恐怖と涙を飲み込んで歯を食いしばる度に男は強くなる | ごっこ遊びdeキャラメイク☆ヒカリサス☆山本麻生(ヤマモトマイ)

ごっこ遊びdeキャラメイク☆ヒカリサス☆山本麻生(ヤマモトマイ)

成長するまでに封印したキャラをやりたいことに合わせてごっこ遊びで開放するキャラメイキングのお手伝い
漫画好き

 
 
作中より
「怖いけど、嘘じゃないけど、怖いってことにしておくと便利だなあ」
 
 
トラウマ病



1 トラウマの扱い間違えて被害者から抜けられないあなたへ 

https://ameblo.jp/letstakeiteasy7/entry-12601916575.html

 

2 心は、親子関係から取り組むと危険な話 

https://ameblo.jp/letstakeiteasy7/entry-12601916556.html

 

3 恋愛はモテることが重要じゃなく… 
https://ameblo.jp/letstakeiteasy7/entry-12601916545.html


4 深層心理の同心円の中心で 

https://ameblo.jp/letstakeiteasy7/entry-12616786025.html

5 スケバン詩子
https://ameblo.jp/letstakeiteasy7/entry-12616786039.html

6 ゾンビに囲まれて

https://ameblo.jp/letstakeiteasy7/entry-12616786042.html

7 恐怖へのリベンジ
https://ameblo.jp/letstakeiteasy7/entry-12616786045.html

 
 
 
  そこは屍で囲まれていた。
 スケバン詩子が中央で磔にされていることは変わらない。ただ、その周囲にはおびただしい数のミイラが中心に頭を向け、うつ伏せに倒れている。
 以前に来たときにゾンビとして襲ってきた「力田先生」が数倍の数になってミイラとなって転がっているのだ。
 頭にトラバサミが乗っているので、埋まっていたトラバサミがすべて外に出てきたように見えた。
 腕から伸びた数百の蔦は枯れた色をしながら、スケバン詩子に巻き付いている。
 スケバン詩子の足と腕は巻きついた蔦で完全に見えない。火をつければ簡単に火あぶりの刑が完成してしまうだろう。
 真守と御神がいるところから中央までは五十メートルほど。
「真守」
 御神のひとことで自分の仕事が分かってしまう自分が嫌だ。
「行きます」
 斥候として、ビクビクしながらミイラを足でつついてみる。硬い。木のような感触がする。
 動かないことを確認して、そっと横を通ってみる。反応はない。
 ぐるりと見回すと、磔にされた正面が一番通りやすそうだった。十字架の形に開いた両腕に蔦が絡みついているため、中央が割れているように蔦がないのだ。
 ミイラの重なっているところを避け、一体一体が少し離れている場所を選んで踏まないように注意して歩く。
「道を作って!」
 真ん中ぐらいまで行ったところで、御神の怒声が背中にぶつかってきた。
 御神の横でブリキのロボットである佐保が熊手を横向きに捧げるように持っている。
 少し泣きそうになりながら引き返して熊手を受け取った。
 狭い足場を道にするため、熊手を使ってミイラを押すことにする。
 強く力をこめたら襲いかかってくるのではないかとドキドキしながら熊手に力を入れると、ミイラ化して枯れているからか、思った以上に簡単に横にズレた。
 ふう、と息をつく。
「さっさと行く!」
と御神の声が追い打ちをかけてきた。
 御神は「恐怖と涙を飲み込んで歯を食いしばる度に男は強くなる」と言っていた。こき使うための方便にしか思えない。
 ミイラが何をしても動かないことに確信を持てれば、あとは単純作業である。
 道を作っていると、中心に行くには邪魔な蔦が数本出てきた。
 真守一人ならまたげばいいが、御神が怒りそうなので一応努力した証拠を作ろうと熊手を逆に持ち、柄の部分を振り下ろした。力づくで切ってしまおうと思ったのだ。
 枯れた色をしているからと油断していた。予想を超えた弾力で弾き飛ばされてよろめく。何かを踏んだ。
 そのままどんくさく尻もちをつく。
 ミイラの手を踏み抜いて破壊していた。人の形をとっているものを破壊してしまった気分の悪さと罪悪感が広がる。
 座っているため距離が近くなった転がっていたミイラのひとつにニヤリと笑われた気がして気味の悪さが背中を走る。
 努力はした。
 これ以上は無理。
 またいでもらおう。
 そう決意して立ち上がった。
 なんとか中央に着き、振り返る。
 まっすぐではないが、五十メートルの道ができている。やりきった気持ちに浸っているとそこをツカツカと御神が歩いてきた。
「よくやったわね。ありがと」
 あんなに恨んでいた気持ちが一気に昇天した瞬間だった。胸に誇らしげな気持ちあむくむくと育っていく。男なんて単純だ。そうしてまた逆らえなくなっていく。
 
