ザ・ナズポンズと"D runkard Ball"の華麗なる競演-レジェント達がロックの歴史を更新 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

▲ライブ後のこの日の出演者の全員集合写真(写真左から)春日“hachi”博文、小滝みつる、湊雅史、松浦湊、澄田健、上原“ユカリ”裕、新井健太、“CRAZY”COOL-JOE。後ろの壁画は「MOJO」を“HOME”とした地元民、PANTAと小坂忠が描かれている。

 


先日、4月7日(日)はPANTAと小坂忠の“HOME”とでもいうべき埼玉県所沢の音楽喫茶「モジョ」(MOJO)。同所に「シネマ」、「戸川純とヤプーズ」の小滝みつる(Kb)、「村八分」、「ココナツバンク」、「シュガー・ベイブ」、「EXOTICS」の上原ユカリ裕(Dr)、「東京ローカル・ホンク」の新井健太(B)、「カルメン・マキ&OZ」、「RCサクセション」の春日博文(G)、「TH eROCKERS」、「シーナ&ロケッツ」の澄田健(G、Vo)、「DEAD END」の"CRAZY"COOL-JOE(B)、「DEAD END」、「60/40 」の湊雅史(Dr)……など、輝かしいキャリアを誇るロックレジェンド達が集結。新たなレジェンド、松浦湊(Vo、G)をフィーチャするザ ・ナスポンズと、澄田健と"CRAZY"COOL-JOE、湊雅史のスーパーロックトリオ"D runkard Ball"の華麗なる競演は新たなロックの歴史の始まりを垣間見せてくれた。大袈裟な表現になるが、その時、ロックの歴史は更新されたといっていいだろう。

実は、この日は澄田健と松浦湊の“所沢ツアー”(所沢2DAYS)の2日目になる。前日、4月6日(土)に新所沢「ラッドカンパニー(Lad Company)」で、松浦湊と小滝みつるのデュオと、澄田健のソロというラインナップでライブが開催された。彼らの魅力をソロ(もしくはデュオ)とバンドで堪能できる2日間になる。“初日”は最後には松浦と澄田、そして「Lad Company」のオーナーも飛び入りするセッションもあって、大いに盛り上がったという。ちなみに時期はずれるが、小滝も澄田も松尾清憲、一色進率いる「シネマ」のメンバーだった。

ザ ・ナスポンズ(松浦湊、小滝みつる、上原ユカリ裕、新井健太、春日博文)と"D runkard Ball"(澄田健、"CRAZY"COOL-JOE、湊雅史)”の共演は昨2023年3月12日(日)、同じく所沢「MOJO」以来、2度目になる。、"D runkard Ball"自体は2021年から活動を開始している。

開演時間の午後6時を10分ほど、過ぎて、"D runkard Ball"が登場する。この日のオープニングは彼らが務める。澄田健は2週間前に自転車で転倒し、右手人差し指靱帯切断したばかり。人差し指にテープが巻かれ、サムピックを使用している。全治2週間と診断されたが、既にライブはドブロ弾き語リストのChihanaとのツーマンや「有賀幹夫×イケシブ 忌野清志郎&RCサクセション写真展」でのインストアライブなど、数回、こなしている。先のステージはそんな体調にも拘らず、その音や演奏に淀みや停滞はなかった。澄田、"CRAZY"COOL-JOE、湊雅史という3人がステージに揃うと、そのビジュアルだけで圧巻。何か、とてつもないことをやってくれる、そんな予感を抱かせるのだ。

1曲目はロバート・ゴードン(1970年代後半に“ロバート・ゴードン with リンク・レイ”名義でアルバムを発表し、ツアーもしている)やクエンティン・タランティーノ(『パルプ・フィクション』に使用)などによって何度もリバイバルしたロックレジェンド、リンク・レイの「ランブル」。そのサイコビリーな音で観客を一瞬のうちに虜にしてしまう。

