは
逃げ切れなかった石田三成、
小西行長、安国寺恵瓊、
大坂の陣に再起をかけた長宗我部盛親、
みな、処刑後に三条の橋で首を晒されています。

おそらく、処刑されたのは、こんな人数じゃなく、
多くは人の集まりやすいこの地で、
見せしめとされたに違いありません。

古くは、六条河原に首斬地蔵が祀られていたといいます。
いま、それは付近の蓮光寺にあります。

少なくともこの河原には、
その痕跡をとどめるものは
何1つありません。
それでも、この地が、
多くの血に染まったことは紛れもない事実で、
今見る東山の低い山稜だけが、
もしかしたら生死の間際に、
石田三成も見上げたであろうと、
そう、想像するばかりでした。

 

プロジェクト623日目。

 

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2020/3/23 623日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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羅生門…、
とまあ、そんな想像をしながら、
僕の1日目の
京都の夜は過ぎていきました。

結局順平と僕は、
旅の疲れもあって熟睡していて、
サトちゃんは、
ひとり鴨川のほとりを散歩していたようです。

「ほら起きなさい、ほら」
僕はその声で飛び起きました。
なぜって肩を揺すぶったのは、
あの播磨屋の老婆だったからです。
僕は目をしばたたかせて、
上体を起しても、
しばらく無言で
老人を見つめていました。
「あんたらが起してくれって言ったんだよ、
朝早く散歩したいってね、」
驚く僕に怪訝な顔を向けて、
おばあさんは言うと、
さっさと階下へ降りていってしまいました。

「どうしたのお」
サトちゃんも、
目を擦りながら起き上がりました。
「いや、おばあちゃんがいきなり来たからさ、
なんかびっくりした…」
「モーニングコール?」
僕は頷き、
「まあ確かに昨日起してくれって頼んだけど、
これ、コールじゃないよね、たぶん」
「コールじゃないね、」
僕は部屋を見渡しました。
8畳間です。
そこに3人布団並べて寝ていました。
宿屋と言いながら、
床の間やなんかに、
装飾でない、なにか私物のようなものまで
点々と置かれていました。
まるで突然の泊り客に、
急いで掃除して貸したような具合です。

窓の外からは、
もう夏の朝の
早い陽射しが漏れてきていました。
都会らしい雑踏も遠くに聞こえています。
2日間、京都を周るとあって、
ふつふつと楽しみな気分になってきます。

「鴨川行く?」
僕が言うと、サトちゃんは、
「そうだね、俺、昨日夜歩いたよ、」
「お腹すいたら、適当に朝飯食べようか」
「そうだね」

順平はなかなか起き出しません。
僕は彼の肩を揺さぶりました。
順平は一言、
「なんかちょっと歯が痛い」
起きていたようです。

 

プロジェクト622日目。

 

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2020/3/22 622日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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「食わなかったのかい?」
僕は死体の山が
炎に包まれた光景を思い浮かべながら、
あいかわらず
うなだれているおじさんに言いました。
おじさんは、
一瞬どきっとした目をした気がしました。
「お前、そんなこと…」
「だってよ、よく焼けてたんだろ」
カニバリズムについて、
少し考えていたんです。
人肉食は、嗜好だったり、
文化だったりする世界は、
間違いなくあったでしょうが、
それとは違う、飢餓状態で、
人は、人を食すのかもしれない、
極限状態なんです。
食べるものが何もなくて、
自分が食わなきゃ、
明日は同じように焼かれる、
その眼前で焼かれる
雑食動物の肉の焼く匂い、
そんなこと考えました。
おじさんは首をわなわなと震わせました。
「馬鹿ぁ、人として、
そこまで落ちるわけねえだろ」
と、反抗してきました。

人肉食が、最大の諸悪であるように、
この時は考えついていました。
それをすれば、
人はもう、社会性を持った、
有史以来積み上げてきた、
そういう、人間には戻れなくなる、

