月光値千金 大澤誉志幸&山下久美子Best of ❤︎POP&★SOUL 明日に向かって歌え!! | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

 

大澤誉志幸と山久美子のデュオライブ、直近では5月14日(土)に宮城県・仙台「誰も知らない劇場」で開催された『大澤誉志幸SASURAI TOUR★SPECIAL★』を見ている。その日、一足早い“Summer of soul”を堪能させて貰った。そして一週間ほど前、9月10日(土)に神奈川県・横浜「ビルボードライブ横浜」で開催された『大澤誉志幸&山下久美子「Best of ❤︎POP&★SOUL ~明日に向かって歌え!!」の2ndステージをリアルで見た。一足早い“秋”(時期的には秋になっているのだが、残暑、猛暑で秋が来た感じがしていなかった)を堪能する。

 

 

2ndステージの開始時間である午後7時30分に大澤誉志幸と山下久美子、そしてバンドメンバーがステージに登場する。大澤は黒のアロハ、山下は黒のノースリーブのワンピース、メンバーは黒のロングスリーブのシャツである。主役がノースリーブやハーフスリーブながら黒ということもあり、秋めくシックな装いである。

 

オープニングに披露されたのは「ラ・ビアン・ローズ」のボサノバヴァージョン。言うまでもなく、大澤(当時は大沢)が事務所の後輩、吉川晃司に提供したヒット曲である。それを吉川ヴァージョンとは趣を変え、ボサノバヴァージョンという大人な雰囲気満載で披露した。

 

大澤は“山下とは付き合いが長いから息はぴったり。次の曲で確かめてください”と話す。山下は大澤が山下に書き、アルバム『and Sophia's back』に収録された「今宵かぎりのcheek to cheek」を歌う。大澤はスキャットやコーラスなどで、同曲を盛り上げる。

 

そして“付き合いが長いから久美子のあんなこともこんなことも知っています”と告げる。さらに“息がいいのもいいんじゃない”と言い、次の曲「LOVERステッカー」を紹介する。山下が歌う同曲には“いいんじゃない”というフレーズがある。MCはその前振りだったのだ。本能のままに奔放にしゃべっているようで、計算されている(!?)。見事な司会ぶりと言っていいだろう。

 

同曲を山下が歌い終えると、大澤は“久美子の歌心に酔いしれてもらいます。歌、うまいんだよ”と、言葉を残して、大澤はステージから消える。

 

山下は“大澤はデビューの頃から知っている盟友。幼馴染、家族みたいなもの。ともにいい時代を過ごしてきた。1980年6月25日、この曲でデビューしました。いまも色褪せない。男なんて、しゃぼん玉と信じて歌います”と、告げ、亀井登志夫と康珍化が作ったデビュー曲「バスルームから愛を込めて」を慈しむように歌う。バンドメンバーは、その歌に寄り添い、その演奏で歌を盛り上げる。特に後藤秀人のギターはメロウな音を紡ぐ。その音色はコーネル・デュプリーか、フィル・アップチャーチか。改めて同曲がソフト&メロウの名曲であり、いま、山下が歌うことで、男なんてしゃぼん玉という言葉が生々しく聞こえてくる。デビューから40年、山下の成長とともに歌そのものも育っていく。

 

 

山下は同曲を歌い終えると、“大事な曲に温かい拍手を貰えたことが大切です”と、観客へ語り掛ける。そして“満月、見ましたか? 中秋の名月です。今日は血が騒ぐぜ(笑)”と、言葉を重ねる。そして、“大事な曲です”と紹介して、山下達郎と康珍化が作った「シャンプー」を歌い出す。同曲にはオリジナルのアン・ルイス、山下達郎のセルフカヴァーなど、いくつかのヴァージョンがあるが、いまや「シャンプー」と言えば、山下久美子の歌で知る人が多いだろう。それだけ、自分のものにしている。アダルトでシックな歌いぶりと、松木恒秀を彷彿させる後藤のジャジーなギターが曲に磨きをかける。同曲を歌い終えると、感謝を告げ、大澤を呼び出す。“今度は大澤誉志幸コーナーです。歌心を聞いてください”と言葉を残し、ステージから消える。

