偉大なる復活を目の当たりにする。その場に居合わせたものは観客のみならず、出演者、スタッフまでもが歓喜に打ち震えた。昨日、6月14日(水)に東京・渋谷「duo MUSIC EXCHANGE」で開催された『夕刊フジ・ロック5th Anniversary“Thanks"』。開演時間、18時30分きっかりに始まった“夕刊フジ・ロック”、玲里&難波弘之の親子GS(ゴールデンカップスの「愛する君に」をカバー)やMCを含め、アルフィーを彷彿させるハードで愉快なACTION TYPE-00 SAN SUI KAN MODE、ギターインストの奥深さを探求する山本恭司、ジェフ・ベックやエリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックスの名曲を嬉しそうにカバーする芳野藤丸など……どれも素晴らしく、楽しめるものだったが、この日ばかりは21時10分から23時まで繰り広げられた偉大なる復活劇を紹介しなければならないだろう。頭脳警察ばかりになること、お許しいただきたい。
PANTAは入院で中断したが、ニューアルバムのためにレコーディングしたという新曲「東京オオカミ」を歌い出す。叫び声や吠え声が曲を盛り上げていく。これが緊急入院以前も度々、体調不良で活動を休止していたものとは思えない、命と魂の躍動を感じさせるナンバーだ。新作の手応えは充分だ。そしてPANTAは2020年に公開された頭脳警察の映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』のエンディングにも流れた「絶景かな」を披露する。同曲はPANTAの「What a Wonderful World(この素晴らしき世界)」とでも言うべきナンバーである。驚くことにオリジナルの時点からさらに進歩した歌唱を聞かせる。鈴木慶一も声が出ていたのは前からだった。もっといい声になっている”言っていたが、まさにその通りではないだろうか。病を経て、健康的な節制生活がその声を彼に与えたかわからないが、それは時には激しく、時には優しく、PANTAの歌を輝かせる頭脳警察の演奏があってのことだろう。彼らの演奏は、支えるべき歌声と再度、ともにライブをできる喜びに溢れている。
同曲を歌い終えると、PANTAの盟友、ミッキー吉野を呼び出す。ちなみに55年前の1968年6月14日にゴールデン・カップスのメンバーとしてライブデビューしている。今日が記念日である。彼がハモンドオルガンに座り、ミッキーは「青い影」を歌い出す。クラシックな佇まいを纏う説明不要のプロコル・ハルムの名曲である。同曲を歌言えると、夕刊フジの長期連載「JAPANESE ROCK ANATOMY解剖学」でも掲載できないニューロック周りの危険な話をしつつ、これまた、誰も知る名曲「スタンド・バイ・ミー」を披露する。まるでGSからニューロックへという時代の雰囲気を醸す。
そんな彼らが長野県内で”Sunny”という名でライブ企画を行っているサニーレコードが5月27日(土)に長野県上田市の信州国際音楽村 「パノラマステージ ひびき」で開催する350人限定の音楽祭『Sunny”音楽の村”』に出演する。Os Ossos、そして同じく長野に縁あるAnalogfish、さらにDYGL、Ewoks、Small Circle of Friendsという、5バンドが同所に集まる。これは行くしかないだろう。彼らの生まれ、育った場所、そしてそこで演奏するOs Ossosを見たかったからだ。同音楽祭を主催したサニーレコードの代表、中山歩は彼らと同郷で、Sentimental boysの頃から気にかけ、相談に乗ったり、ライブを開催したりしているという。今回の音楽祭もOs Ossosが長野にいたからこそ、始まったのものではないだろうか。
