赤城忠治とISSAY――クリスマスイブの奇跡「星くずサロン☆Special☆になった君たちへ」 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

 

正月早々、大震災と大事故が起こった。流行り病を乗り越えたと思ったら、なんという2024年の幕開けだろうか。改めてお悔みとお見舞いを申し上げます。一日も早い復興と解決を祈ります。

 

 

年頭に今年のことではなく、昨年のことを書くことをお許しいただきたい。伝えるべきことがあり、確認作業をしていて、なかなか、まとまらず、年を越してしまった。お待たせ過ぎかもしれないが、毎年、こんな具合である(反省!)。

 

 

実は、このクリスマスイブは“クリスマス自宅派”の私にしては珍しく、東京・渋谷の代官山にいた。華やかなパーティ気分を味わいに出かけたわけではないが、それはそれで賑やかで和やかな“饗宴”だった。

 

2023年に☆になってしまった素晴らしいアーティスト、赤城忠治(FILMS、クレバーラビッツ)とISSAY(DER ZIBET、Issay meets Dolly)に捧げる聖夜スペシャルライブ「星くずサロン☆Special☆になった君たちへ」が手塚眞監督の仕切りで、代官山のライブハウス「晴れたら空に豆まいて」で行われたのだ。

 

昨2023年7月6日に赤城忠治が逝去した際、追悼文とともにFILMSのメンバーだった岩崎工が書いたデビューアルバム『MISPRINT』(1980年)のレコーディングリポートをFBやアメブロなどに転載している。また、ISSAYとは直接、面識や交流がなかったものの、ISSAYがジュネや宙也とともに開催したイベント「FREEKS OF LEGEND2019」なども見ている。さらにDER ZIBETのメンバーには私が関わったトリビュートアルバムのレコーディングに参加もしてもらっている。どんなことがあっても行かないわけにはいかないイベントだろう。

 

 

会場の“晴れ豆”には開場時間が過ぎても行列が出来ていた。中に入れず、会場を待つ人が溢れる。建物内とはいえ、吹き抜けのため、吹きさらしで、寒さが応える。混雑や遅延など、交通機関のアクシデントで遅れる方もいたらしく、その関係でリハーサルがずれ込んでいるみたいだ。普段ならごねたくなるものだが、こんな時間の緩さも赤城忠治らしい。“しょうがねえなあ―、早く入れろよ、忠治!”と、心の中で悪態(!?)をつく。そんなことまで楽しんでいる自分もいた。列に並ぶ方も“仕方ないなあ”と、諦めの笑顔である。久しぶりに旧友に会うという方も多く、赤城忠治やISSAYとの思い出を楽しそうに話す。

 

結局、開演時間の午後7時を30分ほど過ぎて、漸く、入場することが出来た。全員が入り切るまで、少し時間はかかったが、客席は人で埋まる。皆、彼らのことを忘れず、クリスマスイブにも関わらず、駆け付ける。それだけで嬉しくなるというもの。

 

 

まずはこのイベントを主催し、この日のホスト役である手塚眞がステージに上がる。彼らについて、その思いを語る。そもそもの、この“星くずサロン”は手塚が監督した映画『星くず兄弟』(1985年)、そして33年後の続編『星くず兄弟の新たな伝説』(2018年)があってこそである。その映画は近田春夫が発案し、歌詞を書き、赤城が曲を書いた「星くず兄弟の伝説」をテーマにした架空のサントラアルバム『星くず兄弟の伝説』(1980年)があってこそだった。そしてISSAYは手塚との出会いで、初の映画出演、さらにDER ZIBETとしてのデビューが実現している。2015年から2019年まで“続編”のために代官山の“晴れ豆”で様々なベントを繰り返してきた。今回は2019年2月28日(木)に開催された「Macoto Tezka Presents 星くずサロン★SPECIAL THE LAST SHOW」以来、4年ぶりの復活になる。今年、☆になった赤城忠治とISSAYのために“仲間”が集まったのだ。

 

 

最初の出演は赤城の公私ともに渡るパートナー、テルミン奏者、やの雪(テルミン)、そしてオンドマルト奏者、原田節(Pf)、さらにエル(MC)。やのは2001年にファーストソロアルバム『eyemoon/やの雪&Aeon』をビクター エンタテインメントから発表している。テルミン奏者として初のメジャーカンパニーからのリリースだったという。監修に岡野玲子、手塚眞、サウンドプロデューサーに赤城忠治が担当。映像作品や舞台芸術、アート作品などとのコラボレーション、様々な音楽家やアーティストとの共同作業をしている。赤城とやのが手掛けた作品は国内外でも高い評価を得ている。この日、披露されたのは“赤城忠治が作成したオケにMCと演奏が乗る19分で1曲の曲だ”という。赤城に関しては希代のメロディーメイカーと言う評価を獲得しているが、同曲を聞くと環境音楽や前衛音楽、フォークロアなど、多面的な音楽性を持っていることを改めて再確認できる。