 

 

大澤はクラウディ・スカイの解散を経て、山下に楽曲を提供。仮歌を歌いにいったスタジオで佐野元春と会ったという。そんな時代の話を面白可笑しく語る。書き留めたいこともあるが、自主規制(!?)。内容はライブ限定とさせてもらう。

 

大澤は鈴木雅之に提供した曲で、実は「そして僕は途方に暮れる」のアンサーソングとして作ったという「ガラス越しに消えた夏」を披露する。ちなみに“マーチンはその事実は知らない”らしい。スキャットなどを駆使しながら、フェイクを加え、曲をブラッシュアップして観客へ届ける。

 

同曲を歌い終えると、大澤は山下を呼び戻す。しばし、ブルガリアヨーグルトにマヨネーズを入れると美味いか、カレーに干しブドウは合うか、酢豚にパイナップル、スイカに砂糖は合うか……など、掛け合い漫才のような不思議な会話が続き、大澤は突然、「赤道小町ドキッ」に振り付けを考えたから、山下を始め、皆にして欲しいと提案する(というか、いきなり話す)。山下が“ドキッ、ドキッ”と歌う時に観客は手でハートマークを作り、胸からビーム出すように動かして欲しいと告げる。山下は呆れながら“やらなくていいから”と言いつつもなんとなくやる雰囲気になる。世論(!?)の形成は大澤のお手の物か。そんな約束の元、「赤道小町ドキッ」が歌われる。会場は歓声を上げられない代わりに振り付けで盛り上げる。大澤は振り付けだけでなく、コーラスでさらに曲を盛り上げる。流石、高円寺のお祭り男だ。同時に二枚目から三枚目を言ったり来たりするところは“ナベプロ由来”だろう。会場は大盛り上がり。シックな装いやビルボードライブ横浜という場に構えていた観客を解していく。山下も振り付けに関して“いい感じなんで可愛いかもしれない”と前言撤回。山下の中にもナベプロの芸能の“血”みたいなものが脈々と流れている。

 

 

同曲に続き、大澤のソウルナンバー「stop&ギミーラブ」が披露される。椎野恭一と時光真一郎のアッパーなリズムに青木庸和がキーボードで迫力あるホーンセクションの音を被せる。この辺の演奏の手堅さは長年、活動を共にしているだけある。同曲に続き、大澤が山下に提供した「ちょい待ちBabyなごりのキスが」でバンドのグルーヴは一段階上がり、会場のボルテージも急上昇。

 

まるで『ブルース・ブラザーズ』や『天使にラブソングを』見ているかのようだ。大澤の手振りやステップ、ダンスなど、往年のソウルグループのマナーを踏襲する。エンタメ度が一気に高まる。

 

さらにソウルショーは勢いを増していく。大澤が山下に提供した「こっちをお向きよソフィア」で会場がヒートアップする。大澤は山下の歌に合わせ、ソウルステップを踏む。まるでテンプテーションズやスタイリスティックスのようだ。オリジナル以上にソウルマナーを感じさせるナンバーにアップデートさせる。後藤のファンキーでソウルフルなソロもふんだんにフィーチャーされた。

 

