「天城越え」(1983)

 

少年が天城峠で田中裕子に会う映画をU-NEXTで観ました。

 

 

監督・脚本は三村晴彦。予告編はコチラ

 

昭和58年頃の静岡でのお話。印刷屋を営む小野寺(平幹二朗)に、元刑事の田島(渡瀬恒彦)が、昭和15年に起きた「天城山土工殺人事件」の刑事調書の印刷を依頼しに来ます。原稿を手にして激しく動揺した小野寺が当時のことを思い返します。下田に住んでいた14才の小野寺(伊藤洋一)は、母(吉行和子)の情事目撃したショックで家出。修善寺にいる兄を訪ねて天城越えの旅に出ました。道中で出会った行商人との交流があった程度で、すぐに下田に戻って来ただけのようですが、その日の天城峠ですれ違った土工が何者かに殺害されて、死体で発見される事件が発生していました。地元警察の現場検証によって、土工が遊女と一緒にいた事実が明らかとなり、小野寺が第一容疑者となっていた遊女と会っていたため、刑事が事情聴取にやって来ます。その刑事が若かりし頃の田島でした。

 

やがて、小野寺の目撃証言や現場に残された物的証拠で、遊女が殺人犯として逮捕されます。遊女の名前はハナ(田中裕子)ただならぬ色気を発しています。警察の執拗な取調べで、事件当日に土工と関係を持って金を受け取ったことこそ認めるも、殺人の容疑自体は否認。結局、決定的な証拠がなかったため、ハナは無罪、事件は迷宮入りとなったこと、ハナはその後、肺炎で亡くなってしまったことを年老いた田島から聞かされる小野寺。さらに、殺人現場近くにあった足跡が成人女性のモノであると断定してしまったのがミスで、犯人は少年だったのではという推理に達して、小野寺を訪ねに来たことを匂わせます。しかし、殺人事件の時効はすでに成立しておりました。小野寺はずっと封印していた、あの日に起きた真実を回想し始めるのであった・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1983年2月19日。同時上映は「砂の器」の再編集版。私が観たのは1985年2月27日の水曜ロードショー。三村晴彦の監督デビュー作で、師匠で脚本を共作している加藤泰譲りのローアングルも、小津安二郎風のショットもあり。少ない出番ながら、脇役陣も多彩で、行商人役に坂上二郎柄本明、峠付近の住民に北林谷栄石井富子石橋蓮司と樹木希林の夫婦車だん吉汐路章、警察官に佐藤允山谷初男伊藤克信、病院の先生に加藤剛、小野寺少年の母が吉行和子で、彼女と交わっているのが小倉一郎など。前半は天城峠のシーンでさえも美しいショットが少なく、特に、過去の話に現代性を持たせるためにあえて挿入しているという現代パートの風俗描写は蛇足で、安っぽい画作りにゲンナリ。でも、田中裕子が登場してからは雰囲気が一変。小野寺少年演じる伊藤洋一の好演もあり、二人のシーンは素晴らしく、天城峠の見映えもUP。というか、田中裕子が出ている全シーンが見どころかも。後ろ姿さえも神々しかったです。小野寺が最後にハナと見つめ合ったときの表情がベストショットかな。

 

天城山土工殺人事件の真相はというと・・・、二人きりで峠を歩くことになったハナの美しさに魅了された小野寺少年。兄さん(あにさん)と呼んで、しなだれる田中裕子。観ているこちらが嫉妬心を抱きます。土工を見かけたハナは小野寺と別れて、男の元に近づいていきます。稼ぐために体を売ろうとしていたわけですが、気になった小野寺が後を追って、草むらで交わってる二人見てしまいます。叔父と交わっていた母の姿がフラッシュバックした小野寺は、貪るようにハナをいたぶる土工に強烈な殺意を抱いて、ハナが去った後に土工に襲いかかって殺害に及んでしまいました。母と片想いの美女という、ベッドで他の男と寝ているところを見たくない二大女性の現場を見てしまった少年の忘れられない過去をめぐるお話でございました。