穴井仁吉と組んだMOTO-PSYCHO R&R SERVICEのナンバー「Love Planet」、2020年5月にリリースされた澄田健のソロアルバム『Magenta』に収録されている「Long Black Hair」(歌詞はBAKI)を畳みかける。さらに"D runkard Ball"の1stアルバム『"D runkard Ball"』に収録された「Melanco 2023」と続く。1stアルバム『"D runkard Ball"』は昨2023年9月の関西ツアーで会場販売を開始し、現在は『Magenta』同様、インディーズレーベル「OliverocK」のweb shopで購入可能。
澄田健、"CRAZY" COOL-JOE、湊雅史の“爆裂ロックトリオ”とは何者かを物語るセットリストである。冒頭で彼らのことを古のロックレジェンドに倣い、“スーパーロックトリオ”と大言壮語したが、それは決して与太でもガセでもない。その3人の佇まい、聞くものを圧倒する音がそう言わせるのだ。3人が超弩級の演奏者としての技量を誇り、その覇を競いつつも遊びや間がある。まさに“スーパートリオ”と言っていいだろう。COOL-JOEという異名通り、冷静沈着にルートを押さえる"CRAZY" COOL-JOE、豊穣なるリズムの迷宮を探索しながらも余裕綽綽でリズムで遊ぶ湊、そして、その風貌を含め、やんちゃでいて、たまらなくセクシーというロックがスタイリッシュでグラマラスな時代を体現する澄田――“酔いどれ舞踏会”の主役達がここに集い、サイバーでハイパーな歌と音で観客を酔わす。


ジャズクラシックの「Harlem Nocturne」で、湊は変拍子を盛り込んだパンクジャズを聞かせ、リンク・レイの「Jack the Ripper」で、澄田はハードに弾きまくる。3人のインプロビゼーションの応酬の聞きどころ。エレキインストの醍醐味を堪能させてくれる。さらにサンハウスの「地獄へのドライブ」、スラングラングラーズの「5minutes」を一気呵成に興奮の客席に投下していく。ロックの格好良さと爽快さと不穏さと不良さを2024年に見事なまでに蘇らせる。オリジナルそのものは年代もののナンバーだが、古のロックの王政復古ではなく、まさに今という時代に再現する。勿論、単なる再現ではなく、3人のフィルターを通して、更新されていくのだ。

事前に同曲が最後の曲とアナウンスされていたが、同曲を終えると、観客はメンバーを会場に留めたまま、アンコールを求める歓声と拍手を贈る。湊は“もうバッテリー切れ”と愛らしくアピールするが、当然、そんなことは無視(笑)して、メンバーはそのまま、アンコールに雪崩れ込む。ロックンロールの創始者と言われるレジェンド中のレジェンド、ファッツ・ドミノの「Ain't That a Shame」をさりげなくラストに持ってくる。粋な選曲ではないだろうか。彼らの歌と演奏に男子は羨望の眼差し、女子は胸熱である。心と身体を直撃。2024年のスーパーロックトリオに相応し横綱相撲の大取り組み。湊が会場にスティックを放り投げたのは午後7時直前。わずか、50分ほどのステージながら、観客を一瞬にして虜にする。その凄さを体現させてくれる歌と演奏だった。この酔いどれ舞踏会、機会あれば是非、体験してもらいたい。セクシーでダンディーな3人がロックの桃源郷へと誘う。いつもより、観客に女性が多かったのは気のせいか。流石、お目が高いというところだろう。ビートルズやクイーン、Char、ゴダイゴの例を出すまでもなく、真のロックの目利きは女性である――現在では不適切な表現になるかもしれないが、1960、70年代当時の表現を敢えて使用した。予め、ご了解いただきたい。

 



