トラウマは、親子関係から取り組むのではなく、感情に向き合うことが先になります。
これを間違えると、楽になってもその後の人生がおかしくなります。
ぜひ読んで確かめてください。
御神が月1で開催しているトラウマ講座に参加することにした。
動画に貼り付けられたURLには、様々な活動の様子を示したHPとイベントが記載されており、トラウマ講座はマンションを利用したレンタルオフィスの一室で行われているようだった。
これしかない。
ここしかない。
ネットの申し込みページで詳細を入力しながら、決意で体に力が入る。
緊張で手汗が出た。
久々の都心は活気に満ちている。
大通りから横道に逸れ、静かな住宅街の中に静かに佇む贅沢さを感じさせるマンションへと入る。
指定された番号を押し、案内のあった通りに進む。
窓の装飾や設計による効果もあるだろうがマンション全体が気品に満ちて見たことのない雰囲気が漂っている。
指定された一室にたどり着き、靴を脱ぎ、おとなしそうな男性に受付をしてもらった後、10畳ほどの部屋に入った。
女性ばかり十数人が集まってパイプ椅子に着席している。
詩子はギリギリに来たため、すぐに講座が開始した。
(動画より美人なんだけど)
隣の部屋から出てきた御神は、美しさを際立たせるように不思議な雰囲気をまとっていた。
「今日はありがとうございます。
皆様は、トラウマについていろいろ思うところがあって来ていただいたことと思います。
では、ここでトラウマとは何かを感じてもらうため実験ワークをしてみましょう。
ペアになってください」
隣の人とペアになり、向かい合う。そして、「悲しい」と言い合うことを指示された。
「悲しい」と詩子が言い、その後に「悲しい」とペアになった相手が言う。
悲しい、悲しい、カナシイ、かなしい
「目を見て」と御神の声が飛んできた。
「循環が大事です。恐れずに目を見て出して、相手から受け取って」
「悲しい」を拒否していた心にその声で隙ができた。するりと入って、見たくないヘドロを呼び起こす。
気づいたら泣いていた。
「ストップ」
肩に手を感じた。見上げると御神がいた。
「何か思い浮かぶものはありますか?」
「私が苦しいってことを友達に相談したら、笑われました」
「では」御神は、詩子に「苦しい」、相手に「そっか」と言うように指示した。
「苦しい」「そっか」
「苦しかった」「そっか」
「そっか」と言う目はやさしい。
分かってほしいと欲が出た。
もっと訴えたかった。
さらけ出したかった。
「私が悪いの?苦しみ続ける私が悪いの?」
心の奥から溢れるように言葉が口から出ていた。
友達も、精神科医も、カウンセラーも、自分の考えばかり押し付けてきて、真の解決方を教えずに詩子が悪いことにしてきた。
「これで解決できないおまえが悪い」
「これで解決できないおまえが弱い」
「これで解決できないおまえが間違ってる」
と言われている気がした。
でも、どうしても乗り越えられなかった。
詩子は、自分がなぜそんな言葉を思わず言ってしまい、なぜ泣いているのかを御神に説明した。言葉は前後し、自分でも何を言っているのか分からなくなる。
御神は、何かを見通すように詩子を見ると、ペアの相手を精神科医だとイメージするように指示してきた。
「私が言うことを復唱してね」
ペアである上品なやさしそうな女性にあのひょろひょろを被せる。
後ろから御神の声がする。
「あなたのやり方合わないんですけどー」
「言えません」
「大丈夫。これは遊びだから。本人じゃないから」
ここにいないとはいえ、精神科医としてちゃんと学んだ人に恐れ多いことを言っていいのだろうか。脳が拒否していることが分かる。見たことない世界がこじ開けられる。脳が歪む。
息が荒くなって、めまいがした。
言うだけ。
言葉にするだけ。
「あああああなたの…やり方…」そこまで言うと急に力が湧いてきた。
「合わないんですけどー」
思った以上に嫌味な口調になった。
そんな嫌味な口調なんて使う自分を出したら怒られる。
大人なのに、子供みたいな口調をしたら、みんなに嫌がられる。
恐怖が体を貫く。
「上手!その調子!」
御神の声がかき混ぜられた脳の中に響いてくる。
喜ばれている。
褒められている。
私が最も見られたくない部分を御神は両手を上げて喜んでくれている。
違和感が体に広がり、詩子を新しい生き物にする。
「今日はここまでにしておきましょう。休憩です」
開始から30分ほどしか経っていなかった。
あんなに濃くてねっとりした時間を詩子は知らない。
10分ほどの休憩の後、機能しない頭としびれた体で御神の声を聞き続けた。
「今吐き出して頂いた気持ちがトラウマです。
苦しい気持ちに向き合うこと
自分の悔しさに向き合うことが大事です。
ネガティブを上手に吐き出すことが大事なのです。
これを飲み込むとトラウマになります。
誰に何をされたことを思い出すことより、何を我慢したのか。何を自分に隠したのかを自分に問いかけること。
そして、どんな自分でも『そっか』と言ってあげることが大事です。
『そっか』と言ってあげると心が喜んで過去に隠した気持ちがいっぱい出てきます」
御神は、いたずらっこのように詩子を見る。
「そっかって言ったらいっぱいでてきたでしょ」
「はい!」
詩子は、あの「もっともっと」と心が急かす感覚を思い出す。もっともっと出てきそうな気配がした。
