こまつ座『イヌの仇討』 | 新・法水堂

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こまつ座 第144回公演

『イヌの仇討』

 

 
【東京公演】
2022年11月3日(木・祝)〜12日(日)
紀伊國屋ホール
 
作:井上ひさし 演出:東憲司
音楽:宇野誠一郎 美術:石井強司 照明:小沢淳
音響:秦大介 衣裳:中村洋一
所作指導:花柳けい 宣伝美術:安野光雅
演出助手:宮田清香 舞台監督:白石英輔
制作統括:井上麻矢
 
出演:
大谷亮介(吉良上野介義央)
彩吹真央(上野介側女・お吟さま)
三田和代(上野介付御女中頭・お三さま)
原口健太郎[劇団桟敷童子](盗っ人・砥石小僧新助)
俵木藤汰(上野介付近習・榊原平左衛門)
田鍋謙一郎(上野介付近習・大須賀治部右衛門)
薄平広樹(上野介付近習・清水一学)
石原由宇(上野介付坊主・牧野春斎)
大手忍(御犬さま御女中・おしん)
尾身美詞(御犬さま御女中・おしの)
 
STORY
時は元禄十五年(一七〇二)十二月十五日の七ツ時分(午前四時頃)。有明の月も凍る寒空を、裂帛の気合、不気味な悲鳴、そして刃に刃のぶつかる鋭い金属音が駆け抜ける。大石内蔵助以下赤穂の家来衆が、ついに吉良邸内に討ち入った。狙う仇はただ一人。「吉良上野介義央」上野介は、家来、側室、御女中たちと御勝手台所の物置の中に逃げ込んでいた。赤穂の家来が邸内を二時間にわたって、三度も家探ししていた間、身を潜めていたというあの物置部屋で、彼らの心に何が起こったのか。──討ち入りから三百二十年、歴史の死角の中で眠っていた物語は三度動き出す。【公式サイトより】

1988年初演。劇団桟敷童子の東憲司さんによる演出版は2年ぶり3度目の上演。
 
毎度お馴染み『忠臣蔵』のクライマックス、赤穂浪士の討ち入りを吉良上野介の立場から描く。実際に討ち入りに費やしたのは2時間ほどだったそうで、本作の上演時間もそれに準じた形となっている。
舞台は物置小屋のみで進行。奥に出入口がある他、棚には様々な物が並んでいる。下手奥には米俵が積まれている。

一幕の終盤で吉良上野介が大石内蔵助に向け、自分には討たれる理由がない、ということは大石にも討つ理由がないと語りかけるシーンがある。そこから二幕に入ってからも討ち入りを巡る考察が展開されるのだが、恐らくは膨大な調べ物をした上での創作だけに説得力があり、この作品の後ではもはや吉良上野介を単なる意地悪爺さんと見ることは出来なくなってしまうだろう。
物語を展開する上でうまいのが、盗っ人の砥石小僧新助を登場させた点。彼の存在が吉良側以外の、つまりは現在の日本での世間一般の見方の代表となり、彼に反論することで吉良の正当性が強調されていく(新助自身、反論された後に「世間に言っておきやすよ」と受けるのが可笑しい)。コミックリリーフとしても重要な役どころとなっていた。
 
キャストではその盗っ人を演じた原口健太郎さんがよかった。大谷亮介さんもさすがの求心力で、引き込まれた。声が出しづらそうな場面もあったし、だいぶ痩せたような印象でちょっと心配ではあるけど。
2年前の再演時は体調不良のために降板した三田和代さんも、今日はところどころ台詞の間が空いていてハラハラしてしまった。

上演時間2時間22分(一幕1時間4分、休憩15分、二幕1時間3分)。