そんなソウルフルなステージは大澤がヒット曲「ゴーゴーヘヴン」を会場に投下し、興奮の火の粉が広がっていく。同曲はストレートアヘッドなソウルナンバーへとチューンナップされる。山下もタンバリンを叩き、曲間を埋め、珠玉のナンバーに華を添えていく。歌と音の合間を時光のベースが心地良くランニングしていく。時光はいつもベースを担当している千ケ崎学の予定が合わず、彼の推薦でエクストラメンバー(いわゆるトラ)として、バンドへ加わったが、なかなかの逸材。しっかりと足跡を残す。絢香、新垣結衣、家入レオ、大塚 愛、河村隆一、近藤真彦、DAIGO、水樹奈々、薬師丸ひろ子などのライブやレコーディングのサポートとともに「名前はまだない」というバンドのつもりの二人ユニットでも活躍している。ある意味、異分子である彼の参加がバンドメンバーに影響を与え、青木は彼と競うようにアグレッシブなフレーズを放り込み、椎野や後藤のプレイもさらなる輝きを増していく。いい意味での起爆剤となる。観客もそんな演奏に身を任せ、ソウルショーを思い切り、堪能する。

 

 

大澤は観客に感謝を告げ、山下、メンバーとともにステージから去る。時刻は午後8時35分を指す。わずか、1時間ほどだが、観客は濃厚な時間に酔いしれる。どこか、上気しているようにも見えるのだ。アンコールを求める拍手とマスク越しの歓声はやまず。そんな拍手と歓声に後押しされ、大澤とバンドのメンバーがステージに戻って来る。大澤はある曲について語り出す。その曲と同名の映画がKis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔が主演、三浦大輔が監督して、来る2023年1月13日から東京・TOHOシネマズ 日比谷ほか、全国でロードショー公開される。そして、大澤はそのエンディング曲を歌うことになった。既に新アレンジで歌ったと言う。言うまでもなく、その曲は「そして僕は途方に暮れる」である。大澤のライブに足繁く通っていた方はご存知かもしれないが、先日、9月15日(木)の正午に漸く、情報が解禁された。

 

同曲は福山雅治や柴咲コウ、佐藤竹善、中森明菜……など、数多の歌手にカヴァーされているが、“誰も俺を超えてない”と断言する。誰もが知る名曲を本人の歌唱で聞くことができる。こんな贅沢なことはないのではないだろうか。

 

不世出の天才編曲家・大村雅朗(9月23・24日に大村の故郷、福岡で開催される『大村雅朗没後25周年トリビュート公演』に24日、大澤も出演する)のアレンジを踏襲しながらも現代的な解釈を加え、大澤が心と気を込め、歌う。その歌いぶりはたまらなくセクシーである。さっきまでブルガリアヨーグルトにマユネーズを入れると美味いなんて、言っていたのが信じられないくらいの男前ぶりだ。会場は大澤の歌に包まれ、心と身体に大きな余韻を残す。

 

同曲を歌い終えると、山下もステージに戻って来る。大澤が2016年に山下のデビュー30周年記念に提供し、30周年記念アルバム『山下久美子 オール・タイム・ベスト Din-Don-Dan』に収録された「Din-Don-Danホラ胸が鳴る」を歌う。モータウンのリズムパターンを敷衍した軽快なナンバーである。大澤がモータウンタイプのコーラスを付け、それも相まって彼女のチャーミングさが溢れ出していく。大澤は山下のキャリアの要所要所に道標のように山下へ曲を書いているが、同曲もそんな節目の曲ではないだろうか。

 

会場が歓声と拍手で沸く中、大澤と山下は椅子に座りカヴァーソングを歌うことを告げる。何故か、同曲を大澤と山下の二人で旅番組に出演し、その番組のために日光で歌ったという。その歌とは、2013年にリリースされている山下久美子&大澤誉志幸の初のコラボレーション・アルバム『&Friends』に収録されたスタンダードナンバーとして時代を超え多くの人に愛される名曲「Somewhere Over The Rainbow」だ。

 

