珍妙なれど、逸材なり――ザ・ナスポンズ | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

その名前は随分前から知っていたが、なかなか、見る機会はなかった。しかし、興味はあった。なにしろ、あの川村恭子さんの声掛けである。ランドセルを背負いながらはっぴいえんどを見た小学生、“サウンド・ストリート”初代女子大生DJ、復活“春一番”、“ハイドパークミュージックフェスティバル”の主催スタッフなど、様々な伝説や経歴を持つ彼女だけにつれなくするわけにはいかない。何しろ、彼女は数少ない信頼に値する、良い音楽の目利きである。

 

ザ・ナスポンズはシンガーソングライター、松浦湊を演奏で支え、彼女の歌を聞かせるために腕っこきのミュージシャンが集まった。東京ローカル・ホンクの新井健太(B、cho)、元シネマ、yapoos、ecstasy boys、現サニー久保田とオールド・ラッキー・ボーイズ、Nombresの小滝満(Kb、cho)、元ココナツバンク、シュガーベイブの上原ユカリ裕(Dr、cho)、カルメンマキ&OZの春日hachi博文(G、cho)という、日本のロック史に名を留める猛者ばかり。結成のいきさつは川村さんによると、“小滝が松浦とバンドやりたい、とユカリさん誘って、アラケン(新井健太)を誘い、春日さんを誘ったということになるのかな”だそうだ。全曲の歌詞と曲は松浦が書き、編曲はバンドのヘッドアレンジ、リーダーは彼女だという。松浦は保育園のころに“イカ天”で「たま」を見て、たまと高田渡で歌い踊る子供であった。母が伝説の吉祥寺・武蔵野火薬庫ぐゎらんどうの店員であったことも影響しているらしい。椎名林檎など、同時代の音楽にも触れつつも、チェット・アトキンスやジム・クェスキンバンド、マリア・マルダー、佐藤GWAN博、シバなどの歌が好きで、鬼怒無月や山本久土なども好きだという。音楽に対して、自由度が高く、オリジナルなものに興味があるようだ。

 

バンドそのものは2021年に結成されている。同年2月にメンバーが揃い、リハーサルを繰り返し、2021年8月1日に原宿クロコダイルで初ステージを踏んでいる。対バンは爆裂トリオ(河合徹三・中村哲・富樫春生)だった。

 

ザ・ナスポンズ

 

松浦湊

 

新井健太

 

春日hachi博文

 

小滝満

 

(写真中央後方)上原ユカリ裕

 

そんなザ・ナスポンズのステージを見た。4月6日(水)、東京・青山「月見ル君想フ」のジャムバンド、Sardine Head(サーディン・ヘッズ)とのジョイント・コンサート「満月と春の宴」である。

 

開演時間の午後7時を5分ほど過ぎ、登場したのはザ・ナスポンズ。彼らがメインかと思ったら、オープニングアクトだった。順番など、どうでもいいが、彼らの登場に衝撃を受ける。いい意味で素っ頓狂でぽわーんとした松浦の歌声と立ち居振る舞いに驚かされる。月並みな表現だが、衝撃的だった。おそらく、ザ・ナスポンズを初めて見るという方も多いらしく、会場もいきなり先制パンチを食らったようにどよめいた。

 

同時にその佇まいや歌唱の中に懐かしいものも感じていた。それは曲が進むたびに強くなっていく。吉田日出子や坪田直子、佐藤奈々子、小川美潮などの“フラッパー”系(なんていう系譜はないが、なんとなく雰囲気である)が思い浮かぶ。海外でいうと、マリア・マルダーやリッキー・リー・ジョーンズか。微妙に違うところもあるが、薄れゆく記憶の中で、呼び覚まされるものがあるのだ。

 

しかし、曲者がバッキングを務めているだけあって、一筋縄ではいかない。オールドタイムなラグタイムやスウィング、ジャグバンドでは当たり前過ぎる。誤解を恐れず、かつ、マニアックにいうと、叙情性はキャメルやセバスチャン・ハーディー、複雑怪奇さはジェントル・ジャイアントというところだろうか。わかりやすく言うと(わかりやすいかわからないが)、近似値としてフランク・ザッパや四人囃子という感じだろう。プログレッシブでアヴァンギャルドな音を松浦の天然素材の歌にぶつけてきている。その化学反応がたまらなく同時代的である。

 

 

ザ・ナスポンズがどんな歌を歌っているか。この日、披露された楽曲の曲名を上げておく。タイトルだけでもいかにユニークか、わかるというもの。

 

1.デーモンとカーバンクル

2.誤嚥

3.出土さわぎ

4.アサリでも動いている

5.カモなんです

6.酸欠金魚

7.お買い物

8.もしかして猫舌?