15分ほどの休憩後、午後7時10分過ぎにザ・ナスポンズの演奏が始まる。幼少期に聞いたたまと高田渡に影響を受け、彼らの歌いを歌い踊っていたというシンガーソングライター、松浦湊を春日ハチ博文や上原ユカリ豊、小滝みつるなど、伝説も逸話も数多いレジェンドロッカー達がバックアップするザ・ナスポンズ。彼らがステージに並ぶと、年齢差もあるが、いい意味で違和感があり、そんな雑多な顔ぶれが多様性の時代を物語もする。
2012年に弾き語り活動開始。同年に3曲入りCD-Rをリリース、回文集の出版、2016年には「松浦湊とレモンチマンバンド」というバンド結成、5曲入りCDをリリースするも迷走してきたという。ソロのシンガーソングライターとして、しっとりする歌も聞かせる松浦だが、2021年に小滝や上原、春日などと運命的に出会い、同年2月にメンバーが揃い、リハーサルを繰り返し、2021年8月1日に原宿クロコダイルで、ザ・ナスポンズとして初ステージを踏んでいる。楽曲は松浦の作詞・作曲でメンバーが編曲するというスタイル。ザ・ナスポンズの冒険が始まった。

そんなザ・ナスポンズの1曲目は「誤嚥」である。“御縁”や“五円”ではなく、“誤嚥”である。誤嚥とは、食べ物や飲み物が誤って喉頭と気管に入ってしまう状態のこと。そんな内容の歌をボサノバタッチで歌い、むせて見せる。何か、へんちくりんの歌ながら“掴みはOKー!”という感じでその世界に引き込まれるのだ。

続く「出土騒ぎ」は松浦の真骨頂。ボサノバに素っ頓狂な歌が歌が乗る。歌の内容もかぼちゃのパンツが出てきたりと、歌同様に素っ頓狂である。さらに「喫茶店」では昭和歌謡の風味を出しつつ、いきなり令和にタイムワープする感じだろうか。輝かしいキャリアを持つレジェンド達がその超弩級の技術を駆使して、松浦の歌をさらに輝かし、唯一無二のザ・ナスポンズの世界を作り上げる。

「サバの味噌煮」はザ・ナスポンズが結成される契機になった曲らしいが、松浦のへんてんこさが際立つ歌だろう。そんな世界を形作るため、春日が“サバの味噌煮”とコーラスをつけているところが微笑ましい。このへんてこや素っ頓狂、決して奇をてらったものではなく、日本のロック以前に遡る。コミックソングではない、ノベルティソングの伝統みたいなものを感じるのだ。古くは笠置シズ子などにも行きつくかもしれないが、ショートカットすると、吉田日出子や坪田直子、佐藤奈々子、小川美潮、戸川純などにも繋がる。フラッパー系と勝手に言っているが、マリア・マルダーやメラニーなども浮かぶ。もっと、飛躍させればニナ・ハーゲンやリーナ・ラビッチなど、ちょっと変わったニューウェイブの歌姫も出てくる。先日、鈴木慶一とKERAのユニット「No Lie-Sence」を見ていたら、三木鶏郎を思い出したが、そんな繋がりさえ、松浦の曲や歌詞の中にある。

そんな視点で聞くと、続く「どうどう星巡りの歌」など、まさにノベルティソング的。歌詞の中で、「甲羅干し」や「外反母趾」や「起き上がりこぼし」……など、湯水の如く思いつく“星づくし”は見事と言っていい

私かもなのと哀切と自虐を持って歌う「私カモなの」、北区王子の団地を思い作った「お買い物」など、変幻自在の歌世界をハードロックやプログレ、パンク、ジャズ、カントリー、ボサノバ、シティポップ、歌謡曲……など、多様で多彩な絵筆を操る演奏者によって、見事に描かれる。こんなところはフランク・ザッパやキング・クリムゾンなどを彷彿させる。また、「欠勤理由」は台詞入り。まるで小劇場の演劇か、ラジオドラマのようだ。レジェンド達の経験と技量は伊達ではない。彼らのサポートがなければ、その世界は空中分解してしまう。勿論、松浦の歌世界が歌とギターの弾き語りだけでも成立する強固のものがあるからだ。

