凄い仕掛けを考えたフランス人たち | 西方見聞録(旧パリレポート)

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2015〜2020年パリ、2020年4月に本帰国しました。帰国後も”これは!”と思うものを探し、レポートしています!!

フランスで今、大変な騒ぎになってる
「黄色いベスト運動」

このブログでも何度か
お伝えしてきましたが、

年末年始を挟んで
もう運動は終わるのかな?
と思っていましたが、

年が明けるとまた再開して
昨日、1月12日に9度目の
デモが行われました。

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「黄色いベスト運動」は、
ざっくり言うと

燃料税値上げへの反対をきっかけに
フランス全土で
黄色いベストを着た人たちが
マクロン政権や富裕層に対し
NOを突き付けているデモ運動。

デモは一部の壊し屋などによって
暴力を伴うこともあり、
マスコミによって大きく取り上げられ
問題化してきましたが、

昨日12日の、9回目となるデモは
ちょっと面白い、
と言ったら良くないかもですが、

ユニークで
新しい試みがデモ側によって
仕掛けられました。

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これまでの「黄色いベスト運動」は、

基本みんなで集まって、
機動隊と衝突したりしながら
「マクロンやめろ」などと叫びながら
行進したりしてきましたが

昨日のデモはとんでもなく
過激で、恐ろしい計画でした。

その計画とは
「銀行をぶっ潰せ」というもの。

これまでも、デモは
国際企業や銀行をターゲットにし、
ATMの破壊などを行ってきましたが、

今回は、日時を決めて
そのタイミングで
「一斉に預金を引き出そう」
SNSで呼びかけ、
銀行に打撃を与えようと試みました。
銀行のATMで現金を引き出そう! という運動

これは銀行を潰すのに
かなり効果的も思われるアイデア。
〈お金を引き出したら、それて高価な貴金属を買う?〉

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「黄色いベスト運動」が
今、最も怒っているのは
貧富の格差。

資本家層がますます儲かり
持たないものはますます搾取され
貧しくなる、
そんな社会システムの現状に
怒り心頭なわけです。

では、誰がこんな世の中に
しているのか。

誰が悪いのか。

銀行だ!
金融機関だ!!

資本家たちが
俺たちから搾取するシステムの
元凶となっているのは
銀行、金融機関だ!!!

銀行をぶっ潰せ!
と、なったわけです。

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なぜ”銀行が悪い”と
「黄色いベスト運動」側、
つまりフランスの一般市民側は
考えるのでしょうか?
(もちろん、一般市民でも「黄色いベスト運動」を支持しない人もいますが)

それは、色々な考え方が
ありますが、

資本主義社会においては
資本(お金を生み出す富)が富を
生み出す構造
になっており、

逆に言うと、
資本がない人は
なかなか豊かになれない。

資本を持つものが
金融機関を通して投資を行い
さらに持つようになっていく。
金持ちだけ儲かるシステムで
気に入らない!
銀行、金融機関をぶっ潰せ!

となったわけです。

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ところで、
なぜ皆で一斉に預金を引き出すことが
銀行にダメージを与えるのでしょう?

それを理解するには
銀行のシステムを理解しなければなりません。

ちょっとややこしいですが、
ざっくりまとめます。

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まず、銀行が儲ける仕組みとは
いかなるものか。

「え?
一般の人たちからお金を預かって、
そのお金を会社などに貸し付けて
利子とって儲けてるんじやないの?」

と考える方が
多いかもしれませんが、

この仕組みは何となくは
合ってますが、
正しくは間違っています。

銀行は預かったお金を運用して
利益を出しているわけではありません。

銀行は〈借金で生まれたお金〉を運用して
利益を出しているのです。

その仕組みを理解するには
「貨幣とは何か?」を理解しないといけません。

「貨幣」とは、
私たちが手にする紙幣や硬貨、
または預金のことを指す、
と思う方もいるかも知れませんが、

正しく言うなら
「負債」つまり「借金」が
貨幣の正体です。

現代において貨幣は
金と交換できるわけではないので
お金自体に価値はほぼありません。

また、お金は国の銀行、
すなわち中央銀行(日銀)が発行している、
と思っている方もいらっしゃるかもですが

まず日銀は政府の機関ではありません。
政府から独立し、上場している法人です。

お金を作る国の機関は造幣局で
ここでは紙幣は刷っておらず
硬貨を造っているだけです。

日銀は確かに紙幣を発行していますが、
(印刷局が製造)
世の中に流通している
貨幣に占める割合は僅か。

紙幣や硬貨は
現金決済が必要なケースに
対応するため便宜上ある、
程度のものです。

つまり、
単なるツールなわけです。

お金は
造幣局や日銀が造っているものが
実態ではなく、

実態は、預金、すなわち
借金記録のデータです。

このデータは
誰かが借金することによって生まれます。

銀行は特殊な権限を持っており、
誰かがお金を借りにきたら
僅かなお金(10%)を元手に
貸すお金を作り出すことができます。

これを「信用創造」と言い
現代の貨幣経済において
非常に重要な仕組みです。

これが分からないと、
お金って何のこっちゃ?
となります。

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ちょっとややこしくなりましたが、
ざっくり言うと、

銀行は現物のお金で
運営しているわけではないので
銀行には現金はあまりありません。

しかし、預金者が払い戻しを
希望した場合、
現金を渡す必要がある。
そのため
万が一、多くの人が一斉に
預金を下ろしに殺到すると

銀行の預金高が減少し
経営ができなくなる
最悪の場合、銀行は倒産

となります。

一般的に、このように
預金者が一斉に払い戻しに
殺到することを
〈取り付け騒ぎ〉と言いますが、

今回は、この〈取り付け騒ぎ〉を起こす
運動だったわけです。

実際、この〈取り付け騒ぎ〉によって
過去、多くの銀行が倒産の憂き目に遭いました。

日本では昭和金融恐慌(1927年)が
最も有名です。

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と、この〈取り付け騒ぎ〉、
思ったようにいかなかったみたいで、

前日は盛り上がっていたようですが
当日はニュースで殆ど
取り上げられず
銀行にインパクトは
与えられなかったようです。

と言いますか、
そもそもこんな〈取り付け騒ぎ〉を
起こそうとして、

万が一本当に起こった場合、

銀行が破綻して
恐慌を引き起こしたら
困るのは自分たちなのに、、、

と私は冷ややかに
見ていましたが。