バッキンガム宮殿にWレインボー、虹がかかったことを話し、同曲を歌い出す。時々、フェイクを入れながらもスタンダードの名に恥じない熱唱である。そしてどこか、高貴な気品が漂う。そのステージを見ていて、大澤と山下の秋めく装いと歌と演奏の豪華絢爛さは昭和の時代、大人のための音楽番組として一世を風靡した『サウンド・イン“S”(Sound Inn "S")』(1974年4月から1981年3月までTBS系列局で放送されていた。放送終了から34年後の2015年4にBS-TBSでそれを引き継ぐ形で『Seiko presents Sound Inn "S"』として新たな音楽番組が放送されている)に通じるものがあるのではないかと思い出していた。いまなら『SONGS』や『ミュージックフェア』かもしれないが、それらに比べると、『サウンド・イン“S”』は不必要にゴージャスだった。高度成長とバブルの狭間のあだ花的な番組かもしれないが、ある種の豊かさや華やかさ、遊びや挑戦はエンタテインメントには必要だ。二人のステージを見ていて、なんて豪勢な時を過ごしているのだろうという感慨を抱く。

 

同曲を終えると、大澤は“バンドを解散して、ブランクの時に良い歌詞があって、それに曲をつけた。すごい曲。いいアルバムだよ”と語り、下田逸郎が歌詞を書き、大澤誉志幸(当時は大沢誉志幸)が曲をつけ、山下の4枚目のスタジオアルバム『抱きしめてオンリィ・ユー』に収録された「時代遅れの恋心」を山下が歌い出す。この曲を聞くと、この日、歌うために大澤が書いたのではないか、と感じてしまう。40年も前の曲が、この不確かで不安な時代にリアルなものとして響く。スタンダード足りえるには良質のノスタルジアは必要かもしれないが、それは懐かしのメロディーなどではない。古くて新しい、永遠のスタンダードというべきものだ。

 

観客は名曲の嵐に心と身体を持っていかれる。マスクで顔は覆われているが、誰もが満ちたりた顔をしている(推測!)。大澤のソングライターとシンガーとしての“才能”、そして山下のシンガーとしての“魂”を目の当たりにする、最強の二人がいまも同じステージに立ち、その歌を聞くことができる。

 

この日、披露された楽曲は「バスルームから愛をこめて」や「シャンプー」、「LOVERステッカー」、「赤道小町ドキッ」など、4曲を除けば、すべて大澤誉志幸が書いている。時代を超える名曲を衰え知らずの声を持つ歌手が弾けるように熱唱し、信頼できる音楽家がそれを支える――そんな奇跡の瞬間に立ち合えることに感謝すべきだろう。

 

二人は感謝と再会の言葉を残し、午後9時5分過ぎにメンバーとともにステージから消える。70分ほどのステージながら濃密で上質な時間を考えれば、それは充分過ぎるものではないだろうか。

港の夜景ばかりに気を取られていたが、天を見上げれば中秋の名月が煌めく夜、音楽の豊潤と贅沢を味わい尽くす。この日、横浜へは車で来ていた。帰りは遠回りして、月夜のドライブを楽しむことにした――。

 

 

 

2022/9/10(Sat)

大澤誉志幸&山下久美子

「Best of ❤︎POP&★SOUL ~明日に向かって歌え!!」

ビルボードライブ横浜

G: 後藤秀人

Key: 青木康和

B: 時光真一郎

Dr.: 椎野恭一

 

 

M1.ラ・ビアン・ローズ(サンバヴァージョン)

M2.今宵かぎりのcheek to cheek

M3.LOVERステッカー

 

MC

 

M4.バスルームから愛を込めて

M5.シャンプー

 

MC

 

M6.ガラス越しに消えた夏

 

MC

 

M7.赤道小町ドキッ

M8.stop&ギミーラブ

M9.ちょい待ちBabyなごりのキスが

M10.こっちをお向きよソフィア

M11.ゴーゴ―ヘブン

 

Enc. MC

M12.そして僕は途方に暮れる

M13.Din-Don-Danホラ胸が鳴る

M14.オーバーザレインボー Somewhere Over The Rainbow

M15.時代遅れの恋心

 

 

『そして僕は途方に暮れる』公式サイト (happinet-phantom.com)

 

大村雅朗25th メモリアルスーパーライブ (srptokyo.com)