化学反応Ⅰ――リクオ with HOBO HOUSE BAND +花田裕之 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

配信は今日、明日までとなってしまった。毎回、直前のリポートで申し訳ない。多くの方に知ってほしく、リポートを書くため、アーカイブを見直すが、繰り替えし見てしまう。見ることに時間が取られ、一向に筆が進まない。それだけ、聞くものを引き込むものがあるということ。

 

 

この4月7日(木)に花田裕之、8日(金)に友部正人をゲストに招き、神奈川・横浜「サムズアップ」で開催された『Nori Fes vol.19〜 RIKUO Presents THUMBS UP Special 2days 〜』。当初は1月29日(土)、30日(日)に同所で開催予定だったが、メンバーやスタッフにコロナ陽性者が出たため、急遽、延期になっていたもの。仕切り直しの公演だ。1月の時点では状況を考慮し、配信で視聴の予定だったが、収束にはほど遠いものの、小康状態だったことと、“呼ばれたた”ので、7日(木)はリアルで見ることにした。

 

 

実は一週間前、4月1日(金)に横浜「クラブセンセーション」で行われた下山淳吉(下山淳+穴井仁吉)とうじきタケシ(うじきつよし+澄田健)のジョイントライブをリアルで見ている。2週続けての横浜行き。ハマが俺を呼んでいたのかもしれない(笑)。

 

 

改めて、リクオ with HOBO HOUSE BANDのメンバーを紹介しておく。リクオ(Vo、Kb)、寺岡信芳(B)、真城めぐみ(Cho)、高木克(G)、小宮山純平(Dr)、宮下広輔(Pedal Steel)になる。このところ配信でしか、見ていないが、前に出ても良し、後ろに回っても良し。そのグルーブは絶品、かつ、歌心をしっかりと届ける当代随一のバンドである。

 

 

まずはリクオ with HOBO HOUSE BANDのステージから始まる。詳述はしないが、新曲「リアル」から「グラデーションワールド」への流れ(残念ながら配信時にトラブルがあり、途中で途切れている。私はリアルなので、当たり前だが、途切れることなく聞けた)で、涙腺決壊。加齢によって涙腺が緩くなったからかもしれないが、いろんなことが起こり続ける、こんな時代に響く、その歌と音は心と身体を震わせる。リクオを含め、“リクオ with HOBO HOUSE BAND”というバンドの奥深さ、底知れなさを再確認する。その歌と音に飲酒はしてないが、酔いしれる。当たり前だが、至福の音に包まれ、身を委ねることはとてつもなく、心地良いもの。ライブの良さを伝えてくれる。リクオ自ら酒が飲み、食事ができるライブハウスが好き、自分は酒場育ちと言うが、「酔いどれ讃歌」は、まさにホンキートンクバンドの面目躍如だろう。

 

 

 

会場が暖められたと語り、リクオは“大好きな先輩を紹介します”と告げる。花田裕之を呼び出す。花田の登場に会場は湧きたつ。“出て来た時の反応が違うよ。神様が出て来たみたい”と、嬉しそうに語る。花田はリクオ with HOBO HOUSE BANDに加わり、あいさつもそこそこに「汽車はただ駅を過ぎる」(1995年にリリースしたソロアルバム『ROCK'N'ROLL GYPSIES』に収録)を弾き始める。同曲に続いてボブ・ディランがロン・ウッドに提供した「SEVEN DAYS」を演奏。オリジナルに倣い、ルーズでダルなナンバーをディランがフェイセスを意識して歌っているかのように歌う。

 

 

 

『NOWADAYS』(2004年)から「明日への橋」、「freewheelin'」を続ける。いずれも“流れ”などでも披露されているが、弾き語りではなく、バンドサウンドだけにアルバムのアーシーでスワンプな音がリアルに再現される。花田とぺダルスティールの宮下、ギターの高木の相性が良く、しっくりと嵌る。その絡みはクレイジーホースではなく、ストレイゲイターズを率いるニール・ヤングのようだ。ペダルスティールがベン・キースしている。

 

 

 

また、リクオのナンバー「ミラクルマン」では、リクオは“プリズナー・オブ・ロックンロール”と叫び、花田もそれに呼応するように思い切りギターでロックンロールする。リクオもニューオーリンズスタイルのピアノを添える。ドン・ニックスやドニー・フリッツ、デラニー&ボニーなど、スワンプロックの名盤の名曲群を彷彿させる。“リクオ with HOBO HOUSE BAND”は各人が卓越した技術を持つミュージシャンの集まりで、その音楽的な引き出しは多く、様々な音楽にアジャスト可能だが、やはり、このディープでいてメロウなグルーブは彼らの真骨頂ではないだろうか。“流れ”の拡大版みたいな感じで、両者の共演アルバムが聞きたくなるというもの。

 

 

