『美しい暦』(森永健次郎監督) | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

『美しい暦』



1963年日本映画 88分
監督:森永健次郎

原作:石坂洋次郎(新潮文庫版)
企画:坂上静翁 脚本:三木克巳
撮影:松橋梅夫 照明:三尾三郎

録音:神保小四郎 美術:西亥一郎

編集:丹治睦夫 助監督:藤浦敦
色彩計測:佐藤重明 現像:東洋現像所

製作主任:松吉信幸 音楽:松村禎二
主題歌:「美しい暦」作詞・佐伯孝夫 作曲・吉田正 唄・吉永小百合
挿入歌:「白い花の青春」作詞・松本栄 作曲・村沢良介 唄・浜田光夫


出演:

吉永小百合(矢島貞子)

浜田光夫(田村邦夫)

芦川いづみ(村尾先生)

長門裕之(武井先生)

藤村有弘(滝田教務主任)

丹阿弥谷津子(矢島千絵)

細川ちか子(朝川先生)

桂小金治(源作)

内藤武敏(叔父・沢田孝作)

奈良岡朋子(叔母・沢田民子)

白樹栞(吉村春枝)

山岡久乃(吉村香代)

織田政雄(校長)

三船好重(太田先生)、渡辺まさえ、松岡紀公子(相川フミ)、鈴木光子、木原みどり、高木ヒデヨ、川口道江、中庸子、井本寛、山中隆好、片山順男、西田幸永、下平鉄治、佐藤公明、北野八重子、谷口純子、松本さと子、小野智子、渡辺美穂子、竹田雪江、吉本選江、小林久子、相原良子、笠原小夜子、斉藤憲子、臼木まさ子、東郷秀美(方言指導)


石坂洋次郎さんの同名小説2度目の映画化。

舞台は長野県にある女子高校。
芦川いづみさんは化学の村尾先生。水泳部の顧問でもあります。
吉永小百合さんとは同じ年の『青い山脈』に続いて教師と生徒という関係。

化学実験室のはずが美術の授業中。
生徒は騒ぎ放題で、長門裕之さん演じる武井先生は手紙を書いています。
やはりスクリーンで見るならヤンキーでいっぱい、落書きだらけの汚い教室よりこういう華やかな教室がいいですよね。夏服も爽やかです。明らかに最近の日本映画は間違ってますね。
隣の準備室では、村尾先生と吉永小百合さん演じる2年生の矢島貞子、白樹栞さん演じる吉村春枝が何やら実験の準備中。一体なぜこの2人だけここにいるんでしょうか。笑
村尾先生は「まるで幼稚園」と眉をひそめながらも扉の板を少しずらして隣を覗き見たりしています。貞子や春枝も覗いていると、武井先生がやってきて一服。ビーカーやフラスコを灰皿代わりにする武井先生を注意する村尾先生。武井先生は鹿児島弁丸出し。
そんな武井先生と村尾先生が授業方針をめぐって議論を戦わせます。静かにさせるべきと言う村尾先生に対し、「けしからんな!」と一喝して持論を述べる武井先生。

放課後。
自転車で帰ろうとしたところ、武井先生に呼ばれて3枚のハガキを出すように頼まれる貞子。名前で呼ばれなかったことを不服に思いながらも、お駄賃にチョコレートをもらって機嫌を直します。
一方、汗をふきふき帰宅する村尾先生。手には花束。
そこに通りかかった貞子は自転車の後ろに村尾先生を乗せます。
今だったらありえない牧歌的な光景ですね。しかもその後の会話が凄い。
「あたし、先生のカワイ子ちゃんだって噂あるのよ。知ってる?」だの、「あたし、本当に先生のカワイ子ちゃんになってあげようか」だのと貞子が村尾先生に言うのです。この2人がそんな関係だったら…と妄想せずにはいられません。笑
途中で木陰で休憩。
寝そべって卒業後、BG(死語)になったり結婚したりということを考えると今が一番楽しいと話す貞子。「女って先生、あれね、雲みたい」などと女性であることに居心地の悪さを感じているようです。この辺りは石坂作品によく出てくるモチーフ。
その後、武井先生にもらったチョコレートを村尾先生にあげようとして、頼まれていたハガキを出し忘れていたことに気づいた貞子。ここでも村尾先生、読んではいけないと言いつつも、「でも先生、読んでみたいから読んでみます。お出しなさい」と要求。
1枚目は友人宛て、2枚目は母親宛て。ここで武井先生にはタエコ(妙子?)なる亡くなった妻がいたことが明かされます。
3枚目は読まない方がいいと言う村尾先生。貞子に根負けして読ませると、そこには村尾先生のことが書いてあり、「肌白く 額は丸き 女ありて 我を咎めぬ 哀しからずや」と言う短歌が。この「哀しからずや」は若山牧水の「白鳥は 哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ」の「哀しからずや」だと話す貞子に対し、村尾先生はちょっと不機嫌。

