範宙遊泳
『心の声など聞こえるか』
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東京芸術劇場シアターイースト
作・演出:山本卓卓
音楽:曽我部恵一
美術:中村友美 美術製作:澁澤萌
照明:富山貴之
音響:池田野歩 音響操作:栗原カオス
衣裳:臼井梨恵 衣裳製作:西山梨香
舞台監督:原口佳子
演出補佐:植田崇幸 演出助手:木村友哉
運送:㈱帯瀬運送
記錄写真:雨宮透貴 記錄映像:たけうちんぐ
記錄映像(8K):須藤崇規
宣伝美術:工藤北斗
制作・小道具製作:藤井ちより
プロデューサー:坂本もも
出演:
石原朋香(みっちゃん・志島美代子)
狩野瑞樹(その夫)
井神沙恵(隣人)
福原冠(その夫)
山本卓卓(そのパパラッチ)
植田崇幸(映画出演者/ゴミ収集車運転手/志島の会社の社長 ほか)
STORY
隣接する2つの一軒家に暮らす2組の夫婦。志島家の妻・美代子は40代に見える隣人の妻からゴミ捨てに関してたびたび苦情を言われ、疲弊していた。美代子の夫はそんな妻を見て隣人の夫と浮気しているのではという妄想を抱く。そんなある日、隣人夫婦を招いて食事をすることになるが、かつてはコメンテーターとして活躍していた隣人の夫を追いかけるパパラッチもそこに同席することとなる。
2021年、川口智子さんの演出で初演された作品を山本卓卓さん自ら演出。自身が劇団公演で演出を手掛けるのは本作が最後とのこと。
中央に傾斜のついた馬蹄形の舞台があり、場面によって角度を変更。基本的に下手側が志島夫妻のエリアで上手側がその隣人のエリア。周囲には棒状の照明が何本か。
初演は未見。井神さんのみ続投だけど別の役(パパラッチ)で、そもそもゴミ捨ての監視をするのは夫だったもよう。
その井神さんが今回演じる隣人の妻は「地球ゴミ」「宇宙ゴミ」などと言い出すところからしていわゆる電波系と見なされがちだが、もしこれが近未来の話でそうした分別が当然のものとされているとしたら、途端に志島夫妻が非常識な人となる。
まぁそれは極端な例としても、自分にとっての正義が他の人にとっても正義とは限らないし、現在の日本で正義と多くの人が見なしていることも国や時代が変われば変化していく。
正義というものが時として衝突してしまう中、それを乗り越えるために必要となってくるのが劇中でも何度か出てくる「隣人愛」だろう。本作はゴミ捨てを巡る近隣トラブルの話ではあるけれど、国家間レベルでも同じことがあてはまる。
音叉を鳴らすと妄想シーンに切り替わったり、ラップバトルが始まったり、ポップさを失わない山本さんの演出が見られなくなるのは残念。
曽我部恵一さんによる音楽、とりわけ最後に流れる書き下ろしの「ステキな夜」がとてもよかった。
キャストでは、対立する役どころの石原朋香さんと井神沙恵さんがこれまでの中でもベストアクトと言えるものだった。特に右手を上げてくねくねしながら心の声を吐露する石原さんとその声が聞こえてしまう井神さんとのやりとりが最高。
自らご出演の山本卓卓さんも嬉々として演じておられたのが印象的。
上演時間1時間50分。