僕はぶるっと身震いして、
首を何度か横に振りました。

その後も、ヘルメットおじさんは、
おじさんとおばあさんが、
どのように苦悩の中で生きてきたのかを、
とうとうと語り続けていました。

それは、連作の仏教画で、
仏が苦悩の道を
歩んでいくようにも聞こえましたし、
涙と鼻水まじりで話すおじさんに、
多少のコミカルさと
悲哀の入り混じったものに思えました。

だから、助けてくれと、
おじさんは言うのです。

「おっかあの服、返してくれ、それがないと…」
僕は手元に握っている、
しなびた老婆の衣類に目をやりました。
金目のものもいくつかぶら下がっています。

「あのさ、そんなに返してほしけりゃ、
力ずくで奪ってみろよ、」
僕は声高に言い放ちます。
男は屈強で、立ち上がれば、
僕よりはるかに上背もあるのです。
しかし、なぜかこの時、
力の均衡は、たしかに僕の方にある気がして、
その実、実際そうであったような感じなのです。

「頼むよ、おねげえだから、」
おじさんは膝を折ったまま、両手を合わせました。
その姿に、
なぜか電光のように、
虫唾が走っていきました。

僕は地面を強く踏み鳴らし、
それから勢いつけて、
「うるせえ!」
と大渇すると、
座ったまま無力なおじさんを蹴り倒していました。
僕の靴の先が、
おじさんの頬のあたりを強打しました。

そして、その場を走り去り、
闇夜へと駆け抜けていきます。
背後にサトちゃんが僕を呼ぶ声が聞こえます。
もっと遠くに、
順平が苦しみ悶える声も聞こえます。

「羅生門」のラストシーン、
主人公の行方は、ようと知れず、
だから、僕自身にも、
僕がどこへ行くのか、まるでわかりませんでした。

 

プロジェクト621日目。

 

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2020/3/21 621日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

ヘルメットおじさんは、
土下座するみたいな格好で僕を見上げ、
哀願するような顔になって、
「俺とおっかあは、
ほんと苦労してきたんだ、
親父は早くになくなったから、
おっかあは、女手ひとつで、
俺のこと育ててくれた…」
だから、どうしたっていうんだ、
僕は腕組みして、
彼を見下ろし、黙っていました。

「播磨(今の兵庫県)の山奥にいたんだ、
親父はさらに山の奥入って、毎日杉の木、
切り倒して、そいで暮らしてた。
だけどよ、俺がとおん時、足元滑らして、
木の上から落っこちて、それから、
4、5日くらいうんうんいって、
脂汗流してた思ったら、あっという間に、
死んじまった…、そいで」
おじさんはヘルメットをあさめに被りなおします。
目からは、後から後から
涙が溢れてきていました。

「おっかあと俺は、最初、
どうしていいかわかんねえで、
毎日泣いて暮らしたんだ。
親父は、もう戻ってこねえのにな、
そのうち、おっかあは、
ある男に騙されてな、
都に出ないかっていうんだ、
だけどよ、俺たち一家、
山仕事して生きていくことなんて、
とても出来やしねえし、騙されても、
都まで来るしかなかったかもしんねえ
だから、うさんくさい薬師だっていうおっさんについて、
京までやってきたんだ」
「くすし?」
僕が問いかけたのは、それだけです。
おじさんは真っ暗な穴のような、
大きな口を開いて、
「くすし、薬師だ。薬売りだ」
昔の医者のようなものです。
もちろん昔は医者になる資格なんてありませんので、
どっかから薬を仕入れて、
それらしいこと話せたら、
医者と名乗る人間はいました。

「薬師(くすし)は、俺たちを京に連れてくると、
らしい格好はいきなりやめちまってな、
飲み屋のだんなに早変わりだ、
おっかあになにさせてたんだか、俺は知らねえし、
考えたくもねえ、
でもよお、おっかあと俺は、
身を粉にして働いたんだ、
俺はあ、毎日毎日、日雇い労働してた
はやり病で死んだ人間がたっぷり並んでりゃ、
それひっかついで、河原にもってって、
汗だくになって灰にしてったんだ」

