新生・頭脳警察、始動!――PANTA暴走対談VOL.5 PANTA×町山智浩×切通理作 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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暴走というか、町山智浩のあおり運転を笑顔で応えるPANTAにドライブレコーダーの如く、記憶し、運転支援システムのように注意喚起する切通理作というところだろうか。先日、2月17日(日)に東京・渋谷「LOFT9」で開催された頭脳警察の誕生50年を記念するシリーズ・イベント「PANTA暴走対談LOFT編  VOL.5PANTA×町山智浩×切通理作『衝撃の一夜のアフター6…奇跡の3人が語り尽くす!』」。
 
アメリカ在住のジャーナリスト&映画評論家、町山智浩が昨2018年12月3日(月)にTBSラジオ『アフター6ジャンクション』で、「町山智浩presents もうすぐ結成50周年!『頭脳警察』歌謡祭2018」!」という頭脳警察の特番を担当。週明けの月曜日の夕方に「世界革命戦争宣言」や「銃をとれ」を流すという“事件”を起こす。放送禁止ではないものの、放送注意、放送自粛の歌ばかりがなんのお咎めもなく公共の電波に乗る。いろんな意味で、怖い世の中かもしれないが、“快挙”(“暴挙”か!?)といっていいだろう。本2019年2月1日の同じくTBSラジオの『LIVE & DIRECT』での頭脳警察のスタジオ・ライブに繋がった。
 
そんな“余波”を受けての今回の“アフター6”。切通は作家、評論家、編集者、映画監督として活躍、彼の編集したエヴァ本『ぼくの命を救ってくれなかったエヴァへ』にはPANTAが寄稿している。切通は陰謀史観に基づく遺跡、遺構を探すため、PANTAの発案&運転(!)によるツアーにもライターの今拓海や写真家の吉田シギーらとともに同行している。
 
町山の乗った飛行機が3時間遅れるというハプニングのため、開演時間が遅れるものの、無事にPANTA、町山、切通が揃い踏み。それらしい仕切りがあるかと思ったら、いきなり、町山の頭脳警察愛、PANTA愛が炸裂、オタク特有の話を聞いたり、流れを読んだりすることなく、怒涛の如く話しまくる。頭脳警察時代の日劇事件(!?)や三里塚の幻夜祭からスコセッシ、黒澤明、本多猪四郎、『傷だらけのアイドル』、『グラントリノ』、『狂い咲きサンダーロード』、『サスペリア』、ポール・ジョーンズ(マンフレッド・マン)、マリアンヌ・フェイスフル、スージー・クアトロ、そしてお得意の銃器や車の話まで、観客を置き去りにしつつも快調(豪快!?)に飛ばす。SNSでは暴走ではなく、脱線という表現もあったが、ある意味、博覧強記の町山とそれに比肩しうる元祖オタクのPANTAだからこそ、広がる世界もあるのだ。具体的に書くのは憚られるが、町山とPANTAの会話から頭脳警察やPANTAの歌の世界が新たな景色や意味が広がる。グァダニーノの『サスペリア』とPANTAの『クリスタル・ナハト』を同時に語る――この機会がなければ絶対、実現しなかっただろう。
 
PANTAや頭脳警察の音楽はただ、そのまま、情感や情緒で聞いていてもそれなりに楽しめるし、人の琴線に触れるものもある。しかし、“解説”や“手引書”があると、もっと楽しめる。その作品の世界観も大きな広がりを持つ。ある種、特殊な作品かもしれない。英米であれば当たり前も人生の応援歌や青春賛歌が横行する日本では異質なものになってしまう。音楽的な素養だけでなく、文学や歴史、映画、演劇などを精通していれば、その歌詞の意味するものも深みもわかってくるというもの。それには広範な知識の蓄積が必要だが、果せるかな、町山や切通はそれを持っている。町山に『〈映画の見方〉がわかる本』という著書があるが、まさにその通り。PANTAの〈音楽の聞き方〉がわかって来るというもの。彼はPANTAの音楽に新たな視点を与えてくれるのだ。この日もたくさんの気づきや発見があった。観客も時々、脱線する暴走機関車のような進行に戸惑いつつも彼の発言のひとつ、ひとつに大きく頷く。PANTAも町山の容赦ない(!?)カウンターに本音や真実が駄々洩れする。
 
