「3-4x10月」(1990)

 

監督北野武の第二作を再見しました。

 

 

脚本も北野武。予告編はコチラ

 

草野球チーム・イーグルスの補欠選手でガソリンスタンド店員の雅樹(小野昌彦)。職場で因縁をつけてきた大友組のチンピラ(小沢仁志)殴りかかったせいで慰謝料を請求されます。事情を聞かされたチームの監督の井口(井口薫仁)。普段はスナックのマスターですが、元大友組幹部という過去があり、今でもキレると無礼な客を殴る凶暴さを秘めている彼が雅樹のために事務所に乗り込んで事態の収拾に動いて、かつての手下の武藤(ベンガル)をボコボコにするも、数日後、返り討ちに遭って重傷を負います。そんな騒動をヨソに、喫茶店のバイト可愛い子ちゃん(石田ゆり子)を彼女にして幸せ真っ只中の雅樹でしたが、大友組に復讐してやるを息巻きながらも自宅療養で動けない井口に代わって、チームメイトの和夫(飯塚実)とともに拳銃を入手すべく、なぜか沖縄へ旅立つことになります。

 

アテもないのに沖縄にたどり着いた雅樹と和男は、地元ヤクザの上原(ビートたけし)と玉城(渡嘉敷勝男)と偶然出会います。組の金を使い込んで組と対立、一触即発状態で殺気立っている上原に惹かれて、金魚のフンのように行動を共にして、スナックでカラオケに興じたりビーチで戯れる無為な日々を過ごします。やがて、上原は共にアメリカ兵経由から銃器を購入、余った銃を雅樹たちに残して、組の事務所に乗り込んで組の幹部連中を射殺。雅樹と和夫が飛行機に乗って銃を持ち運ぼうと空港で待機していたところに玉城が現れて、世話になった礼として大量の金が入ったカバンを渡して去って行きますが、生き残った組員の報復で上原と玉城は空港の駐車場殺されてしまいます。一方、空港の警備を潜り抜けて、東京に戻った雅樹たちは大友組の事務所へ殴り込むのだが・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1990年9月15日。タイトルは草野球の試合のスコアから。コレを観た日に続けて「ダイ・ハード2」も観て、そっちの面白さに全てを持っていかれたため、初見時は良さが全く理解できませんでした。その後の「ソナチネ」に痺れて、改めて本作を観直した時に、粗削りの暴力衝動と乾いた笑いのバランスの絶妙さではコチラの方が凄まじいことに気づきました。草野球の試合中にトイレに籠っている雅樹の姿で始まり、同じ場所にいた雅樹が草野球のベンチに戻っていく姿で終わるため、劇中で起きた出来事は雅樹の妄想だったという筋立て。ダメ人間たちのしょーもない日常を中心にして、オフビートな笑いを積み重ねていく前半では、元ヤクザ役のガダルカナル・タカの何をするか分からない存在感が際立っています。沖縄に場面を変えた後半でようやくビートたけしが登場。タカを超える凶暴性とシャレにならない笑いを携えた不気味さで画面を支配。何もしないでただボーっといるだけの小野昌彦(柳憂怜)すらも内なる暴力性を纏ってきて、クライマックスになだれ込んでいきます。

 

好きなシーンを5つ挙げると、まずは、時間の感覚を奪われてしまうような沖縄の青空の下でダラダラと繰り広げる草野球シーン。次に、ぶら下がり健康器にたけしがパンツ姿で掴まってるところから、自分の女と寝ているトカちゃん(全ての出演シーンで渡嘉敷勝男が好演)を見て、今度は自分がトカちゃんをヤろうとする一連のシーン。そして、タカがベンガルをボコボコにするシーン、あとは、指を詰めたくない上原が玉城の指を詰めようとする痛々しいシーン。最後は、最初の殴り込みに失敗して逃げた雅樹がタンクローリーを奪って彼女を乗せたまま大友組に突入想像以上の爆発シーンが拝めるクライマックスでしょうか。ちょっと外した笑いによる脱力感と唐突な暴力によるバイオレンスを独特のバランスで共存させている点が本作の最大の魅力で、ありがちな物語や洗練さから笑いや暴力で逸脱していこうとする感じが次第にクセになっていく傑作だと思います。英語版タイトルの「Boiling Point(沸点)」というネーミングセンスもいいですね。