ほろびて『センの夢見る』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

ほろびて

『センの夢見る』



2024年2月2日(金)〜8日(木)
東京芸術劇場シアターイースト

作・演出:細川洋平
美術:秋山光洋(n10design)
照明:富山貴之 音楽:nujonoto
音響:尾林真理(ウーハーズ)
衣装:臼井梨恵(モモンガ・コンプレックス)
演出助手:大月リコ 舞台監督:西廣奏
宣伝美術:酒井博子(coton design)
制作インターン:平野みなの、山尾みる(合同会社syuz'gen)
制作:寺田凜(合同会社syuz'gen)

出演:
大石継太(泉縫)
佐藤真弓(泉伊緒)
安藤真理(長女ルイズ)
油井文寧(次女アンナ)
生越千晴(三女アビー(アビゲイル))
藤代太一(隣人ヴィク(ヴィクター・マイスリンガー))
浅井浩介(YouTuber・サルタ)

STORY
1945年、オーストリアとハンガリーの国境付近の村レヒニッツに暮らす三姉妹のルイズ、アンナ、アビゲイル。彼女たちにとっての娯楽は、空想の旅に出ることだった。2月初旬、そんな三人に、近くのお城で開催されるという舞踏会への招待状が届く。夢のような招待にはしゃぐアンナとアビゲイルに対し、乗り気になれないルイズ。そこに隣人のヴィクターが訪ねてきて……。2024年の日本、泉縫(いずみ・ぬい)と妹の伊緒(いお)の暮らす家。そこに、縫の生活を密着取材しているという自称YouTuberのサルタがやってくる。レンズを向けられ、縫もまんざらではない様子を見せる。サルタは、なぜ兄妹をカメラに収めるのだろうか……。———ある日、二つの家庭のリビングルームが、一つの空間に重なってしまう———交わった互いの生活は、果たしてどのように変化していくのか。【公式サイトより】

芸劇eyes選出作品。

床に重なるようにして書かれた2種類の仕切り線。一方には「居間」「玄関」、もう一方にはドイツ語で「WOHNZIMMER」「EINGANG」の文字。「玄関/EINGANG」の位置に木製のドアが1つ。周囲には紐が垂れ下がり、天井の一点に集められて屋根のようにも見える。また、ステージの左右から階段で降りた先には俳優陣の待機場所。

1945年、オーストリアのレヒニッツに暮らす三姉妹の家と2024年の日本に暮らす兄妹の家。時代も場所も異なる2つの空間が繋がるという演劇ならではの設定の本作。
その設定自体は現実的にはありえないので理屈とかはどうでもいいのだが、なぜ180人ものユダヤ人がパーティーの余興で虐殺された事件が起きたレヒニッツだったのか、日本側もなぜ何らかの理由で周囲から排除されている兄妹の家だったのかという疑問は残るし、その作劇にはかなり恣意的なものを感じてしまった。
三姉妹と泉兄妹(血は繋がっていない)が言葉の問題もなくコミュニケーションできているのだが、伊緒は三姉妹が1945年という設定で一種のコスプレをしているという認識らしく、アビーの怒りを買ったりもする。国も違えば時代も違う、そこにはどうしたって分かり合えなさが厳然と存在するわけだが、だからこそ人類はいつまで経っても歴史から学ぶことなく虐殺のような過ちを繰り返す――そういったことを感じ取れはしたものの、全体的に様々なモチーフがまとめきれていないように感じた(徳永京子さんとのアフタートークを聞いて更にそう感じた)。

上演時間2時間12分。