改めてSentimental boysからOs Ossosへの改名の経由を書いておく。小さなきっかけかもしれないが、彼らを好きになるモチベーションになるかもしれない。実は“Os Ossos”はマルコス・ヴァーリの「Os Ossos Do Barão」という曲名から取られている。ヴァーリは“ムージカ・ポプラール・ブラズィレイラ”(ブラジルの音楽形式の1つで、「ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック」のこと)の代表的なアーティストとして知られる。おとぎ話(2018年11月9日(金)東京・下北沢「ベースメントバー」で「2nd Full Album『Festival』Release Tour」の最終日、東京公演にゲスト出演しているのを見ている)のヴォーカルの有馬和樹に薦められ、聞くようにるようになったそうだ。音楽もそうだが、何か、生き物(いもむし?)に見える字面も気に入り、命名したそうだ。
Analogfishの後に登場したのはムトウ サツキ(武藤 サツキ)とアズマ リキ(東 里起)の二人組のヒップホップユニット、Small Circle of Friends(スモール・サークル・オブ・フレンズ)。1991年に福岡で武藤と東を中心にイベントを開催し、その翌92年、本格的な活動のため、同ユニットを結成している。その名前は知っていた(勿論、ロジャー・ニコルスとは別であることは知っている)。クラムボンもカバーした「波よせて」でお馴染みだ(ということは後で知った)。この日、会場に早く着きすぎ、セッティングの模様から見ることになったが、PA卓のところへ小型のトランクケース(実際は同サイズの黒いバッグ)が届いた。それは彼らが会場に送りつけたもので、中にはライブに使用する器材らしい。まさにバッグ一つでライブという身軽さである。そんなミニマルさが歌や音からも伝わる。二人から放たれる歌やラップが自然の中に解けてゆき、木霊していく。それでいて、その歌詞がすんなりと心の奥底に沁み込む。たまらなく自由で奔放ながらその言葉はずしりと重たい。
実は彼らの演奏を聞いていて、ノーナ・リーヴスの西寺郷太が書いた自伝的小説『90's ナインティーズ』(文藝春秋)を思い出していた。90年代の下北沢を舞台に虚実入り混じるバンドの成長と挫折、出会いと別れ、夢と現実を綴ったものだが、Ewoksそのものは世代も年代も違うが、何故か、同書にある自由な空気感がプレイバックされる。清々しさみたいなものも感じる。実はこの日、彼らは東京から長野へ来て、“SUNNNY音楽の村”出演後、そのまま東京へ戻り、その夜、下北沢「mona records」で開催されたイベント" New Buddy”に出演している。長野から東京への運転手をSNSで急募するなど、過密なスケジュールが信じられないが、何か、こんなことも若さゆえのことかもしれないが、とても微笑ましくなるといもの。何か、和めるバンドで、レイドバックした会場に見事なまでに嵌る。
イヲークのあとはDYGL(デイグロー)が登場する、メンバーは秋山信樹(Vo、G)、下中洋介(G)、加地洋太朗(B)、嘉本康平(Dr)の4人組。2012年、明治学院大学在学時に結成されている。秋山、加地、嘉本は同時並行して活動していたYkiki Beatのメンバーでもある。2016年、DYGLとして初のEP『Don't Know Where It Is』をリリース。2017年に渡米しザ・ストロークスのアルバート・ハモンドJr.のプロデュースでアルバム『Say Goodbye to Memory Den』を発表、同年にはアジアツアー、「フジロック」に出演、2018年にはアメリカテキサス州で開催される「SXSW 2018」に出演と――いきなりワールドワイドの活躍ぶりだ。その後も海外のプロデューサーとのコラのレーション、ワールドツアー、全世界配信、FRANZ FERDINANDのジャパンツアーのサポートアクトへの抜擢……など、その活動は輝かしいばかりだ。彼らを見るために県外から駆け付けた方も少なくない。先のフジロックフェスティバルだけでなく、サマーソニック、ライジング・サン・ロックフェスティバルなどにも出演している。
