こまつ座『闇に咲く花』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

こまつ座 第147回公演

『闇に咲く花』



【東京公演】
2023年8月4日(金)〜30日(水)
紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA

作:井上ひさし 演出:栗山民也

音楽:宇野誠一郎 美術:石井強司

照明:服部基 音響:井上正弘

衣裳:宮本宣子 ヘアメイク:鎌田直樹

宣伝美術:ペーター佐藤

演出助手:坂川慶成 舞台監督:村田旬作

制作統括:井上麻矢


出演:

山西惇(神主・牛木公麿(52))

松下洸平(その一人息子・牛木健太郎(27))

浅利陽介(健太郎の親友・稲垣善治(27))

増子倭文江(遠藤繁子(35))

枝元萌(田中藤子(33))

占部房子(中村勢子(29))

伊藤安那(久松加代(25))

尾身美詞(小山民子(21))

塚瀬香名子(子守りの少女)

尾上寛之(神田警察署猿楽町交番・鈴木巡査)

阿岐之将一(後任・吉田巡査)

田中茂弘(GHQ法務局主任雇員 諏訪三郎)

水村直也(ギター弾きの加藤さん)


STORY

昭和二十二年、夏、東京神田。焼跡の愛敬稲荷神社に、伝説のエース投手が帰ってきた。進駐軍占領下、今日を生き抜くために人びとは闇の売り買いに必死だった。一人息子の健太郎を戦地で失った愛敬稲荷神社の神主牛木公磨も、今では近くに住む五人の未亡人たちと寄り合って、闇米の調達に奔走している。そんなある夏の日、死んだはずの健太郎が愛敬稲荷神社に帰ってきた。境内に笑顔は弾け、人びとは再会を喜び合う。しかしその喜びもつかの間、健太郎の背後には、巨きな黒い影がしのびよっていた・・・・。【公式サイトより】


1987年初演、今回が6演目となる〈昭和庶民伝三部作〉第2作。


舞台は神楽堂の他はほとんどが焼け落ちてしまった愛敬稲荷神社の境内。下手側は玩具のお面工場で、ひょっとこなどのお面が干してある。一段低くなったところにギターの加藤さん。


「父さん、ついこのあいだおこったことを忘れちゃだめだ、忘れたふりをしちゃなおいけない。過去の失敗を記憶していない人間の未来は暗いよ。なぜって同じ失敗をまた繰り返すにきまっているからね」

すべてはこの、第五場における健太郎の台詞に尽きる。健太郎はグアムに出征して戦死したと思われていたが、頭部外傷による記憶障害で全健忘症となる。その後、カリフォルニアの収容所に入れられた際、野球のボールがきっかけで記憶を取り戻し、東京に戻ってくる。ところが、今度はC級戦犯容疑をかけられて、再び記憶障害となってしまう。野球チームでバッテリーを組んでいた神経科の医師・稲垣は何とか健太郎の記憶を取り戻そうとするが、記憶を取り戻せばグアムで裁判にかけられてしまう。

そんな中で神主である父親に発するのが上記の台詞だが、初演から36年経ってますます過去の記憶が薄れていく中、改めてこの言葉を胸に刻んでおきたい。

最後の第六場は昭和22年8月15日ということもあり、本日観るのにふさわしい作品だった。


松下洸平さんはトップにクレジットされているが、最初に登場するのは45分後ぐらい。全体的にも決して出番が多いわけではなく、ファンの皆様は少々物足りないかも。笑

繁子役は当初、津田真澄さんの予定だったが、体調不良のため降板。過去の上演で同役を演じた増子倭文江さんが代役を務めた。増子さんを筆頭に枝元さん、占部さん、伊藤さん、尾身さんの戦争未亡人5人組が息が合っていてよかった。


上演時間3時間6分(一幕1時間25分、休憩19分、二幕1時間22分)。