serial number『アンネの日』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

serial number 10

『アンネの日』



2024年1月12日(金)〜21日(日)
ザ・スズナリ

作・演出:詩森ろば
舞台美術:原田愛
照明:榊美香(有限会社アイズ)
音響:青木タクヘイ(STAGE OFFICE)
舞台監督:中西隆雄、田中翼
演出助手:中村公平
宣伝イラスト:saaya 宣伝美術:詩森ろば
制作:三國谷花 票券管理:イビケイコ
宣伝:吉田プロモーション
プロデューサー:岡島哲也
企画製作:一般社団法人 風琴工房

出演:
林田麻里(開発部チームリーダー・津和苑子)
李千鶴[阿佐ヶ谷スパイダース](同サブリーダー・土井加奈子)
伊藤弘子[流山児★事務所](企画部部長・河東響子)
ザンヨウコ(開発部・田保明美)
葛木英[クロムモリブデン](同・志田英幸)
橘未佐子(同・今野裕美)
瑞生桜子(企画部・杉本沙也加)
真田怜臣(総務部・島村理央)

STORY
アネモネコーポレーション開発部では、チームリーダーの津和苑子とサブリーダーの土井加奈子が社内のコンペ企画「大人の自由研究」に参加することを画策している。その研究は無事承認されコンペに参加することになる。開発部の女性開発者たちや営業企画部の精鋭も加わったチームが研究するのは自然素材のナプキン。石油化合物を取り除いたそれは、コスト的にも厳しく、何より機能性に劣り、悪戦苦闘を強いられる。そこにトランスジェンダーの島村理央が参加したいとやってくる。生理用ナプキンの開発をするなかで、同じ企業に働いていても知らなかったお互いの生理の事情や人生について知り合いながら、暖かくも強い関係を女性たちは築いていく。【「CoRich」より】

2017年、風琴工房時代に初演された作品の再演。林田、伊藤、ザン、葛木の4名は初演からの続投。

1月半ばにして今年のベスト級作品。
自然派生理用ナプキンの開発を目指す女性たちの物語で、冒頭からそれぞれの初潮体験が語られる。母親からおめでとうと言われた人、父親が会社で言い触らしたことに腹を立てた人、父子家庭で祖母にあれこれ教わった人、母親との関係が悪く生理がきたことを隠そうとした人、同級生の男子に気づかれてみんなの前でからかわれた人、そして周りの友達には生理が来たのに自分には来ないことが分かり、神様に生理を与えてくださいと祈った人……。
本作の魅力の一つは、この8人それぞれにドラマがあり、誰か一人の物語ではなく、すべての女性の物語になっている点。とりわけ個々のダイアローグには幾度となく涙腺を刺激された。
また、きちんと開発の経緯が描かれているのもよかった。ノンケミカルということで、直接肌に触れる部分にコットンを使おうとするも、綿自体が有害物質に汚染されている可能性が指摘される(ホーリーランド社のモデルはモンサント社)。そうした説明台詞をしっかり落とし込みつつ、アンネガールズによるポップな解説を盛り込むあたりも生理のことが分かっていない男性にも親切設計。女性の地位ランキングが7年前より下がっているとは……。
生理のことをアンネと呼ぶのは何となく知っていたけど、それが『アンネの日記』と関係があり、「アンネの日」も広告のキャッチコピーから来ていたとは知らなかった。

キャストは全員よかった。8人が揃ってポージングするときの誇らしげな表情がたまらない。
上述通り、半分は今回の再演からの出演となるが、あてがきしたかのようにハマっていた(見た目の特徴的な箇所以外は特に書き換えていないとのこと)。
特に瑞生桜子さんは聡明な杉本役にぴったり。初演は笹野鈴々音さんが演じていたそうで、それはそれで見てみたかったけれども。
感情が先に立ってしまうドイカナ役の李千鶴さん、理央が初めて来たときに取り乱してしまうコンノ役の橘未佐子さんもそれぞれ感情を揺さぶられた。
理央役の真田怜臣さん、私は存じ上げなかったけど、『ミッドナイトスワン』にも出演されていたのね。上述の神様に祈るところからしてグッと心を摑まれた。
初演組では、林田麻里さんと伊藤弘子さんの安定感たるや。眼鏡姿の葛木英さんもスタイリッシュでカッコよかった。
「面白そう」が行動の判断基準になるとにかく明るいザンヨウコさんのキャラクターも最高だったなぁ。10年後ぐらいに再演するときはかるがも団地の宮野風紗音さんに演じてほしい。

上演時間2時間10分。

この日は詩森ろばさん進行のもと、林田麻里さんと李千鶴さんによるアフタートークあり。終盤、杉本から理央に告白をするシーンは初演では逆だったとか。最後に高校2年生男子が質問していたのがよかったな。