『走れ!走れ走れメロス』(折口慎一郎監督) | 新・法水堂

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『走れ!走れ走れメロス』



2023年日本映画 53分
監督・撮影・編集:折口慎一郎
撮影:ふしきさくら、熱田優雅
写真撮影:大門誠弥
空撮映像:うんなんプロモーション
音楽:小林有希子
挿入歌:「サンカヨウ」作詞/作曲:矢田太朗、「掛合高校学園歌」作詞:春日正光 作曲:小林昭三 
劇中原作:「走れメロス」(作:太宰治)
制作:石原ちみ 企画:プロダクション26

出演:
曽田昇吾(暴君ディオニス/地の文の語り)
常松博樹(メロス)
石飛圭祐(セリヌンティウスなど)
佐藤隆聖(照明担当)
亀尾佳宏(三刀屋高校掛合分校教諭)

STORY
全校生徒70名。島根県にある最も小さな高校で4人の高校生たちが演劇を始めた。「対人関係が少し苦手」「ずっと机に向かうのも得意じゃない」「熱中できるものなんてない」など、それぞれの劣等感と向き合いながら、演劇に魅せられていく4人。そんな彼らが、担任の亀尾佳宏と共に初舞台に選んだ題材は、太宰治の名作「走れメロス」だった。意気揚々と高校演劇の地区大会に挑戦する高校生たちだったが、コロナ禍により無観客での開催になってしまった上、本校である三刀屋高校のレベルに圧倒される。「満席の会場で演劇やりてぇな」———。県大会に進出できず、誰にも見てもらえないまま幕を閉じると思われた高校生たちの青春。しかし、筋書き通りにいかない彼らの物語は、誰も予想しなかった結末へと転がりだす!【公式サイトより一部改変】

島根県にある小さな分校に通う高校生たちが初めて演劇に取り組む姿を追ったドキュメンタリー。

昨年3月に劇場公開された本作、評判は耳にしていて気にはなっていたのだけど、劇中にも登場する下北沢トリウッドでの再アンコール上映にてようやく鑑賞。
結論から言うと、噂に違わぬ大傑作。現在、日本で公開されているどの映画よりも感動的と言い切ってしまいたいほど。
まず、1時間にも満たないこのドキュメンタリー映画には演劇の素晴らしさが詰まっている。事前情報をほとんど入れていなかったので、舞台となるのが島根の分校ということも知らなかったのだが、演劇同好会の4人はいやいやこの学校に通っていたり、人と接することが苦手だったり、どちらかと言うと問題児とみなされる生徒たち。そんな彼らが演劇に出合い、コロナ禍で無観客で開催された地区大会では、「満員の劇場で演劇したいなー!」と叫ぶに至る。そのまっすぐさ、その熱量に胸を打たれる。

残念ながら、地区大会突破とはならなかったが、彼らを演劇の楽しさを教えた亀尾佳宏さんが若手演出家コンクールに出場するため、「走れ!走れ走れメロス」を下北沢の「劇」小劇場で上演することとなる。

恐らく4人とも学校というものに馴染めず、苦痛な毎日を過ごしていたのかもしれない。そんな彼らが熱中できるものを見つけたことで大きく変化するわけだが、まさか東京で舞台に立つとは誰も予想していなかっただろう。
いくつもの奇跡が収められたこの映画をよくぞ企画してくれたと感謝せずにはいられない。