頭脳警察、偉大なる復活--WELCOME BACK! PANTA!! | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

 

偉大なる復活を目の当たりにする。その場に居合わせたものは観客のみならず、出演者、スタッフまでもが歓喜に打ち震えた。昨日、6月14日(水)に東京・渋谷「duo MUSIC EXCHANGE」で開催された『夕刊フジ・ロック5th Anniversary“Thanks"』。開演時間、18時30分きっかりに始まった“夕刊フジ・ロック”、玲里&難波弘之の親子GS(ゴールデンカップスの「愛する君に」をカバー)やMCを含め、アルフィーを彷彿させるハードで愉快なACTION TYPE-00 SAN SUI KAN MODE、ギターインストの奥深さを探求する山本恭司、ジェフ・ベックやエリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックスの名曲を嬉しそうにカバーする芳野藤丸など……どれも素晴らしく、楽しめるものだったが、この日ばかりは21時10分から23時まで繰り広げられた偉大なる復活劇を紹介しなければならないだろう。頭脳警察ばかりになること、お許しいただきたい。

まずはPANTAのマネージャーである田原章雄がステージに上がり、2月のライブが中止になってしまったことを謝罪し、ファンからの応援に改めて感謝の言葉を告げる。勿論、批判するものなどはいない、誰もがこれからPANTAを目の当たりにできることを待ちわび、期待に胸が高鳴る。

頭脳警察Xが登場する。メンバーはうじきつよし(Vo、G)、TOSHI(Per)、樋口素之助(Dr)、宮田岳(B)、澤竜次(G)、そしておおくぼけい(Kb)、竹内理恵(Sax)というラインナップ。頭脳警察のヴォーカルとギターを務める。中学2年の時、日比谷野音で頭脳警察を見て、すっかり心と身体を射抜かれたうじきにとって、それはまさに夢のようなことだろう。以前、ソーラー武道館の頭脳警察のステージに飛び入りした経験はあるが、それは自ら勝手に飛び入りしただけ。流石、今回のようにPANTAの代役として出演する、それもPANTAからの指名、曲も1,2曲ではなく6曲(本人は1,2曲と思っていたが、リハーサルするうちに曲数は増えていったという)である。うじきにとって、これ以上、栄誉なことはないかもしれないが、同時に緊張と重圧がのしかかる。うじきはいきなり、頭脳警察の代名詞といえる「銃をとれ」、「ふざけるんじゃねえよ」を畳みかける。彼の緊張は見るものにも伝わるが、それを凌ぐ、彼の頭脳警察の曲を頭脳警察の名曲を歌えることに歓喜していることが伝わる。彼の瞳から泪が溢れ出る。思わず、貰い泣きした方も多いのではないだろうか(私は何とか、持ちこたえた!)。ハードでアグレッシブな曲調から一転。「時代はサーカスの象にのって」、「万物流転」と、スケールの大きいミディアム、スローなナンバーが披露される。「時代--」は2008年のシングル、「万物――」は1990年の復活頭脳警察のアルバム『頭脳警察7』の収録曲と、いわゆる頭脳警察という楽曲だけではなく、曲調と時代を横断していくのだ。さらに「RED」が歌われる。同曲は元々、PANTAの1986年のアルバム『R*E*D(闇からのプロパガンダ)』 の収録曲だが、現在の頭脳警察が2019年にリリースした(いまのところの)オリジナルアルバムとしては最新作にして結成50周年記念アルバム『乱破』に収録されている。ライブアルバムとしては2020 年 9 月 26 日に行った頭腦警察のシークレット配信ライブを全曲収録『会心の背信』もあるが、オリジナルとしてはデビューから最新作まで多様で多彩な音楽性の頭脳警察を網羅する選曲である。いかにうじきが信頼されているかがわかるだろう。そんな困難で難解な使命を彼は見事にやりきる。PANTAという稀有なヴォーカリストの代役を見事なまでに務め上げ、そこにうじきらしさえ加えている。このところ、様々なレジェンドアーティストのトリビュートに駆り出されるうじきだが、単に器用に真似るのではなく、曲そのものの核と精神を掬いとる彼だからこそ、任されるのではないだろうか。

そして、PANTAがいよいよ登場する。スタッフに抱きかかえられての入場は痛々しくもあるが、そんな身体でも皆に会うために来てくれたという心意気が嬉しくなる。そんなPANTAを見て、うじきも笑顔と泣き顔で彼を出迎える。PANTAとうじきは「悪たれ小僧」を歌い出す。なんて気の利いた選曲だろう。まるで俺はくたばらないぜ、病気という悪魔に対して“アッカンベー”をしているようだ。“悪たれ小僧、世に蔓延る”でなければいけない。同曲を歌い終えると、うじきはステージを去る。うじきつよしは本当にいい仕事をした――誰もがそう思ったことだろう。彼への拍手と歓声がやまない。

