*本文*
なんで何にも出てこないんだろう。
森田拳次はファミレスのテーブルに広げた小さなノートと対峙する。
コンビニで買ってきたばかりのノートは、ペンを入れることを拒否して白く輝いている。
その白さは、森田に何もできることがないことを証明していた。
森田は、サラリーマンとして30代も中盤になり「このままで終わりたくない」という塊を抱えながら悶々としていた。
そう、それは塊だった。
「このままで終わりたくない。けれどどうしていいか分からない」という想いは、冷たく固く常に自分の中心に居座っていた。
SNSに次々と現れる同世代の成功者に焦りを感じながら、毎日起業系の動画を見て、何かを得たような気持ちになって自分を誤魔化す。
やっかみばかりの日常から抜け出そうと、勇気を出し、単発の起業セミナーにもいくつか参加してみた。
そこでは、自分よりも数歩進んだ人達で溢れていて、ひどくミジメな気持ちになるだけだった。
そんな中、鉄砲塚葉と知り合った。
起業セミナーの中で行われるワークで意気投合し、そのあとの懇親会で連絡先を交換したのだ。
鉄砲塚は、森田と同じようにサラリーマンをしながらやりたいことを探していた。
立場や価値観が似ていて、話していて楽しい。仲間ができたようでうれしかった。
よさそうな起業セミナーの開催情報をやりとりして、月に1度お酒を飲む。
そんなことを半年続けていた鉄砲塚から目を疑いたくなる連絡が来た。
「趣味をベースにオンラインサロンを作りました」
森田の体は硬直した。
他の言葉は目に入ってこなかった。
鉄砲塚に負けるなんて思っていなかった。
いつもニコニコして、気が弱そうでおよそ商売に向いているように見えず、何かを成し遂げるような人間には見えない鉄砲塚が、自分の前を行くなんて許されない。
仕事を上の空で片付けると、コンビニでノートを買った。
まずは、自分ができることを書き出し、自分のビジネスとして発展できそうなものを確認しようとしたのだ。
「アイデアを出すには書き出すことがいい。デジタル化はそのあと」と過去動画で紹介されていた。
今までに得た知識を今、実行するときがきた。
そして目の前に広がる白いノートがその答えだった。
なんで、俺には何もないんだろう?
森田は、ノートを閉じて携帯で動画を開いた。
今の自分を救ってくれそうな内容が見当たらなかったので、いろいろな言葉で検索してみた。
すると、動画越しに自分を射抜かれたような目を感じて手を止めた。
美人が、こっちを見ている。
動画を再生する。
透き通る声が言葉を紡いでいる。
……「なんで」という言葉は、最も自分をイジメる言葉です……
声も顔もスタイルもよかったが、森田のタイプではなかった。
森田は、美人系よりもっとやさしい可愛らしい子の方が好きだった。
けれど、やっぱり美しいものは見ていたくなる。
何を言っているのか半分ぐらい分からなかったが、なんとなく個人講座に申し込んでいた。
サービスの説明には、バーチャルリアリティを使った心理カウンセリングについても触れていた。
遊園地のアトラクションや、新たなアーケードゲームとして注目されているバーチャルリアリティをカウンセリングに取り入れているという内容は近未来的に見えた。
申し込みのために中断していた動画の続きを再び開く。
…一人では乗り越えられない壁があります。
今のあなたに見えない未知なる道を見つけるために、自分のために行動してあげてください…
女神にも見え、女王にも見えるその人は「御神玲香」と名乗っていた。
路地の奥にあるレトロで豪華な西洋風のマンションの一室に御神玲香は事務所を構えていた。
若い男性が出迎えて受付を行い、小部屋に通される。
受付の男は、家永真守と名乗った。
今日のサポートをしてくれるらしい。
一人がけソファ3脚と窓しかないシンプルな部屋に、家永の仕切りで御神玲香が現れた。
「今日は、30分ほどこの家永がお話を聞いてからセッションを開始させていただきます。
よろしくお願いしますね」
と説明して消えた。
森田は正直ホッとした。
この部屋に入ってはじめて、自分の情けない姿を美人に晒すのかと気づいてビビっていたのだ。
家永は、自分より若く、大人しそうで自分の弱い姿も言いやすい相手に見えた。
「自分のやりたいことが分からないんですね」
家永の誘導で話はじめると、言葉が止まらなくなった。
家永のキャラが森田の口を軽くした。
家永という人間は酔ったときについ説教したくなる相手と言えばいいのか。
今まで、誰かに言う必要さえ感じなかった苦しみをどんどん語っていた。
「では、御神に代わります」
と言われたときには、ずいぶんスッキリしていてそのまま帰りたくなったほど語っていた。
もっと話したかった。
交代前の10分ほどの休憩のあと、御神玲香が入って軽く挨拶するとセッションがはじまった。
家永と向かい合って立つように指示される。
「これから簡単なワークを行います」
ワークとは、相手の肩をポンと押しながら、「オレスゲェし」と交互に言うというものだった。
やってみると、ひどい不快感が湧いてきた。
スゲェと言うことも言われることも嫌だった。
肩を上からではなく、押し出すように叩いてくださいと訂正されると余計にやりにくかった。
喧嘩をふっかけているように見えるから嫌だった。
加減が分からない。
家永を怒らせない倒さない程度で、喧嘩に見えないぐらいの力で押す加減が分からない。
家永に、偉そうにされるのも嫌だ。
森田より若くて弱いくせに、森田に自慢してくるように見えた。
御神の目が、まっすぐに射るように刺さる。
動画を見つけたときのあの目だ。
「もっと偉そうに」
「もっと足を踏ん張って」
御神の声が響き、冷たい目が森田を挑発する。
今のそれがあなたなの?
その目に耐えれずに、魂が叫び主張をはじめた。
オレは、もっとできる人間だ!
これはオレじゃない。
魂に呼応して、自分の声が変わった。
めったに出ない低くて力強い声に森田自身がびっくりする。
「ストップ」
御神が止めた。
体が変だ。見たくない、見てはいけない自分がいる。
「今の状態を体に刻んでください。
胸に手を当てて、ワタシの声に続いてください」
オレ、すごくていいんだぁ
オレ…すごくていいんだ
足が少し震えていることを必死で隠した。
このすごいオレのまま生活していいんだぁ
このすごいオレのまま生活していいんだ
このすごいオレだとみんな幸せ
このすごいオレだとみんな幸せ
すごいオレをみんな待ってる
すごいオレをみんな待ってる
「座って、胸に手を当てて今の自分を体に刻んでください」
それはとても不思議な感覚だった。
魂が一致していく感覚。
いままでの自分が必死で封じていたものが目の前にあって、自分と同化していく。
みんなのために封じていたのに、みんなは望んでいなかった。
思考回路がふっとんだ体の中からそんな言葉が浮かんできた。
わけも分からず涙が出た。
家永がティッシュを出してくれた。
声を出すこともできず、まわりに誤魔化すこともできず、涙だけが流れ続けていた。
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