 
50周年という記念すべき時に改めて彼らの存在の重要性を感じている。PANTAの世界は前述通り、通常の音楽評論の手法や話法だけでは太刀打ちできず、それだけだと零れ落ち、語り切れない。彼らはアウトサイダーながら様々な角度から光を当てることで、新たな面を見せ、その魅力を紐解いでいく。実は、過去に仕事をともにした今拓海と吉原聖洋というPANATAの最上の理解者にして、最強の解説者がいた。しかし、彼らは既にこの世にはいない。2016年、2018年に相次いで亡くなった。そのことに胸が痛む。今はPANTAのファンクラブの会報に用語解説を書き、ファンの間では誰もが知る存在だった。1990年の1年間期間限定で頭脳警察が復活した際には作家の奈良裕明とともにドキュメンタリー『頭脳警察1990-1991』を書き上げている。今には「ネフードの風」に導かれ、『地図にない国からのシュート』というパレスチナ問題をサッカーという視点から取材、執筆した著書があり、後にPANTAがパレスチナへ行く際には彼が水先案内役となった。吉原はいうまでもなく、私が最も信頼するライターであり、私が関わった雑誌ではPANTAの取材は主に彼へお願いしていた。PANTAの毀誉褒貶の“スウィート路線”を支持した数少ない音楽関係者でもあった。2017年に再発された頭脳警察の『頭脳警察セカンド』とPANTA&HALの『マラッカ』のライナーノートも書いている。もし、今や吉原が存命であれば、どんな言葉を紡いだかと思うと、悔しくもある。彼らの慧眼によって、いろんな解釈がされ、その世界を飛翔させたはずだ。亡き友のことを思い、同時に町山智浩と切通理作がいてくれて良かったと感じる。
 
暴走対談、いきなり2時間を超えても止まることを知らず。途中、TOSHIが時間です、と、ステージに上がる始末。実は、この日は暴走対談だけではなく、お楽しみがあったのだ。TOSHIに急かされつつも終わる気配がないので、強制終了。この3人による暴走対談は第2弾、第3弾もありそうだ。まずはドミューンで行われるようなので、頭脳警察のHPなどをチェックしてもらいたい。
 
対談後、この日は50周年記念ヴァージョンの頭脳警察のお披露目があった。既に2月3日(日)のPANTAとTOSHIのバースディ・イベント『頭脳警察50周年OPENING PARTY PANTA&TOSHI69歳=ROCK YEAR 生誕祭』も登場しているが、正式なお披露目はこの日が初めてになる。PANTAとTOSHIとともに黒猫チェルシーの澤 竜次(Guitar 28歳)と宮田 岳(Bass 28歳)、そして元・騒音寺の素之助(Drums 29歳)が登場。3人とも20代で、ルックス重視(!?)で選んだらしいが、その精悍で清新な佇まいは新生・頭脳警察に相応しい。1990年にザ・グルーヴァーズの藤井一彦(Guitar)やマルコシアス・バンプの佐藤研二(Bass)、Theピーズの後藤マスヒロ(Drums)を従えて活動したことを彷彿させる。会場の関係で、大音量では演奏できず、アンプラグド的なステージになったが、そのソリッドでシャープな演奏(敢えて音楽的な話法を使用する!)は大いに期待を抱かせる。30分ほどながら「銃を取れ」や「ふざけるんじゃねえよ」、「万物流転」、「戦士のバラード」、「さようなら世界夫人よ」など、新旧の名曲が披露される。「戦士のバラード」は、「戦士のバラード(改)」というもので、まだ、歌詞や曲の変更などもあるようだが、新生頭脳警察の新曲である。胸の刃をなくしたらダメだ、傷口は涙で洗え、疲れたら休めばいい、倒れたら夢を見ればいい――と、歌われる。50年目の頭脳警察に自ら鼓舞するような歌だろう。いろいろ、深読みが可能かもしれないが、正式ヴァージョンを楽しみに待つしかない。しかし、彼らの登場は鮮烈。何かが始まる予感と期待がそこにある。ようやく50年目が始まったような気もする。
 
頭脳警察の始動に合わせ、彼らのドキュメンタリー映画も進行している。既に宮藤官九郎や浦沢直樹、春風亭昇太などのコメントももらっているようだ。PANTAも出演した『いぬむこいり』を監督した片嶋一貴をプロデューサーに、同作の助監督を務めた末永 賢を監督に撮影に入っている。クラウドファンディングに制作されるという。まだ、同ファンドに関しての詳細は未定ながら、これも頭脳警察のHPなどで公開されるという。
 
 
新生・頭脳警察は4月7日(日)に東京・新宿の花園神社「水族館劇場」でのライブが決まっている。彼らの動きから目が離せそうもない。活動が楽しみであり、町山智浩や切通理作の“乱入”も期待したいところ。50年目の頭脳警察が見られるなんて、行幸だろう。長生きはするものだ。“彼ら”のためにも確と楽しみながら伝えてやる――。
 
 
PANTAX’S WORLD│PANTA・頭脳警察オフィシャルサイト