『葡萄畑 de 孤独のグルメ!』ーー――モダン・ポップねじれて45年! | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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すっかり、ご報告が遅れた。来年のことを言うと鬼が笑うというが、去年のことを言うと鬼が怒るかもしれない。ごめんなさい。昨2018年12月7日(金)、東京・青山のライヴハウス「月見ル君想フ」で開催された『「葡萄畑 de 孤独のグルメ!」~伝説のロックバンド葡萄畑、スクリーントーンズと奇跡の共演~』を見た。昨年は嬉しいことに3回も葡萄畑のライヴを見ることができた。1月15日(月)に東京・原宿「クロコダイル」でシネマと行ったツーマンライヴ『葡萄成人映画祭2018 at 原宿クロコダイル』、8月3日(金)に青山「月見ル君想フ」で開催した『デヴュー45周年葡萄畑BOX発売記念ライヴ「RETROSPECTIVE 大回顧展」』に続き、3度目である。デヴュー45周年といいつつも、彼らをして“絶滅危惧種的”なペースでのライヴの回数だけに1年に3回も見れるなんて、行幸といっていいだろう。
 
彼らがひっちゃき、しゃかりきなのは昨2018年7月にCD4枚組のデヴュー45周年記念BOX SET『葡萄畑BOX RETROSPECTIVE』をリリースしたからだ。葡萄畑は1974年にカントリー・ロック系ファースト・アルバム『葡萄畑』、1976年にモダン・ポップ系セカンド・アルバム『スロー・モーション』と、明らかに人格の違う2枚のアルバムを発表する。ともに名盤としての高い評価を獲得。また、ギャグ漫画『がきデカ』の主題歌「恐怖のこまわり君」をスマッシュヒットさせ、キャラ崩壊を繰り返しつつ、脚光を浴びるも突如として活動休止。その後、2002年にこれまた突如、復活ライヴを敢行。その後、2004年にはサード・アルバム『King Of Recreation』を発表している。上記の3枚のオリジナル・アルバムに当時のライヴ・テイクやレア・トラックをボーナス・ディスクとして収録した4枚組が『葡萄畑BOX RETROSPECTIVE』。
 
いつに増してのやる気は前述通り、“アニヴァーサリー”ゆえのことだが、世の中も彼らを求めているような気がしてならないのだ。葡萄畑のフロントマンであり、かつてはポリドール・レコードで制作を担当していた青木和義。彼が同時代に担当していた松尾清憲やパール兄弟などが“モダン・ポップ”の命脈を受け継ぎ、現在へ伝えている。
 
また、海外でも現在のモダン・ポップというべき音楽群が生まれてきている(と、勝手に解釈している)。ロキシー・ミュージックや10CC、スパークス、セイラー、デフスクール、カフェジャックス…などのグラム・ロックとニュー・ウェイブの端境期に登場してきた音楽が源流にあるが、直接、影響を受けたと明言をしてないものの、Passion Pit(パッションピット)やGrouplove (グループラヴ)、The Lemon Twigs (ザ・レモン・ツイッグス)などにモダン・ポップとの親子関係というか、祖父母と孫の関係を感じざるを得ない。勿論、その前後にはJellyfish(ジェリーフィッシュ)やThe Lightning Seed(ライトニングシーズ)、World Party(ワールドパーティ)などの存在も欠かせないだろう。この辺の音楽に関しては、かの『STRANGE DAYS』の岩本晃市郎編集長が詳しいので、彼の著書などを当たっていただければいいだろう。
 
同時にかのシティ・ポップの源流と重なる部分も感じている。葡萄畑の『スロー・モーション』を聞くと、後のキッド・クレオールこと、オーガス・ダーネルがいたDr. Buzzard's Original Savannah Band(ドクター・バザーズ・オリジナル・サヴァンナ・バンド)が浮かぶ。ビッグバンド・ジャズ、ジャイブ、カリプソ、キャバレー・ミュージック、ミュージカル、ポップス…などをごった煮、そこにニューヨークのクラブの乗りを味付けしている。お洒落な音楽だが、どこか、まがい物臭さ、うさん臭さが付きまとう。リリースは同じ76年(『スロー・モーション』 は1976年7月発売、サヴァンナ・バンドのデビュー・アルバム『Dr. Buzzard's Original Savannah Band』は1976年2月2日から3月4日までにレコーディングされているらしい。発売日がわからないが、おそらく『スロー・モーション』よりは先だろう)だから、“いただいた”のか、“いただいていない”のか、わからないが、非常に親戚関係的な近しいものがあるのだ。
 
