不穏な1990年代を予見した佐野元春『SWEET16』 30年目の真実が今、明かされる | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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昨2022年、1992年7月22日のリリースから30年を迎えた佐野元春の90年代の嚆矢となるアルバム『SWEET16』。同年11月に行われた『SWEET16』を完全再現する“名盤ライブ”に続き、昨日、2023年3月29日に同作の30周年を記念した6CD+BDという超弩級のボックスセット『SWEET16 30th Anniversary Edition(完全生産限定盤)』がリリースされた。既に各方面で話題になっていて、実際、もう入手したという方も多いらしい。是非、購入して、そのボリューム満点の質や量を確かめていただきたい作品だ。

 

同ボックスをリリースしたソニー・ミュージックのHPには“最新リマスタード盤やレア・ライブ音源、12インチ・クラブミックス、当時のコンサートを完全収録したライブ・アルバムなど、貴重なアーカイブが満載だ。中でも注目は、Blu-ray「See Far Miles Tour Part ll Live at Yokohama Arena 1993」。1993年、横浜アリーナで行われたツアーファイナル公演で、佐野元春 with The Heartlandの卓越したパフォーマンスがライブ映像として記録された。今回のリリースに際し、当時のフィルム映像をデジタル・リマスタリングして再編集、音源もマルチからリミックス、Blu-rayディスクとして映像をアップコンバート、未発表だった曲も追加され、ここに伝説的ライブの全容がほぼ完全な形で収録された”とある。

 

DISC1のオリジナルのリマスター盤は、2022年7月6日にリリースされた佐野元春&THE COYOTE BANDの最新作『今、何処』を手掛けたランディ・メリルがリマスタリングしている。1992年のオリジナル盤のマスタリングのボブ・ラドウィック、2009年盤(90年代のアルバムをコレクションした『佐野元春1990-1999 オリジナル・アルバム・リマスタード』)の前田康二(バーニー・グランドマン・マスタリング)、2016年盤(ソニーミュージック在籍中の全アルバムコレクション『佐野元春 ザ・コンプリート・アルバム・コレクション1980 - 2004』)のテッド・ジェンセンのリマスタリングに続き、3度目のリマスタリングになるが、すべてのディスクをお持ちなら4枚の違いを聞き比べるのも一興だろう。

 

 

また、DISC2のレア・ライブ音源などはオリジナルのヴァージョン違いやコンプリートヴァージョン、ライブヴァージョン、クラブミックス、リミックスなど、レア・アウトテイク&オルタネイト・トラックが満載され、『SWEET16』の原型を再確認するとともにその発展形も聞くことができる。

 

さらにDISC3・4は「See Far Miles Tour Part I 」の神奈川県民ホール公演(1992年3月23日)、DISC5・6は 「See Far Miles Tour Part II」の横浜アリーナ公演(1993年1月24日)、それぞれの公演を完全収録。『SWEET16』の発売を挟んで行われた2つのツアーの全貌を追体験することができる。リリースの前と後、新曲が育つところを目の当たりにするだろう。Blu-ray は「See Far Miles Tour Part II Live at Yokohama Arena 1993」のファイナル公演をほぼ完全な形で収録。既発のパッケージ「1992-1993 See Far Miles Tour part II」(Epic Sony / 1993)では一部、他公演のものに差し替えられていたが、今回は横浜アリーナ公演をそのまま収録した初の映像作品になる。同ツアーのベストパフォーマンスと言われる同公演の全容が初めて明らかになるというもの。

 

音源や映像など、今回のボックスに合わせ、新たにデジタイズ、アップコンバートされ、音質、画質も飛躍的に向上している。そのため、想像以上の時間が掛かった。同作にかけた佐野の強い思いが成果となって、現れていると言っていいだろう。

 

 