彼らは“上田は初めて。めちゃくちゃ素敵な建物です。こんな天井の高いところで演奏したことはない”と語る。その時々で自分たちがやりたいことをやっている。好きなところでうろちょろしているともいう。そんなアナウンスの後、演奏した「Sink」(同曲はダイハツ・タント カスタムのCM曲に起用され、2021年7月にリリースしたサードアルバム『A Daze In A Haze』に収録されている)が心に残った。曲そのものはコロナ禍の中で作った曲で、人と会うというのはどういうことかを考えて、作ったそうだ。静かな中にも情念のようなものが籠る。機会があれば、英語の歌詞を翻訳した動画もあるので。両方とも聞いてもらいたい。
実は、このイベントは昨年、2022年8月21日(日)に同じ場所、同じ出演者での開催が予定されていた。ところがコロナ感染拡大の影響で開催延期になっている。しかし、日程は当然、違うものの、同じ場所、同じ出演者での開催が可能になった。主催したSUNNYの粘り勝ちだろう。そのため、EwoksやDYGLは過密日程の中、参加することになった。Ewoksは東京、長野の日帰り出演、DYGLの26日(金)愛知「森、道、市場 2023」、27日(土)長野「音楽の村」、28 日(日)東京「CRAFTROCK FESTIVAL ’23」という大移動になった。多少の無理や難題があっても是が非でもイベントを実現させたい――そんな思いの結実だろう。イベント自体は限定350名を謳ったものだったが、観客そのものは残念ながらその限定数にも満たないものだった。しかし、出演したバンドたちの音楽はどれも素晴らしく、ここで新しいお気に入りを見つけたと言う方も多かったのではないだろうか。もっと、多くの方に聞かれるべきイベントだろう。地方での活動はいろんな困難が伴うと思うが、活動し続けて欲しい。SUNNYは「Sunny vol.10」と言うイベントを、この7月23日(日)、松本のライブハウス「ALECX」でTHA BLUE HEARBを招聘し、開催する。同所では7月8日(土)にOs OssosとFINLANDSのツーマンも開催される。
鋏と糸ではない。波佐見と糸島である。GW明けの平日、念願の波佐見と糸島を訪ねることができた。昨2022年3月17日(木)・18日(金)に福岡、19日(土)に小倉と、「穴山淳吉」(下山淳+穴井仁吉)の“里帰りツアー”(正式名称は『SPRING HAS COME TOUR.』)に同行後、立ち寄った佐賀の嬉野温泉。佐賀牛三昧した翌日、同所から佐世保へのバスの車窓から見た、たまたま通りかかった陶器や磁器の生産地、波佐見。波佐見焼という名称は知っていたが、それが佐賀と長崎の県境を越えた長崎県の中央北部に位置する波佐見町で作られているものとは知らなかった。その町を通り過ぎただけで、店などにも立ち寄らず、外から見ただけだが、有田や伊万里、美濃など、古式ゆかしい焼き物の町ではなく、何か、新しい風や光を感じさせる焼き物の町だったのだ。東京に戻り、いろいろ調べてみると、陶器そのものも洗練され、新しい空間を彩るものになっている。実際、北欧の家具や食器に通じるモダンな風合いで多くの方の支持を得ていると言う。我が家にも同所の陶器があった。IKEAのものかと思ったら波佐見のものだった。普通に食卓に溶け込んでいた。同時に波佐見自体もお洒落なカフェなども多く、新たな観光スポットとして注目されているようだ。私の勘に狂いはなかった(笑)。次回、福岡に行った際には改めて福岡で車を借り、波佐見を走り回ろうと考えていたのだ。
そして糸島。同所へは実際に行っている。2018年9月1日(土)・2日(日)に糸島市芥屋海水浴場で開催された音楽フェスティバル「26 th Sunset Live 2018」の2日目を見に行っているのだ。陣内孝則をして“めんたいロックに偏ったキャスティング”というTH eROCKERS、THE MODSの森山達也とTHE COLTS/THE MACSHOWの岩川浩二が結成したバスキング・ユニット、THE GANG BUSKERS、そしてSHEENA & THE ROKKETSなどが出演。“めんたいロック三昧”した。しかし、同会場に隣接する芥屋海岸の飲食店で“海鮮三昧”したが、ライブ会場と博多を往復しただけで、糸島そのものへはちゃんと訪れていない。音楽プロデューサーの深町健二郎さんのSNSなどで、個性的で面白い店がたくさんあることは知っていたので、やはり機会があればと思っていた。