スケバン刑事は、漫画もドラマも衝撃でした。
ミミズハンバーグはトラウマです。
佐保がブリキの足でしゃがんで手に持った棒の先端で閉じた虎バサミをつついている。1度閉じた虎バサミは開こうとしないようだった。
御神はその様子を見て「道ができてるじゃない」と笑顔になった。真守が飛ばされた跡が、外側から中心に向かう一直線の道となっていたのだ。御神は意気揚々と中心へと歩いて行く。
「真守さっさと起きて!」
御神の雷に条件反射で立ち上がる。
いつの間にこんなに奴隷気質を叩き込まれたのか…御神の元で「女性に逆らえない因縁」を薄くする予定なのに、どんどんひどくなっていく気がする。真守は、まだ体が震えていることを見つかりたくなくて全身に力を入れた。
「こんにちは。詩子さん」
中央にたどり着いた御神が、スケバン詩子に語りかけはじめる。そのやりとりの後ろで、真守は佐保に剣を渡された。
ファンタジーで剣士である主人公が持つような両刃の剣である。あまりのかっこよさに思わずニヤつきながらブンブンと振り回す。
重たいが振り回せないほどでもない。この装置に入るようになってから一番の喜びが真守を貫いた。こんな役得でもなければ報われない。
ブリキのロボットは、真守を見上げる。
「真守様。剣で切ってくださいね」
何を?聞くまでもなかった。
「近寄るなって言ってるだろ!」
というスケバン詩子の叫び声と共に、円の外側から緑色の蔓が伸びてくる。
あまりにびっくりして、雄叫びと共に蔓を叩き落とした。
かっこよく技名を叫びながら剣を振りかざしたかったのに、現実はハエたたきを持って自分に向かって飛んでくるゴキブリを恐怖に戦慄しながら脊髄反射で叩き落としているときに近い。
真守は、落ちた蔓が動かないかどうか足先でつついて確認する。
どうやら、蔓は、一番外側のトラバサミから伸びてきているようだった。遠くて生えている正確な場所は見えない。蔓は、数は少ないものの小さい葉っぱもついたれっきとした植物だった。さっき真守が引っ張られたのもこの蔓に違いない。
「もう終わりにしましょう」
真守の攻防など無関係に御神がやさしくスケバン詩子に語りかける。
「変わりたいんでしょう。
私に続いて同じ言葉を言ってみて
変わりたい。
もう終わりにしたい。
でも、怖い」
その言葉で、スケバン詩子の威力が落ちた。
「変わりたい。
もう終わりにしたい。
でも、怖い。
そう、怖いよ。何がこわいかもよく分かんないけど、ここにいるほうがマシとしか思えない…」
「怖いから、理解してくれない人ばっかり選んで相談してきたんです」
「怖い…から…理解してくれない人ばっかり選んで…相談して…きた…んです…そんな…こと…あるかも…」
スケバン詩子は宙を見つめる。
「もう逃避はやりつくした。
いいかげん変わるかー。
こわいけど」
「もう逃避はやりつくした。
いいかげん変わるかー。
こわいけど」
スケバン詩子は、口を引き結んで数滴の涙を流した。
「覚悟は決まった?ここから本番よ!
次の言葉を続けて!
