吉原聖洋がスーパーバイザーとライターを務めた『佐野元春The Circle of Innocence』(ぴあ)と、山本智志が佐野元春with THE HEARTLANDの最後のツアー「ザ・サークル・ツアー」に同行し、執筆した航海日誌とでもいうべきルポルタージュ『ワン・フォー・ザ・ロード』(大栄出版)、そして吉原聖洋が佐野元春and THE HOBO KING BANDのアルバム『THE SUN』の制作過程を4年半に渡って追いかけ、書き上げた『佐野元春 完全版 地図のない旅』(カミングスター エムズファクトリー音楽出版)をこのところ、改めて読み返している。書籍の内容については詳述しないが、新しい気づきと学びがありつつ、英知と気品、機知と洒脱が溢れる文章に心打たれる。吉原聖洋の新しい文章をもう読めないことを思うと、残念でならない。彼の真似は誰も出来ないが、その言葉は繋いでいくべきと、新たに心に誓う。
佐野元春がこの夏の佐野元春&THE COYOTE BAND「2024年初夏、Zepp Tourで逢いましょう」に続き、この秋に佐野元春 & THE HOBO KING BANDがビルボードライブ3都市(横浜・東京・大阪)を巡るツアー「Smoke & Blue 2024」を行った。同ツアーの最終日、10月30日(水)に「ビルボードライブ東京」で行われた最終公演の1stステージを見ることができた。前のツアーは仙台と横浜で見たものの、東京で佐野元春を見るのは久しぶりになる。
ただ、井上富雄(B)と古田たかし(Dr)、Dr.kyOn(Kb、G)、そして長田進(G)は井上富雄やANZAiFURUTAのライブ、「井上古田W誕生祭」(井上・古田・長田出演)、「下山淳生誕祭」(Dr.kyOn出演)などで見ているので、意外と久しぶり感はない。それだけ、メンバーが精力的に活動している証だろう。
久しぶりの佐野元春&THE HOBO KING BANDの東京公演。同公演は「Smoke&Blue」シリーズとしては2年ぶり、シリーズ8回目を迎える。佐野元春ナンバーをブルースやフォーク、ニューオリンズなど、ルーツミュージック風味のアレンジで演奏、ソングライター佐野元春が紡ぐ歌の魅力が間近で感じられることでも定評あるライブ・シリーズだという。今回は前述通り、3都市で全9日間、18公演に及ぶ充実のショーが展開された。2012年から始まったビルビードライブ公演「Smoke&Blue」や“佐野元春クラシックを現在いまに鳴らせ”をコンセプトに制作されたセルフカヴァーアルバム『月と専制君主』(2011年)や『自由への岸辺』(2018年)など、突如、復活した佐野元春&THE HOBO KING BAND。その活動自体、既に10年を過ぎ、かつ、同メンバーでのアルバムもリリースされている。佐野元春&THE HOBO KING BANDの歴史も積み重ねてきている。頻繁ではないが、定期的にリユニオン(という言葉が相応しいかわからないが、特に解散宣言もなかったし、THE COYOTE BAND結成後も不定期で活動は続いていた)を繰り返している。卓抜した技量と豊富な音楽体験を持った信頼できるミュージシャンとのセッションは佐野元春にとって、必要なことだろう。このメンバーでなければできないこともある。
2012年のシリーズには日本のポップスのレジェンド、元祖“シティポップの女王”とでもいうべき雪村いづみがゲスト出演、後に佐野元春が雪村のために作り、雪村と佐野が歌った「TOKYO CHIC(トーキョー・シック)」(編曲・指揮は前田憲男)誕生の契機(同曲を核に新曲やカヴァーを加え、同題の共演アルバムも2014年にリリースされている)になっている。また、今年は佐野元春&THE HOBOKING BANDのアルバム『THE SUN』が発表されてから20年というアニヴァーサリーイヤーだ。
そんな記念すべき年の“Smoke&Blue”を飾るべく、佐野は特別なメニューを用意した。ツアー前に今回の「Smoke&Blue」のセットリストを彷彿させるプレイリストを公開している。
粋と鯔背、洗練と可憐、伝統と歴史を織り込み、2024年の大人の歌と音を聞かせる。ブルースやジャズ、ポップスの粋を凝らす。佐野は「トーキュー・シック」を歌う前、“「トーキュー・シック」を東京以外で歌う時、うしろめたさを感じる”というニュアンスの発言をしているが、やはり、同曲には東京の風景が似合う。できればステージ後方のカーテンを開け、東京の夜景を見ながら聞きたかった(1stステージはカーテンが開かずそのまま演奏された。残念!)。東京の優位性を勝ち誇りたいわけではないが、この日、披露された曲達を聞いていると、その思いを強くせざるを得ない。
佐野はデビュー当時から小粋で大人びたジャズナンバーやパーティナンバーをたくさん作っている。この日、披露された曲でいえば「It's Alright」や「Do What You Like」、「二人のバースデー」などだろう。この日は演奏されていないが、「彼女」や「HEART BEAT」などもそんな系譜にある。“この街”の「小さなカサノバ」や「ナイチンゲール」のドラマを見せてくれるのだ。それは粋で洗練された音楽でもある。そんな流れで、「トーキョー・シック」を聞くとしっくりとくるのではないだろうか。