河原に高く積まれた人の山。
顔といい皮膚は、
犯された病で黒々とし、
苦悶の表情でかたまり、
人生をぷっつりととめた人間の群れ。
それはもう、生身の暖かさを感じさせない、
ただの物体でしかないのですが、
そこに薪をくべて、大きな火柱が立つのです。

その光景は、魂の昇華を示すかのように、
炎は人間の肉体からにじみ出る油で、
天を焦がすように登っていきます。

「虚しくねえのか?」
僕は眼下のヘルメットおじさんにぼそりと言いました。
おじさんはこくりと頷きながらも、
「慣れちまうんだ、最初は目ぇそむけてた死体にも、
慣れちまうんだよ、ただの人形か、
いや人形でもねえよ、
泥のかたまりみてえに見えてくんだ」
「ふんっ」
僕は馬鹿にしたような目つきになって、
鼻で笑いました。

 

プロジェクト620日目。

 

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2020/3/20 620日目

■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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「羅生門」の、
ラストシーン、その本当に
最後のところが思い出せずに、
僕は山門の前で、
ヘルメットおじさんと対峙しています。

大男は、
「お前、なにした!」
と、大渇すると、
仁王立ちになって、
僕の前に立ちふさがりました。
僕はじりじりと下がりながらも、
なぜか、身のうちから、
ふつふつと勇気が沸いてくるのを
抑えきることができません。
「うるせえなあ!お前こそなんだ、
俺をこんなとこに連れてきたのは
お前だろうが!」
「そりゃ俺じゃねえ、命令されたんだ」
僕が再び一歩前に出ると、
今度はおじさんが
じりっと後ろに下がります。
僕は勢いづいて、
「まあだれでもいいや、だけどな、
お前に止められる筋合いはねえんだよ」
このヘルメットを目深に被った、
屈強な男に、
僕はどうにも
恐怖を感じられなくなっていました。
そんな自分への驚きと
ないまぜの高揚感の中で、
僕は地面に足を強く打ちつけました。

「お前、」
男はちらっと僕の抱える衣服と、
門の階段の方に目をやると、
「俺のおっかあに何した?
なんかしたのか?」
「おっかあ?あのばばあが、
お前の母親?」
僕はそう言いながら、
なぜか唐突に笑いがこみ上げてきて、
高笑いに笑い転げてしまいました。

それを、おじさんは
成すすべもなく見ていましたが、
ようやく僕の笑いがおさまったところで、
「どうしたんだ?うちのおっかあ」
「馬鹿じゃねえのか、見りゃわかんだろう、
身包みはいでやったんだよ、」
僕はその衣類を頭上に掲げ振り回して、
「今頃すっぽんぽんで
きったねえ老体さらしてんぞ」
出てくる出てくる、
悪態ばかりが、
湯水のごとく口から出てきます。
大男は、メットの影になった顔を歪め、
「勘弁してくれよ、なあ」
と、哀願の表情を見せるのです。
「かんべん?なにを」
「助けてくれよ、おっかあは、
それじゃあ風邪ひいちまうから」
「はははははっ」
なぜ、こんなに笑いが
こみ上げてくるのでしょうか、
僕は哄笑して、
また一歩でかい男に近づいていきます。

ヘルメットおじさんは、
その場にばたっとしゃがみこみました。
僕はそれを見下ろします。

おじさんの目には、涙が溢れています。
「俺とおっかあは、貧しいながらも、
2人で懸命に生きてきてんだ、
お前にもわかるだろ、」

こいつ、何を言ってんだ、
僕はそう思いながら、
彼をじろっと睨みます。

一体、「羅生門」のラストシーンは、
こんなだったのか、
そんなこと考えながら。

 

プロジェクト619日目。

 

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2020/3/19 619日目

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

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