 

 

やの雪Trio(写真左から)原田節(Pf)、エル(MC)、

やの雪(テルミン)

 

元祖・星くず兄弟といえば、高木完と久保田慎吾である。その久保田が新たなバンド「THE GEE GEEs」(類似バンド名が多いため、ライブ後、「10GG」に改名を正式発表)を率いて登場。先日、12月1日(金)に高木完がオーガナイズした“ナイロン100%”の復活祭(正式名称は「LOST NEW WAVE 100%」)で、8 1/2(ハッカニブンノイチ)を再結成したばかり。その乗りをそのまま持ち込みつつ、1曲目の「ロンドンだよおっかさん」、2曲目の「コツコツのタンゴ」は10GGになってからの新曲、3曲目の「土曜の夜はやっちゃいな」(2019年にリリースしたオールド・ラッキー・ボーイズのサードアルバム『「幸福を呼ぶ男」The man who calls bliss.』に収録)などのナンバーを現在進行形の歌と演奏で“星くず兄弟”の世界観にアジャスト。思い切り弾けてみせる。改めて久保田慎吾は“ナイロン100%”の申し子であり、“星くず兄弟”の中心人物であることを再確認。赤城忠治、久保田慎吾、高木完の“野合”も“星くず”があったからだろう。“星くず兄弟の伝説”という作品と場の持つ力が再び、彼らを結び付けた。

 

 

THE GEE GEEs改めて10GG。

(写真左から)藤原マヒト(Key)、河合徹三(B)、

久保田慎吾(Vo)、伴慶充(Dr)、宮崎裕二(G)。

サックスに元OLBの佐藤綾音が急遽参加した

 

久保田の後は会場の中ほどにある桟敷でのトークコーナーになる。同コーナーを仕切るのは手塚眞。ゲストはちわきまゆみである。赤城忠治がグラマラス&メロディアスな名曲「オーロラガール」を提供したことでも知られ、ソウルメイトでもいうべき、ISSAYとの交流でもお馴染み。ちわきは百貨店の屋上のペットショップで売っている潮を吹く、水槽に入るサイズの“ミニクジラ”の話をしてくれた。彼を知るものの間では有名なホラ話(!?)。人によっては渋谷の西武や池袋の西武だったりする。中には真に受けて、買いにいったものもいたそうだ。当然の如く、そんなものは売ってはいない。また、ISSAYはそのビジュアルからは想像できないが、剣道をしていたこともあって、礼儀正しく、実にちゃんとしていたと語る。その不在を残念がる。

 

手塚眞(写真左)とちわきまゆみ

 

 

 

トークコーナーでは近田春夫の映像も流れた。今回は生憎、都合がつかず、ビデオ出演になる。近田が“星くず”を赤城と共作することになった経緯はソロアルバムを制作の際にメロディアスなものを作る部分が自分は苦手だったので、彼の力を借りたかったからという。また、ISSAYに関しては彼こそ、ビジュアル系の元祖だと発言していた。

 

 

トークコーナーの後、ミニクジラを買いに行ってしまったという窪田晴男が登場する。彼は1991年にリリースしたソロアルバム『Flying New Asian』に赤城忠治(クレジットは赤木信夫名義)を共同プロデューサーとして指名し、曲作りなどもともにしている。共作した「ラピスラズリ」を披露する。

 

 

窪田のステージに小川美潮が登場。赤城はチャクラのアルバム『南洋でヨイショ』(1983年)に収録された「本当のこと言えば」に歌詞を提供(作詞:赤城忠治・作曲:板倉文・編曲:チャクラ)している。小川と窪田は「チョコレート・ドリーム」を披露する。同曲は窪田、丹波博幸、宮原芽映によるアコースティック・ユニット「shiro」の宮原芽映(元「タイニー・パンプス」。作詞家としても活躍)が作詞、赤城が作曲したナンバーで、バラエティ番組「ピカピカ音楽館」のために作ったもの。テレビではやの雪が歌っていたという。

 

窪田、小川に元シネマ、サニー久保田とオールド・ラッキー・ボーイズの小滝みつるが参加。3人で「不思議のテオ」を演奏する。同曲はFUJITSUのPCのソフトウエアのために作られたサントラに収録されたナンバーで、“不思議のTEO”のキャラクター「フィンファン」の言葉は全部音楽で表現され、その音楽を全部、赤城が作ったそうだ。