9.その件について

10.サバの味噌煮

 

アンコール

 

フォールインタヌキ

ウシロトラレルナ

 

 

“アサリでも動いている”や“もしかして猫舌”、“酸欠金魚”など、“みんなの歌”に出てきそうで、テレビに映る映像も想像できる。確かに歌詞だけみれば奇矯かもしれないが、松浦が歌い、ザ・ナスポンズが音をつけると、その言葉は深い意味を持ち、その音楽は活き活きとしてくる。

 

ちなみに「サバの味噌煮」はザ・ナスポンズ結成の契機でもある。神奈川・野毛のロック酒場「ボーダーライン」に松浦湊の弾き語りを小滝が見に行き、彼女の「サバの味噌煮」直後のMCで「誰かこの曲を一緒にレコーディングしてください! バンドやりたいです! メンバー募集」に小滝が「やるやる!」と挙手。それがバンドの始まりだった。

 

 

松浦は”5人揃って、演奏できている。こうしていられることが宝物。皆さん、(高齢なので)なんかあったらくたばってしまいますから。健康を祈ります”と、彼らと演奏できることに感謝を欠かさない(!?)。まさに奇跡のような寄り合い所帯だが、いろいろな偶然と必然が重なって、ザ・ナスポンズは生まれた。この日の歌と演奏、おしゃべりの時間は、1時間程ながら、松浦の傍若無人で天衣無縫な態度を含め、強烈な印象を残す。今後が楽しみでならない。会場には音楽界のお歴々が来ていた。だからと言って、いきなりテレビ出演やCMのタイアップが決まるような時代ではないが、じわりと浸透していきそうな気配だ。

 

 

ザ・ナスポンズに続いて出演したSardine Headについても触れておこう。彼らのHPから引用しておくと“2000年バンド結成。東京を中心にライブ活動を開始。齋藤丈二(G)、川田義広(G)、小林武文(D)、湯浅崇(B)で2003年1stアルバム『parallel lines』をリリース”している。これまでに4枚のオリジナルアルバムをリリース。オリジナルアルバムとして最新作は2012年にリリースした4thアルバム『RECONNECT』になる。2016年に東京・青山「月見ル君想フ」にてフリー・ライブ「SARDINE HEAD for FREE vol.2」を開催。同年フリー・ライブをDVD化し、『live at moon romantic Aoyama』をリリースしている。海外での演奏も経験しているという。いわゆるインストゥルメンタルを主体とする“ジャムバンド”だが、流石、ザ・ナスポンズと共演、松浦と交流のある彼ららしく、一筋縄ではいかない。曲は10分以上の長尺でオールマンブラザーズバンドを彷彿させたかと思うと、時々、キング・クリムゾンのようにヌーヴォーメタルになったりもする。ジャムバンドという殻を勝手に突き破る変幻自在さが魅力だ。

 

また、斎藤のすっとぼけたトークも聞きどころで、この日は最後にザ・ナスポンズとSardine Headの合同演奏があったが、セッティングの間の繋ぎとして、松浦と斎藤の掛け合い漫才(!?)もあったが、はらはらどきどきしながらも楽しめたことを付け加えておく。

 

 

そういえば、Sardine Headというバンド名だが、かの大戸屋でいわし+とろろ丼(いわとろ丼)を食べた時に不意に思いついたらしい。“サバの味噌煮”といい、“いわとろ丼”といい、青魚は人をバンド結成へ導くようだ。

 

(写真)ザ・ナスポンズとSardine Headの合同演奏

春日と松浦の間にいるのがSardine Headの齋藤丈二

 

 

ザ・ナスポンズ

https://www.facebook.com/groups/1464629877237754/about/?_rdr

 

Sardine Head

http://sardinehead.mond.jp/