劇団スポーツ『略式:ハワイ』 | 新・法水堂

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劇団スポーツ #10

『略式:ハワイ』



2024年5月15日(水)〜19日(日)

OFF・OFFシアター


作・演出:内田倭史

執筆協力:田島実紘 音楽:丹野武蔵

美術:伊従珠乃 照明:緒方稔記(黒猿)

音響:大嵜逸生(くによし組)

音響操作:ワタナベユウタ(株式会社K-works)

演出・執筆補佐:中島梓織(いいへんじ)

舞台監督:水澤桃花(箱馬研究所)

制作:石本秀一、田中遥

当日運営:類家アキヒコ

宣伝イラスト・題字:煙どろん

宣伝美術:内田倭史


出演:

田島実紘(会社員・みのる)

内田倭史(剣道部員・山戸)

端栞里[南極ゴジラ](帰宅部・田端優穂)

武田紗保(山戸のクラスメイト、斜の幼馴染・佐世保波奈)

てっぺい右利き[パ萬](剣道部員・利光純平/剣道部顧問・松本)

タナカエミ(山戸の担任・三重かな子)

竹内蓮(帰宅部・斜宗太郎)


STORY

会社員・山戸みのるは後悔していた。高校生だった10年前、体罰まがいの稽古に耐え切れず、剣道部を退部したことを。エースの純平にインターハイを目指そうと言われ、退部届を出せずにいた山戸だったが、ふらふらになって踏切で電車に轢かれそうになったところを斜(はす)に助けられる。その際に退部届を拾った斜は山戸を誘い、田端とともにバンドを組んで修学旅行先のハワイで演奏しようと言う。担任の三重先生にも背中を押され、退部届を出しに行こうとする山戸だったが、10年後の自分が現れて退部をすると後悔すると告げる。クラスメイトの佐世保も巻き込んで過去をやり直そうとする2人(?)だったが…。


劇団スポーツ、2年ぶりの本公演。2017年上演作品のタイトルはそのままにリクリエーション。


舞台全体は剣道部の部室。左右に棚があり、奥には横に細長い黒板が並ぶ。黒板には開演前の注意が書いてあるが(下の写真参照)、物語が進むにつれて分岐点となる出来事が書かれたものに差し替えられる。

舞台には段差があり、奥は社会科準備室(高校に社会科はないけどね)、手前は教室として使用。それぞれに教室用の机や椅子など。手前のエリアは踏切の場面でも使われ、上手側に椅子代わりのボックス。


開演前の諸注意をしていた内田さんと田島さんがその流れで後悔していることはあるかという話になり、そのまま本篇へ。この2人、実は同じ人物の10年前と現在という関係で、剣道部を辞めたという過去を改変しようとする。

前半はギャグの応酬で、とりわけ10年後の自分から推しのAKB峯岸みなみさんが坊主になってYouTuberと結婚すると知らされた時のリアクションが可笑しい(その後も歴史を変えることで峯岸さんが坊主にならずに済むと思い込む)。

どうやっても山戸が斜たちとバンドを組むことになり、剣道部に退部届を出すという過去が変えられないでいる中、みのるがなぜそのことを後悔しているのかという本当の理由が明らかになっていく。山戸に対しては同窓会に呼ばれないとか斜たちとも連絡を取ることはないと説明していたが、そのレベルならまだしも、おそらくみのるにとっては一生消えることのない後悔であろうし、「人生の退部届」という言葉もあながち誇張ではないだろう。

「後悔先に立たず」とはよく耳にするフレーズではあるが、1つの決断が他人の人生をも狂わせてしまったとなればなおさら悔やんでも悔やみきれない。現実では過去は変えられない。軽やかさの中にも真摯さが感じられる作品だった。


キャストも全員よかったが、中でも田島さんはあまりにもナチュラルで素で反応しているのではと思ってしまうほど。

内田さん、竹内さんとともに劇団員が中核を担って客演陣も活かされている、理想的な座組だった。客演陣では恋した瞬間のリアクションも可愛らしい武田紗保さんが印象に残った。


劇団スポーツは前作『怖え劇』がとてもよかったので次を楽しみにしていたら2年待たされたけど、次回公演は近々に予定されているとのことで一安心。


上演時間1時間38分。