続く、リクオのナンバー「光」では、花田はギターを弾くだけでな、同曲を一緒に歌う。まさにコラボレーションである。リクオは“花田さん、ありがとうございます”と声をかける。花田は続くストーンズのナンバー「Sweet Virginia」では歌だけでなく、ハープも披露する。同曲を歌い終えると、花田は観客へ感謝を伝え、ステージから消える。あっさりとした引き際がいかにも花田らしい。

 

 

 

リクオ達のステージはアンセムとでもいうべき、「オマージュ~ブルーハーツが聞こえる」で、ヒートアップしていく。リクオは“愛と平和と相互理解について語ることがなんか、おかしい?”と、観客に問いかけ、ニック・ロウが作ったブリンズリー・シュウォーツのナンバー「(What's So Funny 'Bout) Peace, Love, and Understanding 」を歌う。リクオは“本編”の最後に“不穏な世の中だけど、まともでいましょう”と語り、音楽の灯を絶やすな、ライブの灯を絶やすなと呼びかけ、「アイノウタ」を歌う。同曲では各メンバーを紹介しながらソロを回していく、ゾクゾクさせられる瞬間である。ソロだけでなく、メンバーのコーラスもゴスペルグループのようなバイブスがある。

 

 

同曲で大団円を迎え、ステージからバンドは消える。観客の拍手と鳴り物(会場が歓声を上げられない観客のため、クラクションやタンバリンなどを用意した)は止まない。メンバーがステージに登場する。リクオは客席の奥にいる花田がビールを飲んでいるのを確認し、スタッフにビールを頼む。先輩より先に酒を飲むはわけにはいかないと、意外と体育会系(!?)のリクオである。アンコールではこの日、ライブで初めて披露する新曲「ルージング・ゲーム」を演奏する。スティールギターが煌めく音でその歌を装飾する。“ルージング・ゲーム”と言いつつ、曲調は明るく、力強い。佐野元春の初期のナンバーに通底するものがある。同曲を終えると、花田を再び呼び出し、感謝とともに“良かったら、また、ご一緒させてください”と、告げると、花田は“是非、お願いします”と答える。ここでリクオはサプライズゲストを呼び出す。bandHANADAのメンバーで、HOBO HOUSE BANDのメンバーだった椎野恭一である。山下久美子やCocco、AJICOなど、各方面から引っ張りだこのドラマーだ。サムズアップはband HANADAのホームグラウンドであることを語る。まさにその場所に相応しいサプライズである。リクオは“今年はサムズアップでband HANADAでのライブもあるのではないでしょうか?”と問いかけると、花田は“やります、お願いします”と答える。

 

 

 

椎野がドラムス入り、演奏が始まるが、ここでハプニングが発生!? 花田がいきなり「Girl Frend」を弾きだす。それに呼応して、高木が歌い出す。リクオは“その曲は次にやりましょう”と、声かけるが、花田はおかまいなく、演奏をそのまま続いていく。いうまでもなく、THE ROOSTERSの名曲。花田は何度も演奏し、高木も大江慎也のShinya Oe And Mothers Sunshineのメンバー、何度も演奏している。打ち合わせなしでも演奏は可能だ。身体にしみこんでいる。リクオが慌てふためくところはおかしかったが、演奏が始まってしまえば、曲は成立する。花田らしい(!?)わがままさを感じる瞬間だが、これもライブならではだろう。予想外の展開だが、観客にとっては嬉しいハプニングではないだろうか。花田と高木の化学反応かもしれないが、予測不可能がまさにライブの醍醐味だ。同曲の後にはディランの「 Knockin' on Heaven's Door」が演奏される。花田と高木のギターがハーモニーを奏でる。たゆたうような調べが心地良く流れていく。曲中、花田の“広輔!”という掛け声とともにスティールギターでソロを弾く、その演奏は幽玄の世界へ誘うかのようだ。さらに高木、リクオと声をかけ、ソロをまわしていく。リクオのピアノはレゲエのリズムを刻み、各楽器はダブマナーの音を響かす。リクオは同曲を終えると、“貴重な一期一会です。皆さんのオープンマインドに感謝します”と、観客に語り掛ける。そして、演奏されたのは「永遠のロックンロール」である。“終わらない歌が今も聴こえるーー”など、まさにこの場所、この時代(というか、時期か)に相応しいナンバーだ。自らが永遠のロックンロールを奏でる。それは、どこまでも続いていく。

 

 

改めてその場に入れる幸せを嚙みしめる。まだ、困難は続く。だけど、彼らの歌と音を身体全体で受け止め、少しだけ勇気を貰ったような気がする。

 

 

 

最後、ステージを降りる寺岡に宮下が肩を貸していた。寺岡は足を怪我をしていて、あまり動けないらしい。腫れてデニムも履けず、リハーサルにはジャージの上下で現れたという。そんな彼のために仲間が肩を貸すーーそれがバンドというものだろう。

 

 

 

4月7日のアーカイブは本日、4月20日(木)、23:59まで視聴可能だ。

https://twitcasting.tv/c:stovesyokohama/shopcart/133378