PANTAは入院で中断したが、ニューアルバムのためにレコーディングしたという新曲「東京オオカミ」を歌い出す。叫び声や吠え声が曲を盛り上げていく。これが緊急入院以前も度々、体調不良で活動を休止していたものとは思えない、命と魂の躍動を感じさせるナンバーだ。新作の手応えは充分だ。そしてPANTAは2020年に公開された頭脳警察の映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』のエンディングにも流れた「絶景かな」を披露する。同曲はPANTAの「What a Wonderful World(この素晴らしき世界)」とでも言うべきナンバーである。驚くことにオリジナルの時点からさらに進歩した歌唱を聞かせる。鈴木慶一も声が出ていたのは前からだった。もっといい声になっている”言っていたが、まさにその通りではないだろうか。病を経て、健康的な節制生活がその声を彼に与えたかわからないが、それは時には激しく、時には優しく、PANTAの歌を輝かせる頭脳警察の演奏があってのことだろう。彼らの演奏は、支えるべき歌声と再度、ともにライブをできる喜びに溢れている。

同曲に続き、「あばよ東京」という、74年にリリースされた初期頭脳警察のラストアルバム『悪たれ小僧』のラストソングが演奏される。あまり演奏されることが少ない、レアなナンバーを敢えて持ってきた。“君が砂漠になるなら 俺は希望になろう”という印象的なフレーズがある。幾分、押し殺したような演奏と歌唱で、2023年のブルースとでもいうべき装いである。PANTAの絞り出す声に寄り添う頭脳警察の演奏も見事である。

同曲を歌い終えると、PANTAの盟友、ミッキー吉野を呼び出す。ちなみに55年前の1968年6月14日にゴールデン・カップスのメンバーとしてライブデビューしている。今日が記念日である。彼がハモンドオルガンに座り、ミッキーは「青い影」を歌い出す。クラシックな佇まいを纏う説明不要のプロコル・ハルムの名曲である。同曲を歌言えると、夕刊フジの長期連載「JAPANESE ROCK ANATOMY解剖学」でも掲載できないニューロック周りの危険な話をしつつ、これまた、誰も知る名曲「スタンド・バイ・ミー」を披露する。まるでGSからニューロックへという時代の雰囲気を醸す。

「スタンド・バイ・ミー」の後には日本のロックの不朽の名曲にして、彼らが十代の頃から歌い続けているという「さよなら世界夫人よ」が演奏される。頭脳警察の演奏とミッキーのハモンド、竹内のフルートが絡み合い、溶け合い、至高の曲をさらに輝かしていく。勿論、PANTAは好調を維持したまま。途中、酸素吸入をするものの、それは火急のものではなく、むしろ、酸素吸入しているふりをするかのようだ。それだけ、余裕があるということだ。

日本のロック界、最高の詩人の存在証明と言える同曲を歌い終えると、アンコールになる。PANTAへの身体の負担を考慮し、楽屋に戻らず、そのままアンコールが行われる。うじきつよしや芳野藤丸、難波弘之、山本恭司……など、この日の出演者が集合する。その模様は壮観である。時代も世代も超え、一流の音楽家がその場に集う。そして披露されるのは、お馴染み「コミック雑誌なんていらない」である。PANTAは内田裕也を真似、唇の前に人差し指と中指をあてる。陣内孝則の説によれば、裕也さんがそうするとステレオになるというポーズである。ソロを回し、コーラスを被せる――まるで“ニューイヤー”状態だが、PANTAの生還と復帰を祝うかのようなお祭り騒ぎ。演奏者もスタッフも観客もひとつになる。最高の大団円ではないだろうか。同曲を終えると、PANTAは改めて感謝を告げ、幸せであると語る。こんなPANTAは意外かもしれないが、新たに生き返ったシンPANTAの姿かもしれない。気づけば、時計は23時を超えていた。数日前にPANTAの応援イベントで数曲を披露していたものの、まさか、こんな長丁場のステージを彼が務めることができるとは誰も思ってなかったのではないだろうか。まさに嬉しい誤算である。病み上がりにも関わらず、絶頂期がと見まがう。とにかく頭脳警察はこうして復活した。彼らの長き不在、日本のロックに欠けていたピースが漸く埋まろうとしている。焦らず、ゆっくり新作を待とうではないか。

 

 

頭脳警察X + うじきつよし

   1. 1.銃を録れ
   2. 2.ふざけるんじゃねえよ
   3. 3.時代はサーカスの象にのって
   4. 4.万物流転


+ PANTA

   1. 5.悪たれ小僧


頭脳警察

   1. 6.東京オオカミ
   2. 7.絶景かな
   3. 8.あばよ東京


+ ミッキー吉野

   1. 9.青い影
   2. 10.STAND BY ME
   3. 11.さようなら世界夫人よ

ENC

+芳野藤丸、山本恭司、うじきつよし、玲里、難波弘之、原田喧太……

⑫ コミック雑誌なんかいらない