KERA CROSS『骨と軽蔑』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

KERA CROSS 5

『骨と軽蔑』

BONES AND SCORN
 

 
【東京公演】
2024年2月23日(金)〜3月23日(土)
シアタークリエ
 
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
美術:秋山光洋  照明:関口裕二
音響:水越佳一  音楽:鈴木光介
映像:大鹿奈穂、上田大樹
衣装:伊藤佐智子  ヘアメイク:谷口ユリエ
演出助手:相田剛志
舞台監督:福澤諭志、奥田晃平
振付:井手茂太 アクション指導:明樂哲典
宣伝美術:榎本太郎 宣伝撮影:伊藤大介
宣伝衣装:伊藤佐智子
宣伝ヘアメイク:谷口ユリエ
プロデューサー:高橋典子・浅見亜希子(キューブ)、龍貴大・尾木晴佳(東宝)
制作:瀬藤真央子・重松あかり・滑川優里(キューブ)
制作助手:渋谷遥(東宝)
広報宣伝:金井真由(東宝)
製作:北牧裕幸(キューブ)
企画・製作:東宝、キューブ
 
出演:
宮沢りえ(作家マーゴ)
鈴木杏(妹ドミー)
小池栄子(マーゴのファン、ナッツ・ブラウニー)
犬山イヌコ(家政婦ネネ)
峯村リエ(マーゴとドミーの母グルカ)
水川あさみ(父の秘書兼看護人ソフィー)
堀内敬子(マーゴの担当編集者ミロンガ)
 
声の出演:廣川三憲、吉増裕士
 
STORY
東西に分かれての内戦が続く、とある国の田舎町。作家の姉マーゴとその妹ドミー、母のグルカ、長年この家に仕えてきた家政婦のネネは、町の人から「お城」と呼ばれる巨大な邸宅に暮らしている。マーゴには夫がいたが、半年前に出ていったきり、消息がしれない。どこからともなく送られてくる、夫からマーゴへの手紙はすべて、ドミーが中身を確かめるために抜き去っている。 屋敷の主である父親は、軍需工場を経営し一財産を築いたが、今は2階の寝室に伏せったまま。秘書兼看護人のソフィーがつきっきりで世話をしている。一方、夫との関係が冷え切り、工場からの生活費も途絶えたグルカは酒に頼り、今は主治医と家族から禁酒を命じられている。雨の夜。異国からマーゴを訪ねてきたファンのナッツ・ブラウニーも交えたお茶の時間は、豪奢だがどこかくたびれた部屋と同様に、疲れ、不幸を抱えた家族の姿をあらわにする。そんな中、隠された酒を探し当てたグルカは“虫”を名乗る女と出会う。話の流れで “命の恩人” のふりをしたグルカは「お礼に何かひとつ願いを叶えてあげましょう」と言う女に、「幸せにしてください」と頼むのだった。夜が更け、父親の容体が急変する最中、 マーゴとナッツは作家と読者の関係性を超えて友情を深める。 それも束の間、マーゴの担当編集者ミロンガがやってきたことで、疎外感を覚えるナッツ。 彼女を意に介さず打ち合わせを進めるマーゴとミロンガ、泥酔するグルカとネネ、想い人の写真を眺めながらひとりブランコに揺られるドミー、家族の誰もそばに行かないまま、とうとう父親は亡くなった。 最期を看取ったソフィーが持ってきた遺言状はなぜか彼女の意図とは全く別の内容で一一歪な幸せとやまない爆撃音が屋敷を包んでいく......。【公演パンフレットより】

ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの過去作に様々な演出家が挑んできたKERA CROSS第5弾は、書き下ろし新作を自らが演出。
 
舞台はマーゴたち一家が暮らす「お城」と呼ばれる邸宅。リビングと庭が融合した舞台で、庭にいたかと思ったら家の中だったというギャグもあり。
リビング部分は中央に大きなガラス窓にカーテン、天井からはシャンデリア。下手手前が玄関に通じ、上手奥がマーゴの書斎やドミーの部屋へと通じるドア。上手奥には2階へと続く階段。庭部分は上手にグルカの酒が隠してある納屋があり、回転すると内部が見える。奥には小川が横切り、橋がかけられている。出入りは階段の下を使用。家の壁はところどころ崩れていて、木々が見え隠れする。

どことも知れない異国、しかも数十年前の世界に住む家政婦ネネが語り手となり、「日比谷のお客さん」に向かって話しかける体で物語は進行。この国は東西に分かれて内戦中という設定で、常に砲弾の音が聞こえてくる。
こうした語り手を用いるのはKERA作品では珍しいが、決して戦争というものが他人事(ひとごと)ではないのだということを突きつける働きをなしている。冒頭にネネが「何も同じ国で戦争しなくたっていいのに。いえ、違う国でもダメなんですけどね」といったことを言うが、本作のラストは想像以上にKERAさんの反戦メッセージが込められたものとなっていた。

 奇しくも昼に観た優しい劇団『歌っておくれよ、マウンテン』に続いての姉妹モノとなったが、こちらのマーゴとドミーの間には軋轢とまでは言わないにしても、ある種の隔たりがある。それは主にドミーが姿を消したマーゴの夫に思いを寄せていたことに起因するのだが、一幕でクッションと靴をめぐって繰り広げられるやりとりが二幕でマーゴの夫をめぐってのやりとりとして繰り返されるくだりに涙腺を刺激される。
そんな2人が夫からの手紙がすべてナッツがタイプライターで書いたものと知ってともに落胆したり、はたまたマーゴが「文学の砦」賞を受賞して本人から祝電が届いてともに喜んだり、2人の気持が寄り添ったかと思った瞬間に知らされる事実に愕然とする他ない。
虫のメタファーもグルカやナッツが見た幻覚のようにして笑わせつつも、しっかり諷刺が効いていた。KERAさんの戯曲はまさに文学なんだよなぁ。

7人のキャストは当然のことながら皆さん素晴らしい。中では犬山イヌコさんのギャグとシリアスの切り替えが見事だった。
 
上演時間2時間57分(一幕1時間23分、休憩20分、二幕1時間4分)。