 

いわば、窪田、小川、小滝による赤城忠治の隠れた名曲の発掘である。小川美潮という至宝というべき歌声があって、彼のナンバーが際立っていく。FILMSだけではない、彼の名曲を堪能することができる。

(写真左から)小滝みつる(Kb)、小川美潮(Vo)、

窪田晴男(Vo、G)

 

同ステージ後は再び、桟敷で⼿塚監督とやの雪、藤原マヒトが参加してトークコーナーが開催される。共同作業の多い彼らだが、赤城は楽曲制作に際して正式なレコーディング前にデモテープを作成し、かなり作り込むという。そんなデモテープが無数にあるらしく、未発表曲を集めたコンピレーションなども期待できそうだ。同コーナーでは映画では一部のみ、また、未公開という貴重な映像も披露された。『星くず兄弟の新たな伝説』の赤城忠治が演奏に参加したライブシーンも秘蔵映像として流れた。同映像には“星くず”には欠かせないプロデューサー、江藏浩一(元ピンナップス。佐野元春が片岡鶴太郎へ提供した「Looking For A Fight」の編曲を手掛けている)も映っている。残念なことに彼は2020年に赤城やISSAYより一足早く☆になった。合掌。

 

また、手塚眞が父・手塚治虫原作の『ばるぼら』を2020年に映画化、同映画にISSAYも役者として出演している。夏木マリや二階堂ふみらとの歌唱シーンが流された。スターにも負けない輝きを放つ。手塚は、ISSAYは自らの作品には欠かせない存在。これからも起用する予定だったという。前述通り、ISSAYがDER ZIBETとしてデビューする経緯は“星くず”だった。たまたま、手塚は近田と映画の打ち合わせをしていて、その時、レコード会社のスタッフの書類の中に紛れていたISSAYの写真が床に落ちて、それを手塚が気を留めたことがきっかけだったらしい。映画出演とバンドデビューに繋がる。そんなハプニングがなければ、“ISSAY”は誕生しなかったかもしれない。

 

(写真左から)手塚眞、藤原マヒト、やの雪、ちわきまゆみ

 

トークコーナーの後はステージに野宮真貴と⾦津ヒロシが登場する。金津は久保田慎吾が結成したクリスタルバカンスに参加後、本間哲子とともにプラチナkitを結成、岡田徹プロデュースによってリリースされている。その後、Moon Bossaレーベルを主宰。『星くず兄弟の新たな伝説』の劇中歌「星くず兄弟、月へ行く」(作詞:手塚眞・作曲:赤城忠治)の編曲を手掛けている。また、彼は“星くず”にはバンドマンとしての出演だけだったが、その独特の雰囲気からか、“その他大勢”ではなく、役者として抜擢され、ちゃんと「キンちゃん」という役名まで貰っている。

 

野宮と金津は『星くず兄弟の伝説』の劇中歌で、”キャッシュカードがフルハウス”というフレーズがある「モニター」(作詞:近田春夫・作曲:赤城忠治・編曲:近田春夫)を演奏する。同曲に続き、実際に野宮が出演し、新“スターダスト・ブラザーズ”(三浦涼介&武田航平)とともに歌った『星くず兄弟の新たな伝説』の劇中歌「星くず兄弟、⽉へ⾏く」を披露する。赤城忠治の作った楽曲が野宮と金津によってアップデートされる。同曲だけでも彼がいかに優れたソングライターであるかがわかる。

 

(写真左)金津ヒロシと野宮真貴

 

赤城忠治のポートレート(中央)を紹介する金津と野宮

 

そして、そのステージの後、遂に「FILMS23」が登場する。ブラボー⼩松(G)、中原信雄(B)、久下惠⽣(Dr)というオリジナルメンバーに、⼩滝みつる(Key)が加わるFILMSの2023年版だ。ブラボーはデビューアルバム『MISPRINT』リリース時点には参加してない(レコーディングには橋本忠雄が参加し、メンバーとしてクレジットされている。残念なことに彼は2020年に亡くなっている。合掌)。また、久下はブラボーが連れてきたメンバーで、FILMSと同時期にPUNGOを篠田昌己とやっていた。バンド始める時にブラボーが呼んだドラムスで、FILMSの音楽がどうなのか全然知らなかったそうだ。彼の8ビートが聴けるのはFILMSだけで、ブラボーは“今回、久下くんじゃなきゃ”と、こだわったという。また、ステージには上がっていないが、レコーディングメンバーでオリジナルキーボードの岩崎工も会場に来ていた。

