赤堀雅秋プロデュース『ボイラーマン』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

赤堀雅秋プロデュース

『ボイラーマン』

BOILER MAN


2024年3月7日(木)〜20日(水)
本多劇場

作・演出:赤堀雅秋
舞台装置:池田ともゆき
照明:佐藤啓 音響:田上篤志
衣裳:坂東智代 ヘアメイク:林摩規子
演出進行:松倉良子 舞台監督:足立充章
宣伝美術:榎本太郎 宣伝写真:江森康之
宣伝衣裳:森保夫 宣伝ヘアメイク:林摩規子
宣伝映像:原口貴光 WEBデザイン:斎藤拓
宣伝・パンフレット編集・執筆:大堀久美子
宣伝協力:る・ひまわり 票券協力:熊谷由子
当日運営:宍戸円
制作:佐々木康志、新居朋子、河野理絵、木村義幸
プロデューサー:西田圭吾
制作協力:PRAGMAX&Entertainment
企画・製作:コムレイド

出演:
田中哲司(中年男(会社員))
安達祐実(喪服の女)
でんでん(老人(近所の住人))
村岡希美(中年女(マンションの住人))
水澤紳吾(喪服の男(元ボクサー・ヒロ君))
樋口日奈(若い女(キャバ嬢・ミク))
薬丸翔(若くもない男(ファミレス店長・吉田))
井上向日葵(小柄な女(老人の隣人))
赤堀雅秋(警官)

STORY
冬、夜が更けつつある頃。古いマンションを挟むようにY字になった二股の道があり、左には石段、右には細い路地が続いている。電話ボックス、自動販売機、ごみ集積所、放置自転車。何処にでもある片隅の光景に、一人、喪服の女が現れた。続いて石段の上からは中年男。互いをやり過ごした後、残った男は煙草に火をつけ、それをマンションの住人である中年女が見咎め、糾弾する。体調の悪そうな警官が現れ、中年女とのやりとりから、この町で連続放火事件が起きていることがわかる。さらには奇矯な言動の老人と、彼を庇護する様子の小柄な女、喪服の女のつれの男、マンションに住むキャバクラ勤めの若い女と彼女を追い回している様子の若くもない男という手近な関係以上には繋がるはずのない9人が、その夜、偶然Y字路の周辺で行き会った。そこに行かねばならない、居なければならない理由はきっと誰にもなかったのに。消防車のサイレンが聞こえてくる。夜空が明るくなるほどの火の手が上がり、町を赤く照らし出す。中年男は甲州街道を見出せるのか。彷徨う9人は夜の涯てを越え、朝に辿り着けるだろうか。【公式サイトより】

赤堀雅秋プロデュース最新作。

上手にマンションの裏側。ゴミ集積所にはいくつものゴミ袋。手前に自動販売機があり、その間に路地。マンション左手には石段があり、その横に電話ボックス、その手前に放置自転車2台。道路にはマンホールの蓋。

本作は一部、劇中で名前は出てくるが、役名としては固有名詞を持たない人物ばかり。繋がりも希薄で、喪服の女と喪服の男は恋人同士だが別れを考えており、若い女と若くもない男はキャバ嬢とその客という関係に過ぎず(男の方は結婚を考えているが)、おじいちゃんと孫のように見える老人と小柄の女も隣人同士という間柄。
そんな男女9人が冬の夜、マンション裏のY字路(横尾忠則さんの《Y字路》シリーズに着想を得たとのこと)で偶然行き交い、言葉を交わすだけの話(時間は午後10時24分、午前0時35分、午前2時22分と展開)。近所で連続放火事件が起きてはいるが、それが彼らにとって大きな意味を持つことはなく、遠くから眺めているのみ。
タイトルのボイラーマンもウルトラマンなどのヒーローの類ではもちろんなく、道に迷って甲州街道に出たいという冴えない中年男で、絶縁状態だった母親の通夜の帰り、母親からもらったピアスを捜している喪服の女と行動をともにするというのが話の軸となるのだから、地味といえば地味な作品である。
しかし、この一見地味な話も赤堀さんの手にかかれば何とも味わい深い作品になる。とりわけ終盤の老人が喪服の女から金を借りてから中年男と揉めたかと思えば小柄な女がエマーソンの詩を引用するあたりから、喪服の女がピアスを思わぬところから見つけるあたりの作劇は、ぽっと出の若手では逆立ちしても書けなさそうな凄みすら感じるほどだった。

もちろん、役者陣の貢献度も大きい。
上述のエマーソンを引用する井上向日葵さんは、有名人揃いの今回の公演においてもしっかりと爪痕を残していたし、酸いも甘いも噛み分けた大人な男女の田中哲司さん&安達祐実さんは台詞で語らずともそれぞれの心情が伝わってくる。堪りかねて分別されていないゴミ袋を道路にぶちまける村岡希美さんも素晴らしかったなぁ。

上演時間2時間。