『関心領域』(ジョナサン・グレイザー監督)アフター6ジャンクション2試写会 | 新・法水堂

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『関心領域』

THE ZONE OF INTEREST


2023年アメリカ・イギリス・ポーランド映画 105分

脚本・監督:ジョナサン・グレイザー

原作:マーティン・エイミス

撮影:ウカシュ・ジャル 美術:クリス・オッディ

編集:ポール・ワッツ 音楽:ミカ・レビ

音響:ジョニー・バーン、ターン・ウィラーズ

衣裳:マウゴザータ・カルピウク


出演:

クリスティアン・フリーデル(ルドルフ・ヘス)

ザンドラ・ヒュラー(ヘートヴィヒ・ヘス)

ヨハン・カルトハウス(長男クラウス・ヘス)、ルイス・ノア・ヴィッテ(次男ハンス・ヘス)、ネーレ・アーレンスマイアー(長女インゲ=ブリギッテ・ヘス)、リリー・ファルク(次女ハイデトラウト・ヘス)、アナスタジア・ドロブニアク(三女アンネグレット・ヘス)、セシリア・ペカラ(同)、カルマン・ウィルソン(同)、メドゥーザ・クノプフ(乳母エルフリーダ)、マクシミリアン・ベック(運転手シュヴァルツァー)、アンドレイ・イザエフ(庭師ブロネク)、シュテファニー・ペトロヴィッツ(使用人ゾフィー)、マルティーナ・ポズナンスキー(同マルタ)、ズザンナ・コビエラ(ポーランド人の使用人アニエラ)、マリー・ローザ・ティーティエン(ヘートヴィヒの友人)、イモーゲン・コゲ(ヘートヴィヒの母親)、ラルフ・ハーフォース(強制収容所管理者オズヴァルト・ポール)、ダニエル・ホルツベルク(親衛隊指導者ゲルハルト・マウラー)、フレイア・クロイツカム(オズヴァルトの妻エレオノーレ・ポール)、サッシャ・マーズ(ヘスの後任所長アルトゥール・リーベヘンシェル)、ユリア・ポラチェック(アレクサンドラ・ビストロン=コウォジェジク)、ヴォルフガング・ランプル(ハンス・ビュルガー)


STORY

1945年。アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘスとその妻ヘートヴィヒたち家族は、収容所と壁一枚隔てた屋敷で幸せに暮らしている。広い庭には緑が生い茂り、そこにはどこにでもある穏やかな日常があった。空は青く、誰もが笑顔で、子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは、大きな建物から黒い煙があがっていた……。【「KINENOTE」より】


カンヌ国際映画祭グランプリ、アカデミー国際長篇映画賞&音響賞受賞作をTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』とコラボした試写会にて。


「関心領域」とはナチス親衛隊がアウシュヴィッツ強制収容所を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するために使った言葉とのことで、本作では収容所の隣に住むヘス所長一家の暮らしを中心に描かれる。

冒頭から使用人たちとともに川べりで泳ぎを楽しむなど、優雅な生活を送るヘス一家だが、ヘス邸と壁一枚を隔てた向こう側では多くのユダヤ人が殺害され、焼却炉で処理されていく。劇中、直接的にそういった描写はなされず、ヘスが収容所に入った際も下の方から捉えた顔だけが映し出されるだけだが、声が聞こえたり、ユダヤ人を乗せているであろう列車が到着したり、焼却炉の煙突から煙が上がっていたりするなど常に収容所で何が行われているのかを想像しながら観ることになる。

これほど神経を研ぎ澄ませながら見入った作品も久し振りだが、そのおかげか、終盤、小さな穴の空いたドアが開けられる瞬間に「あ、これは現在のアウシュビッツだ」と直感的に感じ取れた。そこから現在は博物館として様々な展示物(ユダヤ人の服や靴、焼却炉)がある中をスタッフが黙々と掃除をするシークエンスが続き、再び廊下にいるヘスに戻る。

この映画では現在も過去も同じ質感の映像が用いられているが、これはとりも直さずナチスによるホロコーストが過去のものではないことを表している。アカデミー賞での監督のスピーチに対し、アメリカでは賛否が分かれているそうだけど、ナチスによる迫害を受けたユダヤ人が作ったイスラエルが今、パレスチナに対して行っていることを考えると、人類というのは暴力の連鎖からは逃れられない愚かな種族ということになってしまうのかな……。


上映終了後、休憩を挟んで宇多丸さん、月曜パートナーの宇垣美里さん、映画評論家の森直人さんとでアフタートーク。『アトロク』は放送開始から宇垣さん出演日を中心に聴いているが、生で宇多丸さんを見るのは今回が初めて(宇垣さんは著書のお渡し会で見たことあり)。宇垣さんと森さんは今回で観るのが3回目ということで、赤外線を用いた映像の意味やヘスの嘔吐の解釈など、かなり解像度高すぎ晋作(という特集シリーズがあるのじゃよ…)な内容でもう一度観たくなってきた。原作の邦訳も間もなく出るとのことで読んでみるかな…