21世紀の耐久レースマシンは、殆どスプリントレースマシンと変わらぬスタイルをしていますが、80年代前半の耐久レーサーは、まさにこのライディングポジションなのです。
レース用マシンでは3000回転以下はスタート前のアイドリングの時にしか使わないので、カットしてあるのが普通でした。GSX-R1100 は、そんなとこまで忠実なのです。
GS1000R(左)と、GSX-R1100(右)のタコメータ(3000以下カット)
スピードメータは北米仕様なのでマイル表示となっている
エンジンの加速フィーリングは、荒々しくトルク感に満ちています。前まで乗っていたGSX400FW と比較した印象と言うわけでなく、当時の同クラスのバイクと比較してもトルクの太さを実感します。そのトルクの質も、滑らかな太さではなく、ゴリゴリした太さと表現したほうがピッタリかも。
そのため、トップギアに入れた5000回転前後の中回転域でもアクセルにダイレクトに反応し、一速シフトダウンでもしたかのように加速します。
エンジンノイズはわりと大きめで、カウルの隙間を通して耳に入ってきます。ですが、これこそが油冷エンジンの魅力の一つで、荒々しさと躍動感に混じって、両足の間にエンジンが存在する実感に満ちています。
油冷エンジンはウオータージャケットを持たず、大量のオイルを循環させることでエンジン内部の熱を吸収させ、それを大型のオイルクーラーで冷却させます。
原理的には空冷エンジンと変わらず、オイルを冷却に使う積極度が空冷以上という感じでしょうか。ですので、このエンジンを「油冷」と考えると誤解が生じるかも。「良く出来た空冷エンジン」と思ったほうが、イメージに近いのでは。
エンジンノイズの質も、まさに空冷に近いものがあると言えます。
SUZUKI 油冷エンジン
ハンドリングは、レーサーのようなフォルムとは若干乖離があるかも知れません。自然にコーナーをトレースするバイクというよりは、やや意識してコーナー出口を見据え、それに合わせた体重移動をしないと思ったラインを走らないと言う感じでしょうか。私が乗りこなせていないだけかも知れませんし、上手い人はもっと綺麗にコーナーをクリア出来ると思います。
でも、その意識して曲がるようなフィーリングも、GSX-R1100 のコーナリングの醍醐味だと思うのです。バイク任せでなく、自分が積極的に働きかける楽しさが魅力なのです。
【 高速安定性 】
GSX-R1100 の最大の弱点は、高速度域での安定感の「乏しさ」にあると思います。
220km/hまでは不安なく速度を上げていけますが、240km/hから先は車体に対する安心感が消え、次第に不安感が増してきます。
真っ直ぐに走らないとか、車体がブレるというわけではなく、あくまで安定感が「乏しくなる」という感じです。
同年代の他のバイクに比べて安定性が無いわけではありませんが、耐久レーサーのような車体のイメージに対し、期待に応えていないという程度かも。
例えば、翌年(1987年)に YAMAHA から発売されたFZR1000だと、高速域でもメーターを見続けながら「220・・・ 240・・・ 260・・・」と読み取れます。
ですが GSX-R1100 の場合は、メーター読み「220・・・」で視線を前に戻し、「240・・・」でまた前を、「260・・・ かな」でアクセルを戻すと言う感じです。
別の例えをすると、FZR1000 は定規を使って直線を引くような安定性ですが、GSX-R1100 はフリーハンドで直線を引くみたいです。
YAMAHA FZR1000(1987年)
これは、GSX-R1100 が採用しているダブルクレドール式アルミフレームの、構造的な剛性不足に起因しているのではないでしょうか。アルミをフレームに使うなら、FZR1000 のようなツインスパー式(YAMAHA 流に言えばデルタボックス式)のような大径薄肉フレームでないと、剛性の確保が難しそうですね。
【 各年式の仕様 】
油冷式エンジンを搭載した GSX-R1100 は1992年まで生産されましたが(その後、水冷式エンジンを搭載)、このページで紹介している初期型シリーズ(GU74)の生産期間は、1986年~1988年までの3年間です。各年式の大まかな特徴を紹介します。
[1986年型]
私が乗っていたGSX-R1100 は、この年式です。(色は青/白)
最初期モデルであるこの型は、ヨーロッパ仕様と北米仕様はタンクの形状が異なります。ヨーロッパ仕様はタンクの後端がやや角張っていますが、北米仕様は若干丸みを帯びています。サイドリフレクターの有無も識別ポイントで、ヨーロッパ仕様には無く、北米仕様にのみ前後に取り付けられています。
また、北米仕様のウインカーはスモークタイプではなく、やや大柄なオレンジ色のウインカーとなっています。
上の写真の左がヨーロッパ仕様、右が北米仕様です。
[1987年型]
タンクの形状が、ヨーロッパ仕様、北米仕様とも、1986年型の北米仕様と同じものになりました。またフロントフェンダーの形状が変更され、サイド部がややエアロ効果を意識したデザインとなっています。
レプリカファン以外の購買層にも幅広く受け入れられるよう、落ち着きのあるカラーリングに変更されました。最高出力130psに変更はありません。
[1988年型]
形式GU74の最終型です。リアタイヤがサイズアップ(リム幅150mm→160mm)され、ホィールの形状も3本スポークタイプに変更されています。1987年型までは、ホィールの剛性がやや足りなかったようで、それが高速安定性に若干の影響を与えていたようですが、このモデルではその点を見直されています。当然ながら、形式GU74においては、もっとも完成度の高いモデルです。
このモデルも、最高出力130psに変更はありません。
【 あとがき 】
会社から帰った後、GSX-R1100 で意味も目的も無く出かけるのが楽しみでした。
週に何回か、会社帰りに同僚や友人と酒を飲むときも、途中でふと「ああ・・・ これで今晩はバイクに乗れないな・・・」とチラッと思ったり。
GSX-R1100 が有ったからこそ、私が今でもバイクに乗り続けているのだと思います。当時存在したバイクの中で、全く妥協の無い一番欲しかったものを手に入れた喜びは例えようがありません。
今もこのバイクを懐かしいと思うと同時に、私に楽しみを与えてくれたことに感謝しています。
エンジン型式:油冷式4サイクル4気筒
排気量:1052cc
最高出力:130PS/9500rpm
最大トルク:10.3kgm/8500rpm
燃料タンク容量:19L
タイヤサイズ 前:110/80-18
タイヤサイズ 後:150/70-18
発売年:1986年
価格:概ね1,00万円前後(逆輸入車のため定価なし)
-------------- 1986年のアルバムTOP5 -------------
1位 安全地帯:『安全地帯IV』
2位 KUWATA BAND:『NIPPON NO ROCK BAND』
3位 レベッカ:『REBECCA IV』
4位 松任谷由実:『DA・DI・DA』
5位 松田聖子:『SUPREME』