iaku『フタマツヅキ』 | 新・法水堂

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『フタマツヅキ』

 

 
【東京公演】
2021年10月28日(木)〜11月7日(日)
シアタートラム
 
作・演出:横山拓也
舞台美術:柴田隆弘 舞台監督:青野守浩
照明:葛西健一 音響:星野大輔 音響オペ:今里愛(Sugar Sound)
音楽:野井勇飛(シャダックス) 演出助手 : 朝倉エリ
衣裳:中西瑞美(ひなぎく) 文芸協力:カトリヒデトシ ドラマトゥルク:上田一軒
宣伝美術:下元浩人(EIGHTY ONE) チラシ写真:井手勇貴
映像収録:堀川高志(kutowans studio) 宣伝:吉田プロモーション
アソシエイトプロデューサー:渡辺信也(TBSテレビ)
制作:德永のぞみ 制作協力:高村楓 ラインプロデューサー:笠原希
 
出演:
モロ師岡(鹿野克(開店休業中の落語家・二荒亭山茶花))
杉田雷麟(克と雅子の息子・鹿野花楽)
清水直子[劇団俳優座](克の妻・鹿野雅子)
鈴木こころ(花楽の幼なじみ・竹橋由貴)
ザンヨウコ(ギャラリーサワタリのオーナー・沢渡裕美)
平塚直隆[オイスターズ](山茶花の弟弟子・二荒亭茶ノ木)
長橋遼也[リリパット・ アーミーⅡ](スグル)
橋爪未萠里(マサコ)
 
STORY
二間続きの向こうの部屋から、くぐもった声が襖越しに聞こえてくる。何度もつまずきながら、小さくボソボソ繰り返される。一人になれない狭い市営団地。布団にもぐって耳を塞ぐ。たったひとつのネタすらまともに覚えられない、噺家くずれのダメ親父。誰もが希望を持てた1980年代を謳歌しながら、自らの夢を雑に扱った父と、苦難の2000年代に生まれ、シビアな毎日で夢を見る暇もなかった息子。反目してきた親子が2020年代を迎え、大きく変化した家族の姿を改めて見つめる。【公式サイトより】

演劇ユニットiaku最新作。
 
舞台にはタイトル通り、二間続きの部屋。片方は四畳半、もう片方はすこし広め。
間は襖で仕切られ、少し歪んでいる。大枠を取り囲むようにアーチが設置。
 
チラシからは父親と息子の物語なのかと思いきや、もちろんそれも描かれるのだけど、それよりは夫婦の物語という印象が強く残った。現在の克(すぐる)と雅子、そして花楽親子と並行して、スグルとマサコが出会った頃の話が描かれる。
克は元々漫談をやっていたが、遅まきながら落語家に転身。それもこの10年は高座に上がっていないような状態。今はほとんど家にも帰らず、かつて沢渡小劇場があったギャラリーサワタリで小銭を稼いでいるが、息子の花楽からは当然ながら嫌われている。
雅子は死のうとしていたところを偶然、克に出会ってライブを見に行き、それ以来、“芸人の妻”として献身的に支えてきた。克に落語をやるように勧めたのも雅子だが、その実、克はそんな雅子の存在を重荷にも感じていた。
そんな親子3人が寿司を取って、花楽の就職を祝おうと集まるのだが、これまた当然のことながら平穏無事に済むわけはない。怒りを爆発させた雅子が部屋から克を追い出し、閉じこもる。そんな雅子に対して襖越しに落語「初天神」を始める克。この落語は克の初高座でかけたもので、花楽も小さい頃に自然と覚えていたので嫌々ながらも父に付き合う。
そこに過去のスグルとマサコが生まれてくる子供の名前を花楽に決めるくだりが重ねられ(寄席を始めた山生亭花楽に由来)、ひときわ忘れられないシーンとなっていた。

少し前、「親ガチャ」という嫌な言葉が流行ったが(既に廃れた?)、親は選べないし、子供も選べない。花楽が発する「家族って何なの?」 という問いに簡単に答えられる人もほとんどいないと思うが、それでも家族は家族。
思えばマサコがビルの屋上でスグルと出会わなければこの家族が形作られることはなかったわけで、そこはもう運命としか呼びようのないものがある。その辺りは生まれくる命を描いた代表作『粛々と運針』にも通じるものを感じた。

ほぼレギュラー出演の橋爪未萠里さんを除けば全員iaku初参加という顔ぶれの今回、とりわけ雅子役の清水直子さんが素晴らしかった。
映画『罪の声』で宇野祥平さんの中学時代(!)を演じた杉田雷麟さんは本作が初舞台。ENBUゼミの卒公で横山さんの演出を受けた鈴木こころさんとのやりとりが微笑ましく、作品全体のアクセントとなっていた。
そんな面子の中にオイスターズの平塚直隆さんが入っているというのも嬉しいところ。
 
上演時間1時間57分。