DULL-COLORED POP『岸田國士戦争劇集』白組 | 新・法水堂

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鈍色遊楽第二十五回本公演

『岸田國士戦争劇集』白組公演

 

 
2022年7月5日(火)〜19日(火)
アトリエ春風舎
 
作:岸田國士 構成・演出:谷賢一(鈍色遊楽)
演出助手:刈屋佑梨、石井泉 美術:濱崎賢二
映像:松澤延拓(株式会社カタリズム) 映像助手:イノウエタケル
照明:緒方稔記(黒猿) 音響:佐藤こうじ( Sugar Sound)
衣裳:友好まり子 所作指導:石原舞子
 
立ち方(出演):
『動員挿話』
古河耕史(宇治少佐)
石田迪子(少佐夫人鈴子)
石川湖太朗[サルメカンパニー](馬丁友吉)
伊藤麗(友吉妻数代)
倉橋愛実[鈍色遊楽](女中よし)
函波窓[ヒノカサの虜](従卒太田)
 
『戦争指導者』
古河耕史(流頭)
荒川大三朗(茶散)
 
『かへらじと』
國崎史人(志岐行一・二十五)
倉橋愛実[鈍色遊楽](行一の妹ふく・二十)  
石田迪子(行一の母きぬ・四十五)
函波窓[ヒノカサの虜](大坪参弐・二十四) 
荒川大三朗(参弐の父・大五・六十)
古河耕史(予備陸軍少佐・結城正敏・四十二)
石川湖太朗[サルメカンパニー](青年学校教員・柏原茂・二十九)
伊藤麗(旅館の娘・稲葉明子・二十三)
《声の出演》
間瀬英正(町長代理・飯田虎松・四十二)
田中リュウ(国民学校々長・北野守男・四十五)
服部大成(農事試験場技手・上島通・二十五)
石井泉(郵便局員・小菅三郎・二十五)
椎名一浩(僧侶・三雲日了・二十八)
溝渕俊介(薬雑貨商・川添基・三十)  
宮部大駿(運送業・矢部新助・二十六)
小幡貴史(養鯉業・巽比良久・二十四)
小野耀大(青年甲)
勝沼優(青年乙)
 
物語
『動員挿話』
明治37年夏。動員が下った宇治少佐は馬丁の友吉に一緒に戦地に行くかどうかを尋ねるが、友吉は妻・数代に相談してみると答えを濁す。宇治とその妻は数代を呼び出すが、数代は別れるのは嫌だと頑なに拒否をする。
『かへらじと』
昭和14年初夏。祭りに向けての準備が進む中、応召して戦地に赴くことになった青年・志岐行一は、親友の大坪参弐に妹ふくを貰ってくれないかと持ちかける。子供の頃の事故で行一に右目をつぶされて戦地には行けない体となっていた参弐は、その申し出を断る。数ヶ月後、行一が戦死したという報せが届く。行一の最期を知る結城少佐の話を聞くため、町中の人々が集められる。

「岸田國士と戦争」というテーマで新作を構想中の谷賢一さん率いる鈍色遊楽(DULL-COLORED POP)が、岸田國士の戦争劇2本+寸劇を赤組白組のWキャストで上演。
 
能舞台を思わせる板敷きの舞台があり、手前の2本の柱は上半分が焼け落ちている。後ろの2本の柱には梁が渡り、その下一面をストリングカーテンが覆う。舞台と客席の間にはスペースがあり、『かへらじと』第2幕で結城少佐の話を聞くシーンで座布団が敷き詰められて町の人々が座る。
 
開演すると黒船来航に始まり、岸田國士生誕から1927年『動員挿話』執筆までを歴史的な出来事を交えつつ、映像で紹介。
宇治少佐の台詞に「日本の女は、そんな事(戦地に行くなということ)は云はんよ」とあるが、それから行くと友吉の妻・数代はおおよそ当時の「日本の女」像からはかけ離れていたことだろう。夫に対しては完全にかかあ天下なのはともかく、主たる宇治少佐に対しても少しも臆することなく夫を戦地に行かせることに断固反対する。
『プルーフ/証明』に続いてダルカラ出演の伊藤麗さんがそんな勝ち気で思い詰めたら一歩も譲らない女性を生き生きと演じていた。石川湖太朗さんも表情一つで夫の弱気さを表していてよかった。
 
合間に当初は劇場での上演予定はなかった『戦争指導者』。
流頭=ルーズベルト大統領、茶散=チャーチル首相の2人による漫才。
冒頭は電車が止まったことや携帯電話会社の電波障害が起きたことなど最近のネタも織り交ぜていたけど、空席の目立つ客席を指して「今日も電車止まってんのかな」というアドリブはちょっと寂しい…。
 
再び映像が流れて、1943年発表の『かへらじと』。
岸田國士は1940年~42年、大政翼賛会の文化部長を務めていたんですな。
こちらは登場人物が結構多い作品だが、8人以外は声のみの出演という演出。

『動員挿話』から16年という歳月を経て発表された本作は、やはり戦地に行くことを巡って様々な人の思いが交錯する。
中心となるのは志岐行一と大坪参弐という2人の青年。親友同士の2人だが、参ちゃんこと参弍は行一の不注意により、右目をつぶされてしまっている。第二幕になり、行一の最期を知る結城少佐から話を聞くに及び、参弐たち町の人々も行一の思いを知ることになるわけだが、やはり戦時中の作品だけあって「死にまさる奉公なし」という行一の考えが「これが日本人です。日本男児です」と称賛される。
どうしてもそういった戦意高揚の側面に目が行きがちだが、岸田としては参弐とふくの間に芽生えた小さな幸せこそ描きたかったのではという気がした。
 
上演時間1時間59分。