最期は「アフター・ワッショイ」で、“まずは一歩踏み出せば はじめの一歩大事ですね”と、聞くものを勇気付ける。何か、エンケンの「東京ワッショイ」の現在進行形を聞いているようだ。春日の本領発揮(!?)のハードなギターがぶっ飛んでいて、心地良く心と身体を揺らしてくれる。松浦の歌とレジェンド達の演奏は惰眠を貪るものに思わず“とにかく布団から出ろ”と喝を入れた気分だろう。同曲を終えると、8時を過ぎていた。同曲がラストソングと事前にアナウンスされている。観客は彼らをステージから降ろさない。アンコールを求める歓声と拍手が会場に溢れる。そのままアンコールに突入。お約束とはいえ、澄田健もその演奏に加わる。「ウシロトラレルナ」はゴダールの『右側に気をつけろ』を彷彿させるタイトルだが、何か、柔道やレスリングのようでもある。オリジナルはジャグミュージックの要素もあるナンバーだが、大団円に相応しくオールスター感謝祭的な絢爛豪華な色付けされる。澄田もレジェンド達と新たなレジェンドとの共演を楽しんでいるかのようだ。高度なことを難しそうにやるのではなく、楽しみながらいとも簡単にやってしまう――そんな感じだろうか。



所沢は東京からそんな近いところではないが、東京を中心とした衛星都市、“東京サバービア”の新たなロックのメッカになりつつある。こんな愉快なライブを連日、行われている。一度は所沢へ足を運んでもらいたい。そういえば「MOJO」は今年7月で20周年になるという。それを記念して6月30日(日)に所沢市「所沢航空記念公園」の野外ステージでフリーコンサートが行われるようだ。




https://mojo-m.com/

 

 




"D runkard Ball"
4月7 日(日)所沢「モジョ(MOJO)」

1.Rumble (Link Wray)
2.Love Planet(MOTO-PSYCHO R&R SERVICE)
3.Long Black Hair(澄田健)
4.メランコ2023("D runkard Ball")
5.Harlem Nocturne(Sam "The Man" Taylor)
6.Jack the Ripper(Link Wray)
7.地獄へドライブ(サンハウス)
8.5minutes(The Stranglers)
EC.Ain't That a Shame(Fats Domino)

Oliverock web shop
https://oliverock.thebase.in/

 

 




ザ・ナスポンズ
4月7 日(日)所沢「モジョ(MOJO)」

1.誤嚥
2.出土騒ぎ
3.喫茶店
4.サバの味噌煮
5.どうどう星巡りの歌
6.私カモなの
7.お買い物
8.欠勤理由
9.アフター・ワッショイ
EC ウシロトラレルナ(with 澄田)

松浦湊のウェブサイト
https://www.matsuuraminato.info/

 

 


ザ・ナスポンズ
https://www.matsuuraminato.info/the-nasponz

 

 


おためし ナスポンズ 【スペシャル・ダイジェスト版】

 

 


アメブロの過去記事、めんたいロックの応援サイト「福岡BEAT革命」など、ザ・ナスポンズや澄田健の記事をリンクしておきます。ご参考ください。

 


珍妙なれど、逸材なり――ザ・ナスポンズ
https://ameblo.jp/letsgosteady/entry-12737477687.html

 

 


齢60にして今は通過点、到達点はこれからー“脇に主に変幻自在の千両役者”澄田健「HAPPYBIRTHDAY LIVE PARTY ~癸卯KANREKI~ 」
https://www.fukuokabeatrevolution.com/post/%E9%BD%A260%E3%81%AB%E3%81%97%E3%81%A6%E4%BB%8A%E3%81%AF%E9%80%9A%E9%81%8E%E7%82%B9%E3%80%81%E5%88%B0%E9%81%94%E7%82%B9%E3%81%AF%E3%81%93%E3%82%8C%E3%81%8B%E3%82%89%E3%83%BC-%E8%84%87%E3%81%AB%E4%B8%BB%E3%81%AB%E5%A4%89%E5%B9%BB%E8%87%AA%E5%9C%A8%E3%81%AE%E5%8D%83%E4%B8%A1%E5%BD%B9%E8%80%85-%E6%BE%84%E7%94%B0%E5%81%A5%E3%80%8Chappybirthday-live-party-%E7%99%B8%E5%8D%AFkanreki-%E3%80%8D

 

 


和製デラニー&ボニーの誕生! 澄田健&Chihana
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