音源と映像とともに同ボックスには歌詞、解説、評論、対談、当時の記事、多数のフォトで構成した140ページのブックレットもパッケージされている。斬新な評論、明快な解説、貴重な随筆、重量級の対談などがこれでもかというほど、詰まっているのだ。時代を繋ぐ牧村憲一さんの随筆、山本智志さん、渡辺亨さんの曲目解説、能地祐子さんのライブ作品解説、増渕俊之さんの年表、メンバー紹介、また、宝島の関川誠さんや今井智子さんの当時のインタビュー、萩原健太さんや北沢夏音さんのライブリポートの再録など、音楽愛に溢れつつ、ジャーナルなスタンスでの考察が貫かれる。このボックスのために行われた佐野元春と片寄明人の対談は、5時間に及ぶもので、その中には30年目にして、初めて明かされるものもあった。膨大な量の言葉を佐野とは縁の深い雑誌『SWITCH』の元編集長、内田正樹さんがまとめている。貴重な写真も満載。他では読めない、見れない貴重なものばかり。まさに1冊の本といっていい内容だ。

 

 

改めて同作を聞き、ブックレットを読み込むと、『SWEET16』こそ、いま、改めて聞くべき作品であることを再確認する。確かに佐野元春にとって、ビッグセールスを記録し、レコード大賞やゴールドディスクの受賞など、輝かしい作品であることは間違いない。しかし、それ留まらず、バブル崩壊、カルト暗躍など、不穏な90年代を予見したもので、その歌詞はバランスを失い、危険の徴が明滅する都市の風景を活写。音も“シティポップ”の枠を超え、“マッドチェスター”への共感、“ワールドミュージック”への接近など、新たなサウンドやビートに舵を取っている。その先見性、同時代性は驚愕すべきだろう。

 

ブックレットの中にはそれを象徴するような写真があった。佐野は1993年10月17日に渋谷公園通りの教会脇のパーキングエリアでストリートライブを行っている。そのライブ写真にCorneliusのシングル「THE SUN IS MY ENEMY 太陽は僕の敵」とミニアルバム『HOLIDAYS IN THE SUN E.P.』のビルボード広告が写りこんでいた。単なる偶然かもしれないが、佐野のマッドチェスターへの共感を知った後だと、何か、必然のようなものも感じる。ミリオンセラー、ダブルミリオン、トリプルミリオンに浮かれる90年代に日本でも新しいムーブメントが起きようとしていた。そんな兆しを掴むかのように1993年11月10日、『SWEET16』と対になるアルバム『The Circle』をリリースし、同年12月から「The Circle Tour」を開始している。“Circle of Innocence(無垢の円環)”を主題に英国のロック/ジャズ界の至宝、ジョージ・フェイムが参加、彼のオルガンが優しく、慰撫する同作もリリースから2023年で30年になる。佐野にとって、The Heartlandと最後のスタジオレコーディング・アルバムになった『The Circle』、“30周年記念盤”がリリースされるかわからないが、やはり改めて聞くべき作品だろう。密かに楽しみにしている。

 

 

まずは『SWEET16 30th Anniversary Edition』。発売に合せ、各所で様々な“イベント”が進行中だ。3月28日(月)から4月3日(月)までタワーレコード新宿店9F催事スペースで佐野元春『SWEET16 30th Anniversary Edition』発売を記念してスペシャル展示企画が行われている。昨日、3月29日(水)の発売日に同所へ足を運んだ(営業マンか!?)。『Sweet16』のアルバムジャケットで、佐野元春がまたがっているHONDAモンキーバイクを期間限定で展示。昨年11月に行われた“名盤ライブ”の会場で展示されたモンキーバイクと同じもので、本人私物だそうだ。他にもオフィシャルトレーラーの公開、ポスター展示、オフィシャルグッズの販売など、『SWEET16』 の世界を体感できる。ちなみに佐野の展示の隣にはエピックソニーのレーベルメイトで、この5月3日(水・祝)に22年ぶりに4人が再結集、デビュー40周年を記念して日本武道館公演を行うThe Street SlidersのポスターやCDなどが展示されていた。これも偶然かもしれないが、何かの必然を感じないわけにはいかない。エピックソニーは畳みかけてくる。30年目のイケイケだ。

 

 

 

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