「おひさしぶり」
 御神が詩子とやりとりしている間、佐保が以前と同じ剣と盾を渡してくれた。
「今日は銃も用意できます」
と頼もしいことを言ってくれる。
 平和に終わって欲しい。
 そう願う横でカウセリングがはじまった。
「では、前回の続きからいきましょう。私に続いて。
 調子に乗った私嫌い」
「調子に乗った私嫌い」
 
「調子に乗った自分を見るのは嫌」
「調子に乗った自分を見るのは嫌」
 快調に言葉が出てくる。一ヶ月置いたことが効果を見せている。
 
「調子に乗ったら、どんな怖いことが起こるの?」
 詩子は何かを言いかけて口を閉じ、言葉を選ぶように口を開いた。
「みんなに…迷惑をかけます」
 周囲を警戒していた真守は、御神に広がる満面の笑みを見てしまい、すぐに目を逸した。
 何度もカウセリングを見てきた真守だからこそ分かる。あれは、いたずらっ子の目だ。
 御神は何かに気づいた。芯を掴んだのだ。
「私は調子に乗るとイタイんです。
 私は自分のことかわいいと思っている痛いブスです。
 調子に乗るとそれが出てくるんです」
 御神の声を聞いたスケバン詩子の悲鳴が甲高く響く。蔦が動いて繭となってすっぽりスケバン詩子を覆う。
 御神の満足した顔を見て、真守はゾッとした。
 御神は、人が苦しむ姿が大好きとしか見えない。クライアントが、苦しげにのたうちまわりながら気持ちを吐き出している姿を見ているときが一番楽しそうに喜々としている。
 二人で移動中の何気ない会話として聞いてみたら「苦しむ姿なんて失礼な。私はオーバーリアクションを引き出すのが好きなだけ」と言っていた。絶対嘘だ。
 御神にうながされて剣で繭を切ろうとしたが、太いゴムのように弾き返された。
「言えません。無理です。もう無理なんです」
「じゃあ、言葉を変えます。
 力田先生怖いなあ」
「力田…先生…怖いなあ」
 顔は見えない。繭の奥から声だけが響く。
「怖いけど、嘘じゃないけど、怖いってことにしておくと便利だなあ」
「怖いけど、嘘じゃないけど、怖いってことにしておくと便利だなあ」
 
「だって、調子乗った自分を封印してくれる」
「だって、調子乗った自分を封印してくれる」
 
 破裂音がして、ミイラが一体砕け散った。
 
「力田先生への恐怖が、調子乗った自分を封印してくれる」
「力田先生への恐怖が、調子乗った自分を封印してくれる」
 また一体ミイラが爆音と共に砕け散った。
 
「私、実は、超ヤバイんです」
「私、実は、超ヤバイんです」
 
「見張ってないといけないんです」
「見張ってないといけないんです」
 
「でも、まてよ。みんなの方がイタくないか?
アイツ超イタイのになんで生きてるんだろう?」
「でも、まてよ。みんなの方がイタくないか?
アイツ超イタイのになんで生きてるんだろう?」
 