日本の都市の音楽の系譜と源流を辿る。それはクラシックでアンティークに見えて、モダンでヒップ、そしてアーバンである。時代を経たものが必ずしも古色蒼然としたものとは限らない。雪村いづみと佐野元春の共演盤『トーキョー・シック』のライナーノートには佐野の父と母の若い頃の写真と、二人への献辞が掲載されていた。佐野の父と母は雪村いづみが十代の頃、専属歌手をしていた新橋のダンスホールに通っていたという。その写真は古びたものではなく、どこか、時代を超え、いまでもお洒落なものだったのだ。二人の輝きがそのまま封じ込められている。数年前、亡き父と母の遺品を整理していて、その中から彼らの若かりし頃の写真を見つけ、改めて思った。私の両親も佐野と同じく東京の“下町”生まれ、育ち。比較的、裕福な家庭に生まれている。その写真はとてもモダンでヒップだった。二人にも“青春時代”があったのだ。
この日、「トーキョー・シック」誕生の契機になった“場所”で聞くのは格別で特別なことのように思える。THE HOBO KING BANDとの“ツアー”は、DIGする旅ではないだろうか。「故きを温ねて新しきを知る」ではないが、何か、宝探しにも通じる。こんなものを見つけ出したという発見がある。それゆえ、新しい気づきや学びがあると言っていいだろう。
そして『THE SUN』 の“20周年”である。4年半という、完成まで長い時間がかかった難産のアルバムであったが、それは決して創造力や制作意欲の問題ではなく、システムやプロダクションの混乱や制約があったためだという。そんな軛を取り払い、当時のメンバー(長田は同作の録音時にはTHE HOBO KING BANDのメンバーではなかったが、レコーディングには参加している。古田は同作からTHE HEARTLANDの解散後、久しぶりに佐野のバンドに復帰した)が集結して、新たな気持ちに同作に向かいあう。そこには新鮮な驚きに溢れる。「地図のない旅」や「希望」、「観覧車の夜」、「最後の1ピース」など、大事な曲達があることを改めて再確認する。いまの“THE HOBO KING BAND”だから、そして“Smoke&Blue”だからこそ、“いまに鳴らせる”ことができる。危険で不穏な言葉達が田園と近郊の合間の洗練に包まれ、すんなり耳に入りつつも心の奥底で時限爆弾のように破裂していく。音的には後期のトラフィックを彷彿させる。彼らの『ザ・ロウ・スパーク・オブ・ハイヒールド・ボーイズ』や『シュート・アウト・アット・ザ・ファンタジー・ファクトリー』は未だに私の愛聴盤である。佐野も当時、トラフィックのライブ映像を正月にメンバーが集まり、ともに見たことを語っていた。どこかクールでいて、ホットでもある。『THE SUN』の“完全再現ライブ”などがあるかわからないが、できればこのメンバーで、改めて「国のための準備」や「太陽」を聞いてみたい。
この日は佐野元春がTHE HOBO KINGBANDのオリジナルメンバーである佐橋佳幸とDr. kyOnのユニット「Darjeeling(ダージリン)」のために作ったセカンドラインとロックンロールのごった煮「流浪中」(ダージリンのアルバム『8芯二葉~雪あかりBlend』<2019年>に収録。佐野がヴァーカルで参加)も披露されている。Dr.kyOnの腕の見せどころ。気持ちよくローリングしていく。こんな選曲も佐野の彼らへの信頼と敬意を感じさせる。そして最後は「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」と「最新マシンを手にした子供達」という佐野元春がTHE HEARTLANDと作り上げた名曲達をTHE HOBO KING BAND流にしっかりと料理(両曲とも2018年にリリースされたカヴァーアルバム『自由の岸辺』にHKBヴァージョンが収録されている)して、ビルボードライブに集まった幸運な観客達に提供する。同2曲は圧巻の流れ、見事に1stステージを締めてみせた。3都市で全9日間、18公演になるビルボードライブの公演を見られたものは僥倖だろう。
来年、2025年は佐野元春にとって、“デビュー45周年”というアニヴァーサリーイヤーになる。かつてない規模のツアーも予定されているという。まずは45年に渡って、私達の魂をぶち上げる曲を提供し続けたことに感謝。記念すべき年がどんなものになるのか、楽しみでならない。その前、本2024年12月には『The Circle』(1993年)のリリース30周年を記念してボックスと2枚組アナログ盤もリリースされるという。昨2023年にリリースされた『Sweet16』(1992年)のボックスも贅沢で豪華な傑作だったが、期待以上のものになりそうだ。楽しみに待つしかない。
佐野元春(Official)Facebook Page
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THE CIRCLE 30 TH ANNIVERSARY EDITION
https://www.moto.co.jp/features/the-circle-30th-Anniversary/
東京“粋”――トーキョー・シック 佐野元春&雪村いづみ
https://ameblo.jp/letsgosteady/entry-11778677945.html

































