「狼よさらば」(1974)

 

没後20年目の命日ということで、ブロンソンの代表作をU-NEXTで久々に観ました。

 

 

監督はマイケル・ウィナー。予告編はコチラ

 

愛妻とのラブラブバカンスを終えたポール・カージー(チャールズ・ブロンソン)。NYの一流建築士としての仕事中、妻ジョアンナ(ホープ・ラング)娘キャロルが自宅で暴漢に襲われて入院したとの一報が届きます。娘の夫ジャクソン(スティーヴン・キーツ)と病院に駆けつけると、娘の命は助かったものの、妻ジョアンナは死亡と聞かされて呆然とするポール。葬儀を終えて、悲しみを打ち消すかのように早々に職場復帰。警察の捜査は全く進展せず、犯人が見つかる可能性はかなり低いとのこと。見るに見かねた社長がちょっとした気晴らしになるようにとテキサス方面への短期出張を命じて、NYをしばらく離れるポール。現地の仕事仲間に誘われて射撃場に行って、狙撃の素質がある意外な一面を見せます。

 

リフレッシュしてNYに戻ったポールですが、娘が植物人間のように心を閉ざしたままであることを聞いて愕然とします。やり場のない怒りがメラメラと燃え上がった時、テキサスの仕事仲間からプレゼントされた銃を手に取って、チンピラがうろつく夜の街を彷徨います。絡んできたチンピラ射殺して家に逃げ帰って、恐怖に怯えると同時に快感を覚えるポール。この日を機に、ポール街のダニ一人ずつ始末する一人自警団となっていきます。この物騒な話題に飛びついたマスコミ正体不明の殺人者を英雄視。といっても、警察は4件の連続殺人を見過ごすわけにはいかず、オチョア警部(ヴィンセント・ガーディニア)を中心として捜査に本腰を入れていきます。現場に残された証拠等で犯人をポールと断定したオチョア警部。やがて、第5の犯罪に手を染めようとするポールの運命は・・・というのが大まかなあらすじ。

 

原題は「Death Wish」。殺人願望と自殺願望の両方の意味があるかと思います。邦題はブロンソンのヒット作「さらば友よ」「狼の挽歌」をくっつけた安直なネーミング。でも、なんとなくの雰囲気は映画とマッチしています。中産階級の奥さんがスーパーでお買い物。商品は家に届けてちょうだいと店員に告げて、自宅住所を書いた紙を買い物が入ったダンボール箱に入れて去って行きます。その紙を見てしまったのがチンピラ三人組(その中の1人がジェフ・ゴールドブラム)。配達を装って家に押し入って、妻と娘に暴行を働きます。このへんの暴力描写はNYの殺伐とした空気と相まってリアルな怖さを感じます。大勢の利用者がいる大都会のスーパーゆえ、店員もレジで三人組に威嚇されたにも関わらず、犯人の顔を全く覚えていません。防犯カメラが商業施設に普及するのは1980年代に入ってからなので、映像も残っていません。

 

善良な市民に危害を加えようとしているチンピラなんて殺してしまえばいいという心理に陥って、ポール・カージーに感情移入してしまうところが、本作のストレートで危険な魅力。最愛の者を踏みにじられた哀しみを芝居じゃなくて、顔(のシワ)で表現しているように思わせるブロンソンの顔力が素晴らしく、怒ってる時も同じ表情で通用する万能さがあります。当初は、シドニー・ルメット監督で、ポール・カージーにジャック・レモン、オチョア警部にヘンリー・フォンダという布陣で構想されたとのこと。その後、クリント・イーストウッド、スティーブ・マックイーン、バート・ランカスター等も主役候補に挙がったそうです。のちにどんどんエスカレートしていくポール・カージー像をやれるのはブロンソンだけなので、結果的には良いキャスティングだったのかも。ラストの不敵な笑顔が示すように、その後も悲劇に襲われるたびにブロンソンの正義の銃が火を噴くことになります。