それほど、詩子の心は吐き出すことに飢えているのだ、と感じた。
御神は、ホワイトボードを使いながら、
1 問題が起こる。
2 気持ちを確かめる。
3 出てくるすべてにそっかと言い続けて外に出す。
この流れが重要なのだと熱く説明すると他の参加者が手を上げた。
「トラウマを親原因で考えるとだめっていう動画を見たんですが、よく分からないので教えてください」
御神は、にこりと笑うと、ちょっとだけカウンセリングをはじめると宣言した。
「今日はなんて呼ばれたいですか?」
「聡子でお願いします」
「聡子さん今どんなことに一番困っていますか?」
「職場ですっごく嫌な人がいて、その人がなぜ嫌なのかって考えたら、お母さんに似てるからなのかなって思うんです。
でも、親原因で考えちゃだめってなるとどう考えたらいいのかなって」
「では、次の言葉を私に続けて言ってください」
「私、超嫌な奴なんです」
「私、超嫌な奴なんです」
「あの人のこと。本当は、ただ嫌いなだけなんです。
でも、理由なく嫌いだとひどいやつになっちゃうから、お母さんに似てるってことにしておきたいんです」
「え、嘘」
聡子は、50代ぐらいの地味で痩せ型の女性だったが、みるみる顔が赤くなった。
「えっとなんでしたっけ?」
御神はゆっくりと復唱した。
聡子は、呆然としながら御神のあとに言葉を続けていく。
「嘘はついてないよ。
ちょっとはお母さんに似てるかも。
でも、本当は、生理的に嫌い」
「嘘はついてないよ。
ちょっとはお母さんに似てるかも。
でも、本当は、生理的に嫌い」
「あー嫌い大嫌い」
「あー嫌い大嫌い」
「どうですか?」
「そのとおりです。え?嘘。本当に。私ひどいやつじゃないですか」
「それを見たくなかったんですね」
と御神は女神の微笑みを浮かべた。説明を続ける。
「お母さんに似てるか似てないか、最終的にお母さんが原因だとしても関係ないんです。
嫌いな人を好きになろうとしたり、自分の嫌いという感情に理屈をつけることが問題なんです。
毎日毎日親子関係に振り回されている人ならともかく、パートナーの問題や職場の人間関係を親原因で解決すると早くて大きく変わることができますが、自分をごまかす癖や、常にお母さんのことを考えてしまう癖がつくんです」
御神はホワイトボートに文字を書き始めた。
「脳を検索バーに例えてみましょう。何か悩みがある度に人は脳に検索をかけます。親原因で解決すると検索バーはこうなります」
ホワイトボートには、「お母さん 過去 今困っていること」と書かれていた。
「この検索方法だと、お母さんにどんな教育を受け、どんなふうに愛情を注がれたかということが優先され、他のことは下の方に表示されるので採用されることがありません。
親子関係で楽になりたくて悩みを解決したのに、そのあともずっとお母さんを追い続けます。お母さんを完璧に肯定することを人生で追い求めてしまうのです」
親子関係がうまくいっている詩子は何気なく聞いていたが、受講している数人が息を飲み、誰かが「こわい」とつぶやいた。
「では、感情から解決するとどうでしょう」
御神はさっきの言葉の下に新しい言葉を書いた。
「今困っていること 自分は今何を感じているか 自分は今何を感じたくないのか」
「この検索ワードの癖をつけることが大事なのです。自分をごまかすことが癖になっていると最初は何も出てこなかったり、見当外れなことが出てきたりするでしょう。
けれど、自分の感情も見えないのに自分の人生を歩むことなんて絶対にできません。自分が見たくないものを表に出せるようになり、そっかと受け止めることができるようになると驚くほど人生が楽になります」
詩子は、また泣いていた。
御神が気づく。「どうしました?」
「私、さっきもちょっと言ったんですけど、中学生のときの担任にされたことが原因で辛いのに、お母さんとの関係を変えましょうって言われたことがあって」
ふふ、と微笑んで御神は首をかしげた。
「本当に重要なことって、何度も試されて覚悟を問われるんです。
自分が世界を信じていなければいないほど、過酷な試練になります。
やっとたどりつけましたね」
詩子は、ボロ雑巾のように泣いた。
「世の中には、正しい解決方法なんてなくて、自分と相性がいいか悪いかしかありません。
先程は悪いように言いましたが、お母さんを肯定することに人生をかけたって別にいいんです。それが我慢できない方は私の方法を選べばいい。
詩子さんは、合わない方法ばっかりまわってしまったんですね」
詩子の中に精神科医やカウンセラーの顔が思い浮かんだ。さっきのワークみたいに、「合わない」って言えばもう少し違う道があったのかもしれない。けれど「合わない」と伝えるという発想が生まれなかった。
そこを一番最初に見抜いてくれた御神は、自分に本当に合っているのだ、と思い知らされた。
それから続いた講義内容は全部飛んでしまった。
最後に御神から案内があった。
「皆様。この講座は一度ではあまり効果がないし、いろいろびっくりすることが多くて頭に残ったことも少ないと思うんです。
長期講座でじっくり自分と向き合いませんか?」
詩子は喜んでサインした。
この人となら、担任にされたことに向き合える。
やっとたどり着いた救いの場所。
続き
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