作中より
「こわいのね。そのこわさと向き合いましょう。
こわい。こわい。こわい。調子に乗ることがこわい。こわいよう。さあ、言って」
「こわい。どうして?なんで?私だけこんなにこわいの?みんなこわくないの?」
「理由は探さない!なんでをつけない!こわいから逃げるな!過去の経験や理屈をつけて安心しようとするな!ただこわいだけ!感じなさい!」
「見たくない。見たくないんです!」
ゾンビは何かをつぶやきながらゆっくりと歩いてくる。
少しずつ数が増えて今や還状に十体近くがこちらに向かってきている。
腐っていてよくわからないが、全てのゾンビが白いワイシャツにスーツのズボンを履いている男性なところを見ると「力田先生」なのかもしれない。
銃の設定ができるまで使えと佐保に渡された体の半分を覆うほどの大きな盾を構える。木製だからか大きさの割に軽い。かっこいいのに、堪能したいのに、何をどう戦っていいのかわからなくて心の余裕がない。
そのとき、全てのゾンビの動きが止まった。同じように口が開く。そこから出てきたのはさきほどまでのつぶやいていた男の声ではなかった。若い女性の声だった。
「調子乗ってんじゃねーよ」
それを聞いてずっと恨みを吐いていたスケバン詩子は言葉を止めた。
「やっぱ無理!
先生を悪く言うなんてできない。
ゆるされない!」
パニックになったスケバン詩子の声に合わせて蔦が伸びてくる。
盾で弾きながら1本は切って落としたが、間に合わずに真守の足に巻き付き、さらに別の一本が御神の腰に巻き付く。
「真守!仕事しろ!」
蔦より怖い御神の鶴の声に慌てて自分の蔦を切り、御神に繋がっている蔦をなぎ払う。
歯をくいしばって目を凝らす。タイミングだ。蔦が飛んできたら、盾を垂直に当ててスピードを殺して切っていけばいいのだ。
スケバン詩子へ御神の声が続く。
「こわいのね。そのこわさと向き合いましょう。
こわい。こわい。こわい。調子に乗ることがこわい。こわいよう。さあ、言って」
「こわい。どうして?なんで?私だけこんなにこわいの?みんなこわくないの?」
「理由は探さない!なんでをつけない!こわいから逃げるな!過去の経験や理屈をつけて安心しようとするな!ただこわいだけ!感じなさい!」
「見たくない。見たくないんです!」
周囲から、光が地面を走ってきて、全体を包む。
息を飲んだ瞬間。真守は目を見開いた。
そこは、装置の中だった。詩子の心から、弾き飛ばされたのだ。
カプセルの透明な蓋が開く。
真守は、誰かが激しく咳き込む音を聞きながらゆっくり体を起こした。装置に入ったあとは現実の感覚に戻るまで体の動きが遅くなる。
まわりを見回すとすべてのカプセルは開き、中央の詩子が激しく咳き込んでいた。
「真守」
弱々しい御神の声がする。
「背中を…さすってあげて」
水泳の後のような泥のように重い体をひきずるように詩子の近くへいく。
詩子は横向きになって咳き込みながら泣いていた。
「できなくてごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」
真守は背中をさすり続けた。
はじめてはじき飛ばされた。強制停止は思った以上に体を疲れさせていた。
詩子を別室のベッドに寝かせて、御神のところへ戻る。
まだ起きることができず、カプセルの中でぐったりと横になって少し乱れた様子の御神は、ちょっと色っぽく見えて真守をときめかせる。ときめきにより重たい体に力がわきあがって少し動きやすくなった。
「御神さん、動けますか?」
「手伝って」
御神をひっぱり起こすといい香りが鼻をくすぐり、肩を貸したときにはじめて触った肉体の弾力に一瞬気をとられる。なんとか椅子に座らせる。
「今日はもう無理ね。
しばらくおいてからやりましょう。
その方が詩子さんのためにもいいし」
「はじめての失敗ですね」
「ハァ?失敗じゃないわよ。
あれだけの恐怖いっぺんにやったら壊れちゃう」
そういうもんなのかと真守は納得した。
結局詩子を1時間ほど寝かせたあと、次回の予約をとって帰宅してもらうことになった。
「すみません」
詩子は小さく小さくなっていた。スケバン詩子を見たあとでは余計に弱々しく見えた。そんな詩子に、御神は笑いかける。
「今日がんばったわね。勇気いっぱい出して疲れたでしょう。ちゃんと帰って寝るのよ。帰るまでが遠足ですからね」
「がんばれてません。逃げました」
「あれだけできたら上出来よ。
それだけ大きなものを抱えてたってことよ。いままで辛かったでしょう」
詩子は声を上げて泣きはじめた。
「恐怖は次回一緒に向き合うから、逃げていいわよ。ただ、恐怖を否定しないで。ごめんね。あとで向き合うからねって自分に言って全速力で気持ちから逃げてください」
「逃げるんですか?」
「あんな大きなもの一人で向き合えるの?」
「無理です」
「じゃ、逃げて」
詩子は、呆けた顔をした。
「否定すれば大きくなるの。逃げてもいいから存在していることを認めてあげることが大事だから」
詩子は分かったような分かんないような顔をして帰宅した。
「もう無理!1回寝る!真守は帰っていいわよ!」
御神は、さっきまで詩子が寝ていた部屋に籠ってしまった。
「あとは佐保さんに任せるから」
部屋ごしに聞こえた声に「そういえば」とサポート部屋のドアを見つめる。姿を見せてくれないので忘れがちだか、佐保はAIではなく人間である。
御神が任せるということは女性なのだろうか?
御神の姿が見えなくなり、ときめきドーピングが切れた体は急激に重くなっていく。完全に動けなくなる前に帰宅しないとどっかで倒れてしまいそうだった。
続き
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あなたのブロックを破壊する言葉紡ぎます
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