青木に疑惑(笑)を改めて確認したところ、『スロー・モーション』の制作時期は、1975年の夏頃から1976年の2月か3月頃までだという。Savannah Bandに関しては、当時購入した輸入盤を持っているが、記憶がはっきりしないものの、アルバムの制作時に、Savannah Bandを聴いた事はないようだ。ただし、かの今野雄二宅で、『スロー・モーション』発売前後に、聴かせてもらった記憶は、うっすらとあるらしい。いずれにしろ、時期的に“いただく”ことは不可能で、Savannah Bandまんまのテイストは『スロー・モーション』には反映されていない。しかし、そのシンクロニシティには驚くばかり。偶然の一致かもしれないが、Savannah Bandと同じような音楽的な背景や方法論があったのではないだろうか。

Savannah Bandのデビュー当時、先の今野雄二を始め、加藤和彦の界隈では、同バンドのことが持ちきりで、いろんなところに流用(失礼!)されたという。竹内まりやの「戻っておいで・私の時間」も“親戚筋”らしい。後年、今井裕に聞いたところ、サディスティックスのアルバムや大空はるみのアルバムなどを作る際に意識していたという。いわゆるトロピカル感覚というやつだが、あくまでも現地での地産地消的なものではない。今井裕の『A Cool Evening』のジャケットの椰子の木が書き割りなのは、どこかに作り物という自覚があり、気恥ずかしさみたいなものもあったからだろう。
 
そんなトロピカル感覚は昨今、注目を浴びるシティ・ポップのアイテムでもあった。当時、世間はトロピカル・サウンドを追い求めていた。多少、前後するが、椰子の木や珊瑚礁、ビーチなどがキー・ビジュアルに使用されていた。葡萄畑はシティ・ポップの源流であると強引に結びつけるが、シティ・ポップの流れで聞いてもしっくりくる。時代やジャンルを超え、新たに求められるのも納得というもの。現在進行形のモダン・ポップは懐古と郷愁に同時代性をしっかりと併せ持つ。昨2018年に見た彼らは、まさにそういう存在だったのだ。
 

枕が長くなったが、昨2018年12月の『「葡萄畑 de 孤独のグルメ!」~伝説のロックバンド葡萄畑、スクリーントーンズと奇跡の共演~』のことを書いておく。スクリーントーンズはご存知、松重豊主演のドラマ『孤独のグルメ』の原作者、久住昌之率いるバンドで、同ドラマの音楽も担当している。彼らのライヴは未見、CDも未聴ながら、ドラマで耳に馴染んだ音がたくさん出てきた。かの多羅尾伴内楽団的なインストと、高田渡を彷彿させる吉祥寺臭を漂わすフォーク風味の歌を聞かせる。独特の存在感を放つ。葡萄畑のファースト・アルバムに通じる牧歌と土着、葡萄畑のセカンド・アルバムに通じる洗練と洒脱が共存する。葡萄畑とスクリーントーンズはまったくの初共演。このイベントに関わった方が共通の知り合いで、彼が橋渡し役を務めたのようだ。青木自身も交際範囲はかなりクロスしていて、いままで交流がなかったのが不思議だという。初対面ながら意気投合。また、何か一緒にしようと約束しあったそうだ。葡萄畑のオープニング・アクトとしては絶妙のキャスティングではなかっただろうか。
 
この日の葡萄畑は、青木和義(Vocal, BGV & Mandolin)、本間芳伸(E.Guitar & BGV)、河合誠一マイケル(Drums)というオリジナル・メンバーに青木のバンド、Banda Planetarioの宮内陽輔(Vocal, BGV, Ukulele & Blues Harp)と秋久ともみ(Violin, BGV & Sleigh Bells)、そして今回、オリジナル・メンバーの佐孝康夫が不参加のため、彼に代わり、宮内の盟友で、MORE THAN MANなどのサポートをしている作曲家&編曲家&トラック・メイカーの縄田寿志(Keyboards)、さらに現在、青木が制作に関わるGliderの栗田マサハル(Vocal, BGV, E.& A.Guitar)、ポリドール時代に担当した山岡恭子(Vocal、BGV、Accordion、Keybords)などを加え、総勢9名という“グランド葡萄畑”状態。演者や歌手が目まぐるしく入れ替わり、千変万化する姿を見せてくれる。「かねてから考えていたんだが」と「ぐるぐる」を栗田マサハル、「メキシカン・ハネムーン」を宮内陽輔、「ロデオに遅れたカウボーイ」を山岡恭子が歌う。“メキシカン”と“ロデオ”という、葡萄畑の決定的な名曲のリード・ヴァ―カルを若手に譲るなど、懐が深い。流石である。
 
