モダン・ポップ魂は永遠不滅――松尾清憲『世界は物語で出来ている』 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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先月、126日(土)、27 日(日)は穴井仁吉の『MAXIMUM DOWN PICKER 穴井仁吉 12x5 Years Old Birthday』で、“めんたいロック”三昧。福岡の音楽シーンの奥深さを改めて再確認する機会となった。至福の2日間だったのだ――と、同イベントのことをまた、書くなんて、こいつ、惚けたのかと思われるかもしれないが、そんなことはない。別のイベントのことを書くので、ご安心あれ。

 

福岡というと、かつては“日本のリヴァプール”なんて言われたこともあった。めんたいロックから遡ること、10年ほど前。70年代に井上陽水やチューリップ、甲斐バンド…などが続々とデビューした。ビートルズ由来のポップスの宝庫だった。いまではあまり、そういう表現はされなくなったが、その水脈は現在も流れ続けている。そんなことを再確認する契機になるであろうイベントが同じく126日(土)、福岡のライブハウス「ゲイツ9」で開催された『松尾清憲のPOPNROLL CIRCUS 2019』だ。当然、東京にいたため、見ることはできなかったが、そのラインナップは松尾清憲をメインにゲストに杉真理、伊藤銀次、そして、THE GOGGLES。オープニングアクトはえとぴりか&The Fathers OF Invention。見てもいないので、見たようなことは書けないが、1週間ずれていたら、行きたかった、と心底に思う。松尾、杉はともに福岡出身にして、いうまでもなく日本のビートルズ、BOXのツートップ。そして杉と伊藤はご存知、“奇跡のトライアングルの軌跡”仲間にして、“リヴァプール兄弟”。これまた、いうまでもなく“ナイアガラ・トライアングル”の“Vol.2”と“Vol.1”というねじれた関係。さらに日本のラトルズといわれるTHE GOGGLES。彼らのライブは2016年、ザ・ロッカーズの福岡公演の際に福岡の天神を中心に同時多発的に開催されていたストリート・ライブ『MUSIC CITY TENJIN2016』で見ているが、パロディではなく、パスティーシュ。聞いていて、にやりとさせられた。豪華絢爛の布陣による、まさにファン垂涎のイベントだったのだ。

 

 

残念ながら『松尾清憲のPOPNROLL CIRCUS 2019』は見れなかったが、111日(金)、東京・表参道「GROUND」で開催された松尾清憲 ニュー・アルバム発売記念ライブ『世界は物語で出来ている』は見ることはできた。実はこの日が私にとって、2019年の初ライブ(実際は“ニューイヤーズワールドロック・フェス”を見ているが、年越しだから敢えて除外しておく)。翌々週、119日(土)は山下達郎の新宿ロフトの“アコースティック・ライブ”を見ているから、新年早々に連続の眼福、耳福である。

 

松尾の新作『All the World is Made of Stories(2018926日発売)は、彼にとって11枚目のソロ・アルバムであるとともに冒険作でもあるのだ。掛川陽介&本澤尚之(from Language)をサウンド・プロデュースに迎え、オルタナ&エレクトロニカへ挑んでいる。ゲストには鈴木さえ子、姫乃たま、鈴木博文(ムーンライダーズ)、LanguagekaoriMasaaki Kobayashiが参加している。実は、この日のライブもいつものVelvet Tea Setsではなく、掛川陽介(GCho)&本澤尚之(DJComputer)を始め、小泉信彦(Kb)、かわいしのぶ(B)、平田崇(G)、岡田梨沙(ChoPerc)、小林聖明(Dr)というメンバーに同作にも参加した鈴木さえ子(VoDrAccordionGlockenspiel)がゲストとして出演。

 

同ライブは新作『世界は物語で出来ている』から全曲を披露するなど、“完全再現ライブ”とでもいうべきもの。“電化”という冒険は “人力”という 匠の技が加わることで、輝きを増していく。松尾流のモダン・ポップとエレクトロニカは、その先取制や近代性において、相性がいいと思っていたが、まさにその通り、よく嵌まる。その装飾に溺れることなく、楽曲の基礎体力、体幹が確固たるものゆえ、揺るぎない。メロディーメイカーとしての天賦の才を際立ててこそあれ、単に目先を変えることに堕していないのだ。進化や変化の線上にエレクトロニカがあったということだろう。

 

新たな名曲たちが躍動していくと同時に「愛しのロージー」や「僕が蒸気のようにとろけたなら」など、これまでの名曲も装いも新たにしつつ、エバーグリーンの魅力を放つ。SNSで多くの方が書かれているが、新作に収録された「恋するテレフォン」からシネマの「電話・電話・電話」への繋ぎは一気に未来と過去を結び、歴史をひとっとびする。白眉ではないだろうか。松尾清憲という音楽家の普遍性・不変性を物語る。

 

鈴木さえ子の参加が華やかさと賑やかさと彩りを加えていく。ヴォーカルからドラム、アコーディオン、グロッケンまでと、八面六臂の活躍。ゲストというには出過ぎ(笑)。しかし、彼女によると、当初は文字通り、ゲストの予定だったが、メンバーで負傷したものがいたため、その分まで彼女が急遽、務めることになったという。友達が困った時、駆けつける――現在進行形の“Youve got a friend”であり、松尾清憲と鈴木さえ子という、かつてシネマのバンド・メイトであった二人ならではのバンド・ストーリーでもある。松尾は最新作で“世界は物語でできている”と歌う。この日、演奏された曲たちに物語があり、それらの物語が重なり、新たな物語を紡ぐ。そこには冒険と挑戦と友情と成長の物語があった。

 

 

このところ、還暦を迎えるアーティストが多く、60歳を一区切りとして、新たなスタートを切るものも少なくない。しかし、それは60に限らないだろう。実際に70歳を前後に新な世界を見せてくれるアーティストもたくさんいる。鮎川誠やPANTATOSHIなど、“AROUD 70”になるも衰え知らず。鮎川は友部正人、三宅伸治とともに3KINGSで新境地に挑み、PANTATOSHIは本2019年の頭脳警察50周年に向けて、新作の発表やライブ、イベントなど、いろいろと企てている。松尾清憲はシネマでのデビューが1980年のため、若手(!?)に思われがちだが、1951125日生まれ。齢67である。一緒にするなと言われそうだが、彼もまた、70を前に変化を恐れない。進化していく様を見せてくれる。この日、そんなことを改めて感じた。モダン・ポップの進化系を確と見せてくれたのだ。松尾の“モダン・ポップ魂”は永遠不滅である。