「あいつみたいに生きるなら死んだほうがマシ」
「あいつみたいに生きるなら死んだほうがマシ」
 
「今、誰か思い浮かぶ人いますか?」
「はい」
 
「アイツ超イタイ。イタイ。イタイ。イタイ。イタイ」
「アイツ超イタイ。イタイ。イタイ。イタイ。イタイ」
 
「でも生きてる。あいつ超幸せそうに生きてる」
 
「幸せそうじゃないです。ズルそうに生きてます」
 ふふふと御神は笑った。そうなのねと同意しながら次の言葉を口にする。
「あー、実は私もイタくてズルいんだよなー
消したかったなあ。
消えなかったなあ。
これも私なのか、嫌だなあ
もう諦めよう」
 空を切る音がして蔦が外れ、御神に向かって飛んでいく。御神は、間一髪のところで直撃を免れたが、腕にかすって血が出ている。
 相当腹が立ったのか、ミイラの頭を拾って真守に投げつけてきた。
 慌てて御神との距離を詰め、盾を構える。
「ホントは、私も…イタくてズルいです。
消したかった。
見たくなかった。
そんなの私じゃないって言いたかった」
 繭が壊れる。一本一本蔦が勢いをつけて外れていく。
 真守は訓練を思い出す。この一ヶ月、死の危険を感じた真守は格闘技のジムへと入り、基礎を磨いてきた。今こそその成果を見せるときだ。
 盾で何本か弾き飛ばしたものの、ひきこもりの体力なしには持久力がなかった。仮想空間なら理想の体にしてくれればいいのに息が上がってくる。
 集中力が切れた瞬間、御神の足に蔦が叩きつけられ、思いっきり御神に殴られた。
 「パワハラ」と「人権」という単語が頭の中に浮かぶが、状況に対処することに忙しくて文章にならずに消えた。
 
「美人に生まれたかった」
「美人に生まれたかった」
 
「堂々とかわいい存在でいたかった」
「堂々とかわいい存在でいたかった」
 一番言いたくない部分が壊れたのか、御神の声に抵抗なく声が続く。蔦が外れて繭はどんどん薄くなっていく。
 隠す必要がなくなり、効力が続かなくなったのだろう。
 
「自分がブスだなんて知らなかった」
「自分がブスだなんて知らなかった」
 
「みんな超笑ってたに違いない」
「みんな超笑ってたに違いない」
 
「ブスが美人って言ってるって超笑ってたに違いない」
「ブスが美人って言ってるって超笑ってたに違いない」
 
「私だけ知らなかった」
「私だけ知らなかった」
 
恥ずかしい
恥ずかしい
恥ずかしい
 
 そこには泣きじゃくるスケバン詩子がいた。貼り付けにされた十字架は崩れ、蔦は四方八方に飛び、地面に突っ伏していままで出せなかった心の澱を吐き出す一人の女性がいた。
 
「いっぱい出せたわね」
「こんな自分見たくなかったです」
「そこがスタートだから。美人はイタイ思い込みからはじまるのよ」
 御神は微笑んで小首をかしげる。
「不細工なのに、モテてる女の人と、美人なのに男性に雑に扱われてる女の人いるでしょう」
「はい」
「男の人はね、自分をかわいいと思っている女の人を見分けるの。女性から見てどんなに美人に見えようと、本人が自分のことを美人と思っていなければ男性にとってはブスに見えるの」
 真守は意見を求められたくなくて気配を消した。
「そしてね、ここが一番怖いことなんだけど、自分のことを美人と思えないと、自分のことを美人と思ってくれる男性がキモくみえるの」
「あ、それ分かります」
「自分を不細工に見てくれる人しか信じられなくなって、そういう人ばっかり好きになったりね。
 ちょっとの配置の歪みとか、シワとか、シミとかそのままで、美人っていうことにしておくの。
 はい、続けて言って。
 今のままで美人ってことにしておくかあ。もともとそう思ってたし」
「今のままで美人ってことにしておくかあ。もともとそう思ってたし」
 スケバン詩子はまた泣き出した。
 今度は、さっきのような闇を吐き出すような悲痛なものではなく、温かい春の霧雨のような泣き方だった。
「見てください」
 佐保がブリキの手で空を指差す。
 地面のミイラが、粉々になって、天に還っていく。細かい星のようにキラキラと輝きながら吸い込まれていく。
「役目を終えたのね」
 御神のつぶやくような声が、静かな空間に広がっていった。
 
 
続き
9 悩みが終わると起きること 
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