ナイロン100℃『江戸時代の思い出』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

ナイロン100℃ 49th SESSION

『江戸時代の思い出』



【東京公演】
2024年6月22日(土)〜7月21日(日)
本多劇場

作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
美術:BOKETA 照明:関口裕二
音響:水越佳一 音楽:鈴木光介
映像:大鹿奈穂、上田大樹
衣裳:安野ともこ ヘアメイク:宮内宏明
演出助手:相田剛志 舞台監督:奥田晃平
プロダクション・マネージャー:福澤諭志

所作指導:藤蔭静千華
アクション指導:明樂哲典 振付:林希
演出部:桂川裕行、Azuki、長谷川ちえ、山松由美子、宮島一規
照明操作:菅橋友紀、福山莉子
音響操作:照山未奈子 映像操作:玉木将人
衣裳進行:畑久美子、片柳なつみ
床山:高橋加奈子、横山恵未
宣伝美術:雨千砂子 イラスト:松田光市
宣伝写真:江隅麗志 宣伝衣裳:安野ともこ
宣伝ヘアメイク:山本絵里子 印刷:ブーベ
プロデューサー:高橋典子
制作:瀬藤真央子、重松あかり、旦部遥奈、家氏里奈子
票券:滑川優里 広報宣伝:北里美織子
製作:北牧裕幸

出演:
三宅弘城(武士道武士之介)
大倉孝二(桂川人良)
みのすけ(担任教師/茶屋を訪れた役人・下役/若旦那の従者/キューセイシュ)
山西惇(考古学者・クヌギヨウスケ/茶屋を訪れた役人・上役)
峯村リエ(弁護士・ミタライショウコ/奥方/迷子を探す母/ひげ無しの女房)

坂井真紀(ミュージカル女優・ヒエダミユキ/おえき/顔が臀部の侍の姉)

喜安浩平(脳外科医・エノモトコウタロウ/ひげ無し先生)

池田成志(悪玉キンノスケ)

奥菜恵(茶屋の娘・おにく)
犬山イヌコ(おにくの1番目の姉・おやさい/迷子・松吉の弟)

松永玲子(おにくの2番目の姉・おさかな)

藤田秀世(殿様/瓦版売り)
眼鏡太郎(劇場の人(落ち武者)/同心/目隠しする若旦那)
猪俣三四郎(観客/同心/若旦那の従者)
水野小論(観客/ひげ無し先生の助手)
伊与勢我無(やすけ/顔が臀部の侍)
木乃江祐希(ツユノマリ(意識不明)/茶屋を訪れた町娘/遊女)

声の出演(日替わり):廣川三憲、村岡希美、小薗茉奈、大石将弘

STORY
江戸時代。町人の武士之介は、茶屋の前ですれ違った武士・人良(ひとよし)を相手に思い出話を始める。考古学者のクヌギ、弁護士のミタライ、ミュージカル女優のヒエダ、脳外科医のエノモトらは見覚えのない担任教師とともに30年前に埋めたタイムカプセルを探しに来るが、彼らが見つけたのは武士之介の脳みそ。その脳は意識不明のツユノに移植される。一方、武士之介が想いを寄せるおにくの意地悪な姉・おやさいとおさかなは茶屋を営んでいたが、飢饉で食べるものがなくなったため、客に目をつける。そこへ疫病にかかったおえきがやってくる。

結成30周年記念公演第二弾。

下手に茶屋、上手がやや高くなっていて一本の木があり、下手側に向かって枝を伸ばしている。上手手前には井戸。床には土を使用。
 
ナイロン初の時代劇。
一応らオムニバス構成になっていて、一幕は第一話、第二話、二幕は第三話とエピローグから成る。「一応」と書いたのは、全篇これナンセンスの塊である本作においては、そんな区別などあまり意味のないものという気がするから。
本作は時代劇のことをよく知らないKERAさんがよく知らないままに書いたらどうなるかというのが出発点なので、「江戸時代の思い出」というタイトルからして非常にざっくり。265年続いた江戸時代のどの将軍の時代?などと問うてももちろん意味はない。なんせ第二話の背景にある飢饉も「江戸の三大飢饉のうちのどれか」という説明しか与えられないぐらいだし。
それでも本作が時代劇たりえているのは、衣裳やかつら、刀といった小道具のおかげ。大いなるナンセンスの前では時代劇も記号に過ぎないということが図らずも露呈してしまったとも言える。

一方、「思い出」の方に目を向けてみる。
物語の始まりは確かに武士之介が見ず知らずの相手である人良に思い出話をするところから始まるが、その思い出話というのが明らかに現代。しかもその現代の人間たちが30年前の思い出が詰まったタイムカプセルを探すという具合で、話を聞いている人良も自分が茶屋の前にいるのか、タイムカプセルが埋められている場所にいるのか分からなくなってしまう。
ここまでハチャメチャではないにしても、人の記憶がいかに曖昧であてにならないものか、ナンセンスなやりとりの中からも浮かび上がってくる。ケツ侍も顔がお尻そのものの姿で出てくるけど、本当はお尻に似ているだけだったのに人々の記憶によってああいう姿になったのかもしれないよな(それはそれでどんな顔や。笑)。

演出面においては、冒頭の三人娘の歌からしてこれがナイロン流時代劇だと高らかに宣言しているかのようでワクワクさせられた。
また、客席にピンスポットライトを当てて心の中を勝手にアテレコで流したり、第一話が終わった後、最前列のカップルが怒って帰ろうとして落ち武者のような劇場の人に押し止められて舞台に上がる羽目になったりとメタ演劇的な要素も効果的に用いられていた。

KERAさん自身仰っている通り、こうした作品は劇団公演で、客演も勝手知ったる面々だからこそ出来るものであろう。
中では犬山イヌコさん扮する迷子の弟はそのビジュアルや動き等含め、唸るしかないほどの強烈なキャラクターだった。悪玉役の池田成志さんも楽しそう。

パンフレットには今年相次いで亡くなった長田奈麻さんと今江冬子さんのナイロンでの出演作リストの他、体調不良のため降板された安澤千草さんがお二人のことを書いたコラムも。安澤さんもお大事に…。

上演時間3時間8分(一幕1時間37分、休憩15分、二幕1時間16分)。