『水俣曼荼羅』 | 新・法水堂

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演劇と映画の日々。ネタバレご容赦。

『水俣荼羅』

MINAMATA Mandala

 

 

2020年日本映画 372分

監督・撮影・プロデューサー:原一男

エグゼクティブ・プロデューサー:浪越宏治

プロデューサー:小林佐智子、長岡野亜、島野千尋

撮影・監督補:長岡野亜 編集・構成:秦岳志  整音:小川武

出演(肩書は撮影当時のもの):浴野成生(熊本大学医学部教授)、二宮正(助手)、緒方正実(患者)、田中実子(患者)、生駒秀夫(患者)、生駒幸枝(秀夫の妻)、溝口秋生(原告)、永野三智(溝口の教え子)、佐藤英樹(水俣病被害者互助会会長)、佐藤スエミ(英樹の妻)、川上敏行(原告)、宮澤信雄(元NHKアナウンサー)、諫山孝子(患者)、谷由布(ヘルパー)、坂本しのぶ(患者)、坂本シズエ(しのぶの母)、谷洋一(水俣ほたるの家)、柏木敏治(シンガーソングライター)、石牟礼道子(作家)、渡辺京二(作家)、小池百合子(環境大臣)、潮谷義子(熊本県知事)、蒲島郁夫(熊本県知事)、村田信一(熊本県副知事)、小林秀幸(環境省特殊疾病対策室室長)

 

STORY

日本4大公害病のひとつとして広く知られながらも、補償問題をめぐっていまだ根本的解決には遠い状況が続いている水俣病。その現実に20年間にわたりまなざしを注いだ原監督が、さながら密教の曼荼羅のように、水俣で生きる人々の人生と物語を紡いだ。川上裁判で国が患者認定制度の基準としてきた「末梢神経説」が否定され、「脳の中枢神経説」が新たに採用されたものの、それを実証した熊大医学部・浴野教授は孤立無援の立場に追いやられ、国も県も判決を無視して依然として患者切り捨ての方針を続ける様を映し出す「第1部 病像論を糾す」、小児性水俣病患者・生駒さん夫婦の差別を乗り越えて歩んできた道程や、胎児性水俣病患者とその家族の長年にわたる葛藤、90歳になってもなお権力との新たな裁判闘争に懸ける川上さんの闘いの顛末を記した「第2部 時の堆積」、胎児性水俣病患者・坂本しのぶさんの人恋しさとかなわぬ切なさを伝え、患者運動の最前線に立ちながらも生活者としての保身に揺れる生駒さん、長年の闘いの末に最高裁勝利を勝ち取った溝口さんの信じる庶民の力などを描き、水俣にとっての“許し”とはなにか、また、水俣病に関して多くの著作を残した作家・石牟礼道子の“悶え神”とはなにかを語る「第3部 悶え神」の全3部で構成される。【「映画,com」より】


原一男監督が撮影に15年、編集に5年かけて作り上げた最新作。

第1部・「病像論」を糾す、第2部・時の堆積、第3部・悶え神の3部構成で、トータル6時間12分。各部の間に20分の休憩あり。


もしこの記事を読んでいる人で、「この映画、気にはなっているけど6時間12分もあるし、どうしようかなー」と躊躇している人がいるとしたら、それは杞憂です。すぐにでも劇場へとお伝えしたい。
そもそも原監督がこの映画に費やした20年、あるいは患者さんたちが苦しんだ半世紀以上の時間の長さを思えば6時間12分なんてほんの一瞬に過ぎない。

原一男監督のドキュメンタリー映画はちゃんと人が描かれている。水俣病が題材と聞くと暗くて重たい内容なのかと思いがちだが、それもまったくの杞憂でしばしば笑いも起きる。
とにかく出てくる人がみなさん魅力的。第1部の熊本大学・浴野(えきの)教授は脳の解剖ということになると嬉しさが隠せず、預かった脳をビニール袋に入れて電車に乗り込んだりもする(まさか他の客は脳を持っているなんて思いもしないだろう)。
原監督は第2部の生駒秀人さんには初夜について聞いたり、第3部の坂本しのぶさんには恋の遍歴について尋ね、今まで好きになった人を呼び寄せて話を聞いたりもする。一見、下世話な行為かも知れないが、原監督が生駒さんや坂本さんを可哀想な患者ではなく、一人の人間として接しているからこそこういったことを聞けるし、彼らも答えてくれるのだろう。とりわけ坂本しのぶさんのパートは泣き笑いしながら観ていた。

それに引き換え、国や県、行政側の人々のまぁ何とも酷いこと(環境大臣だった頃の小池百合子都知事も出てくる)。
最初の方こそ、この人たちも仕事とは言え、自分たちが直接やったわけでもないことの責任を問われて謝罪を要求され、時には罵声も浴びて大変だなと若干同情もしたのだが、結局のところ、この人たちは目の前にいる患者さんや支援者さんを人として見ておらず、どうして怒っているのかも分かっていないのではないかという気がしてくる。
判決が出る日と知りながら、交渉よりも自分の政治資金パーティーを優先させた蒲島知事、ようやく勝訴を勝ち取った溝口さんに対し「その労苦についてはお察しします」を繰り返す環境省の小林室長なんかはとりわけ腹立たしかった。

溝口さん、川上敏行さん、支援者の宮澤信雄さん、そして最後に登場する石牟礼道子さんはいずれも鬼籍に入られてしまったが、彼らの思いがこの映画を通して少しでも多くの人に伝わることを願ってやまない(公式サイトでもちゃんと紹介して欲しいところなのだけど…)。