 

その「FILMS23」のヴォーカルを務めるのが先ほど、登場した野宮真貴である。デビューアルバム『MISPRINT』の収録曲で赤城メロディーの神髄、FILMS的未来予想図を描いた「30th CENTURY BOY」と「T.V.PHONE AGE」を畳みかける。未来予想図といいつつ、Tレックスの「20th Century Boy」やクリムゾンの「21世紀のスキッツォイド・マン」を一気に飛び越し、30世紀にしてしまう、そんな迂闊なところが彼らしい。

 

 

野宮真貴らしさを思う存分に発揮しながらもその歌唱はオリジナルのコーラス隊である小島洋子とアキ・マクレーン(木内アキ)を彷彿させる。音楽の永遠性とともにとても懐かしい気持ちになる。当時のことがいろいろと思い出される。改めて、言うまでもないが、彼らの再評価する必要性を強く感じる。それに異論を挟むものはいないはず。

 

野宮真貴+FILMS23(写真左から)小滝みつる(KeY)、

中原信雄(B)、野宮真貴(Vo)、久下恵生(Dr)、

ブラボー小松(G)

 

同曲を終えると、彼らはステージを去る。当然、アンコールを求める拍手と歓声はやまない。数分後、FILMS23 +野宮真貴が手塚眞とともに戻って来る。手塚はこの日のシークレット&スペシャルゲストとして、高木完を紹介する。彼は、“FILMSの中では一番、パンクっぽい”というデビューアルバムに収録された「Crash Kids」をFILMSの演奏をバックに歌い出す。20世紀のパンクの名曲を21世紀のパンクの名曲に仕立てる。怒涛のような音と叫ぶような歌である。天国の赤城やISSAYに届けとばかり、力を振り絞る。ハードでいて、クールな歌と演奏はきっと、彼らもびっくりして、☆から地上へ落ちてきてしまう、そんな名演、絶唱である。

 

そして、近田春夫が作詞・作曲し、“星くず”の劇中歌として、ISSAYが歌った「ピースマークベイビー」をこの困難な時代へのメッセージとして届ける。そのパンキッシュでグラマラスな歌と演奏はISSAYを彷彿させるのだ。

 

 

シークレット&スペシャルゲストを紹介する

手塚眞

 

高木完(写真中央。赤ジャケット)+FILMS23

 

最後の最後は出演者達がステージに上がり、“星くず”の主題歌「星くず兄弟の伝説(テーマ)」を披露する。ステージに上がる誰もが笑顔で、楽しそうに奏で、歌い、踊るのが印象的だった。何か、ドリフの全員集合のエンディングのような賑やかさと和やかさだ。湿っぽいのは“星くず”には似合わない。まさに圧巻の大団円である。

 

会場にいる誰もが嬉しそうで、思わず笑顔がこぼれる。改めて彼らのことを思い、こんな素晴らしい場所を作った手塚に感謝をしていることだろう。

 

気付けば時計は午後11時近くになっていた。開場までの寒い外での待ちから聖夜に11時まで。こんな日にタクシーを拾うのは難しい。終演とともに急ぐべきところだが、何故か、その場を立ち去りがたいのか、留まるものも多い。終電に乗り遅れたら、どうすんだよ――と文句の一言も言いたくなるが、とても居心地のいい時間で、心と身体がホッカイロ以上に温まる。これは彼らからのクリスマスプレゼントかもしれない。サンタなんて、信じちゃいないが、この日ばかりは少し信じたくなる(笑)。

 

アンコールでこの日の出演者がステージに上がる。

久保田が担いでいるのは赤城忠治のポートレート。

宇宙飛行士姿が赤城らしい!?

 

実はこの日、横浜のライブハウス「The CLUB SENSATION」では宙也が音頭をとり、ISSAYなどと開催してきたイベント「Glamorous Xmas Eve Night!」を“ISSAYへ捧げるライブ”として行った。また、2月5日(月)には東京・青山「MANDARA」でISSAYへの献花の式典、彼の誕生日である7月6日(日)には岡野ハジメプロデュースによるトリビュートアルバムも予定されているという。

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/2f9815a24033a07782ec21ecd04ed57026fe8cd9

 

 

 

 

https://twitter.com/derzibet_info

 

 

クリスマスイブには奇跡が起こる。☆になった兄弟たちに再び、出会うことが出来た。星くずたちは永遠に輝き続ける。彼らを忘れないものによって、彼らは生き続ける。きっと、新たなイベントや音や映像に出会うこともできるはず。

 

 

Special thanks to Kyoko Platypus Kawamura, Sasha Nakamura,Shingo Kubota