「哀しからずや」にこだわる貞子による恋バナ。
叔父叔母と山登りに出かけた際、雨が降ってきて山小屋に避難。
そこへ飛び込んで来たのが浜田光夫さん扮する高校生。叔父・孝作は叔母・民子が体調を崩したこともあり、一緒に降りて欲しいと頼みます。
雨が止み、山を降り始める一行。転唐オて高校生の下になった際、ギュッとなったと貞子。いつの間にか貞子と村尾先生は食堂に入り、村尾先生も興味津々。
高校生が叔父叔母を迎えに行っている間、貞子は「おお牧場はみどり」「ふるさと」「山男の歌」と数小節ずつ歌います。やがて叔母を負ぶってきた高校生と合流。そこで別れを告げます。
村尾先生、貞子が高校生の名前を知らないと知って「なんだ」と一言。
貞子は彼がおぶってくれた夢を見たと言い、「恋したことありますか。恋って甘い? 酸っぱい? 辛い? 水臭い?」と質問攻め。そりゃああるでしょうよ、恋の一つや二つ。笑

さてようやく帰宅した貞子。家は矢島質店を営んでいます。
父親はおらず、母親の千絵と二人暮らし。
食堂に寄ったにも拘わらずお腹がすいたという貞子、バーモンを飲むように言われます。ここで貞子が「ミヤリサンのバーモン。これ飲んで綺麗になろうかな」とワザとらしいコマーシャル。このバーモン、リンゴ垂ニ蜂蜜でできた健康飲料だそうで、薄めて飲んでいました。そのままだとちょっと濃いようで、山小屋でもバーモンを飲んだ浜田光夫さんがむせていました。
夕食はトマトに茄子のゴマ和えにオムレツ。
貞子は制服から浴衣にお着替え。食欲旺盛で食べる食べる。
食べながらも「哀しからずや」の話を続ける貞子。村尾先生は「綺麗だし、いい匂いがするし、武井先生にはもったいない」。ええ、ええ。いかにもいい匂いがしそうです。笑
ちなみにテレビでは後楽園球場での巨人対国鉄戦の中継。
夕食の時間にしてはどう見てもデーゲームのような…。
ピッチャーは金田正一さんで、バッターは長嶋茂雄さん。この日は当たっていなかったようで三振。その後、背番号8番の坂崎一彦選手がホームランを打って貞子が喜びます。1963年には9本しかホームランを打っていませんのでかなり貴重な映像ですね。笑

夕食後、貞子が店番をしながら宿題をしていると、あの時の高校生が店に。
彼は松本東高校3年生の田村邦夫。授業料1380円を捻出するためにカメラを持ってきたようです。
本来は未成年には金を貸せないことになっていますが、叔母(千絵にとっては妹)が世話になったということで特別に貸し出します。質屋に来るのが癖にならないようにだの授業料は早く払わないとだのとお小言を言う貞子。
邦夫がフィルムが余っているからお礼に撮ってあげると提案。「あんまり変な顔しないで下さい」という邦夫に「これが普通の顔です!」。それでも可愛いぞ、貞子。笑

翌日。
水泳部の顧問としてプールで泳ぐ生徒の指導をしている村尾先生。
芦川いづみさんのホットパンツ姿というのは結構珍しいのでは。
ハチか何かに追い回される武井先生を見て微笑む姿もお美しい。
生徒たちも武井先生を見て笑いますが、松岡紀公子(松岡きっこ)さん扮する相川フミだけは「おかしくない!」と怒ります。どうやら武井先生がお好きな様子。
一方、演劇部の貞子はガリ版でチラシを刷っています。これも今では見かけない光景ですね。ローラーを振り回す貞子は他の生徒にたしなめられます。
さてその頃、田村邦夫率いる6人の男子学生が乗り込んできます。
それを聞いて校長室へ急ぐ演劇部一同。
邦夫たちは、東高校の生徒と女子高校の生徒がアベック(死語その2)で歩いていたところ、女子高校の先生に早く帰るように注意された上、その先生が生徒たちの前で「東高校の生徒は不良であるから付き合うな」と言ったことに抗議。校長は噂に過ぎないと一笑に付すが、男子生徒たちは17名に聞いて事実だと確かめたと言う。
武井先生に校長室の中の騒ぎを見てみるように言われる村尾先生、「覗き見なんか致しません」って嘘ばっかり。笑
教務主任の滝田先生に呼ばれて校長室にやってきた朝川タケ先生。辞表を書いて責任を明らかにするとすっかり大事。旦那や子供にも詫びるなどとオイオイとうろたえています。

