エンニュイ
『きく』
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アトリエ春風舎
脚本・演出:長谷川優貴
出演/映像:高畑陸(エンニュイ)
ドラマトゥルク:青木省二(エンニュイ)
動き相談役:木皮成
drawing:zzzpeaker(エンニュイ)
ビジュアルデザイン/写真:長谷川健太郎
制作/宣伝/広報/照明/出演:studio hiari
制作協力:黒澤たける
出演:
小林駿(語り手)
市川フー[エンニュイ](聞き手/MCタツタタラリラ)
オツハタ(聞き手)
zzzpeaker[エンニュイ](聞き手)
二田絢乃[エンニュイ](聞き手)
浦田かもめ(聞き手)
STORY
「母親が癌だった……」語り手が唐突に話し出す。場所はどこなのかはわからないが、職場やバイト先のような目的をもって強制的に集められる場所。語り手、ならびに聞き手たちはそこによく集まるメンバーで、仕事終りの、目的を果たした後のような時間をそこで過ごしている。語り手の話を真剣に聞こうとしながらも、徐々に聞き手たちの頭の中はズレていく。育ってきた環境もこれまでの経験もみんな違う。自分の想像で話の余白を埋める。連想したり、脱線したり、妄想したり、集中力が切れて別のことを考えたりしながら、時間感覚さえも狂っていく。【公演チラシより】
CoRich舞台芸術まつり!2023グランプリ受賞作。
舞台奥に縦長のスクリーンが3列。その前に背もたれのない椅子が6脚。壁にはギターやらパーカーやら貼り紙やらがあり、天井からは裸電球やバケツ、マフラーなど。
タイトルの「きく」は漢字にすれば、「聞く」でもあり、「聴く」でもあるのだろう(「菊」ではないことは確かだ…と思いつつ、断定はしないでおく。笑)。
冒頭、小林駿さん扮する語り手が広島に一人暮らししている母親が癌であること、母親は未婚の母として自分を育ててくれたことなどを話し始めるが、聞き手たちは「聞いて」はいるが、「聴いて」はいない。そんな聞き手たちの姿を見るにつけ、果たして私は普段、「聴く」ことが出来ているだろうかと自省せずにはいられなかった。
本作では「きく」ことについて考えさせられるシーンがいくつもあるが、前説もその1つ。そこでは市川フーさんとzzzpeakerさんが黒板にチョークで注意事項等を書いては消していく。2人は言葉を発していなくても観客は確かに「きいて」いた。
また、スクリーンに映し出される外国人が玉置浩二さんの『メロディー』を聴いたときのリアクションを集めたYouTubeの動画も興味深い。ここでは外国人は恐らく日本語を理解していなくても、玉置さんの歌声に聴き入り、好意的なリアクションをしている。「聴く」という行為は、必ずしも意味を理解していることを前提とはしていないとも言える。
しかるに語り手の話を誰も「聴こう」としないのは、語り手が自らの境遇に酔い、自分の話は他の人が耳を傾けてしかるべきだと考えているからであろう。彼は筒状の物を持って話し続けるが、聞き手のことはほとんど考えていないに等しい。そんな彼の姿は、SNS上で見かける承認欲求の塊のような人たちとも重なっているように見えた。
リスニングトーナメントのシーンは高畑陸さんの実況と平井寛人さんによる解説もあってひときわ楽しいシーンだったが、ear angelsの面々がしでかしていた反則をしないよう心せねば……。
役者陣はいずれもよく、理想的とすら言えるほど。中では二田絢乃(ひろの)さんのリスニングトーナメントでの気合の空回り具合がよかった。笑
上演時間1時間32分。
アフタートークのゲストは長谷川優貴さんの吉本時代の先輩でもあるNON STYLE石田明さん。石田さんが最近、ノンバーバルコントをやっていて、8月にエジンバラでも上演すると知ってびっくり。