力田ムカつく!」
「…先生をそんな風に言うのひどくない?」
真守は、スケバンがそんな殊勝なこと言うなよと心の中でつっこんだ。強がった勢いがなくなると現実の詩子と近くなっていく。
少しの間沈黙が降りた。御神を背にして、蔦に備える真守には声しか聞こえなかったが、御神は少しの間思考を巡らせているようだった。
「じゃあ、言葉を変えましょう。
先生を悪く言うなんてゆるされない」
「先生を悪く言うなんてゆるされない」
スケバン詩子の声には、納得するように力が入っていた。蔦を警戒して外側に目を向けている真守が一瞬だけ振り返ってみると、スケバン詩子は、うんうんとうなずいていた。
「先生を悪く言う自分はありえない」
「先生を悪く言う自分はありえない」
「先生を悪く言うと世間が許さない」
「先生を悪く言うと世間が許さない」
「でも、まてよ。
世間って誰だろう?」
「でも、まてよ。
世間って誰だろう?」
「ずっとこわがってた世間って誰だろう?」
「ずっとこわがってた世間って誰だろう?」
「ネットかな?私が馬鹿な発言するとすぐネットで有名になっちゃう」
「ネットかな?私が馬鹿な発言するとすぐネットで有名になっちゃう」
「あれ?私そんなにネットで注目されてたっけ?」
「あれ?私そんなにネットで注目されてたっけ?」
「どうしよう。ゆるしてくれない人なんて誰もいない」
「どうしよう。ゆるしてくれない人なんて誰もいない」
「そんなはずないけど、絶対ゆるしてくれない誰かがいるはずだけど、今日だけ誰もいないってことにしておこう」
「そんなはずないけど、絶対ゆるしてくれない誰かがいるはずだけど、今日だけ誰もいないってことにしておこう」
「誰もいないなら、ちょっとぐらい先生のことを悪く言ってもいっかぁ」
「誰もいないなら、ちょっとぐらい先生のことを悪く言ってもいっかぁ」
「どーせ、ここに力田先生いないし。
誰も傷つかないし」
「どーせ、ここに力田先生いないし。
誰も傷つかないし」
「力田先生ムカつく」
「力田先生ムカつく」
「言えたわね。今、どんな気持ち?」
矢継ぎ早に続ける御神を追いかけるように勢いで全部言い切ったスケバン詩子は沈黙している。沈黙というより動作停止状態に近い。
蔦を警戒しながら、こっそり見守っていた真守は、どんどん無表情になっていくスケバン詩子の表情を追いかける。
今、まさに、心のブロックが落ちようとしていた。焦点の合わない目で、詩子の心は猛烈に配列を作り変えている。真守はこの瞬間が好きだ。人が変わる瞬間。
「頭がぼーっとします」
スケバン詩子がポツリと言った。
真守は、何も飛んでこないことに疑問を覚えた。ここは現実世界ではない。心の世界であれだけの表情をさせたならたいてい情景は変化する。
「では続けましょう。
力田は言いにくいでしょうから、力田先生で行きます。
否定してくんな。ばーか」
「否定してくんな。ばーか」
「私を大事にしないあんたなんて大ッキライ!」
「私を大事にしないあんたなんて大ッキライ!」
だんだんスケバン詩子は調子に乗ってきた。声に力が入り、御神によって恨みつらみが吐き出されていく。
「真守様」
佐保が遠くに何かを見つけた。
真守が目を凝らすとか一番外側の虎バサミの下が動いて塊がゆっくりと這い出てきている。その姿は、真守の顔を情けなく歪ませたーゾンビだ。
虎バサミの下から、腐敗した男性の身体に蔦の腕を持ったゾンビが数体出てきた。蔦は、うにょうにょと宙を舞っている。
ーもしかしてあれと戦うの?武道やったことない俺が?
脳が体に眠る戦闘力を検索する。俺も知らない秘められた能力なんてなく、授業でやった剣道しか出てこない。あとは引きこもりの間散々やったゲームの経験値しかない。ゲームでではボタンを押すだけだ。せめて銃でないとゲームでの経験は役に立たない。
唯一の救いはゾンビの歩みが遅いことだった。剣を構えて格好だけの威嚇をする。
真守は「絶対ここから出たら、武道を何か学ぼう」と決心した。
その前にー明日を迎えられるのか?
何でもアリの世界は予想をはるか超えて様々なものを真守に要求してくる。今日でこの世界の中で精神的な死を迎えるかもしれない。数秒の間に極限まで追い詰められてひらめいた。
「佐保さん。銃出して。剣じゃ無理」
「銃の設定は用意がございません。準備しますので、しばしお待ちください」
真守の体を絶望が貫いた。人間は本当に絶望すると天と地が揺れてめまいがすることをそのときはじめて知った。
…死ぬかも。
続き
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あなたのブロックを破壊する言葉紡ぎます
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