更に翌日、2年B組の教室。
生徒たちを前に不良だと発言した記憶はないが、みんながそう言うのであれば事実なのだろうと涙ながらに辞意をほのめかす朝川先生。
木村さん、松本さん、川村さん、クラス委員の鶴田さん、八重樫さん、吉岡さん、田中さん、園田さん、平井さん(漢字はすべて適当)と次々に確認するも全員が先生はそんなことは言っていないと否定。貞子の前の席のブーちゃんこと相川フミもそれに続きます。
感動ひとしきりの朝川先生ですが、次に当てられた吉村春枝が「先生は確かにおっしゃいました」と証言。しかも三遍ぐらい(笑)。朝川先生がちょっと顔を引きつらせる中、貞子も手を挙げてはっきり覚えていますと言います。
実に嫌らしいですねぇ、このオバハン。
職員室でも46対2だと勝ち誇っております。
え? 48人も生徒いましたっけ?
画面で確認する限り、縦9人×横4列で36人しかいないような……。
ま、それはともかく、その2人がお妾の子である春枝と質屋の娘の貞子だとかなり問題な発言を続ける朝川先生。次の授業のことで村尾先生のところへ来た貞子を呼び止め、更にネチネチいびります。
みんなが嘘を言っていると頑張る貞子ですが、首謀格である邦夫と知り合いだということで演劇部が手引きしたのではと追い込まれます。
そこへ武井先生がコッペパンを食べながら話に割って入り、邦夫は自分も知っているが実にいい男だと褒め、朝川先生のやり方は間違っていると批難。朝川先生、「どうせ私は大正6年生まれ」とまたしても泣き落とし。笑

廊下で邦夫を知っているというのは嘘とあっけらかんと明かす武井先生。
村尾先生も惚れ直したご様子(笑)。一方、貞子は「女ってやあね。いやらしくて図々しくてベトベトして嘘つき」とまたしても女性であることに対する苛立ちを打ち明けます。

花火大会の夜。叔父叔母が矢島家を訪問。
2階では貞子と叔母。男を理想化しすぎと言う貞子に、叔母は叔父が理想の夫だと思っていると答えます。バックの花火がいかにも合成なのはご愛嬌。
1階では千絵と叔父。叔父は千絵に再婚を勧めています。
そこへ幸吉(漢字適当)という少年が店にやってきます。父親に頼まれて質草を持ってきた幸吉、1000円貸して欲しいといいますが、せいぜい500円しか貸せないと貞子。父親の意図もマルッとお見通し。
その後、幸吉の父・源作が酔っ払って来ます。最初は貞子が応対しますが、「出て来い、ババア」と言われて千絵が出てきます。「なんで亭主もらわねえんだ」と更に言いたい放題の源作。追い払われて池に落ちてしまいます。

貞子は春枝のところへ。
母・香代の相手をして酒を飲んでいたという春枝はほろ酔い加減。
貞子も誘われてお酒を飲むことに。
2人がかなり酔っ払って「木曽節」(木曽の御嶽さんはナンヂャラホイ 夏でも寒い ヨイヨイヨイ)だの「佐渡おけさ」(佐渡へ佐渡へと草木もなびくヨ)だのを歌っている中、邦夫がやってきます。
しゃっくりを連発しながら邦夫に応対する2人の顔がまた何とも…。
いいんですか、こんな顔させて?
邦夫は校長から『ロミオとジュリエット』の上演の許可が出たと話します。
実は邦夫、女子高校の生徒を貸して欲しいと前にも一度申し込んだのですが、その時はあっさり却下。そんな時に朝川先生の話を聞いて、交渉を有利に進めるために利用したわけなのです。
そのことは演劇部員である春枝も知っていたわけですが、貞子は二人して秘密にしていたと悔しがります。とりあえずジュリエットはどちらかにやってもらうと立ち去る邦夫。

稽古が始まりますが、貞子は照れて台詞が言えず、結局ジュリエットは春枝がやることになっていざ本番。袖で舞台上の2人を見ながら、自分がジュリエットを演じているのを妄想する貞子(妄想シーンは白黒)。
芝居を観ていた武井先生は、奥さんとやったときのことを思い出して涙。
慰安会を兼ねてサイクリングをすることになり、武井先生と村尾先生も参加することに。なぜ慰安会でサイクリング?などと言ってはいけません。それが青春映画です。笑
当日、浜田光夫さんの歌う「白い花の青春」をバックにまさに青春の1ページ。
貞子は邦夫が春枝と仲良くしているのが気に入りません。
他の男子生徒にどうしてふくれっ面をしているのかと聞かれ、「私のふくれっ面は生まれつきの顔じゃ!」と貞子。それでもやっぱり可愛いぞ、貞子。
で、弁当を食べながら、ブーちゃんが村尾先生にプロポーズしたって本当ですかと武井先生に問い質します。周囲がけしかける中、貞子だけは村尾先生が武井先生のことが好きかどうか分からないと反論し、「分からないわよ、人の気持なんて」と言います。
結局、村尾先生の方から武井先生にプロポーズ。
う、うらやましすぎます。
一方、貞子も邦夫に「あなたが僕のジュリエット」と言われていい雰囲気に。
貞子は目を閉じてキスを待ち構えますが、邦夫は「僕たちはまだ子供に過ぎない」と言ってなぜか木に登ってしまいます。うーむ、昨今流行の草食系の元祖ですな。目の前で吉永小百合さんがキスを待っているのに何もしないとはアンビリーバボーです。笑
で、木に登った邦夫の主導で題名不詳の寮歌(?)を歌ってエンディング。

いやー、やはり芦川いづみさんと吉永小百合さんコンビは最強ですね。
まさしく「美しい」暦でございました。