披露された楽曲はBOX SET仕様。ファーストからサードまでを網羅し、かつ、未発表曲もある。葡萄畑の45周年を自ら締め括ろうかというベスト・オブ・ベストという満漢全席ぶりだ。改めて、葡萄畑の節操のなさというか、多様性を感じさせる。モダン・ポップといいつつもカントリー・ロックもシティ・ポップもある。しかも、それがどれも様になっている。ムーンライダーズの鈴木慶一をして、「私たちの20年の歴史のなかでたった一度だけ、先を越された」と言わしめるだけのことはあるだろう。
 
また、彼らの立ち位置も独自である。元々は上智大学の学生が集まったバンドだが、大学の夏休みにメンバーの武末充敏の故郷である福岡で合宿(!?)。伝説のライヴハウス「照和」やRKB毎日のラジオ番組『スマッシュ!! 11(スマッシュ・イレブン)』に出演している。実は青木によると、それらの出演は彼が福岡合宿に到着する前のこと。青木が福岡合宿に参加要請されたのは、『RKBスマッシュ!! 11』主催のライヴに出演した時、番組プロデューサーが葡萄畑の楽曲や雰囲気に驚き、デモ・レコーディングをしようと声を掛けて来たからだという。マンドリンやバンジョー、アコギ、コーラスなどの担当として、彼が必要となって、電話連絡してきたとのこと。青木は、“葡萄畑の正式メンバーではなく、作曲担当&特殊楽器担当な感じで、ゆる~く参加していただけだった”という意外な事実も判明。そして、青木が合流。まずは香椎球場で開催された野外イベント(『フォーク大集合福岡夏まつり』)に出演、その後RKBのスタジオでデモ・レコーディングをしている。葡萄畑には福岡ルーツもある。めんたいロックとは違う博多産だったのだ。
 
さらに小坂忠のバッキングもしていた。彼とともに『HOBO’S CONCERTS』へも出演している。当時、小坂忠、細野晴臣、麻田浩、和田博巳が狭山の米軍ハウスに住んでいた。葡萄畑も人脈的にはその仲間に入っていても不思議ではないが、彼らは中央線・東横線・総武線の沿線に住んでいたそうだ。小坂との接点は高円寺のジャズ喫茶「ムーヴィン」(大瀧詠一が伊藤銀次を介して山下達郎が出会う切っ掛けになった伝説の場所)で和田と親しくなっていたので、その流れではないかという。ちなみに当時の狭山の米軍ハウスでの人間模様 は麻田浩と奥和宏の共著『聴かずに死ねるか! 小さな呼び屋トムズ・キャビンの全仕事』(Rittor Music)にも出ている。読んでみてもらいたい。
 
絶滅危惧種的なペースの活動ぶりながらいろんなところへねじれながら顔を出す。まるでウディ・アレンの“カメレオンマン(Zelig)”のようだ。46年目になる2019年もいろいろと企みがあるらしい。彼らのFBページには元号が変わる5月1日以降の動静に注目とある。どんなことを企てるのか。楽しみでならない。それまではBOX SET『葡萄畑BOX RETROSPECTIVE』で予習・復習をしておこう。
 

■SET LIST
1.お嬢さんお手やわらかに(2nd Album『スロー・モーション』収録)
2. ねぢれ男(『葡萄畑BOX』DISC4ライヴ音源収録)
3. かねてから考えていたんだが(1st Album『葡萄畑』収録)
4. ぐるぐる(1st Album『葡萄畑』収録)
5. チャイルド演歌(3rd Album『King Of Recreation』収録)
6. ロデオに遅れたカウボーイ(2nd Album『スロー・モーション』収録)
Featuring Lead Vocal by 山岡恭子
7. メキシカン・ハネムーン(2nd Album『スロー・モーション』収録)
Featuring Lead Vocal by 宮内陽輔
8. TELEVISION(未発表曲)
9. 宇宙の真理(3rd Album『King Of Recreation』収録)
10. 私は女(3rd Album『King Of Recreation』収録)
Encore
11. 夕飯は御仕舞(1st Album『葡萄畑』収録)

■MEMBER
青木和義:Vocal, BGV & Mandolin
本間芳伸:E.Guitar & BGV
河合誠一マイケル:Drums
石村順:Electric Bass
山岡恭子:Vocal, BGV, Accordion & Keybords
縄田寿志:Keyboards
宮内陽輔:Vocal, BGV, Ukulele & Blues Harp
栗田マサハル:Vocal, BGV, E.& A.Guitar
秋久ともみ:Violin, BGV & Sleigh Bells